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ペン偽らず 暴力の街

1950年、ペン偽らず共同製作委員会、朝日新聞社浦和支局同人原作、八木保太郎+山形雄策脚色、山本薩夫監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

「報道は、厳格に真実を見守らなければならない」プレスコード

豊竹銘仙と記された一台のトラックが、町境にかかる大橋の闇物資を取り締まる検問所で、警官に止められる。
米などの闇物資を持ち込もうとした女たちは、皆、その場で捕まっている。
しかし、トラックの運転手は、渡辺というその警官に親し気に口を聞き、ほとんど無検査で通されてしまう。

中山道を西に下った宿場町、上州の空っ風とかかあ天下、国定忠治などで知られた南條町は、繭産業が衰えたい間、軍需成金なども住んでいたが、博打掏摸泥棒がはびこる暗い暴力の町と化していた。

駅前の派出所では、警官が荷物取扱所に荷物を運んで来た馴染みの男に、荷物を改めされてくれと止め、総べて銘仙という証明書を持っていた男の荷物の半分が闇物資である事を発見する。

東京新報の東條町支局に赴任して来てまだ日が浅い記者北(原保美)は、呼ばれて出席した宴会の場の意味が分からなかった。

銘仙業者の招きかと思っていると、戸上検事(滝沢修)や泉山警察署長(奈良真養)ら公安委員会関係者の姿も多数見えるのがげせなかったのだ。

警察関係者たちは、全員、意地汚く酒を飲み、中には泥酔しているものの姿さえあり、その雰囲気は明らかに異常だった。

他社の記者たちに、この場の説明を聞いても、皆笑って答えようとしない。
何だか、すっかりこういう状況に慣れてしまっているようで、北の質問など、新参者の無知な愚問とでもいいたげに相手にしてくれない。

ただ、泉山署長が、大橋検問でさっぱり銘仙の闇物資が押さえられない警察の事を皮肉った地元の記者たちの事をバカにしたような発言をした時だけは、さすがに気色ばむ一幕もあったが、すぐに酒を勧めあって、うやむやにしてしまう様もおかしかった。

これは明らかに、最近噂の、銘仙横流しの事実を隠すため、業者が、地元のマスコミ関係者や警察関係者を抱き込むために用意した接待だと気づいた北は、そうそうにその場を立ち去ると、翌日、早速その事を新聞に書いてしまう。

これに激怒して、泉山署長の所へ怒鳴り込んで来たのが、町を牛耳っている大西(三島雅夫)という男だった。彼は、その場で東京新報に電話をかけると、北を呼出し、自分は警察後援会長や司法保護委員などあれこれ勤めているものだが、今日の記事はデタラメもいい所なので、すぐに撤回しろと脅迫まがいに迫る。

しかし、電話の相手が全く相手にしなかったので、逆上した大西は、生意気な北を潰すチャンスを待ち構えるようになる。

やがて、東條町に検察庁の新社屋が建つ。
資金集めに尽力した大西も招かれ、報道関係者として北も出席する事になる。

戸川検事の大西に感謝する言葉が終わると、その場はすぐに宴会の席と化す。

そうした中、北の姿を発見した大西は、部下に彼を自分の所まで呼び出し、先日の電話の応対の仕方は何だと言い掛かりを付けるが、北がしらっとしているので、思わずその場で、彼の顔を殴りつけてしまう。

北が驚愕したのは、いきなり殴られた事よりも、そこは警察関係者が揃っている公の場であったにもかかわらず、自分が受けた暴力行為を誰も観なかったかのように無視された事だった。

それは、この町の警察関係者たちが、完全に大西個人の言いなりになっている事を悟った瞬間だった。

自宅に帰った北は、彼が何とか転勤できないものかと案じる母親(英百合子)や、妹タヅ子(三条美紀)の事を逆に心配しはじめる。
自分達はこの町に来てすでに五年経ち、馴染みの人も出来て来たこの町を、簡単に捨ててしまう事など出来ないと感じていたからだ。

そんな北家にやって来たタヅ子の友人、猪野と春枝(岸旗江)は、春枝が勤めている銀行の支店長に会いに来た大西が、「北を生かしちゃおけない」などと公然と言い放っているのを聞いた事を報告して心配するのだった。

そんな中、すぐ近くにある狩野組では、博打に負けた客を相手にいつもの喧嘩が始まり、母親は慌てて、家の電気を消す事になる。

毎回、この狩野組の近所では、こうした喧嘩騒ぎが起きる度に、関わり合いを恐れて、びくびくして暮しているのだった。

こうした状況を観た北は、自分が一人で新聞に書いても、何の力にもならない。
町民自らが立ち上がらなければ、問題は解決しないのだと呟くが、それを聞いていた猪野と春枝は、各々、自分が所属している青年文化会と希望会に協力を依頼して、若い自分達が中心になって、町の浄化運動を盛り上げる事を誓うのだった。

こうした中、浦谷市の東京新報支局では、佐川支局長(志村喬)が、北記者に対する大西の暴力事件をきっかけとして、南條町にはびこっている腐敗を一挙に暴く計画を練っていた。

その編集部に、タヅ子から、大西の弟分である狩野の組の者が家の周りをうろついているとの連絡が入り、狙っている相手は北本人だと察しを付けた佐川は、記者の中から川崎(池部良)を指名すると、彼を北の自宅に向わせる。

北家に到着した川崎は、家に乱入して来た狩野組のやくざたちと対峙する事になるが、北本人ではないと知ったやくざたちは、しぶしぶ帰っていく。

その後、義憤にかられ、さっそく、自分の足で町の調査に出かけた川崎だったが、その行為を心配したタヅ子と母は、直後に家にやって来た春枝に、彼の後を追ってくれと頼むのだった。

タヅ子が案じたように、町で、狩野組や大西の事を聞き出そうとした川崎だったが、誰も口を開こうとしなかったばかりか、後を付けて来た組の者たちが彼を取り囲み始める。

そのピンチを救ったのは、その様子を見つけた春枝だった。

彼女は、思いっきり悲鳴をあげると、何事かと集まって来た町民たちの手前、ヤクザたちは手を出しにくくなる。

その隙を狙って、乗って来た自転車で、川崎の側に走り寄った春枝は、彼を乗せて、その場を立ち去るのだった。もちろん、春枝と川崎は初対面だったのだが、タヅ子と母親が教えてくれた適格な彼の特長で、春枝は見分ける事が出来たのだった。

こうした報告を受けた東京新報社では、本格的に、東條町に乗り込み、腐敗を暴き出す作戦に出る。
他社との共闘も打診したが、他は乗り気ではないようだったため、東京新報一社だけの孤独な戦いが始まる。

拠点としたのは、大国屋という宿の二階。

しかし、彼らが到着した瞬間から、狩野組の嫌がらせが始まる。

上海のトシ(植村謙二郎)と名乗る強面が堂々と訪れて来て、手を引けと慇懃無礼に脅して来る。

きっぱりとそれを拒絶した榎本記者(河野秋武)らは、佐川から大西に丸め込まれている町の重要人物たちの名簿を見せられ、今後、用心の為、必ず、二人一組の体制で取材を始めるよう指示を受けるのだった。

その佐川は、その後さっそく、大西の息のかかった町会議員清瀬(山本礼三郎)から呼び出しを受け、同席した警察後援会員の有馬(里見凡太郎)や高田らという人物からも、この町には腐敗などないのに、勝手に憶測で記事を書かれては困ると抗議を受けるのだった。

宿に戻った佐川には、大西本人が会いに来ていた。

その大西からも、デタラメばかり書くなと気色ばまれたので、一方的な記事は書かない、あなたの言い分も一緒に紹介するつもりだと返事した佐川の言葉に気を良くした大西は、とくとくと、自分がいかにこの町に貢献しているかを話しはじめるのだが、最後に、佐川が、人物紹介として必要なので、前科何犯か教えて欲しいと聞くと、悪びれる様子もなく「三犯」だと答える。

しかし、佐川の事前調査では、大西が前科六犯の札付きの悪である事を知っていたのである。

当然、翌日の新聞には、前科者が街を牛耳っていると言う記事が載る事になる。

青年文化会のメンバーたちも、率先して、腐敗している街の情報を書いたビラをあちこちに貼りはじめるが、狩野組の連中が、それを片っ端から剥がしていく事になる。

上海のトシも、そんなビラ配りをしてた猪野の前に立ちふさがり、無言の脅迫を始めるが、それに気づいた仲間の学生たちが猪野の周りに集結して来て、結局、トシは、猪野を頬を張っただけで引き上げてしまう。

そうした狩野組の嫌がらせは、逆に学生たちの闘争心に火をつける事になる。

しかし、大西側の嫌がらせも悪質になっていき、息のかかった警察の副所長に呼出された春枝は、ある事ない事言いふらされた大西氏は君を名誉毀損で訴えると言っているので、謝罪したらどうかなどと迫るのだった。

そうした動きの背後には、大西の息のかかった他社の新聞記者の協力もあるようだ。

所長室で一人追い詰められた君枝だったが、たまたまやって来た川崎にその場を救われる事になる。

そんなある夜、取材から宿に帰って来た佐々木記者(永田靖)は、入浴しようとやって来た風呂場で、見知らぬ女と出くわす。

毒気を抜かれて部屋に戻って来た彼の話から、その女と言うのは、毎日ここへもらい湯に来ている大塚という親分の妾、宮野トキ(平井岐代子)だと他の記者は教えるのだが、そのトキ本人が、図々しくも彼らの部屋へ入り込んで来て、自分達の組は縄張りを狩野組に奪われているので、いわば、あなたたちとは仲間同士、今後は、協力させてくれなどと殊勝な事を言い出し、宿の主人(殿山泰司)に差し入れの果物などを運ばせて来る。

面喰らった記者たちに、別の部屋で証言者と会っていた佐川は、あの女はこちらの様子をスパイに来ただけだと笑って聞かせるのだった。

その佐川に部屋に来て、狩野組から受けた脅迫行為や暴力行為を証言していた小村という人物の出現を始め、これまで全く出て来なかった証言者が少しづつ街に現れ出す。

その証言は、随時、新聞記事として出回る事になる。

やがて、街の重鎮と言われている藤沢という人物の屋敷に、戸山検事や警察関係者たちが召集されているのを、張っていた増山記者(神田隆)がしっかり目撃していた。

彼はその夜、藤沢邸の前で、大西から金を受取っている一人の青年の姿を発見する。

そしてついに、尻の重かった検察庁が動きだし、狩野が逮捕されてしまう。

しかし、青年文化会が募った街の刷新運動の発起会にやって来る人の姿は少なかった。

春枝など、いきなり勤めていた銀行を首になってしまったと報告しに来る。

そんな閑散とした会合で、労働委員会代表として出席していた田宮(増田順二)は、運動の中心となっている猪野と春枝には不純な関係があるだとか、猪野には今度の事を利用して、町会議員になろうとする野望があるらしいなどと唐突な発言を投げかけはじめる。

それを打破したのは、その場の様子を伺っていた増山記者だった。

彼は、その田宮こそ、先日、藤沢邸の前で、大西から金を受取っていたスパイである事を全員の前で暴露してしまう。

いたたまれなくなって退席した田宮の姿を観た労働組合代表は、改めて、この会への協力を約束するのだった。

その頃、列車に乗って、東條町に向っている一人の男がいた。
北記者の前任者であり、大西によって町を追い出されていた夏目記者(宇野重吉)だった。

彼は、同じ列車に、今まで姿をくらませていた闇銘仙の黒幕と言われる岡野(龍崎一郎)が乗っている事を知ると、旧知の彼の席に出向き、こんなに騒ぎが大きくなったのだから、もういい加減に責任をとったらどうかと勧めるのだった。

東條町に着き、大黒屋の前で別れかけた岡野だったが、意を決したように、夏目記者の前に戻って来ると、こうなったら、洗いざらい全てを話すと言い出すのだった。

こうして、自分は、この町だけではなく、近隣の銘仙の横流しを一手に引き受けており、その闇商売に目をつぶってもらうため、宴会に戸山検事や警察関係者を呼出し接待漬けにしてきた過去を打ち明けるのだった。

やがて、刷新委員会が呼び掛けた町の大集会が始まる。

その報告を、宿の電話で本社に送っていた夏目記者の前に、懐かしい顔がやって来る。
復帰して来た後輩の北記者であった。

そうした状況の中、ついに1万人以上もの町人が近隣から集まり、町の浄化決起大会が始まる。

その報告を続けていた夏目の前に、今度は大西が現れる。

もう、一切の公職から身を引くというのだった。
でもそれは、東京新報に負けたのではなく、これ以上、町の人に迷惑をかけたくないと言う。

かつて、自分を町から追い出した大西に対し、夏目は田舎に引き込む事を優しく勧めるのだった。

一方、腐敗追放を決意した大会出席者たちは、一斉に動きだし、警察や検察庁に、有力者たちの即時退職を要求しに出かけるのだった。

やがて、最後まで反抗し続けていた戸上検事は左遷、悪の温床だった公安委員会は解散させられる事になる。

しかし、これで、全て解決した訳ではない。

権力と悪が結びつくファシズムは、今後もあちこちで復活する可能性があるのだ…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

東宝争議の際、労働組員が東宝から出させた1500万円を資金に作られた作品であるらしい。

実際にあった事件を元に、ドキュメンタリータッチで描かれている。
つまり、劇中で用いられている人名や地名、会社名などは皆仮名だが、全て、本当の背景があるのだ。

異色なのは、この作品、東宝、大映、松竹といった映画各社、さらに、いくつかの劇団やフリーも協力して、各々の俳優やスタッフを出し合っている事。
こんなケースは、まず、他に例を見ないのではないだろうか。

出来上がった作品の配給は大映が引き受けたと言う。

やはり実話であるだけに、観ていて嘘臭い箇所はほとんどなく、全編に緊迫感が満ちあふれている。

記者たち全員が主人公と言う感じなので、特に、誰がメインと言う感じはしない。

あえて言えば、冒頭、事件のきっかけになる殴打事件の被害者北記者を演じた原保美、途中から調査に加わる正義感の好青年、川崎記者役の池部良、最後の方に登場し、落ち着いた存在感を見せつける宇野重吉などが印象に残る。

しかし、新婚ながら切れやすい記者役の神田隆や、真面目一徹と言った感じの河野秋武、重鎮、志村隆なども各々印象的。

学生役として根上淳、町の床屋役で花澤徳衛なども出演している。

しかし何と言っても、この作品の中心となるのは黒幕を演じる三島雅夫だろう。

終始にやけていて、急に恫喝の態度に豹変するその芝居は秀逸。
一見、弱そうで迫力ないだろうと思っていたが、次第にその無気味さが伝わっている。

着流し姿のヤクザを演じているのは、大坂志郎だろうか?
だとしたら、かなり無気味なヤクザを良く演じていると思う。