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帰って来た木枯し紋次郎

1993年、フジテレビジョン+C・A・L、笹沢左保原作、中村敦夫+中村勝行脚本、市川崑脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

弘化3年秋、木曽路のとある一軒の茶屋の脇に、「木枯し紋次郎」と記された無縁仏がひっそりと建てられていた。

出された湯飲みに入っているのが単なる「白湯」である事に驚きながらも、旅人は好奇心から、その墓の由来を茶店の主人(日下武史)に尋ねると、5年前に新田郡三日月村出身の渡世人木枯し紋次郎という人物が、この先の、野尻の崖路で二人組に襲われる様を目撃した自分が作ったのだと言う。

何でも、雨の中、上江田一家の十兵衛親分の仇だと叫ぶ八兵衛(中原丈雄)に斬り付けられた紋次郎を、もう一人の若い男が二人一緒に崖下の木曽川に突き落として殺したのだと言う。

今でも、自分が作った紋次郎の墓には、立ち寄った渡世人が手向けたらしき、長い楊子や割り箸が刺さっており、その由来を主人が説明しても、その時茶屋にいた数人の客たちは、誰も、長い楊子をくわえていた木枯し紋次郎などという渡世人の名前など聞いた事がないらしく、たった5年の歳月で一人の人物の記憶がなくなってしまう時代のはかなさを店の主人は嘆くのだった。

しかし、そんな主人本人も、紋次郎を見たのは、5年前のその夜が最初で最後だった…。

野尻宿から4里の所に御津之宿があり、そこいらの山一帯は尾張藩の御用林となっており、そこでは「杣人(そまびと)」と呼ばれる堅気の木こりたちが、藩のために働いていた。

その「そま頭」である伝吉(加藤武)は、紋次郎という新人に「も」の字を記した「もくざ」を渡す。
それは、一人前のそまびとになった印であり、明日から、自分が斬った木に、自分の署名であるその文字を記す事が許されるようになったと言うのだ。

その頃、伝吉の住まいで、留守を守っていた娘のおたみ(鈴木京香)は、突然、現れた渡世人姿の男に驚いていた。

その男こそ、6年前に家を飛び出したまま梨の礫だった、兄の小平次(金山一彦)だったからだ。

今では、小平次、上州木崎の五郎蔵一家に世話になっており、今度、大きな仕事を任される事になったと自慢げに話すが、ちょうどそこに帰って来た父、伝吉は、小平次の姿を見て激昂し、こんな所に渡世人が出入りされては迷惑だ、すぐさま家を出て行けと怒鳴り付ける。

父親の真心に気づかない小平次は、その言葉にかっとなると、おたみが止めるのも聞かず、すぐさま家を飛び出してしまうのだった。

上州とは、今の群馬県一体、古くは上野の国と呼び、木曽から240kmの距離にあり、歩くと6日かかった。

その上州では、木崎一家の丑松(加藤満)が、農民の多助(永妻晃)に人集めの成果を尋ねていた。

一方、東上州一帯を陰で束ねていた五郎蔵(岸部一徳)は、病床の母親(牧よし子)を自ら看護していた。

そんな息子に母親は、早くお真知(坂口良子)をものにして、こんな看病をさせれば良いのにと愚痴をこぼしていた。

自分の家に連れて来たものの、昔の親分、十兵衛の娘だと言う事で、いまだに手が出せない息子、五郎蔵のふがいなさを嘆いているのだ。

そのお真知は、幼い頃から持つ不思議な透視力を使い、台所で『天眼通』という占いを行っていた。
それは、水桶に溜めた水に一本の串を浮かべ、水の表面の動きを読むと言うものだった。

そんな五郎蔵の元に、富岡屋(神山繁)をはじめとする三人の織物問屋の主人たちがやって来る。
彼らが五郎蔵に言うには、代官所から、今後、絹織物や真綿に対する貫改めによって徴集する運上金の額を増やすと一方的に申し渡す通達が届いたらしい。

これに対処するため、彼らは五郎蔵にある作戦を依頼しており、近隣の農民を大量に人集めさせていたのだが、その現状を聞きに来たのだった。五郎蔵は、つつがなく作戦は進行中であると返事するのだった。

実は、架空の農民一揆をでっちあげ、それに慌てた藩に、運上金の値上げを阻止させようとする計画だった。

たとえ芝居であっても、一旦一揆が起これば、近隣の店等は襲撃される。

それに便乗し、そこから品物を盗むのも五郎蔵一家の自由になる。

一方、織物問屋たちからも、値上げ阻止計画の礼金をたんまりもらえ、五郎蔵一家にとっては、正に一挙両得。

万一、類が及ぶとしても、それは、人集めを命じた三人の若者たち、小平次、丑松、熊太郎(宇治川理斉)が天下大乱の罪で処刑されるだけで、組には一切損はない計画だった。

しかしその後、台所にいるお真知の様子を見に来た五郎蔵は、彼女の口から意外な予言を聞く事になる。

何と、『天眼通』の結果、5年前に死んだはずの紋次郎が西からやって来るというのだ。

その頃、木曽の御用林での事、倒れる木の下敷きになりかけた仲間を助けようと、自ら木の下敷きになってしまった伝吉は、瀕死の病床で、紋次郎に、こんな事を言えた義理はないが、もう一度だけわらじをはいて、上州に行った息子の小平次を連れ帰ってもらえまいかと言い出す。

実は、5年前、死んだ八兵衛と一緒に木曽川を流れされて来た紋次郎は、伝吉たちそまびとに発見され、何とか一命を取り留めた後、堅気のそまびととして今日まで暮して来たのだった。

伝吉は、その内、おたみと紋次郎を添わせる夢も持っていた。

その後、紋次郎は、納屋に隠してあった刀や昔の衣装を取り出しに行くが、それを察したおたみは、命を助けられた自分達への恩を返そう等と言う気持ちは持たなくても良い、父親の言葉は忘れてくれと説得し、紋次郎もその言葉に頷くのだった。

しかし、翌朝、紋次郎の姿は消えていた。

上州の五郎蔵一家の方でも、お真知が姿を消していた。
どうやら、一人で、紋次郎を捜しに行ったらしい。

近隣の村々を飛び回り、人集めに奔走していた小平次は、とある宿から出たところを紋次郎に捕まってしまう。

その頃、丑松は、集まった農民たちに、関八州に今度の事を通達等しないように釘を指していたが、ちょうどそこに、当の八州廻り、浅香(石橋蓮司)が見回りに来たので、慌てて逃げさるのだった。

一方、望月の木賃宿に小平次を連れ込み、逃げないように縛った上で、自分だけ食事をしていた紋次郎は、いきなりふすまの外から突き出された槍をかわし、その相手を追い掛ける内に、肝心の小平次に逃げられてしまった事に気づく。

その小平次、ホウホウの態で、とある茶店の所まで逃げて来るが、そこで酒を飲んでいた見知らぬ浪人者(上條恒彦)から、渡世人らしいお前の親分に、自分を用心棒として雇ってもらえるよう掛け合ってくれと、いきなり無理難題を言い付けられる。

それを断わると、いきなり斬り掛かって来られた小平次だが、そこに現れたのが紋次郎。

紋次郎が、その浪人者を相手にしている隙に、又しても、小平次は姿を消してしまうのだった。

浪人者をあっさり倒した紋次郎は、その後、すぐに小平次を見つけるが、そこに現れたのがお真知だった。

彼女は、自分の養父、十兵衛を殺した下手人として、紋次郎に仇討ちに来たのだと言う。
その証拠は、殺された十兵衛の首に刺さっていたこの楊子だと突き付けて来る。

しかし、紋次郎は、彼女が見せた楊子は、自分の使っている楊子とは長さが違い別物だし、第一、下手人が、証拠となる品等現場に残しておくはずがないと冷静に答える。

しかし、そんな言い訳で納得するお真知ではなかった。

実は先ほど、木賃宿で槍を突いたのも彼女の仕業だったのだ。

紋次郎から一旦逃げると見せ掛けたお真知は、一緒に逃げていた小平次に、先に木崎へ戻って仲間を呼んで来るよう秘かに命ずるのだった。

その頃、農民集めを命ぜられていた熊太郎が、秘かに、計画の進行状況を、八州廻りの浅香に密通していた所を目撃した丑松は、その事を五郎蔵に報告していた。

お真知は、河原で再び紋次郎と対峙していた。

彼女は、自分の生い立ちを告白し出す。

渡り芸人だった母親は、透視力を持っていた自分を利用し、それを芸として小銭を稼いでいたが、そんな彼女を博打の賽の目を盗み見る役に立つと気に入り、30両で幼女に買い取ってくれたのが十兵衛親分(小林昭二)だったと言う。

そんな話をしている最中、紋次郎は追っ手が迫っている事に気づき、お真知を対岸へと逃す。

しかし、木崎から駆けつけて来た五郎蔵一家の連中は、紋次郎だけではなく、対岸にいたお真知まで襲おうとする。

何とか、紋次郎によって全員を倒す事が出来たが、お真知は、五郎蔵の仕打ちに強い憤りを感じるのだった。

一方、母親に滋養を付けさせようと、鯉を台所で自らさばいていた五郎蔵は、丑松に呼んで来させた熊太郎の姿を見ると、人集めの褒美だと言って、その場で包丁を突き立てて殺害してしまう。

その夜、紋次郎と野宿するはめになったお真知は、養父殺しの真犯人を考えていたが、暗闇の中に五郎蔵の母親の幻を見て怯え上がる。

木崎に戻り、五郎蔵に、今日の仕打ちの事を問いただしたお真知だったが、五郎蔵は何かの間違いだろうととぼけ、十兵衛親分を殺したのは、紋次郎以外にいないはずだと当時を振り返るのだった。

かつて、五郎蔵もいた十兵衛一家に一夜の世話になったのが紋次郎だった。

十兵衛は、紋次郎を気に入り、彼が旅立つ時、追分の武衛門への香典として十両を持って、一緒に出かけたのだが、その帰りが遅い事を不審に思った八兵衛たちが迎えに行くと、十兵衛は路で殺されており、持っていたはずの十両もなくなっていた。

今では、返り討ちに会い死んでしまった弟の八兵衛の証言を信じるしかないだろうと言うのだった。

そんな中、五郎蔵の母親が静かに息を引取る。

その頃、水を飲むため村の井戸を使っていた紋次郎を、五郎蔵一家の人集めと勘違いした農民たちが、自分達は言いなりにならないと、一方的に反抗して来るが、そこへやって来たのが、八州廻りの浅香。

彼は、農民たちが逃げたのを見るや、一人残った紋次郎に、自分の手下にならぬかと声をかけるが、紋次郎は「あっしにはかかわりのない事で」ときっぱり断わる。

その後、単身、五郎蔵一家に乗り込み、仁義を切った上で、小平次を返してもらえまいかと頼んだ紋次郎だったが、今、親分は取込み中で会えないし、小平次もここにはいないと虎之助(尾藤イサオ)に言われ、あっさり帰る事になる。

しかし、虎之助は、紋次郎の度胸の良さに驚愕するのだった。

その頃、お真知から、自分達が五郎蔵に利用されているだけだと教えられた小平次は、兄貴分の虎之助に事の真相を聞こうと戻って来るが、逆に、お真知にからかわれただけだと丸め込まれ、そのまま、仲間たちに酒でも飲みに行こうと連れ出される。

母親の墓参りに出向いていた五郎蔵の前に現れたのが紋次郎。

紋次郎は、自分を十兵衛殺しと十両横領の犯人だと言い募る五郎蔵に対し、死んだ十兵衛から頼まれた香典の受領覚え書きを出して見せる。

紋次郎は、あの時、十兵衛からの依頼をきちんと果たしていたのだった。

そこへ駆けつけて来たお真知から、小平次が連れ去られたと聞かされた紋次郎は、命が危ないと助けに行くが、その頃、当の小平次は、虎之助らに森へ連れ込まれ、小枝で頭を殴り倒されていた。

一方、偽装一揆のため、集合し出していた農民たちの前に現れた浅香は、運上金値上げは取り止めになったから、今すぐ一揆を止めて帰れと命じていた。

小平次を見つけ、まだ息がある事を知った紋次郎は、お真知と共に、彼をとある小屋へ運び込み介抱するが、やがて、その小屋が五郎蔵一家の連中に取り囲まれた事を知る…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

1972〜3年にかけ放送され、絶大な人気を呼んだテレビ時代劇の20周年記念作品。

基本的にはテレビスペシャル用の作品だったが、フィルムで撮られており、出来も良かったので、先に劇場公開されたらしい。

テレビスペシャルとしてみれば、完成度が高く見ごたえがあり、映画としてみれば、ややこじんまりとした印象は受けるが、今や、この手の「テレビスペシャル以上、映画未満」のような作品が増えて来た現象の「先駆け」とも言えるような作品だったのかも知れない。

監督は、テレビ版当時と同じ市川崑、78才の時の作品である。

金田一シリーズ等でお馴染みの、独特のストップモーションなどを挟み込んだ凝った編集、陰影の深い映像、美しい木曽の風景等が盛り込まれており、そつなくまとめられた端正な作品と言う感じである。

今回は、崑監督好みのミステリー風味だけでなく、超能力と言った「幻想」風味まで加わっている。

だが、その超能力が巧く生かされているかと言うと、若干疑問が残る。

何故、それほどの能力を持った人物が、真犯人を見抜けなかったのか?

そもそも、この能力を持つヒロイン役を演じた坂口良子が適役だったかも疑問。

彼女の演技力云々ではなく、彼女の見た目のイメージが、超能力を持ち復讐心に燃える女というキャラクターに嵌っているとは思えないのだ。

若い頃の可愛い容貌はさすがに衰え、何となく平凡な顔つきになった彼女より、平凡な発想だが、やはり、もっとクールビューティ系の女優さんが演じた方が、しっくりしたのではないか?

まだ、前半に出て来る、鈴木京香の方が、この役には向いていたのではないかとさえ思う。

さらに、今観ると、悪役を演じている岸部一徳も、ちょっと平凡な印象がある。

北野武監督の「その男凶暴につき」(1989)の頃はまだ、見た目の柔和さを逆手にとった悪役と言うキャスティングは意外性があったが、その後、同じような役柄を多数演じていたせいか、悪役としてのインパクトが弱まっているのだ。

ただ、こうしたキャスティングに対する違和感も、あくまでも「個人的にちょっと気にならないではない」程度のものであり、作品的に特に問題はない。

出だしの紋次郎の墓から、まず意外性があり、その由来を語りながら、物語に引き込んで行くと同時に、観客に、かつての紋次郎の身を案じさせた所で、にわかにお馴染みのテーマソングが流れて来るかっこ良さ!

正に、ヒーロー再来の予感を感じさせる見事な導入部である。

クライマックスの、狭く暗い小屋の中での殺陣も見事。