1968年、松竹大船、舟橋和郎脚本、瀬川昌治監督作品。
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今日は大安吉日。
大阪、天王寺駅から出発し、南紀白浜へ向う列車「きのくに2号」は「新婚列車」と呼ばれ、文字通り、乗客の大半は新婚カップルばかり。
SL機関士をやっている父親甚吉(伴淳三郎)と二人暮しで、今だ独身の専務車掌、並木大作(フランキー堺)は、さすがに当てられっぱなしで、担当日には毎回決まったように鼻血が出る始末。
車内販売員の美知子(生田悦子)も、そんな大作の事を哀れむように観ていた。
白浜駅に着いた大作は、温泉旅館「紀国」の客引きをやっているおじ(藤原鎌足)から、見合い話があるので、後で寄ってくれと声をかけられる。
そんな大作、洗面所に置き忘れられたダイヤの指輪を発見する。
その後、電話連絡で落とし主が判明したと言うので、自ら届ける事にした大作は、取りあえず、その前に、地元で馴染みの「丸新」で目張り寿司を買いに出かける。
毎回、大作が同じ店で寿司を買う目的は、店の看板娘お雪(新珠三千代)に気があるからであった。
お雪こと雪子は、母親(笠置シヅ子)と二人暮しであった。
その雪子から、今度、新しい店を勝浦に出したいのだが…と、相談を受けた大作は、勝浦なら自分の地元だから、今度、自分が案内してあげようと喜ぶのであった。
その後、指輪を届けに「紀国」に出向いた大作は、指輪の持主で、列車内では熱々振りを見せつけられた戸川圭子(園佳也子)が、何やら立腹してホテルから帰ろうとしている所に出くわす。
訳を尋ねると、亭主の戸川光男(左とん平)が旅館で女按摩を呼んだので、もう別れるから、そんな結婚指輪なんか捨ててくれと言う。
どうやら、亭主が新妻の気持ちも考えず、うっかり呼んだ女按摩(園江梨子)が、妙に男好きするような若い娘だったので、それに嫉妬した様子。
何とか、追って来た亭主と新妻を取りなし、結局、またまた、元の熱々カップルに戻った姿を見せつけられる大作であった。
さて、一段落して、おじと共に、見合いの話があるという森岡医院という病院に出かけた大作だったが、相手の医者(牧伸二)はきょとんとしている。
どうやら、おじが聞いて来た見合い話と言うのは、森岡医師の愛犬エミの話を、人間の話と勘違いした結果だったらしい。
そんなこんなの後日、JR勝浦駅に、春子と母親が、物件を捜しにやって来る。
一応、その物件を紹介して、母親と家主が交渉をしている隙に、大作は雪子に、一緒に近くの名所巡りをしてみないかと誘ってみる。
ところが、雪子は、それを母親に聞きに行ったので、答えは「母親同伴ならOK」という、大作にとって極めて面白くないものになる。
さらに、温泉ボートと言う観光フェリーに乗り込もうとした大作に居丈高に声をかけて来たのは、フェリーのガイドをしている晴子(倍賞千恵子)だった。
実は、このハル坊こと新庄晴子、一方的に大作の恋人を自認している勝ち気な娘で、その大作が連れて来た雪子に対し、露骨にライバル心をむき出しにした発言を始めたので、大作は大弱り。
名所を観て雪子親子と別れた後、悶々とした気持ちが押さえ切れない大作は、一人変装をして、ストリップ劇場に入り、何度もかぶりつきで観続けるのだった。
その夜、大作のことが気になる晴子は、彼の自宅を訪ねて来るが、そこで目にしたのは、一人ストリップショーのポーズを取り恍惚としている大作の哀れな姿だった。
外泊が多く、なかなか親子水入らずになれない大作と、父甚吉だったが、ある夜、大作は、久々に夕食を共にした甚吉に結婚する気はないかと尋ねてみる。
実は、父甚吉と雪子の母を結婚させれば、雪子と自分との結婚話もはずみが付くのではないかと言う大作の秘かな願望があったのだが、永年勤続を誇る生真面目な甚吉は、自分の再婚の話より、お前の方こそ良い相手を見つけろと、互いに牽制しあうばかり。
ある日、20年振りに列車に乗るという老人(左卜全)の世話を頼まれた大作、目的地に付いたら知らせるという大作の言葉を無視し、何度も、途中の駅で降りようとするので、その度に、その老人をなだめすかせなければならず、大作はもうヘロヘロ。
そんな大作に、気づいた客がいた。
先日、変装した大作が見に行ったストリッパー達が、その列車に乗っていたからである。
さらに、就職の為、大阪に向うと大塚洋子という娘(早瀬久美)から、迎えに来てくれる会社の人宛に、こちらの到着時刻を知らせる電報を打ってくれと頼まれた大作だったが、忙しさに紛れて、つい、その電報を打ち忘れてしまう。
大阪に到着し、食事の時間になって、ポケットから出て来たその電報に気づき、慌てて、駅構内を捜す大作だったが、洋子の姿はない。
その頃、出迎えの人物と出会えないで構内で待ちぼうけを喰っていた洋子に声をかけて来た男がいた。
洋子を家出娘と勘違いしたポン引きの男(佐藤蛾次郎)であった。
その男に甘い口車に乗せられるまま、ポン引き仲間の車に乗せられそうになっていた洋子を見つけたのは、その後も必死に彼女の事を捜し続けていた大作だった。
何とか客を守ろうと、毅然とした態度を取る大作に対し、ポン引きたちは引き下がらざるを得なかった。
しかし、この騒ぎの為に、大作は次に乗るはずだった16時36分発列車に乗り遅れてしまう。
乗り遅れた理由を言わない大作に対し、区長(穂積隆信)は、無断欠乗は3ケ月の職務停止となると告げる。
息子の不始末の噂を伝え聞いた、父、甚吉は、ロッカールームで着替え中だった大作の所へやって来ると、いきなり殴りつける。
国鉄職員として責任を全うする事だけを言い聞かせて来た自分の教えを裏切られたと思い込んだためだった。
それに対しても、大作は何も言い返さなかった。
しかし、その直後、区長の元へ、洋子から礼の電話が入り、大作が遅れたり理由がはっきりしたため、大作に対する処分は一切なかった。
それを知った甚吉も、何も言わずにただ泣くだけだった。
その後、相変わらず、大作と互いの結婚話を薦めあう甚吉だったが、大作が「丸新」の話をすると、甚吉もまんざらではなさそうな様子。
実は、甚吉の方も、 息子同様、毎日のように丸新に通っていたからだ。
これは、雪子の母親と脈があるのでは?と、大作が思い込んだのも無理はない。
しかし、甚吉のお目当ては、大作と同じ、雪子の方だったのであるが、まさかそうとは思わない大作は、勝手に、雪子に、彼女の母親と自分の父親の結婚話をほのめかしてみる。
まさか、大作が自分との結婚のきっかけとして、そんな話を進めているとは気づかない雪子は、単純に母親の再婚を喜ぶ娘として対応していたが、大作は一人で、彼女との結婚に近づいたと、内心ほくそ笑むのであった。
一方、相変わらず大作に夢中の晴子は彼を強引にデートに誘い出し、二人で一緒に生活する夢を語ろうとするのだった。
しかし、大作の方にそんな気持ちは微塵もなく、つい冷たい返事をして、晴子を怒らせる事になる。
ある日、甚吉は、応対した雪子に改まった態度で、相談事があると切り出す。
その態度を観て、てっきり母親に求婚しに来たと思い込んだ雪子は、かねてより話をしておいた母親を呼出し、甚吉の接待をさせるが、これに驚いたのが甚吉。
実は、雪子へのプロポーズをするつもりで来ていたからだった。
結局、さすがに、自分と雪子ではつり合わないと悟ったのか、あっさり、雪子の母親と再婚する事にした甚吉。
かくして、大作は、思惑通り、雪子とは義兄弟の間柄になったのである。
列車での新婚旅行に出発する両親を見送る大作は、かねてより用意しておいた「寿周遊券」を甚吉に渡そうとするが、勿体ないから換金して来いと、相手は受取ろうとしない。
思いやりが通じずがっかりする大作であったが、その周遊券で、雪子と婚前旅行しようと思い付き、誘うことにする。
いよいよ、待ちに待った「京都発別府行き寿号」。
今日は乗務員ではなく一人の乗客として、いそいそと乗り込んだ大作と雪子が、車内で見つけたのは、互いの両親の姿だった。
彼らも独自に、この列車を以前から予約していたのだった。
かくして、大作の勝手な「婚前旅行気分」は半減してしまう。
その夜、二段ベッドの上と下に別れて寝る事になった雪子と大作だったが、夜中、上段の大作のベッドに、雪子が登って来るではないか!
そして、ついに、大作が長年夢見たように、雪子は積極的に大作に迫って来るのだった…。
しかし、気が付くと、やっぱりそれは大作の夢に過ぎなかった。
朝の洗面所で雪子と出会った大作は、思いきって、愛の告白をするが、雪子の返事はつれないものであった。
雪子にとって、義兄弟の関係になってしまった大作との結婚等、ピンと来なくなったと言うのだ。
かくして、大作の思惑は外れ、又、元のように、新婚列車の担当になって、鼻血を出す生活に戻る事になる。
一つ違っていたのは、車内販売員が、あろう事か、晴子に変わっていた事。
どうしても、大作と結婚するまで諦め切れない彼女は、フェリーの会社を辞めて、転職して来たのであった。
どうなる、大作…?
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フランキー堺主演の「喜劇 旅行」シリーズの第一弾。
瀬川監督には、東映時代に、本作とそっくりな渥美清主演の「喜劇 列車」シリーズが三本あるのだが、監督御自身のお話によると、東映版は4作目も準備していたが、たまたま、その年の正月映画に穴が開いてしまった松竹が東映に企画を譲ってくれと相談に来て、東映側も、喜劇の不振で、路線変更を計ろうとしていた事もあり、あっさり監督諸共、移転した経緯があったらしい。
ただし、主演に関しては、渥美清のスケジュールが合わず、仕方なく、フランキー堺に変更したのだとか。
つまり、この作品の主人公は、元々、渥美清のイメージで作られていたキャラクターだったのだ。
又、会社が変わったと言う事もあり、移転第一作となるこの作品は、どちらかと言えば真面目に撮ってあり、喜劇としての弾け方は少ない。
特に、伴淳の方が、生真面目なキャラクターとして描かれているので、父子感動話としてはともかく、喜劇としては今一つと言う感じ。
このことに関しては、監督御自身も認めておられた。
ただし、国鉄が協力しているだけに、写っている列車は皆本物で、列車好きにはこたえられないシーンが満載である事は確か。
特に、SLのベテラン機関士役の伴淳が、若き釜焚きと組んで、二子山という急勾配の坂道を登る所等、機関車各部のディテールが細かく描写されており、煙まみれになってトンネルをくぐるシーン等も、なかなかリアルで見ごたえがある。
注目点としては、恥じらいのかけらもなく、男に積極的に自分から向って行く倍賞千恵子のキャラクターが、ちょっと珍しい。
さらに意外な所では、若貴兄弟の母親として知られる藤田憲子がストリッパー役で出演している事。
彼女自身が脱ぐシーンはさすがにないが、列車の中で、座席に立って荷台に荷物を乗せようとしていた彼女に、列車の揺れでよろめいたフランキーの体が当り、彼女がはいていたミニスカートが、そっくり脱げ落ちるという役を堂々と演じている。
息子役のフランキーが、伴淳の事を「ひょっこりひょうたん島」に似ているとからかえば、負けじと「お前はケロヨンに似ている」と言い返すシーン等、懐かしネタもある。
列車の乗客として、財津一郎、晴乃チック・タックなどが登場。
人気漫才コンビだったチック・タックコンビのタックの方は、後に高松しげおを名を変え、ピンでドラマ等に出るようになるが、チックの方の映像は大変珍しく、貴重な映像ではないだろうか。
