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天使の誘惑

1968年、松竹大船、野村芳太郎脚本、田中康義監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

大学野球の決勝戦で優勝した城北大学の祝勝会が、白樺という店で開かれていた。
そこでアルバイトをしている笹旬子、通称ジュン(黛ジュン)は、店のマスター(原田寅彦)が、大学生たちに混じって浮かれているのを呆れて見ていた。

実は、そのマスターも、城北大の先輩であるという事が、遅れてやって来た教授(下條正巳)の証言で分かる。さらに、20年前の同じ野球部の祝勝会の夜、「♪誰かさんと誰かさんが麦畑〜、くちづけしていた、いいじゃないか〜♪」と教授は歌いはじめる。

どうやら、この店のマスターとおかみさん(野村昭子)の、それがなれそめらしい。

ロマンチックな気分に浸っていたジュンは、あらかた店のビールを飲み干し、外へくり出しはじめた学生の一人に手を握られる形で、そのまま自分も表へ飛び出す事になる。

その学生は、経済学部1年の森良平(石坂浩二)という青年だったが、他の集団と離れて、ぐいぐいジュンを別の方向へ引っ張って行く。

歩きながら彼がいうには、大学なんてつまらないという。

そんなつまらない大学生になるため、人は必死に受験勉強をしているんだなどとシニカルな事をいう。

でも、霧が立ちこめた公園で、良平は、ジュンに友達になってくれないかと打ち明けて来る。
彼が寂しがりやである事を見抜いたジュンは、他にも恋人がたくさんいるようにごまかしながらも、彼とのデートの約束を快諾する。

ところが、そんな二人がとある路地へさしかかったとき、喧嘩をしている大学生たちと遭遇し、良平も「城北大学生か」と絡んで来られ、そのまま乱闘騒ぎに巻き込まれてしまう。

そこへ駆けつけて来たパトカーの警官たちに、あろう事か、良平までも捕まえて警察署へ連行されてしまうのを、ジュンは呆然として見ているしかなかった。

翌日、白樺のマスターに同行してもらって、警察署へ良平を引取りに行ったジュンは、警察官から意外な事を聞かされる。

あの森良平というのは「偽学生」だったというのだ。
偽の学生証を持ち、毎日、普通に大学に通っていたらしく、その目的は不明だというのだ。

そんな良平が、父親らしき老人に連れられて、警察からとぼとぼ出て行く姿を、ジュンは離れた場所から、言葉もかけられずただ見守るしかなかった。

高級スーパーマーケットのバイトに仕事を変えたジュンは、最近、ぼーっとして仕事でへまばかりしているので、恋をしているのだろうと、先輩である木島明子(生田悦子)に見抜かれてしまう。

実は、サリーという犬を散歩させていたジュンは、同じくビリーという犬を連れて散歩している青年と仲良くなっていたのだった。
青年は、ジュンの事を、お金持ちの令嬢だと思い込んでいるようで、住所を知りたがる。

でも、ジュンはそれを適当に交わしながらも、相手が藤巻徹(石立鉄男)という推理小説家の卵である事を言い当てたので、相手は不思議がるのだった。

実は今、ジュンは、犬の散歩をさせる事を条件に、とある高級マンションに住み込んでいたのだが、藤巻徹は、そのマンションの部屋から見える向いのマンションに住んでおり、いつも、彼の暮らし振りを覗いていたジュンにとって、彼の職業を知る事は簡単だった。

ある雨の日、駅で困っているジュンに傘を差し掛けてくれたのは、藤巻だった。
どうやら、彼女の帰りを待っていてくれたらしい。

送ってもらう途中で、雨がやんだ事に気づいたジュンは、慌てて、彼と別れを告げる。
彼の目的が、自分の住まいを知る事である事は分かっていたからだ。

でも、マンションへ戻ったジュンは、やっぱり、彼の事が気になって窓から彼の部屋を覗くのだった。

すると、彼は、かなり長時間、駅で待っていたらしく、風を引いたのかくしゃみをしている。

心配になったジュンは、早速風邪薬を買いに、薬局でもバイトをしている明子の所へ出かけるが、そこで、明子が、大の犬嫌いである事を知る。
人間より犬を大切をする人の気持ちなど分からないとまでいうのだ。

ある日、いつものように彼の部屋を覗いていたジュンは、そこに信じられない光景を見てしまう。

何と、藤巻が自分の部屋に若い女性を連れ込んでおり、その女性というのが明子だったからだ。

さらに、藤巻が部屋から離れたすきに、明子は、薬局から持ち出して来たらしい何かの薬を犬のビリーに飲ませているではないか。

さらに、部屋に戻って来た藤巻にもその薬を飲ませようとしている。

これは、明子が無理心中しようとしているに違いないと直感したジュンは、急いで救急車を呼ぶが、後で知った所に寄ると、それは本当に風邪薬だったとか。

結果的に、その騒ぎがきっかけとなって、明子と藤巻は結婚する事になる。

そんなある日、たまたま出会った藤巻は、もうビリーを連れていなかった。
友達に譲ってしまったという。

さらに、ジュンは、ペットショップで犬の好物を物色している明子にも出会う。
大の犬嫌いだったはずの彼女が、結婚を期に、彼の趣味に合わせはじめたらしい。

でも、もう、肝心の藤巻の愛犬がいなくなった事を知っているジュンは、ちょっぴりいじわるな気持ちになり、明子に無駄になる事を承知で大量のドッグフードを勧めるのだった。

その後、ジュンは又勤めを変えていた。

今度は、渋谷の宮坂にあるゴーゴークラブで働く事にしたのだ。
今は、同じ店で踊っている杉浦由紀(中山千夏)と同居している。

夕べ、素敵な人にデートに誘われたと話すジュンに対し、行きも興味津々、自分も一緒に連れて行ってくれと慌てて着替える有り様。

そんな二人を待っていたのは、水松英雄(田中連衛)というちょっと野暮ったい青年だったので、由紀は引いてしまう。

ジュンも、夕べの店内はちょっと暗かったから…とちょっぴり後悔もするが、せっかく待っていてくれた彼を前に帰る訳にも行かない。

さらに、その英雄が用意していた車というのが、荷台を突破らったオンボロトラックの改造車みたいなとんでもない代物だったので、さすがに由紀は同行を断わる。

ジュンも恥ずかしかったが、張り切っている英雄の気持ちを無にする気にもなれなかったので、そのまま、あまり気が進まないまま箱根までのドライブに出かける。

ところが、いざ目的地に付いて、お弁当を食べてしまうと、意外とこのドライブも悪くないとジュンは思うようになる。英雄も、見かけとは裏腹に素直な好青年である事も分かったからだ。

聞けば、英雄は幼い頃、母親に死なれ、父親と兄とで三人暮しをしていたのだが、その兄と喧嘩別れをして家を飛び出して以来、もう3年も実家に戻っていないという。その実家は、すぐ目と鼻の先にあるという。

自分も、両親がいないジュンは、今から一緒に、実家に帰ってみようと勧める。

ところが、彼らが向った先には家はなかった。

近所の人に訳を尋ねると、何でも、水松家は、ちょうど高速道路の用地に入っていたため、4000万という保証料をもらって、この土地を離れ、今や、沼津で料亭を始めたというのだった。

意外な話に喜んだ英雄は、ジュンを連れて、その料亭を捜しに行く。
4000万も入ったのなら、自分にもそのうちの幾らかはもらえる権利があるはずだというのだ。
その金を元手に、何か商売を始めようと夢を語り合う二人。
ジュンは、おにぎり屋を開店するのが夢だった。

しかし、到着した料亭は別の人手に渡っており、もう父親はいなかった。

近所のタバコ屋(中村是好)の話によると、持ち慣れぬ大金を手にした英雄の父は、博打と女に溺れ、商売はたちまち傾き、借金だらけになると、夜逃げ同然で姿をくらませたのだという。

がっかりしてトラックで帰りかけた二人の前に、のろのろとリヤカーを引く老人が邪魔をする。

英雄がどいてくれと声をかけると、振り返った老人は、何と捜していた父親(花澤徳衛)本人ではないか。

奇遇に驚きながらも、そのリヤカーを車につないで、父親が今住んでいるという住所へ向った英雄とジュンは、ガラクタでこしらえたようなボロ家と、足の悪いお冬という女性を見る。
どうやら、その女性が、今、父親と暮している20も年の違う相手らしい。

寄っていけと勧める父親に、英雄はさり気なく、又そのうちにと言葉を返し、ジュンとその場を離れるのだった。

別れた後、あれが父親にとって本当に幸せな姿なのかも知れないと語る英雄だった。

その英雄も、老いた父親の事を考えて、名古屋の会社に就職することにしたとジュンに伝えるのだった。

その後、ジュンは、ゴーゴークラブに足しげく通って来ては、同じ場所に座って酒を飲んでいるだけの一人の中年男性の事を気にかけるようになる。
何でも、フランス帰りの人なのだという。

でも、こんな店に一人で来る理由が良く分からない。

そんなおじさまに、自分にいきなり2万円貸してくれと金をせびっていた男女が近づいて行き、同じようにたかりはじめたので、それを注意しに行くと、若い男女はそのまま店を出て、その直後、車に飛び込み自殺してしまう。

その現場を見てしまったジュンはその場で卒倒してしまい、自分の言葉が、二人を死に追いやったのではないかと気に病んだ彼女は、その後もアパートで臥せってしまう。

そんな彼女のアパートへ見舞いにやって来て、慰めてくれたのは、あのおじさまだった。

桂(芦野宏)と名乗るそのおじさまは、すっかり元気をなくしたジュンを、町へ無理矢理連れ出しては、色々なものを買ってくれ、彼女の顔に笑顔を取り戻そうとしてくれる。

しかし、ルームメイトの由美は、そんな得体の知れない中年男性に依存気味になっていくジュンの事を心配しはじめる。

ある日、その桂から、伊豆下田への旅行を誘われたと嬉しそうに報告するジュンに、由美は軽率すぎるのではないかと叱るのだった。

それで、一旦は、伊豆への同伴は遠慮すると桂に断わったジュンだったが、当日、一人で伊豆に向う列車に乗っていた桂は、何時の間にか乗っていたジュンから声をかけられ喜ぶのだった。

しかし、その桂が読んでいた新聞に、フランスの製菓会社ボンサンヌの社長、柏木隆という人物が来日して以来行方不明になっているという記事が載っていたのを、ジュンは気づかなかった。

柏木社長は、会社が倒産してしまったため、自殺の恐れがあると記事には書かれていたのである。

やがて、下田東急ホテルに宿泊したジュンは、桂に連れられて、鬼が崎というあまり人が寄り付かない崖について行き、いつものようにポラロイドで写真を撮ってもらう。

その時、崖の途中に咲いた百合を発見したジュンを喜ばそうと、無理にそれを採りに降りた桂は、足を滑らせ手を足を負傷してしまう。

その後、ホテルに戻って、独りシャワーを浴びに浴室には行った桂の部屋で、ジュンは、彼のカバンの中からこぼれでた見知らぬ写真を発見する。

その写真には、今まで、自分が撮ってもらった場所と同じ所で写した見知らぬ女性の姿があった。

自分は、その見知らぬ女性の身替わりをさせられているだけなのだと気づいたジュンは、独り部屋で落ち込んでいたが、そこへやって来た桂は、君を騙すつもりじゃなかった、あの女性は20年も前に亡くなった人なのだと訳を話しはじめる。

実は、桂が足しげく通っていたゴーゴークラブは、昔、大学生だった桂が所属していたマンドリンクラブの練習場だった場所なのだという。

あの写真の女性は、そのマンドリンクラブにいたよう子(香山美子)だった。

しかし、やがて戦争が始まり、その仲間たちからも戦場へ出向くものが出始める。

そして、戦死して戻って来た位牌に向って、マンドリン演奏をした事もあった桂だったが、その桂もやがて戦争へ行く事になる。

戦争が終わり、戻って来た桂は、あのよう子が鬼が崎の断崖から身を投げて自殺した事を知る。

翌朝、東京の由美から、桂という人物は、実は柏木という人物で、自殺の恐れがあると新聞に出ていたと電話をもらったジュンは、彼が部屋にいない事に気づくと、急いで、昨日行った鬼が崎に出かけてみる。

やはり、柏木はそこに佇んでいた。

よう子が自殺したその場所で、柏木も死ぬ覚悟を決めたと思い込んだジュンは、自殺を思いとどまるように、彼にしがみつくが、柏木は、君のおかげでこれからも生き抜く勇気をもらったと、逆に感謝の言葉を返して来るのだった。

こうして、いまだに、彼氏が出来ないジュンであったが、それはまだ、彼女が幼い証拠なのだろう…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

前年「恋のハレルヤ」をヒットさせ、この年には、この映画タイトル曲でレコード大賞に輝いた実力者派歌手、黛ジュンを主役にしたアイドル映画。

レコード大賞になったから映画化したのではなく、この映画化の方が先だったようだ。

冒頭、いきなり、ノリの良いタイトル曲を歌い踊る水着姿の黛ジュンが期待感を高める。

ところが、本編は4人の男性と付き合う話をまとめたオムニバス形式になっているのだが、何となく、どのストーリーも中途半端な印象で、今一つ弾みきれない青春映画になっている。

話が弾まない要因は、脚本を担当している野村芳太郎さんの年齢にも関係あると思う。

御自身の青春時代が、戦争まっただ中であった人に、60年代後半の青春像を描けという方が土台無理である。

全体的に、青春真っ盛りの主人公の気持ちというより、父親世代のお説教じみた内容になってしまっているため、話が暗くなりがちなのだ。

もちろん、60年代であろうと70年代であろうと、暗い青春もあるのだが、あまりにも、戦中派の人の感覚と戦後派の感覚とでは違い過ぎるのではないか。

本編のクライマックスのエピソードが、いきなり戦争悲劇になってしまうのも、野村氏の経験から来たものなのだろうが、これでは観ていた当時の若者にピンと来るはずがない。

おそらく、主役を演じていた黛ジュン本人も、最後まで、全然しっくりこなかったのではないか。

偽学生を演じている石坂浩二のエピソードなどにしても、その心理の掘りさげが全くなく、単にその行動の意味が分からないという傍観者の視点しか感じないのも、あまりにも世代が違い過ぎる作者が、大人の立場からしか描けなかったためだろう。

…といったように、ストーリー的には、正直面白みのない作品なのだが、全編、黛ジュンの初期ヒット曲がばんばん流れるので、その音楽パワーと魅力で何とか最後まで引っ張っている感じ。

若き石坂浩二、かわいらしい坊っちゃん風貌の石立鉄男、青大将そのものの田中連衛の姿が瑞々しい。

クラブのシーンでは、GS(グループサウンズ)のオックスが「マイガール」を演奏しているのも注目。

フランス帰りのおじさまを演じている芦野宏は、本職のシャンソン歌手で、彼も劇中で一曲披露している。

意外な所では、田中連衛も、劇中で「♪恋に燃える胸の願いは一つ〜」と「乙女の祈り」を歌っている。
ただし、歌っている歌手名を「水前寺清子」とか「美空ひばり」とか「都はるみ」とか全く頓珍漢な事をいうので、それを聞いていた焦れたジュンが「黛ジュン!」と大きな声でいうギャグ絡みのシーンなのだが。

天才子役といわれた中山千夏が、この作品で、ゴーゴーを踊ったり、堂々と下着姿を披露しているのも、ちょっと貴重かも。

この当時の松竹映画は、いくつものスポンサーに協賛を頼んでいたようで、劇中、特定メーカーのコーラとか薬が、これ見よがしに画面に出て来る所にも注目したい。