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破れ太鼓

1949年、松竹京都、小林正樹脚本、木下恵介脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

津田建設を一代で築き上げた立志伝中の人物、津田軍平(阪東妻三郎)は、ワンマン経営者の典型で、社内でも家庭でも、人を怒鳴って従わせようとするだけの粗暴な性格だった。

今日も、その屋敷に三ヶ月勤めたお手伝いのうめ(賀原夏子)が、我慢の限界に来たと出て行く所であった。

戦後の女性開放意識を持つ進歩派の彼女には、自分をバカにするような言動を吐いてはばからない主人軍平の態度には、とても付いていけなかったのだ。

彼女が、たまたまやって来た馴染みの洗濯屋(中田耕二)に別れを告げている所へ、津田家の長女、秋子(小林トシ子)が、軍平が勝手に結婚相手とした花田輝男(永田光男)と連れ立って帰って来る。

秋子は、そんな花田を家に上げる事もなく、門前で別れてしまう。

そんな津田家では、母親の邦子(村瀬幸子)が、家事だけでも疲労困ぱいになっているのに加え、6人いる苦労知らずの子供達の世話にも忙殺されていた。

秋子は帰って来るなり、母親に、父親の為に、資産家の花田と結婚するつもりはないと泣きつかれ困惑。

次女の春子(桂木文子)は、学校の演芸会「ハムレット」の練習に夢中だし、次男の平二(木下忠司)は、毎日のんきにピアノを弾き、譜面が買いたいから金をくれと催促するし、医者志望の三男、又三郎(大泉滉)は、顕微鏡が買いたいから2万円くれとねだって来る。

どうした訳か、早く帰って来た長男太郎まで、もう、父親の会社でカバン持ちをやっているのは真っ平なので、素子(沢村貞子)と共同出資で、オルゴール会社を始めたいので、その資金200万円何とかならないかととんでもない事を言い出す始末。

しかし、そんな勝手気ままな子供達も、一旦、犬の鳴き声が聞こえ、父親が帰宅して来たと分かるや否や、一斉に玄関に迎えに出ると、後は、ひたすら従順な僕と化してしまうのだった。

今日は、軍平の誕生日と言う事で、一家揃っての夕食が始まってしまっては、もはや、今年30になる太郎にも、父親相手には何も切り出せない。

ましてや、28才の平二、24才の秋子に至っては、軍平からすればまだまだ子供扱いである。

軍平からすれば、自分が28の時、すでに、当時18だった邦子と結婚し、30才の頃には、幼い太郎や平二を連れて北海道に渡り、100人の人材を使って伐採事業に励んでいた自らの過去と比較して、いかにもふがいない子供達の姿に情けなさを感じるばかりであった。

苦労時代、15銭のカレーを食べたいばっかりに無我夢中で働きづめだった軍平にとって、カレーライスは今でも大好物だったので、食事会の〆は、いつも通り、カレーライスであった。

翌日、社員相手に、いつも通り、得意の、右手を突き出したポーズで演説をはじめた軍平の隣の部屋で、なかなか、会社を辞めると切り出せない太郎が鬱々としていた。

そんな所に、秋子がやって来て、演説が終わった父親と一緒に、資産家の花田家に出かけるのだが、その途中、満員電車に乗った二人は、大きなキャンバスを持った青年の前に立つ。

ところが、急に電車が揺れ、軍平は、思わずよろめき、青年の持っていたキャンバスに手を突っ込み、大きな穴を開けてしまう。

しかし、軍平は、謝るどころか、電車の運転手や、こんな満員電車にキャンバス等持ち込んだ青年の方に落ち度があるような言い訳を並べるばかり。

その横柄な態度に、さすがにカチンと来た青年は、「とりあえず、直接、穴を開けた本人としての謝罪があってもいいのではないか。こんな愚劣な人物とは話が出来ない」と立腹して、そのまま、電車を降りてしまう。

その横で、あまりの父親の無礼千万な態度に恐縮していた秋子は、立ち去った青年が、席にスケッチブックを置き忘れて行ったのに気づく。

その頃、津田家では、又三郎が、買ってもらったばかりの顕微鏡を母親に覗かせていた。

何と、見ているのは、父、軍平の便なのだそうだ。

そこへ帰宅して来た軍平は、秋子の結納の日取りを決めて来たと邦子に報告する。
傍らに立つ秋子の手には、あのスケッチブックが持たれていた。

その後、太郎は意を決して、父親にオルゴール会社を話をするが、一蹴されたので、そのまま家を飛び出る事になる。

息子の反逆に腹を立てた軍平は、入浴することにするが、新しくお手伝いさんになったきみ(桑原澄江)は背中を流しに入ったものの発作を起こして倒れてしまう。彼女は発作持ちだったのでる。

一方、スケッチブックの裏に、持主の住所と野中茂樹と書かれた名前を発見した秋子は、それを返却するために、妹の春子と一緒に出かけてみる。

茂樹(宇野重吉)の両親は母親(東山千栄子)は絵が趣味、父親(滝沢修)はヴァイオリンが趣味で、それぞれフランスのブローニュの森で出会ったと言うロマンチックな夫婦だった。

その自由な家風に、言い知れない心地よさを感じた秋子は、思いきって、茂樹に、自分をモデルにして絵を描いてもらえないかと申込む。

軍平の方はと言えば、その後、義妹の素子が会社にやって来て、資金提供をしてもらえないかと頼むが、全く相手にしない。

逆に、花田輝男がやって来て、秋子との結婚を前提に、融資の小切手を持って来たのには大喜びだった。
実は、津田建設は資金繰りに行き詰まっていたのである。

軍平が旅行中だというので、久々に一家揃って羽を伸ばしてパーティを開いたある日、津田家に遊びに来ていた茂樹を送りに、駅まで同行して来た秋子は、思いきって、そのまま横浜まで送ると言い出す。

一緒に乗り込んだ電車内で、父親が幼い子供に、「ターザン」の絵物語を読んで聞かせていたのを見ていた茂樹は、「ターザンは、谷を勇気を持って飛び越えた」というフレーズを聞き、思いきって、秋子と一緒に途中下車してしまう。

あまりに星空がきれいな夜だったので、その見知らぬ村の望楼に登った二人は、星座の話をしながらムードが高まる内に、ついに抱擁する事になる。

旅行から帰って来た軍平は、秋子が最近しょっちゅう出かける事をとがめる。

ちょうどそこへやって来た花田輝男と外に出た秋子は、はっきり、あなたとは結婚するつもりはないと宣言するのだった。

そして、秋子は茂樹の元へ行ってしまう。

その事を知った軍平は激怒するが、そのあまりに頑な態度に嫌気がさした邦子も又、妹、素子の元へ行く事になる。

残された子供達は、母親に付いて行くべきか、父親と残るべきか大混乱に陥る。

それから2週間が過ぎ、春子の学芸会を鑑賞していた邦子は、太郎から呼び出しを受け、津田建設の看板が塗りつぶされていた事実を聞かされる。

どうやら、軍平の会社はあっけなく倒産したらしい。

その頃、帰宅して来た軍平は、ピアノの前にいる平二に、日頃お前らが唄っている自分をからかった「破れ太鼓」の曲を聞かせてくれと言い、自分はそれを聞きながら、大好物のカレーライスをゆっくり食べはじめていた。

会社も家族も失い、今こそひとりぼっちになった事に気づいた軍平は、カレーの味と朗らかなメロディに、苦しかった自分の北海同時代を思い出し、涙を流すのだった。

そんな彼の元に、太郎が久々に訪ねて来る。

オルゴール会社は軌道に乗りはじめたが、経理等良く分からない所が多くて困っている、ちょっと助言をしに来てくれないかと言うのである。

その言葉に、息子の思いやりを感じ取った軍平は、オルゴール会社で再会した邦子や秋子、茂樹らと、心を入れ換え、新しい生き方を始める決心をするのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

時代劇俳優のイメージが強かった阪妻を、思いきってユーモア現代劇に起用した作品。

阪妻の頑固親父振りは、かなりカリカチュアライズされており、さほど怖い感じには見えない。

たえず、眉を八の字型に歪めている様は、息子の田村正和の古畑任三郎の表情を連想させる。

横顔等、時々そっくりに見えるのが驚かさせる。

全体的に、コメディと言う程、強烈な笑いは仕掛けられていない。

あくまでも、歌あり、恋あり、涙あり、ユーモアあり…といった軽いタッチのカリカチュアになっている。

「尼寺へ行け!尼寺へ!」と、ハムレットの練習に夢中の次女春子役の桂木洋子の無邪気な愛らしさや、宇野重吉のラブシーン等が印象的。

大泉滉が演じている又三郎というのは、彼が子役時代に演じた「風の又三郎」にちなんだものか?

軍平が苦難の過去を回想するシーンは、思わず、目頭が熱くなる。

若い頃の軍平を演じているのも阪妻自身なのだが、さほど不自然に見えない所が見事。

何の生活能力もなく、ただの遊び人のようだった次男の平二が、会社が倒産し気落ちした父親に対し、「人間は皆孤独だけど、愛する人がいると言う事に価値があるんだ」と慰める所は、今観るとやや理屈っぽく、あざとくも感じるが、公開当時は、大きな感動を呼ぶ名シーンだったのだろう。

阪妻の意外な魅力を知る事ができる作品である事は確か。