TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

自由な女神たち

1987年、松竹映像、金子成人脚本、久世光彦監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

山野辺徳子、通称トクちゃん(松坂慶子)は、漢字も満足に書けないほど、おつむの方は弱いけど、同業者のホステスたちが羨むほどの美貌の持主。

何故、これほどの美人が、場末のキャバレー勤めなどをしているのか不思議がられるほど。

そんな徳子が、いつものようにアパートで漢字の練習をしている時、郵便配達が一通の手紙を配達して来る。

読んでみると、以前、同居していたが、恋人を追って福島に去って行った木村咲江(桃井かおり)からであった。

今は、群馬県の草津に移り、彼と一緒に幸せに暮しているという。

ついては、家財道具一切そちらに置いてきたが、タンスの左の一番上の引き出しの中に「くまのい」が入っているはずだから、それを送って欲しいと書いてある。

自分の二日酔いには、山形のじいちゃんが送ってくれたその薬しか効かないのだとも。

どうして、彼との幸せな暮らしをしているのに、二日酔いなんかになるんだろう?…と不思議に思ったが、とにかく、徳子は、咲江が元気そうなのを知って喜んでいた。

そんな徳子、ある日、楽屋でラーメンをすすっていると、他のホステスたちが「美容整形事件」の新聞記事の事を話し合っているのを聞き内心動揺する。

何気なく、事件の詳細を聞くと、品川の五反田にあった半波美容クリニックで整形を受けた患者たちに、その後、顔の整形部分が変型する被害が続出、その被害者たちから訴えられているという。

その事実を知った徳子は愕然とする。

実は、徳子はその病院で、顔を変えていたからだった。
ブルック・シールズをお手本として、元の顔(片桐はいり)を変えたのだった。

顔が崩れて、元に戻る恐怖にかられた徳子は、咲江に会いに草津に出かける。

地元の芸能社をやっているらしき青年に出会った徳子は、木村咲江の住所を知らないかと尋ねるが、歌手で嘘つきの木村咲江なら知っていると家を教えてくれる。

行ってみると、すごいボロ家で咲江は飲んだくれていた。

徳子は、咲江との再会を喜ぶが、咲江の方はポカンとしている。

無理もない。徳子の顔は、整形しているため、以前とは別人にしか見えないからだ。

徳子は、手紙で頼まれた「くまのい」を渡したり、昔、御徒町のカチューシャという店で一緒に働いていた事などを話すが、咲江にはまだ信じられない。

とうとう、一緒に温泉に入り、徳子のでべそを触って、ようやく咲江は納得する事になる。

帰宅した二人の前に、ホテル竜山閣の品田(イッセー尾形)という番頭がやってきて、結婚式の違約金175万を返せという。

どうやら、咲江は、南田公平という男と結婚式を予約していたのだが、その男に、用意していた結婚資金200万持ち逃げされたらしい。

品田に対し、色々、弁解していた咲江だが、最後には開き直って、引き出物として大量に用意していたポットを持って行けという。

しかし、すでに、名前が彫り込まれているポットなど売れるはずもなく、呆れて、品田は帰って行く。

咲江の今の状態を知った徳子だったが、彼女の方も幸せとは縁遠かった。
実は徳子は、幼い頃、デパートの屋上に捨てられていたのだった。
その自分を捨てた母親を、徳子が30年間も捜し続けている事を、親友の咲江は知っていた。

咲江は33の本厄、徳子は32の前厄だから…と、翌日、一緒に近くの神社に厄よけのお参りに出かけた時、二人は、一人の気のふれた中年女性と出会う。

その後、咲江が世話になっている草津芸能社に出向いた二人だったが、社長(左とん平)は、芸のない咲江に首を言い渡そうとする。

しかし、偶然にも、がっかりして帰りかけた咲江を指名する電話がかかって来る。

珍しく咲江のファンだという彦坂兄弟が、クラブ「ママリンゴ」という所で、夜8時に御指名なのだという。

張り切って出かけて、舞台で「喝采」を歌い上げる咲江だったが、客席に彦坂兄弟だけではなく、清原という馴染みの客もサングラス姿で来ている事もあってか、客席で観ていた徳子まで紹介して舞台に挙げて合唱する悪のり振りを見せる。

いつものように、咲江の唄の臭さにへき易していた芸能社の社長だったが、飛び入りで歌い出した徳子に俄然注目する。

舞台がはねて、楽屋に戻って来た二人を出迎えた社長は、咲江だけ先に帰して、徳子と仕事の話をしようと言い出す。

その様子から、自分はお払い箱になりそうだと勘付いた咲江は、ふて腐れて清原のアパートへ向う。

帰宅して来た清原は、そんな咲江を見て驚くが、自分の部屋に招き入れると、カップ麺を振舞った後、何となく、咲江に好意を持っているような言葉をつい吐いてしまう。

実は、この清原こそ、東京からこの地に逃げて来ていた美容整形医の半波(平田満)その人だった。
彼は、先ほど「ママリンゴ」で、かつての患者の一人、徳子を舞台で発見して驚愕してたのだが、もちろん、そんな事は、咲江にはいうはずもなかった。

一方、芸能社の社長から、咲江のギャラの2倍出すから、契約しないかと説得された徳子だったが、咲江との友情を考えるとそれに承知する訳にも行かず、結局、この土地を離れると言い出す。

それを聞いた咲江は、何とか、徳子を引き止めようとし出す。

ここの温泉は、顔崩れに効くだとか、あんたが捜している母親らしき人がいるとも。

その言葉に反応した徳子は、咲恵に連れられて、その母親らしき人が住む家に様子を見に行く。

その家とは、彦坂兄弟、松夫(荒勢)と梅吉(阿藤海)の家だった。

しかも、その母親というのは、先日神社で出会った、あの気の触れた女性ではないか。

咲江がいうには、彼女彦坂静女(加藤治子)は、10年前、夫に先立たれて以来、様子がおかしくなったのだという。

松夫と梅吉という兄弟の名前から考えると、竹が付く名前の子供がいないのはおかしい。
きっと、竹子という女の子がいたに違いないと、分かったような分からないような説明をする。

しかし、思いあまった徳子が、思わず、「お母さん!」と玄関口で叫ぶと、「竹子かい?」と静女が姿を見せたではないか。

どうやら、咲江の推理は、偶然にも当っていたらしい。

そこ事があって以来、この土地に腰を据える事を決意した徳子は、咲江とコンビを組んで、唄を歌いはじめる事になる。

ある日、仕事が終わって帰宅した二人の家に、見知らぬ男が忍び込んでいるのを発見する。

実は、その男は、咲江のじいちゃん(笠智衆)だった。

孫娘の結婚祝に遅ればせながら、郷里の山形からやって来たという。

しかし、咲江から、あの結婚は実は断わったと聞かされたじいちゃんは、素直に翌日帰って行く。
小さな時に両親を亡くした頃から始まった咲江の虚言癖については、自分一人で育てて来て良く知っていたじいちゃんには、彼女がまたしても嘘をつき、本当は男に逃げられた事もちゃんと見抜いていたのだった。

その後、今度は、白いコートに帽子、マスクにサングラス姿という奇妙な格好の女性が、咲江の家にやって来る。

美容整形事件の被害者同盟の川中(横山道代)と名乗ったその女性は、半波がキャッシュカードをこの地の銀行で使った事から、彼がこの地に潜んでいる事が分かったので、やって来たという。
徳子も被害者らしいので、協力要請に来たのだ。

そんな咲江と徳子は、毎日、近所の旅館にもらい湯に行っていた。

その日も、二人一緒に温泉に浸かっていると、大勢の女性従業員が入って来たので、別の湯舟に入っていた一人の男性客が二人の湯舟に入らざるを得なくなる。

その男性客の顔を見た二人は驚く。

半波だったからだ。

徳子は、こんな所で、彼に会うとは思ってもいなかっただけでなく、その半波が、どうやら、咲江が最近付き合っているらしい彼氏だという事に気づき愕然とする。

帰宅後、二人は言い合いになり、咲江は、顔を変えた今の徳子は性格が自己中心的になった、昔の控えめな徳子の方が良かったと批難するが、徳子は、昔の自分は、自信がなかったばかりに嘘で固めていたのだと告白する。

やがて、咲江は、半波と一緒にこの地を出て行くと徳子に置き手紙を残して姿を消すが、実は、彦坂兄弟の所へ行き、もし幼い頃捨てた竹子を見つけて母親と会わせる事が出来たらいくら払えるか等と、金の無心をしていたのだった。

金を受取る事は出来ず、すごすごと自宅に戻って来た咲江だが、その夜、彦坂兄弟の方から彼女の家を訪ねて来て、芝居で良いから、咲江か徳子のどちらかが竹子に成り済まして、母親に会って欲しいと依頼する。

最近とみに、母親の病状が思わしくないからなのだという。

すでに、静女が竹子を捨てた日時や場所が、徳子の記憶とは違うので、本当の母娘ではない事を知っていた徳子だったが、咲江にそそのかされる形で、竹子が捨てられた状況を無理矢理暗記させられ、静女の元へ会いに行く事になる。

しかし、結局、徳子は嘘を押し通す事が出来ず、静女の話とは食い違ったまま、それでも二人は号泣して互いを許しあうのだった。

その頃、草津に集結した被害者同盟の一団に、逃げ出そうとしていたアパートを襲撃された半波は、咲江の家に逃げ込んで来るが、そこも被害者同盟に取り囲まれ、咲江も半波のために開き直る事になる。

一方、徳子の方も、温泉で出会った時、半波が、自分が昔プレゼントしたブレスレットを今をしている事に気づき、もう彼を許してやろうと、被害者同盟に訴えかけるのであった。

しかし、心を決した半波は、被害者同盟の人たちと一緒に東京に帰り、きちんと裁きを受ける事を伝える。

そんな半波に、咲江も一緒に付いて行かせた徳子だったが、その夜、一人で「ママリンゴ」で歌っていた徳子のステージに上がり込んで来たのは、東京へ行ったはずの咲江だった…

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼。

「時間ですよ」や「寺内貫太郎一家」「ムー一族」などで知られるテレビ演出家、久世光彦さんが監督したコメディ映画で、つかこうへい原作、脚本の「青春かけおち篇」と一緒に公開された。

松竹としてはおそらく、他分野の才能を導入する事で、新機軸を打ち出そうとした企画だったのだろうが、テレビドラマとしてならともかく、映画としては、今一つパンチ不足の観は否めない結果になっている。

基本的に、こじんまりとした設定である上に、松坂慶子と桃井かおりの二人に頼り過ぎている感じで、話の広がりも感じられなければ、特にコメディとして笑えるというほどの出来にもなっていない。

「時間ですよ」を連想させる女性の入浴シーンや、「寺内貫太郎一家」を連想させるような、丸めた御飯を茶碗から茶碗へ投げ飛ばすというような小ネタは随所に用意されているのだが、あくまでも「くすぐり」程度の効果にしかなっていない。

ベテラン加藤治子演ずる狂女は、体当たりで良くやったなと感心するが、笑いにも繋がらないし、かといって、涙にも繋がりにくい。

変にじめじめした感動話にしないようにというアイデアだったのだろうが、あまり成功しているとも思えない。

全般的に、あれこれアイデアは感じられるのだが、それが、映画としての面白さに直結しているかどうかは疑問だ。

テレビドラマとして観たなら、こういう演出でもそれなりに楽しめるとは思うのだが、映画の面白さではないような気がするのだ。

それでも、従来の松竹喜劇とは、ちょっと違ったセンスを感じるのは確か。

近年、テレビ演出の世界から、人気映画監督になるケースが増えているが、久世さんにも、もう少し、好条件で映画を撮ってもらいたかったような気がする。