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丹下左膳 百万両の壺

2004年、「丹下左膳 百万両の壺」製作委員会、林不忘原作、三村伸太郎オリジナル脚本、江戸木純脚本、津田豊滋監督。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

夜の通りで、宝刀らしきものを背負った侍が、3、4人の暴漢に襲われている。
侍は、必死で奪われそうになる宝刀を守ろうと抵抗するが、まず右目を斬られる。

そして、次に、右手を片口から切断されたところで倒れ伏すが、宝刀を取ろうとする敵に再び太刀を浴びせるが、とうとう宝刀は奪われてしまう。

そこに駆けつけて来たのは、愛人のお藤(和久井映見)だった…。

時が経ち、隻眼隻腕になった丹下左膳(豊川悦史)は、矢場を経営しているお藤の店兼住居に、店の用心棒として居候していた。

毎日、酒に明け暮れる左膳だったが、一つ気に入らないのは、お藤が毎日歌う三味線と歌。
糠味噌が腐ると悪態をつき、歌が始まると、決まったように、床の間に飾ってある招き猫を、嫌みったらしく後ろ向きにしてしまうのが癖になっている。

又、今日も、お藤が歌い出したので、面白くなくなった左膳は、酒を買って来ると言い外出する。
酒なら店に商売用のものがあるのだが、そんなものはまずくて飲めねえ…と、悪態を付く。
はなから外出する口実なのである。

そんな左膳、馬を急がせる侍の姿を見かけ、町人が噂している話を聞く。

何でも、柳生藩が今回、日光東照宮の改修奉行に選ばれたのだと言う。

そんなものに選ばれれば、膨大な出費で藩の財政は傾いてしまうので、慌てて、国元に知らせる早馬が今出た所だと言うのだ。

侍の世界等、所詮そんなものだと左膳は嘯く。

その後日、当の柳生藩では、城主の柳生但馬守(金田明夫)が、家老の高大之進(荒木しげる)に、破顔して伝えていた。

何でも、一風僧正から、当家に伝わる「こけ猿の壺」には、百万両の在り処を記した地図が秘められていると教えられたのだと言う。

これで、改悛奉行として藩に課せられる臨時出費の財源が見つかったと喜んでいるのだ。

しかし、聞いた大之進の表情は冴えなかった。

彼いわく、その「こけ猿の壺」なら、江戸の司馬道場に婿に行った但馬守の弟、源三郎(野村宏伸)の婚礼祝いとしてやってしまわれたではないか…と。

但馬守、それを思い出し、がっくりすると同時に、何とかそれを取り戻そうと、大之進に相談するのだった。

その頃、江戸の司馬道場では、そのこけ猿の壺を前にしながら、当の源三郎が、妻の萩乃(麻生久美子)と、こんな薄汚い壺しかもらえない自分と、一国一城の主となっている兄との違いに関して愚痴をこぼしあっていた。

そこに、国元から、こけ猿の壺を返してくれとの手紙が届き、その兄の勝手な言い種に対する当てつけの気持ちもあって、こんな壺等売ってしまえと、源三郎は萩乃に命じてしまう。

その後、大之進直々百両を持って、源三郎の元に訪れて来るのだが、その中途半端な金額に、かえって、何か壺に秘密があるのだろうと、源三郎の疑心は膨らみ、相手を問いつめたあげく、ようやく、百万両の事を聞き出す事に成功する。

源三郎、喜び勇んで萩乃に壺を持って来させようとすると、もうあなたに言われた通り回収屋に売ってしまったと言うではないか。しかも彼女、あんな壺でも10文で売れましたと喜んでいるではないか。

その「こけ猿の壺」は、回収屋の茂三とハチ(かつみ、さゆり)が荷車に積んで、住まいであるとんがり長家に戻って来ていた。

ちょうど同じ所へ戻って来たのが、二八蕎麦屋を営んでいる弥平(坂本長利)と孫の安坊(武井証)。

安坊は、おじいさんに金魚を一匹買ってもらって、それを入れたガラス鉢を大事そうに抱えて来たのだが、長家の前で転んで割ってしまう。

それを見ていた茂三とハチが、安坊に与えたのがたまたま荷台に積んでいた「こけ猿の壺」。

そのとんがり長家に住む大工の音吉(渡辺篤)の所に将棋を差しに来ていたのが左膳。
そこへ、屋台の修理の依頼に来た弥平を、うまい蕎麦屋だから、一度寄ってやって下せえと音吉に紹介される。

そんな左膳は、帰り際、大切そうに壺を抱えている安坊を見かけると、大人気なくも、ついからかってしまうのだった。

一方、売ってしまった壺を捜しに町中に出ていたのが柳生源三郎と中間の与吉(中山一朗)。
歩き疲れていた源三郎は、町中の矢場を覗き込み、そこの店で働いていたお久(田中千絵)の可憐さにちょっと見愡れてしまう。

その直後、矢場に入って来たのが、どこかの旗本らしき侍とお付きの者の二人連れ。

彼らは、店の常連らしき遊び人七兵衛(渡辺裕之)から誘われれるまま、店の代金を賭け、弓の勝負をする事になるが、最終的に負けてしまう。

大人気なくも、そこで七兵衛に対し、刀を抜いてしまった侍たちを見たお藤は、用心棒役の左膳を呼ぶ。

最初は、化物じみた左膳の様子を見くびっていた侍二人だったが、少し、剣を合わせる内に、相手がただならぬ腕前と気づき、その場は、ほんの冗談だったとごまかして帰ってしまう。

しかし、どうやら、今の事を根に持って仕返しするかも知れないと案じたお藤は、七兵衛を家まで左膳に送らせて行かせる。

しかし、途中、襲って来る気配もなかったので、安心した左膳は、ちょうど、先日紹介された弥平の二八蕎麦屋を見かけたので、七兵衛と一緒に蕎麦でも食べていこうと腰を下ろしたところで、先ほどの二人組が襲いかかって来る。

七兵衛は逃げ出し、いち早く気配を察した左膳は難なく二人組を追い払ったは良かったが、気が付いてみると、ちょうど左膳たちに蕎麦を運んで来ていた弥平が腹を突かれて倒れているではないか。

これは一大事とばかり、弥平を背負って矢場に戻って来た左膳だったが、お藤たちが介抱しようにも、もう弥平は虫の息。

「安の事を頼みます…」と、一言言い残して、弥平は事切れてしまう。

さて、これに困惑したのは左膳とお藤。

いくら成りゆき上頼まれた事とはいえ、根っからの商売女と浪人風情に子供を育てるなんてとんでもない事。

とはいえ、放ってもおけまいと、二人して長家まで出向いて、安坊に、じいさんが死んだ事を告げようとするが、いたいけな子供の顔を見てしまってはさすがに二人とも言い出せない。

結局、あれほど嫌がっていた子供を矢場に連れて来て、その日から面倒を見る事になる二人であった。

その頃、源三郎は、妻萩乃に対し、毎日自分は足を棒にして歩き回っているが、江戸八百八町の中には無数の回収屋がおり、その中から一個の壺を見つけだす事等、敵討ちを捜すようなもので、「10年かかるか、20年かかるか…」と、愚痴めいたセリフを残して家を出る。

そうして、お供の与吉には、手分けして捜した方が効率が良いと金を渡して別れ、向ったのは、あの可愛い娘のいる矢場であった。

一方、中間の与吉は、ちゃっかり、高大之進の方からも、情報があったらこちらに知らせてくれと小遣いをもらっていたが、何の情報もあるはずがなく、大之進も柳生藩もなす術なし。

安坊と暮すようになってから、すっかり子煩悩になった左膳は、音吉に作ってもらった竹馬を安坊に与えようとする。
それが、すっかり母親気取りになったお藤には気にくわない。

しかし、結局、やりたがる安坊の可愛さに負けてやらせていると、転んだはずみにこけ猿の壺にぶつかり、金魚が飛び出して死んでしまう。

それを聞いた左膳は、安坊を連れて金魚釣りに出かけるが、その頃、毎日のように矢場に通って来てはすっかり常連客となって親しくなっていた源三郎もお久と一緒に付いていく事になる。

その姿を発見したのが、下女と一緒に宮参りに来ていた萩乃。

彼女は、若い娘と嬉しそうに金魚釣りをしている夫の姿を信じられぬものを見る様に目撃すると、憤慨して帰宅し、その日以来、何を言っても、源三郎の言う事を信用しなくなり、以後、彼の道場からの外出禁止を命ずるのだった。

実は、源三郎、親しくなった左膳に教わった回収屋茂三、ハチに会いに行って、こけ猿の壺は、今、安坊が持っている金魚鉢だと言う事を知った直後だっただけに、複雑な気持ちになる。

こけ猿の壺を見つけてしまえば、もう外出して、あのお久に会いに行く口実がなくなるからだ。

その頃、矢場の方でも、熱い男女間のバトルが繰り広げられていた。

安坊を道場に通わせ武道を身に付けさせ、じいさんの敵討ちをさせようと言い出した左膳と、これからは頭脳が大切と、寺子屋に通わせるというお藤は真っ向から対決。

結局、今度は、お藤の意見が通ってしまい、安坊は寺子屋通いをする事になるのだが、両替屋のせがれ勝坊(吉間亮)にいじめられるから送ってくれと安坊が甘えはじめる。

誰がそんな送り迎え等するかと、我を張っていた左膳だったが、結局、出向いていって、安坊をいじめていた勝坊の頭をはたいてしまう。

その後、業を煮やした大之進は名案を思い付く。

江戸中に貼り紙をし、とにかく、壺という壺を買いとっていこうと言うものであった。

その貼り紙貼りを命じられていた与吉は、たまたま側を通りかかった左膳に、壺があったら一両で買いますぜと声をかけ、心当たりがありそうな左膳に先に一両小判を渡してしまう。

その左膳、勝坊らと遊んでいた安坊が「めんこを買ってくれ」とねだるので、持っていた一両をそのまま渡してしまう。

安坊は、子供らしく、その価値の分からない小判そのものをめんこ代わりに使いはじめる。
すると、勝吉の方も負けじとばかり、店から大判を持って来てしまう。

その後、あの金魚壺を売ろうと帰宅して来た左膳から訳を聞いたお藤は、安坊が大切にしているものを売るのは可哀想だと言い出し、それもそうだが、もう金をもらってしまってないと左膳が答えると、お藤は仕方なさそうに、一両を出して返して来いと言う。

そんな所に戻って来たのが安坊。

何と、メンコの勝負に勝って、勝坊の大判を持って来てしまったのだ。

しかし、お藤に、そんなもの返して来なさいと叱られた安坊は、しょげてその大判を返しに行く途中、それを道で目ざとく見つけた与吉に奪い取られてしまう。

さて、息子の勝吉が持ち出した大判がなくなったと知った両替屋、上州屋(高橋渡)は、その後、子分を引き連れ矢場に乗り込み、子供を使ってたかりをするとはふてぇ奴だと、左膳とお藤に因縁をつけ始める。

明日には必ず返すと、上州屋を追い払ったまでは良いが、二人とも、60両もの大金を返す当て等あるはずもなく、途方に暮れる。

気が立って、互いに責任の擦りあいをしていた左膳とお藤の声にいたたまれなくなった安坊は、一人、壺を抱えて家出をしてしまうのだった。

その直後、安坊の置き手紙を読んだ二人は、大慌てで、安坊を捜しに出かけ、ようやく見つける事ができる。

左膳は、取りあえず、手っ取り早く博打で金を作ろうと、安坊を連れて賭場に出かけるが、全く勝てず、とぼとぼと帰る途中で、いつしかの旗本と中間の二人組に待ち伏せられていた事に気づく。

左膳は、安坊に目をつむらせ十まで数えさせて後、瞬時に二人を叩き斬ってしまう。

翌日、最後の手段と、金銭目的で道場破りに出かけた左膳だったが、そこの門弟達をことごとく討ち負かした左膳の前に現れたその道場主とは、あの矢場で顔馴染みの源三郎だったから、両者ともビックリ。

二人は、剣を交えると見せ掛けて、瞬時に、金で左膳が負けてやる事に話が決まり、左膳は60両を得、源三郎は萩乃と門弟の前で、道場主としての面目を保つ事が出来た。

その後、安坊の持っていた壺は源三郎に返却される事になり、全て丸くおさまるかに思えたのだが、久々にや場にやって来た源三郎は、安坊が首からぶら下げていた守り袋を見て驚愕する。

その守り袋こそ、兄、柳生対馬守が、かつて江戸在勤の頃、腰元に産ませたと言う事で、市井の者に預けていた嫡子に与えていたものだったからだ。

かくして、安坊は、柳生家の跡取りとして、矢場を離れる事になるのだが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

夭折した山中貞夫監督が遺した3本の内の1本「丹下左膳餘話 百万両の壺」(1935)のリメイク作品。

丹下左膳が、隻眼隻腕になった由来を描いたエピソードを描いた冒頭部分と、現在、オリジナル版から一部欠落しているとされるアクション部分が新たに加えられ、ラスト等、一部アレンジしてある他は、オリジナルをそっくり再現した作品になっている。

結論から言えば、ユーモラスな傑作人情話が、ごく普通の娯楽映画におさまってしまった感じ。

オリジナルを知らなければ、これはこれで、それなりに楽しめる出来にはなっているのだが、オリジナルを知っている者には、何となく微妙につまらなくなっているのが気になる。

話の展開、セリフ、役者の動作等は、基本的にオリジナルをほぼなぞっているのだから、つまらなくなっているとすれば、キャスティングの雰囲気や、演出の「間」に原因があるのではないかと思われる。

「間」に関して言えば、確かに本作はオリジナルに比べ、微妙に「笑い」が起きにくくなっているのは確か。

キャスティングに関しては、和久井映見と麻生久美子が微妙にミスキャストっぽい。

両者とも「美人過ぎる」のだ。

和久井演じるお藤の方は、恋と趣味と仕事に生きる、いわば粋なキャリアタイプの女で、子供なんかは大嫌いという酷薄そうな雰囲気に見えていた方がギャップがあって面白いはずなのだが、和久井は結構「家庭的で優しそうに」見えてしまう。

麻生久美子演じる萩乃の方も、新婚であるはずの源三郎が、すぐに矢場のお久に恋してしまう程度の容貌でなければ説得力が生まれないはずなのだが、きれいすぎる。

こうした事が積み重なって、同じ芝居をやっているはずなのに、微妙につまらなく感じてしまうのではないか。

もちろん、両女優は良く演じており、当人たちに何等責任がある訳ではない。

ただ、豊川悦史演ずる丹下左膳は悪くないし、回収屋をやっているかつみ、さゆりは、オリジナルの高瀬実乗とは又違った魅力がある。特に、さゆりのかわいらしさは絶品で、「ポヨヨ〜〜ン」のギャグなしでも、十分存在感がある。

オリジナルを知らない人には、オリジナルにはなかったシリアスなアクションシーンが追加されているため、肝心のコミカルなドラマ展開が、若干不自然に感じるのではないだろうか…という思いが拭えないのも確か。