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告訴せず

1975年、東宝映画+芸苑社、松本清張原作、山田信夫脚本、堀川弘通監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

岡山県某市の衆議院選挙に保守党から立候補した木谷芳太(渡辺文雄)の選挙事務所では、選挙参謀で建設会社社長の光岡寅太郎(西村晃)が、 ライバル候補の追い上げに対抗するため、「実弾攻撃(現金をばらまく)作戦」を木谷に進言する。

とりあえず3000万円、党の方から融通してもらおうと、議員会館にいる中田派の秘書間宮(佐原健二)に電話を入れるが、断わられる。

それではと、大臣、宗近健太郎(小沢栄太郎)の秘書佐藤(加藤和夫)に連絡すると、すぐさま用立てるから、3600万円と書いた領収書を用意しておけと連絡がある。

問題は、誰に、その金を東京まで受け取りに行かせるかである。

白羽の矢が立ったのは、木谷の妹春子(悠木千帆)の夫で、食堂の皿洗いをしている省吾(青島幸男)であった。

省吾は、すぐさま春子に呼出され、東京に向うと、宗近の事務所から3000万円を受取るが、約束の時間になっても岡山の選挙事務所には戻って来なかった。

金を持って逃げられたと察した光岡は、すぐさま会社に連絡をし、若い者を集めさせるのだった。

その頃、省吾は、身体を壊したため、病気療養のため、東京から来た福山と名乗り、伊香保温泉に長逗留していた。

そんな省吾は、テレビニュースで、木谷が無事、当選した事を知る。

その省吾の世話をしていたのは、仲居のお篠(江波杏子)だった。

省吾は、このお篠の事が気に入り、それとなく夜の誘いをかけてみたりするが、もちろんお篠は相手にしない。

ある晩、同じ宿に泊まった十勝の農業組合の団体客と風呂で出会った省吾は、彼らが今年の小豆の事を話しているのを小耳に挟む。

その夜、省吾の寝室に忍び込んで来たものがあった。

それは、驚いた事に、お篠だった。

お篠は占いが好きなようで、男女の仲になった省吾を、ある日、近くにあるひれ神社という所へ案内する。

そこでは、鹿の肩骨を焼いて生じたひび割れを見、吉凶を占う、太占(ふとまに)が行われており、その年の作物別の吉凶表が貼られていた。

何気なく、そこに書かれた「小豆」を見ると、「2」という数値が書かれており、宮司(浜村純)の説明によれば、それは大凶作を意味するのだと言う。

しかし、先日の、農業組合の旅行者たちの話や、気象庁の長期予報等から考えると、今年の小豆は豊作なのではないかと考えていた省吾は、あまり、その占いに興味を持たなかった。

しかし、お篠の方は、すっかり、そこの太占を信じ切っており、その日、個人的に占ってもらった所によると、強い運勢を持った人間と出会うと言われたと、省吾に教える。

そんな彼女にしなだれかかられた省吾は、思わず、旅館から用心のため持って来たカバンを取り落とし、そこからこぼれ出た大量の札束を、お篠に見られてしまうのだった。

その後、お篠と別れ、旅館に帰って来た省吾を待っていたのは、刑事の訪問であった。

何でも、旅館内で50万の盗難事件が発生したので、あなたのカバンの中身を見せて欲しいと言う。

その申し出を拒絶した省吾は、警察署に連行され、大金の入手先を問いつめられる。

宗近大臣からもらったと、警察署長(稲葉義男)相手に、直接告白した省吾だったが、問い合わせの結果、大臣側からは、全くあずかり知らないとの返事が帰って来る。

実は、ちょうどその時、宗近大臣の元には、当選した木谷が挨拶に来ていた事もあり、宗近大臣は、木谷に向って、この件に関しては「善処するように」と意味ありげな依頼をしていた。

そんな事は知らない省吾は、大臣側は自分を「告訴できない」のだと気づき、その証拠に、彼はすぐさま釈放される事になる。

伊香保を離れ、上京してホテル住まいを始めた省吾は、ある夜、ストリップ小屋で光岡の姿を見かけ、慌てて逃げ帰る事になる。

しばらくして、省吾は、「平仙」という仲買人の元を訪れると、小豆を一挙に300枚も買い、その保証金として1350万円即金で払う。

これに驚いた店側は、営業担当の小柳(村井国夫)という男を、今後の省吾の相談係として紹介する事になる。

裏口からこっそり店を出た省吾は、先ほどの店にいた眼光鋭い奇妙な老人大場(加藤嘉)から呼び止められ、無理矢理、喫茶店に連れ込まれると、小豆相場は玄人にも読めない難しいものだから、おやめになった方が良いと一方的にアドバイスして来る。

しかし、今の省吾には、そんな言葉を聞く耳は持たなかった。

打合せ通り、上京して来たお篠から、伊香保のあの旅館の女将が、光岡という男に買収されたと言う情報を知らされた省吾は、慌ててホテルを引き払らうと、お篠を連れて逃避行の旅に出かける事になる。

やがて、お篠と同棲するようになった省吾だったが、たびたび彼の元を訪れて来る小柳と、お篠が日に日に懇意になって行くのを冷静に観察していた。

どうやら、お篠は、自分が小豆相場に手を出している事を、良く知っているらしいのだ。

しかし、その年の天候は、気象庁の予報通り、好天続きであった上、中国からの輸入小豆まで解禁され、小豆相場は下がる一方。

そんな中、お篠は、正午を連れて、再び、神社の太占をしに出かけるのだった。

神主(天本英世)は、鹿の骨のひび割れを見て、こんなひびは今まで見た事がない。これは「神祟り」がある前兆に違いないと恐れながら宣言する。

予想外の天変地異が起こり、今年、小豆は、ひと粒も取れないかも知れないとも。

帰宅して後、お篠は省吾に、自分はモーテルを経営したいと夢を語り出すのだった。

そして、省吾に小柳からかかってきた電話に向い、勝手に、10月400枚、11月期600枚という大量買いを勝手に指令してしまうのだった。

その後も、一向に小豆相場は上がる気配さえ見せず、省吾は追加保証金を払うはめになる。

その頃、バーで勤め出したお篠と小柳が、自分に黙って、毎晩のように会っている事を省吾は気づいていた。

しかし、ある夜、将来への不安から悪夢にうなされていた省吾を起こしたのは、隣で寝ていたお篠だった。
雨が降っていると言うのだ。

その日以来、運は好転する。

北海道でも連日雨続きで、小豆は不作、さらに中国産の小豆も、冷害で凶作になると言う事態がおとずれ、たちまち小豆相場は急騰する。

とうとうストップ高までになった小豆相場は、省吾たちに、2億4000万もの利益をもたらす事になる。
お篠は、これで、モーテルを2軒買う事ができると大喜び。

しかし省吾は、平仙から、利益を6000万円づつの4枚の株券として貰い受けると、それを別々の銀行に預金してしまう。

そんなつれない省吾に対し、お篠は、あんたがモーテル経営を嫌がるのは、店を買う際、戸籍謄本等を取り寄せなければいけないからだろうと詰め寄る。それだったら、私の名義で替えば良いではないかとも。

こうして、売りに出していたモーテルを、不動産屋の森山(小松方正)から買取ったお篠と省吾は、店の名前を「紅苑」と変えて、賑々しく営業を始めるのだが、開店祝いとして送られて来た花輪の中に「木谷芳太」名義のものを発見した省吾は、自分の行動が見張られている事に気づき、急に怯え出すのだった。

その内、客室にあった忘れ物から、自分が昔読んでいた本が出て来るに及び、妻の春子も様子を見に、こっそり来ているのだと思い込んだ省吾はパニックになって、一人、不動産屋の森山の所へ出向くと、すぐに店を売りたいと言い出すのだった。

そうしたある夜、省吾は、「火事よ!」というお篠の叫び声を聞き、部屋から飛び出す。

実は、お篠に隠していたモーテルの権利書と実印をとある場所に取りに行くと、焼けないように庭先に埋め直すためだった。

その後、正午は、お篠に教えられるまま、火元と見られる部屋に飛び込み消化を始めるが、どうした訳か、お篠に外から部屋の鍵をかけられてしまい、危うく、焼け死ぬ寸前で救出される。

何とか身体は軽症ですみ、一週間入院していた省吾だったが、庭に埋めた権利書と実印が不安になり、勝手に病院を抜け出すと、それを捜しに戻る。

しかし、権利書は無事に埋まっていた。

安心して、再び森山の元を訪れて、店を売る相談をしようとした省吾だったが、相手から予想外の事を聞かされる。

何と、自分が入院中、お篠が改印届けを出してしまい、今のモーテルを担保に銀行から5000万借りて、すぐ横に、もう一件モーテルの新館を作る事になっているのだと言うのだ。

全くあずかり知らぬ、寝耳に水の事実を聞かされた正午は、店に戻ると、お篠を問いつめるが、彼女は平然と、入院中のあなたの承諾を受けての事だと言い放つのだった。

さらに、銀行に行き、預金を下ろそうとした省吾は、さらに信じられない事実を聞かされる。

預けたはずの大金が、何者かによって、すっかり引き出されていたのだ。

預金通帳と実印を、いつも肌身はなさず持っていた省吾は、何者がどう言う方法で預金を引き出し得たのか、全く見当が付かず、呆然とする。

しかし、自分が4枚の株券を持っている事を知っているのは平仙だけ。
つまり、小柳が秘密を知っているに違いないと思い当たった省吾は、すぐさま、会社に電話を入れるが、今、喫茶店に出かけていると言う。

押っ取り刀でその店に出かけた省吾が、その店で見たものは…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

元東京都知事、青島幸男主演の珍しいミステリー映画。

ストーリー展開自体は、さすが松本清張ものだけあって見ごたえがある。

最初は政治裏幕ものかと思わせておいて、やがて、それが日本古来の占いの話から小豆相場ものへ移行し、さらにモーテル経営などへと素材が目まぐるしく展開し、飽きる事はない。

しかも、そうした一見バラバラに見える要素が、実はちゃんと合理的に繋がって行くというのが巧い。

清張作品には良くある事だが、「天候異変」など、どう考えても偶然性に頼った所があり、ミステリーとしては弱いのだが、その分、老練した話術で見せて行く感じになっている。

青島幸男は、見た目は気の弱い養子キャラクターに合っているし、テレビドラマや映画経験は豊富なので、文化人出身タレントにしては、比較的芝居も器用にこなしている方だろう。

ただ、主役としての存在感と言うか、華が今一つな感じであり、それを補うため配されているのが、お篠役の江波杏子である。

むしろ、この作品の本当の主役は彼女なのかも知れない。

江波杏子、顔も大きければ、目鼻立ち等パーツも大きく派手で、貧相な庶民顔の青島幸男と並ぶと、迫力が全然違う。いかにも、映画女優と言った存在感がある。

彼女の前では、若い村井国夫も影が薄い。

かろうじて、彼女の迫力に立ち向かえるのは、西村晃と悠木千帆(今の樹木希林)くらいではないかと思えるが、残念ながらこの作品中、それらのメンバーが同一画面に登場するシーンはない。

その江波杏子が、後半、徐々に、青島幸男を喰って行く過程が見物。

おそらく、あまり知られていない作品だと思うが、出来は決して悪くないのではないだろうか。