1955年、新東宝、賀集院太郎脚本、萩原遼+加藤泰監督作品。
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天文6年
足利晴氏は、鯨波照忠、尾形弘澄、諏訪光明の三人は、それぞれ信越地方の越後、更科、信濃を領地を拝領する。
しかし、天文8年秋、鯨波照忠は諏訪光明と手を組み、尾形弘澄の更科城を襲撃、奪い取ってしまった。
そして時が経ち、永楽7年、越後、柏崎
散り散りとなったはずの尾形の残党がまた現れたと言う知らせを受けた照忠(市川男女之助)は、その中核となっているとおぼしき宮原兵衛討伐を命ずるが、家臣たちは、無理に人望あつい宮原をあぶり出せば、農民一揆が起きる恐れがあると諌めるのだった。
「毒には毒を持って制する」の例えを持ち出した家臣五十嵐典膳(堀正夫)は、山に住む北陸三太郎と言う有名な三悪人に、尾形家の残党狩りをさせたら良いのではないかと進言する。
その三悪人とは、針木峠に住む針木太郎、剣ヶ岳に住む大蛇太郎、そして黒姫山に住む願人太郎の三人だと言う。
それからしばらくして、山を登る二人の影。
その二人に、どこからか矢を射かけるものがいた。
矢を射られた二人、針木太郎(小林重四郎)とその子分鹿六(永井柳太郎)の前に願人太郎の子分鎌平(寺島貢)たちが姿を現す。
願人に呼ばれてやって来た針木は憤るが、牢破りと間違えて矢を射たのは俺だと大蛇太郎(田崎潤)が笑いながら姿を現す。
彼も又、願人太郎から呼ばれて来たらしい。
その直後、遠くに逃げていた牢破りを見つけ、すぐに矢を射て命中させた大蛇太郎は、俺は狙ったものは絶対外さないとほくそ笑む。
彼らを住処に迎え入れた願人太郎(山口勇)は、鯨波照忠の家臣五十嵐典膳から宮原兵衛と尾形家残党の一掃を銀800貫で頼まれたと用件を伝える。
しかし、それを聞いた針木太郎は、鯨波から子分がこっぴどい目に遭わされた恨みがあるので、この話には乗れないと言い、そそくさと帰り支度を始める。
鉢木太郎が住処を後にした瞬間、大蛇太郎は願人太郎に、これには何か裏があると目配せする。
山から下りる途中、針木太郎に鹿六が、自分たちが尾形家の家臣である事を悟られるのではないかと心配だったと話しているのを、草むらに潜んでいた願人太郎の子分が盗み聞き、住処に伝える。
遠のいて行く針木太郎に崖の上から矢を射かけ、背中に命中させた大蛇太郎は、同行していた願人太郎に自らの矢の腕を自慢するのだった。
その頃、東雲の里に住む宮原深雪(新倉美子)は、父、宮原兵衛(小川虎之助)の容態が急変したと、兄の周馬(大谷友右衛門)に知らせていた。
周馬は、病床の父親が何か言いたがっているのを無視し、薬を買いに走る。
一方、背中に矢を受けた針木太郎、実は元尾形家家臣浜田波之進は、鹿六に支えられ、何とか自分の住処にたどり着くと、そこで同居していた大道寺蔵人の娘綱姫(利根はる恵)に、東雲の里に若君がいると、これまで秘密にしていた事を打ち明けていた。
それを聞いた綱姫は、かつて自らこそが、その若君の妻になり、夫を救う身であると予言されていたと打ち明けると、直ちに若君に会いに東雲まで出かけると言い出す。
それを聞いた針木太郎は感激し、大道寺蔵人の形見として長年預かっていた単筒を綱姫に渡すと、傷を押して自分と鹿六も旅立つ姫のお供をする事になる。
しかし、そんな彼ら三人の前に立ちふさがったのは、山中で待ち構えていた大蛇太郎一党だった。
その頃、東雲の里の宮原兵衛の家も願人太郎一等の襲撃を受けていたが、薬を買って戻っていた周馬は、まだその事に気づいていなかった。
馬上の綱姫は、単筒で襲撃して来た賊を撃とうと構えるが、大蛇太郎の放った矢が肩に当たり、崖から墜落してしまう。
一方、ようやく薬を買って家に戻って来た周馬は、家が荒らされ、妹深雪の姿もなければ、父親兵衛も斬られて虫の息であるのを発見し驚愕する。
周馬から抱き起こされた兵衛は、最後の力を振り絞って、自分はあなた様の本当の父親ではなく、あなた様は尾形弘澄公の遺児尾形周馬弘行であり、かつて尾形弘澄公は、盟友だった鯨波将監照忠と諏訪光明に裏切られ、命を奪われた上に、更科城まで取られてしまった事を打ち明け、こうなっては、針木峠にいる元家臣浜田波之進を頼って行くように伝え終わると息絶えるのだった。
崖から落ちた綱姫の身体を探していた大蛇太郎の子分たちは、滝壺の側に急に出現した巨大なナメクジに驚き、逃げ出してしまう。
そのナメクジから変身した老婆は、倒れていた綱姫を神社が祭られている洞窟の中に運び込むと、自分の跡継ぎはこの人であると神に祈り始める。
針木峠にやって来た周馬は、もぬけの殻になった住処を見て、すでに浜田波之進も死んだものとあきらめ、一人で妹の深雪を探し出せてみせると決意を固めていた。
その帰り、周馬は、崖付近に落ちていた単筒を拾い上げる。
その頃、願人太郎の住処では、仕事をやり遂げた願人一党と大蛇太郎一党が、どんちゃん騒ぎをして浮かれていた。
その住処の中にある牢に入れられていたのは、深雪と針木太郎こと浜田波之進。
針木太郎は深雪と話すうちに、尾形弘澄公の遺児周馬弘行が生きている事を知り感激していた。
やがて、酔った大蛇太郎が深雪を外に連れ出し、挑みかかろうとするが、そこに偶然居合わせたのが、一人の若侍高遠弓之助(若山富三郎)であった。
弓之助は大蛇太郎と剣を交えながら、深雪をその場から逃がしてやる。
一方、山の中に迷い込んでいた周馬は、沼で巨大な大蛇と大きな蝦蟇が戦っている現場に遭遇する。
大蛇は口から火を放ち、蝦蟇を追いつめているように見えた。
周馬は、持っていた短筒で大蛇を撃つ。
すると、一天にわかにかき曇り、嵐になったかと思うと、大蛇は尻尾で周馬をなぎ払うとその場から逃げ出す。
少し気絶していた周馬が目覚めると、沼の上に一人の老人が立っているではないか。
その老人は、周馬の側に近づくと、自分は、今あなた様から助けてもらった蝦蟇でございますと話す。
先ほど戦っていたのは剣ヶ岳に住む大蛇で、自分は長年の戦いで精根使い果たしたため間もなく死ぬが、あなたへのせめてものお礼に「蝦蟇の妖術」を記した極意を与えたいと一巻の巻物を差し出す。
ここに書かれた事を学べば、あなたは千人力の力を得る事になる。しかし、先ほどの大蛇の執念があなたに仇をなすかも知れませんと言い残し、老人は静かに息を引き取るのだった。
周馬に撃った弾で傷ついていた大蛇は、その後、住処で酔って寝ていた大蛇太郎に襲いかかる。
大蛇は大蛇太郎に、自分はこの山の主であり、今後は、巳の年、巳の刻生まれのお前の身体の中に入るので、今日からお前は大蛇丸と名乗り、宿敵周馬を倒すのだと告げ、太郎の身体に乗り移るのだった。
針木太郎は鯨波家に引き渡され、公開の場で張り付けの処刑を受ける事になる。
その様子を、群集に交じって周馬も見ていたが、その時突如、群衆の中から一人の女人が処刑場に乱入し、長刀で針木太郎の縄を斬ると、助け出して河原の方に逃げ出す。
ナメクジ神の力で綱手としてよみがえった綱姫であった。
鯨波の家来たちが追って二人を包囲すると、綱手は、持っていた笠を川に投じ呪文を唱えると、針木太郎もろとも姿が消え、気がつくと、二人の身体は川を流れる笠の上に乗り遠ざかって行った。
その姿を、河原から周馬も見守っていた。
その失態を知った鯨波照忠は激怒するが、家来たちを遠ざけたのに、見知らぬ腰元がいるのに気づき声をかける。
その腰元は越路と名乗り、今度、御老女様に召し抱えられたのだと説明する。
その後、息子同席の元、酒を飲んでいた照忠は、越路が踊りが上手いと聞かされたので、座興として目の前で舞わせてみせる事にする。
見事な踊りを披露していた越路は、次の瞬間、周馬に変身、照忠に襲いかかろうとする。
越路は、周馬が化けていた姿だったのだ。
駆けつけた家来たちと戦いながら庭先に出た周馬は、印を結ぶと姿を消した。
気がつくと、天守閣の屋根の上にいるではないか。
周馬は、見上げる鯨波将監照忠に向かい、今、その方を討ち取るのは容易いが、積年の恨みを晴らすためには、まだまだ苦しみを引き延ばしてやると言い放つ。
その周馬を鉄砲隊が狙おうとすると、周馬の術でにわかに雨が降り始め、火縄の火が消えてしまう。
弓隊が出てくると、周馬は、雲に乗りどこへともなく飛び去って行った。
照忠は、いつの間にか「児雷也」と書き記された看板が残されている事に気づく。
周馬は児雷也と名乗るようになったのだ。
それから間もなく、諏訪大権現を詣でる、諏訪家の幼き跡取り満王丸と、間もなく鯨波の息子との結婚を間近に控えた明科姫(瑳峨三智子)の姿を物陰から見つめている願人太郎と大蛇丸の姿があった。
深雪にまんまと逃げられた大蛇丸は、今度は明科姫の美貌に目をつけていた。
明科姫と光王丸を乗せた駕篭は、参拝からの帰り道、大蛇丸の一党に襲撃される。
危うく連れさられようとした明科姫を救ったのは、近くで様子をうかがっていた綱手と針木太郎の二人。
この功績への礼として、綱手と針木太郎は諏訪城に招かれ歓待を受ける事になる。
その別室では、諏訪家の重鎮高遠多聞之助(香川良介)が息子の弓之助らと、鯨波を襲った児雷也対策について話し合っていた。
諏訪家の跡取り光王丸は、まだ幼き身。
しかも、先君光明から、尾形周馬を援助するように言い遺されていただけに、周馬の恨みを解くにはどうしたら良いかと頭を悩ましていたのだった。
弓之助は、師匠の大日方浄雲から妖魔退散の教えを受けたと伝える。
その時、明科姫の寝所に巨大な大蛇が出現、口から火を噴きながら、明科姫に襲いかかろうとする。
そこに駆けつけた綱手は、持っていた櫛を大蛇に投げつける。
すると、大蛇の術が破れ、大蛇丸の姿に戻ると家臣たちと戦いながら庭に出る。
再び大蛇の姿に変身した大蛇丸は術で雨を降らすと、綱手は巨大なナメクジに変身、対抗する。
すると、大蛇丸は苦しみだし、そのまま姿を消し退散してしまう。
一度ならず二度までも明科姫の危機を救ってくれた綱手と針木太郎に対し、高遠多聞之助は深く感謝し、その身分を問いただすが、二人が元尾形家の家臣と大道寺の娘と知り驚愕する。
なぜその二人が、恨みを持つはずの当家を助けてくれたのかと多聞之助は聞くが、先ほどの密談を聞いていたと答えた綱手は、事情は分かったので、当家との誤解を解くためにも一日も早く周馬に会わねばならぬのでと言い残して、針木太郎と共に姿を消す。
同じ時、その周馬こと児雷也は、諏訪城の門の外に立っており、足下の小石を掘りに蹴り入れる。
すると、その石はカエルの姿になる。
異変を察知し、光王丸の寝所に駆けつけた弓之助は、そこに光王丸をさらって行こうとする周馬の姿を発見する。
駆けつけた家臣たちは、児雷也が変身した蝦蟇の吐く毒煙に次々に倒れて行く。
蝦蟇の姿のまま門の外に出た児雷也は、そこに一人の僧が立っている事に気づく。
弓之助の師匠、大日方浄雲(大河内傳次郎)であった。
その浄雲が、手にした数珠で蝦蟇を打つと、術が解け、満王丸を抱いた児雷也の姿が現れたので、追って来た家臣たちが弱った児雷也から満王丸を奪い取る。
さらに、数珠で打ち据えられた児雷也は、そのまま姿を消してしまうのだった。
城に招き入れられた浄雲は、弓之助に対し、不動明王の降魔の力を秘めた朝霧丸と言う刀を授ける。
その頃、鯨波照忠は大蛇丸と願人太郎に、尾形家の残党を倒してくれたら褒美の金を倍にしてやると伝えていた。
大蛇丸は、自分には明科姫をくれなどと増長していた。
一方、針木峠の住処に戻った綱手と針木太郎は、子分たちに、周馬とその妹の美雪を探すよう命じる。
城下に忍び込んでいた周馬は、飲み屋から通りに出て来た酔った願人太郎と大蛇丸の姿を見かけた後、客を取れと叱られている金で買われて来たらしき娘の会話を盗み聞いたので、その飲み屋に忍び込む。
その飲み屋で飲んでいた願人太郎に大蛇丸は、明科姫をさらったら、妙高峠に行くとうれしそうに計画を打ち明けていた。
そこに娘が酌をしに来るが、その娘とは、親を殺した願人太郎を付けねらっていた深雪であった。
隙を見て願人太郎に襲いかかろうとした深雪であったが、逆に取り押さえられてしまう。
捕まった深雪は、駕篭に乗せられ連れ去られて行くが、その後を追っていたのが監視していた針木太郎。
その頃、諏訪城の窓に、怪しき煙が忍び込んでいた。
部屋に控えていた弓之助は、手にしていた朝霧丸が振動し始めたので、異変を察知し、明科姫の部屋に駈け参じる。
案の定、明科姫の寝所に忍び込みんでいた大蛇丸は、姫を抱きかかえたまま大蛇の姿に変身するが、弓之助が抜いた朝霧丸の刀身の先からほとばしり出た霧に撃たれると術が解けてしまう。
苦しみながら、姫の身体を残したまま消えた大蛇丸だったが、駆けつけた高遠多聞之助は、息子の弓之助に、賊の後を追うよう命ずる。
駕篭を下げて山を登っていた願人太郎の一党の前に姿を現した鉢木太郎は、駕篭の中にいるのは宮原深雪様だろうと詰めよると、彼女を助け出さんと戦い始める。
しかし、多勢に無勢、崖に追いつめられた針木太郎は、追って来た一党から石を投げつけられ、落下してしまう。
とどめを刺そうと、河原に降りて来た子分たちは、その場に出現した大蝦蟇の姿に驚き退散する。
戻って来た子分たちに、願人太郎は、これから妙高峠の大蛇丸の所へ行くと告げる。
蝦蟇の吐くガスで気がついた針木太郎は、目の前に立っているのが児雷也こと周馬弘行と気付き、何とか話し合おうと止めるが、児雷也は何も聞こうとせず姿を消す。
針木峠の住処に戻った針木太郎は、綱手に周馬が妙高へ向かったと知らせる。
その夜、妙高峠の大蛇丸の住処に現れた児雷也は、術で子分たちの動きを止めると、洞窟内に牧を蹴り入れ、火事を起こす。
気がついて大騒ぎを始めた子分たちに、これは本当の火ではないと教えた大蛇丸は、こちらも術を使い、水を降らせて鎮火する。
そして、児雷也に向かった大蛇丸は、とうとう罠にかかったなとあざ笑う。
満月の下、外に出た二人は消えたり現れたりしながら戦い始める。
やがて、斬り結んでいた児雷也の刀が折れてしまう。
そこに、弓之助率いる諏訪軍が乱入して来て、大蛇丸一党と戦い始める。
児雷也は蝦蟇に変身、大蛇丸は大蛇に変身して戦い続ける。
その隙に、願人太郎は、牢に入れていた深雪を外に連れ出そうとしていた。
執念の恨み思い知ったかと迫る大蛇の口から放つ火に、さしもの蝦蟇も窮地に追いやられようとしていた。
そこに「御助勢に参りました!」との声が響き、大きなナメクジに乗った綱手が近づいて来る。
すると、大蛇は苦しみだすのだった。
針木太郎と固く手を取り合った弓之助は、親の敵、願人太郎の手を逃れようとする深雪を助け出す。
深雪は、弓之助の助けも借り、願人太郎を突き刺し、無事本懐を遂げる。
大蛇丸が去った沼のほとりでは、元の姿に戻った児雷也と綱手がたたずんでいた。
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怪獣ブームの最中、松方弘樹主演で作られた「怪竜大決戦」(1966)と同じく、歌舞伎の演目としても知られる「児雷也」の物語である。
元々は、江戸時代に流行った長編草双紙の題材らしい。
「蝦蟇は蛇に弱く、蛇はナメクジに弱く、ナメクジは蝦蟇に弱い」と言う「三すくみ」の由来ともなった話。
この作品、若山富三郎のデビュー作でもある。
冒頭部の解説をナレーションで一気に語ってしまっているので、子供には複雑な人間関係が分かりにくいかもしれない。
梨園出身の大谷友右衛門が、女装したり、踊りを披露してみせるのが見物。
またこの当時特有の見せ方だったのか、照忠役の市川男女之助が登場するシーンなど、わざとキャメラの方に顔を近づけて、わざとらしくアップになる撮り方などが目立つ。
印を結ぶと煙がパッと出て来て、忍術使いが消える…と言った、かなり大時代なセンスのトリック映画なのだが、1955年と言うと、ゴジラ(1954)の次の年の作品である。
劇中に登場する火(花火)を吐く大蛇、大蝦蟇、ナメクジなどの造形は、ゴム製の着ぐるみと言うよりもハリボテに近く、動きもかなりぎこちない。
後は、白黒フィルム特有のオーバーラップなど初歩的な合成技術が使われているくらいなのだが、まだ特撮ファンタジー作品が少なかった当時としては、それなりに子供たちからの人気を得たらしい。
見た目おとなしそうで、さほど強烈な印象も残らない大谷友右衛門に対し、敵役の大蛇丸を演じている田崎潤の方が生き生きとしており、はるかに印象に残る。
田崎潤ファンには、必見の映画の一本かも知れない。