TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

大いなる驀進

1960年、東映東京、新藤兼人脚本、関川秀雄監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

東京駅の前で揉める若い男女。

女性の方が「辞めないで!」、男性の方が「金を儲けなけりゃ、結婚できないじゃないか!」。

「今日の長崎行きが最後だ!」と言い残して駅の国鉄事務所に入ったその男性は、入社4年目の列車給仕矢島(中村賀津雄)だった。

専務車掌松崎(三國連太郎)らを交えた朝礼を終え、矢島はふて腐れて5列車「さくら」に乗り込む。

食堂車のウェイトレス芳子(中原ひとみ)は、そんな矢島に「今日も、あなたが好きなコロッケを残しといてあげる」と声をかける。どうやら、矢島の事が好きなようだ。

やがて、出発間際の「さくら」に、先ほど矢島と別れた彼女、君枝(佐久間良子)が乗り込む。

その事を同僚の給仕から知らされた矢島は、困惑して彼女の席を訪ね「次の静岡で帰ってくれ」と頼むが、入場料だけで乗り込んだと言う君枝は承知しない。

その君枝の隣に座っていた若い娘(大原幸子)が博多到着の時刻を矢島に確認して来る。

そんな君枝に事情を尋ねに来た松崎に、彼女は、自分は今、働いて稼いだ月1万2000円の給料で幼い弟を養っているのだが、そんな私と矢島の給料では、とても結婚できそうにもないので、彼はボーイをやっている友達と共同経営して新しい商売を始める計画を持っているのだと話す。

その後、松崎の元に、列車内に殺人犯が乗り込んでいると言う乗客からの通報がある。

急ぎ、次の駅で鉄道公安官の協力を頼むと、その玉川七郎(直木明)なる男を下車させる事にする。

通報した乗客は、レストラン経営者の時定よしお(波島進)と名乗り、長崎まで行くのだと言う。

その頃、警察署の取調室では、玉川が誰が自分の事を密告したか分かっている…と嘯いていた。

一段落したところで、松崎は、特急券も含め、長崎まで2970円の乗車券を君枝に売る。

そんな松崎に、先ほどの隣の娘が、再度、博多への到着時刻を確認して来る。
何でも、母親が危篤で帰る所なのだが、駅から自宅まで2時間もかかるので、気が気ではないらしい。

名古屋駅では、東京から乗り込んだ長崎出身の憲政党の代議士、坂ノ上坂二郎(上田吉二郎)を応援する名古屋支部の一団が気勢をあげる。

そんな坂ノ上に食堂でぶつかったのは、スリの常連、カメレオンの松(花澤徳衛)であった。

坂ノ上は、総裁からもらった大切な懐中時計が盗まれたと、秘書(大村文武)を通じて、松崎たちや公安官に文句を付けて来る。

あれやこれやで、どうやら自分達の夕食の時間になった松崎と矢島は食堂車に行くが、コロッケを取って置くと言っていた芳子の態度が急に冷たくなっている。

どうやら、君枝がこの列車に乗って来た事を知り、面白くないらしい。

矢島は、テレビで観た事のあるカメレオンの松というスリの名人がこの列車に乗っている事を松崎に知らせる。

やがて、大阪に到着した「さくら」に、目つきの鋭い怪し気な男(曽根晴美)と、大阪医大から長崎医大へ、血清を運ぶと言う女性(久保菜穂子)が乗り込んで来る。明日の2時までに届けなければいけないのだと言う。長崎到着は明日の12時25分の予定。

しかし心配なのは、折から接近中の台風19号、出発する「さくら」に台風警報が発せられる。

一方、そんな列車内のデッキで話し込んでいる男女二人。

そうやら、父親の金50万を持ち出した亭主持ちのお嬢さんと東京から駆け落ちをして来た農家の次男らしい。

同じように、国鉄を辞めようとする矢島の気持ちを何とか食い止めようとする君枝の姿をドア越しに目撃した芳子の心中も穏やかではなかった。

そんな中、東京から乗って来た客で、食堂車で酒を重ねていた相生炭坑の吉田(小川虎之助)という老人が、夜、寝台の中で自殺を計ったという知らせが松崎の元に届く。

岡山で医者(小沢栄太郎)が乗り込んで来て、何とか、彼を駅に下ろそうとするが、ここで死なせてくれと、吉田は応じない。

やむなく、医者が同乗する事になり、列車は出発。
寝台で、胃洗浄等応急処置が続けられる事に。

時ならぬ騒動で、向いの寝台席だった坂ノ上など、寝られたものではない。
もう、深夜の2時過ぎだった。

そんな「さくら」を直撃するように、台風19号は瀬戸内海に接近。

運転席では豪雨で視界不良の中、前方信号を確認、赤に気づき、急停車をかける。

三原駅から2Kmの付近で、線路上に土砂崩壊の箇所を発見、電話も通じないので、誰かが連絡用に走らねばならないと言う。

しかし、矢島は、客の世話があるのでと言い、動こうとしない。

彼の元へやって来た君枝は、そんな態度の矢島に対し「逃げないで!」と叱責する。

代わりに他の給仕が、雨の中、外に走り出る。

松崎も、外に出て、土砂を撤去しようと働き始める。

やがて、意を決し、矢島は外へ走り出すと、近くの業務電話機を見つけ、三原駅へ緊急事態を連絡する。

さらに、トンネルの反対側からやって来る登り列車を、信号灯で停車させるのだった。

列車内では、列車の遅れを気にする乗客たちが、眠れぬ夜を過ごしはじめる。

血清の遅れを気にする女、危篤の母親を心配する女…、やがて、泥まみれになって、土砂を取り除いている乗務員の姿に打たれた君枝が列車を降り、自分も土砂の除去を手伝いはじめる。

血清運搬の女も、そして、食堂車の芳子たちウェイトレスたちもその後に続くのだった…。

かくして、無事、土砂は取り除かれ、列車は32分遅れで出発。

芳子は、戻って来た食堂車内で、ずぶ濡れになった君枝や血清運搬の女らに着替えさせながら、相手を認める気持ちになっていく。

翌朝、食堂車で朝食をとっていた時定のテーブルに座って来たのは、昨夜から、彼の寝台に近づいては、殺しのチャンスを伺っていた怪しい男。

時定は、目の前に座った彼の姿を見るや否や、食事も程々に席に取って返し、バッグの中から拳銃を取り出すのだった。

やがて、徳山到着。

駆け落ちして来た男女が降りるが、それを待っていたのは、男の兄。
彼は、出迎えを喜んで駆け寄る弟を、ホーム上で殴りつけるのだった。

それを見て、止めたのは松崎。

そんな中、列車に戻って来た松崎に君枝は、矢崎はもう夕べの事で立ち直ったので、自分は下関で降りようと思うと告げる。

しかし、松崎はそれを止め、矢島も又、彼女に長崎までもっと話し合おうと言い出す。

一方、自殺を計った吉田は一命を取り留め、医者に礼を言っていた。

そして、下関到着。

医者と時定はそこで降りるが、後を付いて降りて来た怪し気な男がナイフを取り出し、時定を襲いかかる。

応戦しようと、拳銃を取り出した時定だたが、何故か弾が出ない。

結局、胸を突かれた所で、暗殺者は、駆けつけた公安官たちに取り押さえられる事になる。

怪我をした時定を治療するために、医者は又、帰れない事になる。

そんな様子を、降車口から観察していたのは、カメレオンの松。

実は、夕べ、彼が、時定の拳銃から弾を全て抜き取って置いたのである。
にやりと笑って、その弾丸をその場に捨てながら、松は列車内に戻る。

やがて、博多に到着。

吉田と、母親の元に戻る娘が下車。娘には、改札口の所まで姉(牧野内とみ子)が迎えに着ていた。
荷物を、改札口まで運んでくれた矢島に、いつまでも、娘は目線を送っていた。

その後、カメレオンの松は、洗面所で拾ったと、懐中時計を松崎に渡し、それを知らされた坂ノ上は、わざわざ、松の席まで礼にやって来る。

長崎には30分遅れの到着となったが、血清は無事、長崎医大の担当者に渡された。

列車内の後片付けをしている矢島を、ホームで待つ君枝。

その姿を、食堂車から、複雑な気持ちで見つめる芳子であった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「大いなる旅路」(1960)の姉妹編ともいうべき国鉄全面協力映画。

基本的に、幾つかのエピソードを羅列した軽い娯楽映画なのだが、前作同様、「国鉄職員は給料は安いかも知れないけど、やりがいのある仕事だよ」というメッセージがはっきり打ち出されており、当時としては、この映画に感動して、国鉄職員を目指す若者等もいたかも知れない…と思わせるような「国鉄職員へのリクルート映画」のような側面を持っている。

「大いなる旅路」で親子を演じた三國連太郎と中村賀津雄が、本作では専務車掌と給仕役を演じている。

寝台特急が、目的地に到着するまでの一昼夜に、様々なドラマが車内で起きる…という展開は、後の渥美清主演の東映作品「喜劇 急行列車」(1967)の原点とも言える。

クライマックスとなる、台風で起きた土砂崩れを一刻も早く回復させようと、7〜8名の乗務員が全員力を合わせている姿に打たれた他の乗客たちが、一斉に豪雨の外に出て協力しはじめると言うシーンは、アメリカ映画等では良く有りそうなパターンだが、この作品ではそれなりにうまく使われており、素直に感動できる。

中原ひとみが、片思いに終わる三角関係の一人として配置されているのも興味深い。

単純なハッピーエンドだけでは終わらせていないのだ。

スリのエピソード等も同様。

一見、単純な設定に見えて、ちょっと、ひねりが加えてある所が憎い。

さすがに、国鉄が協力しているだけあって、列車が走るシーン等は皆本物で、今観ても迫力満点。

鉄道好きには、こたえられない映像満載なのではないだろうか。