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悪名

1961年、大映京都、今東光原作、依田義賢脚本、田中徳三監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

河内、八尾の朝吉は、高八の家からシャモを盗み出して来て、近所の仲間たちと闘鶏を楽しんでいた。

そこに現れたのが、シャモを盗まれた家の若い衆たち。

因縁の付けあいから、たちまち大げんかが始まる。

しかし、河内の農民で、シャモ博打等に手を出したものは身上を潰すと父親に怒鳴り付けられたので、渋々、朝吉はシャモを元の家に返しに行く。

そこで出て来たのは、先ほど喧嘩をした男の妹のようだった。
彼女は出会ったその瞬間から、朝吉を気に入った様子。

その後、悪友に女遊びに行かないかと誘い掛けた朝吉、高八の盆踊りに「女装」して出かければ、地元の男たちにばれずにすむとアイデアを出す。

浴衣姿で盆踊りに紛れ込んでいた朝吉は、先日であったシャモの家の娘に誘い掛けられる。

彼女はお千代(中田康子)といい、人妻だったのだが、そんな事は知らないで、朝吉、すっかり彼女とネンゴロの仲になってしまうのだが、彼女が子供が出来たので、一緒に逃げようと言い出したので、すっかりその気になり、彼女が女中の伝手があると言う有馬に駆け落ちする事になる。

しかし、朝吉は、朝から晩まで、二階を宿に借りた筆屋で暇を潰すだけ。

「子供が出来た等、最初から嘘に決まっている」と筆屋の老夫婦に諭されて、朝吉は故郷に帰る事にするが、駅でばったり、伊勢参りから帰って来た国の悪友たちと再会する事になる。

そのまま大阪の松島遊廓で、芸者を上げてどんちゃん騒ぎをはじめた朝吉だったが、どこか暗い陰のある芸者、琴糸(水谷良重)に目を付け、すぐに二人で別の部屋にしけこむ事になる。

本名お糸というその芸者、元は博多で芸者をやっていたが、父親が炭坑で胸をやられたため、ここへ堕ちて来たのだと言う。

その不幸な生い立ちに、同情心を持った朝吉だったが、その時、騒いでいた悪友たちに因縁をつける男の怒声が聞こえて来る。

盗み見てみると、相手は酔った地元のヤクザらしい。

その場は、琴糸が仲裁に入り、何とか事なきをえたが、翌朝、そのヤクザものが仲間を集めて店の前で待っていると言う。

すかり怯える悪友たちを制して、自分が先頭になって堂々と帰ろうとする朝吉に、夕べの威勢の良いヤクザ、吉岡組の貞(田宮二郎)と名乗る男が、喧嘩を挑んで来る。

売られた喧嘩に堂々と立ち向かった朝吉、あっさり貞を叩きのめしてしまう。

「モートルの貞」と異名を取るほど、馬力には自信があった貞は、すっかり顔色をなくし、朝吉に取り入ろうとするが、堅気の朝吉は相手にせず、その場を立ち去ろうとする。

そこへ姿を現したのが、貞の親分である吉岡(山茶花究)で、朝吉を家に招待すると言う。

その後、貞をあっさり負かしたその力を見込んで、自分の所の客分になってくれないかと頼まれた朝吉だったが、断わろうとすると、親分に命じられるまま、貞が先ほどの喧嘩で逃げ出そうとした子分たちをムチで殴りはじめる。

自分が原因の喧嘩の制裁として、そんな拷問を見せられてはかなわないと、しばらく吉岡組に居候する事になった朝吉だが、その日から世話係のようになった貞の言葉から、吉岡の目的が、自分を用心棒にさせる事だと分かって嫌気がさし、帰ると言い出すが、それを聞いた貞は慌てて、その決断は博打の結果で決めてくれと牽制するのだった。

もともと嫌いではない朝吉は、勧められるまま賭場に出かけ、一発勝負に出るが、それがあっさり勝ってしまったので、胴元は面白くない。

そのまま帰ろうとする朝吉に、何かと因縁を付けて帰そうとしない相手に、理論整然とした啖呵を切って堂々と帰る朝吉の姿を見た貞は、改めて、朝吉の度胸の良さに惚れ込むのだった。

纏まった金を手にした朝吉は、独り、松島へ出向き、久々に琴糸に出会うが、彼女は、嫌な客への対応が悪かったと、父親に折檻されたばかりだと言い落ち込んでいた。

何とか、そんな琴糸を足抜けさせてやりたい朝吉だったが、そんな所へ、貞がやって来て、これから出入りがあるので手伝って欲しいと言う。

やむなく、その出入りに向うトラックに乗り込んだ朝吉だったが、そんな自分の姿を見送りに来ていた事糸の姿を発見し、思わず、自分が帰って来るまで二階に預かっておいてくれと、吉岡組の女将お辰(倉田マユミ)に琴糸を任せると出かけるのであった。

しかし、松島組の力を恐れるお辰は、琴糸を迷惑がり、すでに近くまで、松島組の捜索隊が来ている事を察するや、二階から隣に逃してしまう。

そこへ乗り込んで来たのが、松島組の男(伊達三郎)、しかし、目的の琴糸の姿を見つける事が出来ず、その場は引取って行く。

その後に無事、喧嘩をする事なく帰って来たのが、吉岡をはじめとする組の一行だった。

再び、そこへ現れた松島組の男から脅された吉岡は、素直に、朝吉に事情を聞いて、本当だったら、琴糸を帰すと言う。

それを、隠れて聞いていたのが朝吉。

すでに、琴糸が隣の家に隠れたと聞いた彼は、吉岡に別れを告げ、組を後にするのだが、先ほどの、松島組へのへつらいを見ていた貞は、そんな意気地のない吉岡に見切りを付け、自分も組を飛び出すのだった。

もはや、そんな貞を痛めつける根性の持主は、吉岡組には一人もいなかった。

その足で隣を訪ねた朝吉と貞だったが、出て来た二人の娘、お絹(中村玉緒)とお照(藤原礼子)が言うには、母親がすでに琴糸を逃してやり、その母も、今、高野山へでかけてしまっていないと言う。

そんな事なら、礼でもしたいから、一緒に飯でも喰わないかとと朝吉が二人を誘うと、自分達は「食い倒れ」というすき焼き屋に勤めているから、そこへ行こうと言う事になり、4人は揃って出かけるが、その途中、朝吉を待ち構えていた松島組の連中と出会い、朝吉は、一人で相手になると、言葉巧みに、あたかも自分が鉄砲を仕込んでいるように見せ掛けると、相手が持っていたドスを奪い取り、まんまと相手を凹ませてしまうのだった。

その夜、松島組は、仕返しとして吉岡を襲撃する。

一方、そんな事は知らない朝吉と貞は、各々、お絹とお照と組になり、一夜を過ごすのだった。

特に、お絹は処女だったらしく、朝吉に「あなたを私の一生の妻にします」と一筆書かせる念の入れよう。
それほど、朝吉に惚れ込んだ印だった。

その後、松島の様子を見に帰らせたお絹とお照は、4日後、吉岡が半殺しにあった話と、琴糸が松島組に発見され、因島へ飛ばされたと言う情報を持って来る。

因島へ乗り込むには、それ相当の軍資金が必要と考えた朝吉は、借金でもしようと、有馬の筆屋に久々に顔を出してみると、まだお千代がここにいると言うではないか。

久々に再会したお千代は、朝吉の顔を見るなり素直に喜び、軍資金のためには、今度、自分は世話係をする神戸の花会で、インチキをして儲けようと言い出す。

生来インチキは嫌いな朝吉だったが、背に腹は代えられぬと、貞を伴って、その花会へ出向き、お千代が出す合図を参考に、次々に花札の勝負に勝利するのだった。

かくして、軍資金を得た朝吉と貞は因島へ乗り込む。

渡海屋という宿に泊まる事にした二人は、世話係のおしげ(阿井美千子)から、この宿を仕切っているシルクハットの親分の情報を仕入れると、さっそく、琴糸捜査のため、島の遊廓に出かけ、大和楼という店で、琴糸の写真を発見する。

その後、琴糸をこの島から逃すには、船が必要と考えた二人は、宿に戻り、おしげに当てがないかと尋ねるのだった。

その甲斐あって、シルクハットの親分から冷遇されている船頭(嵐三右衛門)を見つけ話を付けた朝吉は、周囲の目をごまかすため、一人だけ、造船所を押さえている別の親分が仕切っていると言う朝岡旅館に移る事にする。

その後、客を装い大和楼に出向いた貞は、琴糸と再会すると、店を向け出すチャンスがないかと聞く。

琴糸は4日後の鯖大師の御縁日なら大丈夫と言うので、その日、おしげと組んだ朝吉は、群集の中に貞に連れられた琴糸を発見すると、素早く、その衣装を着替えさせ、約束した船頭の家に連れて行くのだった。

ところが、運悪く、船頭は足を挫いて櫓がこげなくなったと言うではないか。

焦る朝吉は、自分で漕ごうとするが、船頭の女房(高橋とよ)が名乗りをあげる。

しかし、女房が漕いだ船は、難所の潮が逆流する地点で立ち往生してしまい、結局、島へ立ち戻る事になる。

やむなく、朝岡旅館で琴糸を匿う事になった朝吉だが、間もなく、シルクハットの親分(永田靖)とその配下が貞を伴ってやって来る。

万事窮すと思われたが、琴糸を返せと詰め寄る親分に対し、朝吉は、お千代が持っていたものを借り受け、懐に隠し持っていた拳銃を突き付けるのだった。

そんな一発触発の現場に出現したのが、この旅館を仕切る女親分麻生イト(浪花千栄子)。

2000人もの子分を抱えると言うその迫力の前には、シルクハットの親分も形なしで、朝吉とシルクハットの親分は、イトの取りなしで固めの盃をかわす事になる。

かくして、イトに身を任せる形になった朝吉と琴糸は、しばし大阪近辺で遊んだ後、琴糸を連れて帰って来るよう約束させられて島を出る事を許されるのだった。

琴糸を「食い倒れ」の店に連れて来た朝吉だったが、初対面のお絹が、朝吉の妻だと自己紹介したものだから、聞いた琴糸は愕然とする。

自分こそが、朝吉と一緒になりたいばかりに、こうして足抜けしてきたのに、その苦労は何だったのかと、お絹がいない間に朝吉に泣き付くのだった。

しかし、朝吉は、そんな琴糸に東京へでも出たらどうかと薦め、琴糸はその言葉を噛み締め、後日、上京する決意を伝えるのだった。

一方、朝吉は独り因島に戻っていた。

琴糸を逃した罰を受けるつもりだったのである。

そんなバカ正直な朝吉を、逆上したイトはステッキで打ち据えるのだった。

彼女は本心では、あの時、二人共、島から逃してやったつもりでいたのだが、のこのこ詫びに戻って来た阿差吉に、その自分の面子を潰されたと感じたからである。

しかし、朝吉の方にも、恩を裏切った自分への罰を受ける意地があった。

二人は互いに我を張り合い、どんなに打ち据えられても、朝吉は弱音を最後まではかなかった。

その姿を見たイトは、あんたはその内、名を成す人になるであろうと言い残して去って行くのだった。

しかし、浜辺に倒れ込んだまま起きあがれない朝吉は、そんな「名を成す」というのは「悪名」に過ぎないではないかと、無視するのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

それまで、白塗りの二枚目として何本もの映画に出演しながらも当たり役に恵まれず、不遇を囲っていた勝新が、当時150万読者がいたと言われる「週刊朝日」に連載され評判だった本原作を得て、その後の「座頭市」と共に、大映のドル箱スターになるきっかけとなったシリーズ第一作。

波瀾万丈の面白さとは、正にこの事。

豪放磊落、貧しい生まれながら、その人並みはずれた腕力と度胸で、次々と、痛快な活躍をする様は、丸顔で童顔の勝新の容貌と相まって、見るものを惹き付けてやまない「弱気を助け、強きを挫く」憎めない、日本人好みのヒーローになっている。

喧嘩や博打にはめっぽう強いが、アルコールが全くダメと言うキャラクター設定も面白い。
何故か、女にモテモテという設定も楽しい。

それを補助する「モートルの貞」こと田宮二郎の、さっぱりした気性の二枚目振りも好ましい。

この作品での出合いが、その後の勝新とのプライベートな仲にまで発展したと言う中村玉緒も愛らしい。

中途半端な親分を演ずる山茶花究は相変わらず巧いし、後半登場する、女親分を演ずる浪花の強面演技も珍しくて、興味深く観られた。

薄幸の美女を演じている水谷良江と、純真無垢で一途なタイプのお絹と朝吉との三角関係も、実に気になる設定。

これだけ、魅力的なキャラクターや設定が揃うと、シリーズ化されたのも当然だと感じる。

若々しく意気の良い勝新の活躍振りは必見であろう。