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大番 完結篇

1958年、東宝、獅子文六原作、笠原良三脚本、千葉泰樹監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和24年、証券取引所が再開された。

そんな兜町に、白髪姿になったチャップリンさん(東野英治郎)がやって来た。

再び、ギューちゃんこと赤羽丑之助(加東大介)が、兜町に店を開いたと言う噂を聞き付けたからだ。

道行く男(伊藤久哉)にその場所を尋ねるも、名物男ギューちゃんこと赤羽の名前さえ知らない様子。

喫茶店も兼業していると話して、ようやく、その店を教えてもらう事ができる。
しかし、その喫茶店の名は「赤羽」ではなくて「アキバ」だった。

そう、その店のマスターをやっていたのは、戦争から戻って来た秋葉新吉、新どんだったのだ。
そして、丑之助は、その二階に丸大証券という店を開いており、ちょうど、竹林(有島一郎)と話している最中だった。

丑之助は、戦前の鐘紡の大失敗のことが祟って、いまだに、取引所の会員になれず、新どん名義の店で商売をするしかなかったのである。

喫茶店にチャップリンさんが来ている事を知った丑之助は驚き喜ぶ。

しかし、チャップリンさんは、今日限り、兜町から引退すると宣言する。

その最後の日、戦前、病気見舞いをしてくれた丑之助のために、とっておきの予想を教えるといい、今後、大相場が何度も来る。特に、パルプ株に目をつけろと言い残して、店を去って行くのだった。

「揚巻」のおまきさんにその事を教えると、興国パルプの社長川田廉太郎(山村聡)は、以前、この町内におり、おまきさんとも顔なじみだった早乙女れい子(坪内美詠子)がその二号さんなので良く知っていると言うではないか。

それは好都合と、さっそく、おまきさんに川田との橋渡し役を頼んだ丑之助は、米や砂糖、牛缶などを持って、大磯の有島邸に向う。

実は、有島邸では、主人の有島伯爵が戦死し、今では没落の一途をたどっていた。
裕福だった可奈子も、今では、慣れぬ勤めに出ている有り様。

そんな可奈子を何とか援助しようと、足しげく屋敷に通っていた丑之助だったが、当の可奈子は、彼の行動の意味が分からず、正直、有り難迷惑がっていた。

帰宅した丑之助は、れい子から電話をもらったとせかすおまきさんと一緒に、川田の屋敷へ向う。

川田に勧められるまま、風呂にまで入り、無遠慮に裸で座敷に戻って来た丑之助に、付き添いのおまきさんは驚愕するやら、恥ずかしがるやら。

しかし、その飾らぬ丑之助の人柄に、初対面の川田は好感を覚えるのだった。

翌日、新どんの喫茶店で、竹林らに、さっそくパルプ株をすすめる丑之助だったが、そこへ現れたのがMP(ロイ・ジェームス)を連れた警察の連中(南道郎、大川平八郎)。
闇物資を取り扱っていた新どんの店に手入れが入ったのだ。
MPに金を掴ませて何とかしようとする丑之助だったが、言葉が全く通じないのでどうしようもない。

しかし、当の丑之助は、パルプ株で3000万の利益をだし、翌年の正月、世話になった川田に挨拶に出かける。

すると、川田は丑之助に、健康の為にゴルフでも始めてみないかと勧めるのだった。

その後、「揚巻」に戻って来た丑之助を待っていたのは、店を営業停止になってしまい意気消沈する新どんだった。

そんな新どんに、丑之助は今年はガラスだと言って、旭光ガラス株を買いまくり、何と1億2000万も儲けてしまうのだった。

こうして、中堅会社となった丸大証券の専務として新どんは迎えられる。

そんな中、朝鮮戦争が勃発し、丑之助は、新たな軍需景気が起こる事を予感するのだった。

その丑之助に、秘書として雇われる事になったのが、福島部長(伊豆肇)が連れて来た長谷部マリ子(団令子)という娘。

彼女は、自分も株を覚えたい等とヌケヌケと語る現代女性だった。

その採用を即決した所にやって来たのが、可奈子の世話をしている老女辰(一の宮あつ子)。
何でも、財産の切り売りをして来た可奈子の商売も行き詰まり、信託会社の抵当に入っている大磯の有島邸を手放さなくてはならなくなりそうだと言うのである。

それではと、さっそく屋敷を全て自分が買戻した丑之助に対し、可奈子は深く礼を言うと共に、せめて、月々の家賃を払わせてくれと頭を下げるのだった。

その後、ようやく、ゴルフを覚えはじめて、川田らと同行する事になった丑之助は、その日一緒に廻っていた重役連中(中村哲)らが話す、富士重工や園池の話を小耳に挟むや、さっそく、その株を買いまくり、一ヶ月で14億という巨万の富を得る事になる。

今や、押しも押されもせぬ大富豪となった丑之助は、屋敷でおまきさんや新どんと酒を酌み交わしていたが、おまきさんは、こんな大金持ちになった丑之助には、もはや、どんな女でも近づいて来るはずだと愚痴をこぼす。その言葉を聞いた新どんは、このまま丑之助が独身を貫いて、万一急死した場合、この巨万の富はどうなるのだ、早くおまきさんと結婚すべきだと進言する。

翌日、その言葉に促され、丑之助は遺言状を作成するが、おまきさんとの結婚は口にしない。

さらに、故郷から、梅香こと井上梅子(青山京子)が上京したがっているので、自分を独占しようとせず、真面目に働くよう記した手紙を、マリ子に出させる。

そんな社長室へやって来たのは、小花(中田康子)だった。
表面上は、これまで貯えていた宿の利益配当を持って来たと言うのだが、その本心は、富豪になった丑之助にさらに取り入ろうとする露骨なアピールを見せるためだった。

新たに購入したリンカーンに乗り、梅子に世話したアパートを訪れた丑之助に、梅子は、おでん屋を買って欲しい等とねだりはじめる。

おまきさんが予想した通り、大富豪になった丑之助に、女たちがどんどんたかりはじめたのだ。

そんな浮かれた丑之助は、スターリンの死に伴うニューヨーク株式市場の大暴落で、又、大きな損失を負ってしまう事になる。

その失敗に懲りた新どんは、これからは、個人客からの手数料収入を中心とする堅実な経営に転換すべきだと進言する。

仕事の第一線からは、しばらく降りる事になった丑之助だが、女道楽は止められず、かねてから狙っていた秘書のマリ子を連れて、箱根の旅館に泊まりに行くが、賢いマリ子は、おまきさんを宿に呼び寄せ、自分はさっさと帰ってしまうのだった。

さらに翌日、夕べの行為にむくれる丑之助に対し、マリ子は、ライバル会社である「かどまさ」の御曹司、角川一雄と結婚する予定である事を告白するのだった。

すっかり気分が荒れた丑之助は、キャバレー通い等に明け暮れる日々を送るようになり、ある日、馴染みのホステスたちを引き連れてゴルフ場へ出かけ、さらには、ゴルフ中に用便をすると言う下品な行為までしてしまう。

これをきっかけに、ゴルフ会員から除名された丑之助は、自分でゴルフ場を作ってやると言い出す。

その後、株の売りに転じた作戦が見事に当り、丑之助は4億取り戻す事に成功する。

翌年の正月には、社員を始め、おまきさん、梅子、小花、ホステスのテルミ(塩沢登代路)ら付き合っている女性たちまで一同に集めた大宴会を催す丑之助だったが、おまきさんは自分の気持ちを踏みにじられたようで荒れまくるのだった。

その後、可奈子が住む大磯にゴルフ場建設を始めた丑之助は、近くにホテルも建てようと夢を膨らませるのだった。

そして、立ち寄った有島邸で、丑之助は辰から思わぬ話を聞かされる。
可奈子に再婚の話が持ち上がっており、そのために、お嬢様は今、東京に出かけていると言うのだ。

それを知った丑之助は思わず逆上する。
今建設しようとしているホテルは、可奈子に社長になってもらおうと思っての計画だったからである。
再婚には大反対した丑之助だったが、冷静に考えると、今こそ、自分が求婚しても良い時期ではないかと気がつく。

辰も、その話に賛成してくれたので、すっかりその気になった丑之助は、一旦東京に帰り、辰からの連絡を待つ事になる。

その後、可奈子と直接話をしてくれと辰から連絡をもらった丑之助は、昔、可奈子からもらった靴下を初めてはいて、大磯の屋敷に向うのだった。

ところが、そんな丑之助を待っていたのは、たった今、可奈子が喀血して倒れたと言う辰の言葉だった。

驚いた丑之助は、名医(小杉義男)を呼び寄せて診察させるが、この病気は、完治するまで金と時間がかかると聞かされ、一安心する。金なら糸目を付けない覚悟があったからである。

しかし、床についていた可奈子は辰を呼び寄せ、自分は今後、誰とも再婚するつもりはないと、こっそり打ち明けるのだった。

そんな事は知らない丑之助が東京の屋敷に戻ってみると、おまきさんが三時間も待ちわびていると言う。

訳を聞くと、今日どこへ行っていたのかと詰問して来る。

適当にごまかしていた丑之助だったが、彼がはいていた虫の食った靴下を見て、可奈子の元へ行った事を察知するおまきさん、もはや自分の気持ちは叶えられないと知るや、やにわに睡眠薬を取り出すと、その場で飲んでしまう。

慌てた丑之助は、彼女を病院へ入院させ、一晩中傍で泣き明かし、そのまま疲れて眠ってしまう。
目覚めて、そんな彼の姿を見たおまきさんは、心底、自分はこの人を憎めないのだと悟る。

それからしばらくして、無事元の生活に戻ったおまきさんは、新どんに、もう自分は丑之助と結婚しようと言う気持ちも薄らいでしまった。この際、30年も思い続けていると言う可奈子さんと添わせてあげたいと話をしていた「揚巻」に、形相を変えた丑之助が飛び込んで来る。

何と、可奈子が亡くなったと言うのだ。

後で辰が、新そんたちに打ち明けた所によると、医者から身体に悪いと言われていた事をわざと進んでやり、いわば、覚悟の自殺のような最後だったらしい。

やはり、亡くなった伯爵に対する思いが強かった可奈子には、恩ある丑之助との再婚話が、どこかで重荷になっていたのだ。

しかし、その事は、直接、丑之助には伝えられなかった。

ただでさえ、彼の憔悴振りは見るに耐えなかったからである。
自分がよかれと思っていた好意の数々が、実は相手を苦しめていた事等を知れば、どうなるか分からなかったからだ。

もはや、丑之助にかつての覇気はなくなっていた。

毎日、心配するおまきさんの言葉も聞こえぬかのように、ぼーっと魂を抜き取られたかのような毎日。

そんなある日、丑之助は、新聞の片隅に載った小さな記事に目を奪われる。

浦和市外で、かつて兜町の天竜将軍とまで呼ばれていた、稀代の相場師であったチャップリンさんが、行き倒れで亡くなっていた事を報ずる記事だった。

すっかり、意気消沈する丑之助の前に、もう一人の自分が現れる。

それは、チャップリンさんの格好をした自分であった。

そのもう一人の自分から、チャップリンさんの相場師哲学を聞かされ、その気概を思い出した丑之助は、何かを吹っ切ったかのように、やにわにやる気を取り戻すのだった。

かくして、翌日から会社に出社した丑之助は、今日は自ら、取引所の場立ちをやると新どんに言い出すのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

シリーズ4作目で完結編。

何となく、3作目とのつながりが釈然としない始まり方であり、ストーリー的に、はしょられている感じはするが、戦争中、色々あったんだろうと、勝手に補足して観るしかない。

最終作だけあって、どんどん、小気味が良いほど丑之助が成功して行く様を描いているので爽快感がある。

一方、彼を取り巻く女性たちとの愛情物語の方は、相場のように思い通りにならず、それが観客の胸を打つのである。

観客としても、劇中の新どん同様、ず〜っと気になっていた、おまきさんとの仲も、この最終作を観ると、結局、こういう結末で良かったのだと思ってしまう所が、丑之助の人柄の為せる技かも知れない。

おそらく、多くの観客は、この物語の後を勝手に想像し、その中で、おまきさんと丑之助を結婚させているのではないだろうか。

そのくらい、この物語のもう一方の主人公は、惚れた男に尽くし抜くおまきさんであり、それを演ずる淡島千景の美しさは比類ない。

今回の見所は、秘書役として登場する団令子の現代女性振り。

頭が良く、けっして媚びず、それでいて憎めない、これまで登場しなかった新しいタイプの女性の魅力がある。

大柄で豪快な感じのホステスを演じている塩沢登代路(とき)も愉快。

戦前の、気品のある美貌を誇ったお嬢様の頃とは対称的に、戦後零落し、すっかり生活にやつれた感じの女性を演じ分けている原節子も印象的である。