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大番

1957年、東宝、獅子文六原作、笠原良三脚色、千葉泰樹監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

高松行き列車から東京行き列車へ乗り継いだ18才の青年、赤羽丑之助(加東大介)は、切符を切りに来た車掌(山本廉)に東京まで後いくつ駅があるかを尋ねる。さらに、日本橋までの道まで聞こうとするので、それは広場の交番で聞いてくれと答える車掌。

そんな丑之助、目の前の乗客が握り飯を喰いはじめたので、うらやましくて仕方ないのだが、何せ、金はほとんど持ってない。仕方なく、持って来た包みの中にあったわずかばかりの乾燥芋をかじって空腹を紛らわすしかなかった。

ようやく到着した東京駅前の広場の交番で、日本橋への道を尋ねた丑之助だが、警官(小林桂樹)は、日本橋だけでは、橋そのものなのか、日本橋区の事なのか分からんと答える。

日本橋の蕎麦屋だから分かるはずという丑之助の言葉に呆れる警官。

日本橋に蕎麦屋は何百軒もある事を教え、そんなあやふやな目的地だけで東京に来るのは間違いだから、早く故郷の愛媛県宇和島に帰った方が良いと忠告する。

それでも、一軒一軒しらみつぶしにあたって行けば、友達の兄である俵子弁五郎(佐田豊)に出会えるはずと信じて日本橋に向った丑之助だったが、何軒訪ねても、目的の蕎麦屋を見つける事は出来なかった。

疲労と空腹に耐えかねた丑之助は、フラフラになりながら、目の前にあった一軒の蕎麦屋に寄り、一杯80銭のかけうどんを注文する。

3杯食い終わった所に帰って来たのが、先ほど入口ですれ違った出前持ち。

その出前持ちの顔を、じっくり見ていた丑之助は驚く。
その相手こそ、自分が探し求めていた俵子弁五郎だったからである。

しかし、弁五郎の方は、蕎麦屋の使用人でしかない自分を当てに故郷から出て来た丑之助に戸惑うと同時に、その世間知らず振りを諌めて、早く国元へ帰るように説得する。

唯一の知り合いにつれなくされ、途方に暮れた丑之助だったが、そんな彼を、その蕎麦屋の主人(田中春男)が呼んでいると女店員が声をかけて来る。

主人に会ってみると、仕事を捜しているなら、お得意の太田屋株屋という店が使用人を捜しているらしいと教えてくれる。

さっそく弁五郎と一緒に、その店に出向いた丑之助は、その場で月給5円の下働きとして使ってもらえる事になる。

ほどなく店に戻って来た新どん(仲代達矢)という青年が、下働きの先輩として紹介される。

その夜、その新どんに銭湯に連れて行ってもらった丑之助は、年輩の又さん(中村是好)が夕食として用意してくれた飯を8杯くらい食ってしまい、新どんや由どん(中山豊)を呆れさせる。

丑之助は、貧しい故郷の話を始める。

宇和島は、海のすぐ側まで山が迫り、米等作る田畑がない。

段々畑で、芋や麦を作るのみ。

そのため、丑之助の家では、毎日芋と麦を交ぜたものしか食べるものがない。

母親(沢村貞子)が、子供の頃から、何杯もおかわりをする丑之助の為に、鉄鍋の底をしゃもじでかき回す度に「カンコロ」と音がしたので、それを称して「カンコロ飯」と呼んでいたと言う。

さらに、丑之助は一見奥手に見えるが、島には、17になると若衆宿という所で、先輩から、女との事をあれこれ教えられる風習があって、自分もとっくに「夜ばい」を経験したという話までする。

「夜ばい」とは、もともと好きあった男女が互いに呼び合った事から「呼ばい」という所から来たのだとも。

翌日、丑之助は、主人が背が小さく、太っている彼用に特別にあつらえた「大番」の制服を渡してくれる。

こうして、丑之助は、掃除、茶汲み、靴磨き等、下働きを始めるが、鈍重そうに見える外見とは裏腹に、意外と物覚えが良く、ハキハキしている所から、見込があるかも知れないと、社員たちの評判になる。

又、その名前と「牛」に似ている容貌から「ギュウ公」というあだ名も定着してしまう。

ある日、そんな丑之助が国への手紙を書いている時、「拝啓」の「啓」の字が分からなくて、隣の部屋で寝ていた新どんに聞きに行くのだが、その部屋で見つけた雑誌に思いがけない写真が乗っているのを見つける。

それは、宇和島の名家、森家の令嬢、可奈子(原節子)の写真であった。

思わずその写真を破りとってしまった丑之助を見つけた新どんが訳を尋ねると、丑之助の初恋の人なのだと言う。

昔、島にいた頃、役場に勤めていた友人の俵子長十郎(太刀川洋一)と町中を歩いている時、偶然にも、東京の女学校から帰省して来た中学生時代の可奈子に出会い、そのあまりの神々しい美貌に見とれてしまったのだと言う。

その可奈子には、すでに、江田島の兵学校に行っている有島伯爵の若様と許嫁の約束が決まっていると、長十郎から聞かされた丑之助だったが、その強い憧れの気持ちに変わりはなかった。

ある日、役場で謄写版の印刷をしていた長十郎を訪ねて来た丑之助は、その謄写版を使って、ラブレターの印刷をしてくれと言い出す。

自分が思いを寄せる複数の女性たちに、長十郎が代筆したラブレターを謄写版で量産し、全員に配れば、そのうちの一つくらいは結果が出るだろうと言う、とんでもないアイデアだった。

それから数日後、島好例の相撲大会の日、若衆宿で世話になった勝やん(三木のり平)が土俵上で活躍する中、丑之助は、縁日にやって来ていたケイ子(杉浦千恵)に用意して来たラブレターを渡すのだが、その直後、偶然にも、可奈子に出会ってしまったので、無我夢中で、彼女にもラブレターを渡してしまう。

この事が後に大問題となり、翌日、森家の番頭(多々良純)が、丑之助の実家に抗議に訪れ、丑之助を出せ、謄写版があるのは役場だけなのだから、共犯者もじきに分かる等と強圧的な態度で脅している姿を、たまたま外から帰って来て聞いてしまった丑之助は、もはや、この町にはいられないと観念し、その結果が、無茶な上京だったのだと言う。

新どんから、雑誌の写真を譲り受けたある日、たまたま、太田屋を訪れていた親会社の富士証券の木谷(河津清三郎)という人物が、応接室にタバコ入れを忘れている事に気づいた丑之助は、それを先方まで届けに行くが、その際、帝大出で成功者である木谷に、怖いもの知らずであれこれ株の世界の事を相談する丑之助だった。

木谷は、そんな丑之助を嫌がるでもなく、親切にアドバイスしてやる。

特に、英国では買手の事を「ブル(雄牛)」といい、君のあだ名と同じなのだと思わぬ励ましまでもらうのだった。

やがて、正月、会社からのお年玉が少なかった事で、同僚の由どんが店に見切りをつけ辞める事になる。

代わって、場に立つようになった丑之助は、背が小さいため、競り場で目立ちにくいと言うハンデもあったが、持ち前のバイタリティでめきめき頭角を現し、少しづつ株の知識も身に付けて行く。

そんな中、ばったり出会った由どんに、株の賭けを持ちかけられ、持ち前の知識と勘の良さから、あっさり賭けに勝ち、小銭を稼ぐようになる。

ある日、丑之助は故郷から一通の手紙をもらう。
何と、あの親友だった長十郎が、自分の妹、タツエ(上野明美)の入婿になったと言う知らせであった。
つまり、長十郎は、丑之助の義弟になった訳だ。

又ある時、丑之助は、自分の仕事の結果、儲けさせた武林(有島一郎)という人物から、感謝の印として接待を受ける事になる。

その武林に連れて行ってもらったのが「春駒」という待ち合い。
そこで、身持ちの堅い事で評判の仲居、おまき(淡島千景)と出会う。

その後、松山連隊での徴兵検査の為帰郷した丑之助は、背が低い事から兵役を免除される事になる。
一緒に検査に出かけた義弟の長十郎からは、婿養子は日がな一日働かされきつい事、さらに、森家の可奈子がこの4月、少尉となった有島の若様と結婚した事を聞かされるのだった。

途中、自分が故郷から逃げ出す原因ともなった番頭とも出会うが、丑之助は彼を前にして虚勢を張るのだった。

そんな丑之助が東京の店に戻ってみると、新どん一人がいるだけで、後は誰もいない。
聞いてみると、店は潰れたのだと言う。
新どんは、それを丑之助に教えるためだけに残っていたのだった。

途方に暮れた丑之助は、木谷の所へ相談に行くが、そこで、独立して、「サイトリ」という、ランニングブローカーを始めたら良かろうと薦められる。

こうして、独立した丑之助は、コツコツと実績を積んで行くが、ある日、仲間たちが集まる店に、ふらり立ち寄った奇妙な人物を見かける。

仲間たちに聞くと、昔、天龍将軍と言われるほどの株の世界の大人物だったが、今は、一人で何をするでもなく、毎日、兜町をうろつくだけになった、通称「チャップリンさん(東野英治郎)」という人物だと言う。

そんな丑之助は、春駒のおまきさんに家を捜しているのだと相談すると、良かったら、自分の家に来ないかと誘われる。

渡りに船とばかり、さっそく、母親と二人で住んでいたおまきさんの家に転がり込む事になった丑之助は、あれほど男嫌いと言われていたおまきさんと、すっかり気心の知れた仲になるのだった。

そんなある日、兜町で丑之助は、あのチャップリンさんから声をかけられる。

大切な話があると言うので、近くのレストランで食事を振舞った丑之助に、自分は株の事ならもう何でも手に取るように分かるようになった。しかし、もう自分の金儲け等には興味がなくなったので、信頼できる人に儲けさせたい。

君は見込があると思ったので、その事を教えてやると言い出したチャップリンさんは、やおらテーブルの上にあったナプキンに「赤い夕日の満州に、一本光るは線路なり」という謎めいた言葉を書いて、すぎに破いてしまうのだった。

まるで、判じ物のような言葉だったが、勘のいい丑之助は、すぐにそれは「満州鉄道を買え」という意味だと察し、さっそく、木谷の所へ相談に行く。

木谷も、満鉄は見込があると太鼓判を押してくれたので、迷わず、丑之助は満鉄株を買い始める。

そんな中、若槻内閣総辞職、犬養景気が爆発し、丑之助は20万と言う大金を手にする事になる。

さっそく、世話になったおまきさんの為、丑之助は3200円もするダイヤの指輪を買ってやる。

感激したおまきさんは、丑之助と一緒に、柴又帝釈天にお参りに行き、その帰り、自分と結婚してくれないかと申し出るのだった。

おまきさんの方が、丑之助より年上だったのだが、それほど、彼の事を愛していたと言う証拠だった。

しかし、丑之助はそれを断わる。

自分にはすでに心に決めた相手がいるので、その人がいる限り、自分は当分結婚しないつもりだと言う丑之助は、おまきさんにいつも持ち歩いている可奈子の写真を見せるのだった。

その後、チャップリンさんの住まいを捜し訪ねた丑之助は、病気で床に伏せており、礼など無用だと固辞する相手に、無理矢理、礼金を置いて帰る。

その帰り道で、丑之助は、兵役から帰って来た所だと言う新どんとばったり再会する。

春駒に連れて行き、旧交を暖めた丑之助は、今度の15日に、歌舞伎座の招待状をもらったのだが、一人では行きにくいので一緒に付いて来てくれと新どんに頼み込む。

そして、当日、歌舞伎を鑑賞した休憩時間に寿司でも食おうと、新どんを廊下に誘い出した丑之助は、そこで思いもかけぬ人物を発見する。

有島伯爵(平田昭彦)婦人となった可奈子の姿だった。

すっかり、彼女の姿に見愡れ、階段から落ちてしまった丑之助だったが、その事がきっかけとなり、運も落ちてしまう。

犬養首相が暗殺され、急激に世の中が軍国化して行く中、相変わらず、鐘紡株を買い続けていた丑之助は、すっからかんになってしまう。

おまきさんから、もらった指輪を売って使ってくれと言われた丑之助だったが、それだけは出来ないと断わり、一人列車に乗って、故郷へ都落するのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

加東大介が、左眉の上に特徴的な痣がある小太りの青年ギュウちゃんこと赤羽丑之助を演じた「大番」の第一作、青春篇である。

個人的にも、子供時分に「大番」というタイトルだけは聞き覚えがあった事から、当時は、相当人気があった作品らしい。

背は低いが、小太りという主役のイメージに、加東大介がぴったりだったらしく、この役は、彼の一世一代のハマリ役だったようだ。

その1作目に当る本作は、17才くらいからの丑之助を加東が演じている事から、「老けて見えるな〜」などと、楽屋落ちのようなセリフまである。

それより若い頃の丑之助も回想シーンで登場するが、それはさすがに別の役者が演じている。(若い頃の可奈子役も、原節子ではなく、雰囲気が似た別の美少女が演じている。)

タイトルになっている「大番」というのは、体格の良い丑之助の為に特別あつらえした服の事や、大食いの彼が注文する好物のトンカツの事を指して劇中で使用されている所から、「特注の大きな製品(LLサイズのようなものか?)」を意味するもののようだ。

特に、この回では、都会でのエピソードより、故郷である宇和島のエピソードの方がなかなか楽しい。

当時の、東宝常連陣が顔を揃えているが、チョイ役でしか登場しない小林桂樹というのもちょっと珍しい。