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自由学校

1951年、松竹大船、獅子文六、斎藤良輔脚本、渋谷実監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

「自由か…」とつぶやきながら、町中を歩く南村五百助(佐分利信)。

「もう11時7分過ぎたわよ。出かけなくて良いの!?」と、家でミシンを踏んでいる妻の駒子(高峰三枝子)が、苛立たしそうに、パジャマ姿のまま縁側で寝転がっている亭主の五百助をせき立てている。

それでも、五百助は返事をするでもなく、寝転がったまま。

業を煮やした駒子が、無理矢理、そんな五百助を立たせて背広に着替えさせても、彼は茶の間に座り込んだまま動こうとしない。

さすがにおかしいと、亭主を高飛車に問いつめた駒子は、五百助が、もう1ヶ月も前から、勤め先の東京通信社には行っていないと聞かされる。

首になったのかと聞くと、自分の意思で行かなくなったのだと言う。

理由を問いただすと、「自由が欲しくなったからだ」と言う。

自分が、今の会社に入社する時世話になった児島さんは、戦争責任とやらで辞めさせられてしまったのに、戦時中、うまい汁を吸っていた連中はそのまま、戦後も安泰に暮している。

そういう世の中に疑問を持つようになったのだと。

しかし、それを聞いた駒子は笑い出す。

あなたは、私が内職で稼いだ金で養われているようなもの。

そんな身分の人間が、自由だの何だの言うのはおかしいと。

しかし、五百助は譲らない。

君が、内職等し始めてくれたのは有難いが、そのおかげで、君は始終ガミガミ威張り出すようになり、それが自分には迷惑なのだと。

自分が知らない退職手当ての話までされ、さすがに堪忍袋の緒が切れた駒子は叫ぶ「出て行け!」…と。
その言葉通り、五百助は、すんなり家を出ていってしまうのだった。

その五百助とすれ違うように、米屋の平さん(笠智衆)が、駒子に米の配給を知らせに来る。

その後、町のベンチでうたた寝していた五百助は、何時の間にか財布をすられた事に気づく。

困り果て、辺りを見回していた彼は、地下の穴蔵を見つけ、そこに身を潜める事にする。
ところが、そんな彼にロウソクの火を近づけてきた者がいる。

先住者の浮浪者(東野英治郎)らしい。

その男は、最初、五百助を追い出そうと凄んでいたが、妻に追い出されたという、五百助の言い訳を聞くと、とたんに胸襟を開いて、彼を歓待しはじめる。

実は、自分も同じ境遇だと言うのだ。

あげくの果てに、女なんて取るばかりで、やる事を知らない。泥棒のようなものだと思っていれば間違いないなどと、アドバイスして来る。

一方、すぐに帰って来ると侮っていた亭主が、一週間経っても帰って来ない事にいらだちはじめた駒子は、ひょっとすると、伯母の家に身を寄せているのかも知れないと考え、大磯の羽根田邸を訪れる。

叔父に当る羽根田の亭主(三津田健)は、法学者と言う身分でありながら、今は、226事件や美濃部博士事件等、暗い世相に嫌気がさし、今は、気のおけない仲間たちを集め、「ごしょう会」と称して、自宅の離れでバカ囃子を演奏して楽しむというおかしな趣味に明け暮れていた。

その叔父伯母に、五百助が家出した事を知らせた駒子は、あののんびり屋が「自由が欲しい」などと言い出したと言う事は警句であり、かなり思いつめたあげくの行動だと考えられるので、しばらく様子を見た方が良いと忠告され、帰る途中、海辺で弁当を食べようとすると、そこに奇妙な若い男女がいた。

何だか、威張り散らしている女性と、なよなよ、その言いなりになっている青年。

その青年の方が、駒子に気づいて声をかけて来る。

その青年は、先ほど、羽根田邸で挨拶を交わした堀芳蘭(杉村春子)の一人息子、隆文(佐田啓二)であり、女性の方は、同じく、藤村の娘で、隆文のフィアンセになるユリ(淡島千景)だった。

仲が良いのか悪いのか分からない、おかしな二人に誘われて、駒子は横浜まで遊びに出かける事になる。

その頃、五百助の方は、浮浪者の金さんの指南を受け、拾い屋として新しい生活を始める事になる。

一方、駒子の家には、その後、指にマニキュア等した隆文が遊びに来て、自分は年上の女性を崇拝していると、とんでもない事を言い出す。

そんなアプレ学生の世迷い事についていけない駒子の所に、羽根田家で出会った辺見(清水将夫)から速達が届き、歌舞伎座に一緒に行かないかと言う誘いが書いてある。

そんな誘いは断わって、自分と付き合ってくれと頼む隆文を無視して、歌舞伎座に出かけた駒子だったが、彼女を追って隆文も劇場にやって来る。

隆文は、その場にユリまで呼び出したらしい。

かくして、二組のカップルは、離れた席で別々に歌舞伎を鑑賞する事に。

五百助の方は、穴蔵暮しから、金さん言う所の「橋の下の本拠」へ引っ越す事になる。

彼ら二人を暖かく迎え入れてくれた何人かの仲間たちは、彼らのエリアのすぐ側に、見知らぬ男が一人で小屋を建て、少し前から勝手に住み出したのだと説明する。

その後、藤村功一の家に遊びに来ていた駒子は、娘のユリから部屋に誘われ、あのキャンディーボーイ(包装ばかり凝っていて、甘い男の意味)こと隆文は、おばさまに夢中みたいなので、どうか、結婚してやってくれないかと言い出す。

呆れた駒子は、その後、辺見の車で、彼の友人だと言う茂木夫婦の家を訪れる事にする。

その夫婦(十朱久雄、高橋豊子)は、これ又、妙な夫婦だった。

特に、妻の方は、自分の似顔絵ばかりを描くのが趣味のようで、部屋中、彼女の似顔絵だらけ。

しかも、初対面にも関わらず、駒子を旧知の間柄のように親し気に口をきいて来る。

しかも、夫婦揃って、英語まじりのおかしな会話を交わし、あげくの果てに、やって来たばかりの駒子らを放っておいて、自分らは出かけるのだと言う。

そんなこんなで、広い屋敷内に二人残された駒子は、食前酒に酔った振りをして、病気で長年療養生活をしている今の妻とはうまくいっていないと、遠回しにプロポーズしてきた辺見の接吻を待ち受けるが、何度やろうとしても、辺見のキスは直前で邪魔が入り、うまくいかない。

眠った振りをしていた駒子も、さすがに最後はおかしくなって笑い出すのだった。

その頃、五百助はと言えば、あの近くで一人暮らしをしている加治木(小沢栄)からいきなり声をかけられ、掘建て小屋に招かれていた。

五百助の事をインテリだと見抜いたと言う加治木が言うには、今の日本は、きちんとした負け方をしなかったため、とんでもない堕落した国になってしまったと、五百助を連れて、町を観察に出かける。

そこで、五百助が目にしたものは、温泉マークにパンパンにオカマに、朝から遊び歩く学生の姿など。

小屋に戻ってきた加治木は、自分は元海軍大尉だったのだが、すでに戦死したとされ戸籍をなくした、生きた亡霊なのだと自己紹介し、あなたを稀代の大人物だと見込んだので、ぜひとも、自分の「敗戦貫徹責任同盟」という仲間の長官になって、外貨稼ぎの手助けをしてくれないかと申し出て来る。

その頃、自宅にいた駒子の方は、突然、堀芳蘭の訪問を受け、これ以上、息子の隆文をたぶらかすのを辞めて欲しいと言い出す。

困惑して、自分は彼の英語の勉強を見てやっているだけだと答えた駒子だったが、すでに勝手に、年上女の手練手管に誘惑されたと思い込んでいる相手の態度は変わらない。

結局、喧嘩別れのような状態になった駒子だったが、そんなところへ顔を見せたのが、当の隆文。

内職の縫い物を届けようと外出した駒子をしつこく追い掛けて来ては、強引に彼女に抱きつこうとする始末。

そんな隆文をはねつけていた駒子だったが、そこに突然現れたのが、サングラスに覆面姿の男。

いちゃついている二人を脅すと、金品を巻き上げようとする。

隆文は、さっさと、金を放り投げると、駒子を置いて、我先にと逃げてしまうが、残された駒子は、暴漢に襲われそうになる。

その窮地を救ったのが、その場に現れた米屋の平さん。

暴漢を殴りつけると、退散させてしまう。

その頃、訳も分からないながら、彼とその仲間二人の言う通り、立派な洋服を着せられ、とある人物と会ってくれと連れて来られたとあるビルの前で、車から降りようとしていた五百助が出会ったのが、一人遊び歩いていたユリだった。

そんなユリをその場に待たせて、五百助がビルの中で会ったのは、茂木だった。

彼から「ホワイトが手に入るのか?」と問われ、傍らに控えていた加治木の合図通り答える五百助。

あげくの果てに、模擬に誘われたポーカーの勝負にまで勝ち、意気揚々としてビルを後にした五百助は、待っていたユリと、近くの料亭で酒を飲む事に。

ユリは、隆文から得た情報と称し、その後の駒子のその後の生活振りを、妄想も交えながら彼に教え始める。

さらに、自分は年上好みなので、五百助に自分と結婚してくれないかと、とんでもない事を言い出すのであった。

そのユリの妄想通り、その頃駒子は、妻に逃げられたと言う平さんから、自宅で迫られていた。
間一髪、母屋のおばさんの所に逃げ込んだ駒子であったが、一人取り残された平さんは、部屋で暴れまくる。

そんな駒子の噂が尾ひれを付け、羽根田家にも届く。

そんな駒子が、うまい具合に自分の方から訪ねて来たので、伯母(田村秋子)は彼女を誘って、近くの料亭に出かけると、昼日中から酒を注文して、結局、いまだに、誰とも一線を超えていないと言う駒子の言葉を聞き出して安心すると、男なんて、もともとダメで滑稽な存在なのだから、変に買い被らず、女の持ち前で生きなさいとアドバイスするのだった。

一方、金さんから、そろそろ仲間内の高杉の奥さんと結婚しないかと持ちかけられていた五百助だが、全くその気はなく、危うく、一方的に相手に迫られそうになった所に、ユリが現れる。

先日、自分の後を追跡してこの場所を突き止めていたのだと言う。
隆文も来ていて、三人であれこれ話している内に、五百助が、ほとんど、金を持っていない事を知ったユリは、あっさり彼に見切りを付け、代わりに、隆文と結婚しようかと言い出す。
隆文に異存がある訳もない。

そんな二人の姿を見ていた五百助は、そろそろ自分も家に帰ろうかと思いはじめる。

ところが、そんなある日、加治木の小屋を、麻薬密輸犯の本拠として警察が急襲。

近くにいた五百助も、共犯として警察に捕まってしまう。

新聞記事で、五百助逮捕の報を知った羽根田と駒子は、詳しい事情を聞こうと、五百助が留置されている警察署に出向く事にする。

取り調べの結果、直接、密輸団との関係はないと分かった五百助を、身元引き受け人になるかと警察から問われた駒子は、すぐさま、なると答えるのだった。

かくして、ようやく、自宅に戻った五百助だったが、これからは、身元引き受け人になった自分の言いなりになって頂戴と、またしても高飛車に出てきた駒子に対し、ここにいても、留置所にいるのと同じように感じると、またもや、家を出そうになる。

それを見た駒子は、彼の足にしがみつき、自分の負けを認め、ここにいてくれと泣きつくのだった。

その後、五百助は、家事一切をやる主夫となり、駒子が外に働きに出る、世間とは反対の生活を始める事により、二人の生活は落ち着きを取り戻すようになるのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

朝日新聞に連載された獅子文六の小説の映画化作品。

幾組かの戦前派の裕福な中年夫婦たちと対称的に自由気侭に毎日を生きる浮浪者たち、さらに戦後派の若く無軌道なカップルの姿などを交差させながら、 戦後に芽生えた主義主張の理想と現実をユーモラスに突いた内容になっている。

ぼーっとした夫役の佐分利信と、そんな亭主を始終ガミガミ怒鳴り付けている高飛車な妻を演ずる高峰三枝子の対比が面白い。

夫婦各々に、自分のやりたいような生き方を実践してはみるが、その結果は…という、ちょっと皮肉めいた展開も、なかなか興味深い。

笠智衆が、「チャタレー夫人の恋人」の森の番人を連想させるような「たくましい男」を演じているのが、何とも珍妙。

妙に浮き世離れした夫婦を演じている十朱久雄と高橋豊子の奇抜なキャラクター、さらに、佐田啓二が演じている、マニキュアをした、ちょっとふにゃふにゃした大学生と、そのフィアンセでありながら、怖いもの知らずで遊び回っているお嬢さんを演じている淡島千景も個性的で印象に残る。

しかし、何よりも、世間知らずで気ままな主人や男たちの言動を、最後にひっそり笑ってみせる高峰の伯母の顔のアップが、作品的には一番象徴的。

男なんて、所詮、女の掌の中で遊ばされているだけ…という、作者のちょっと自虐的かつ、男性特有の甘え心みたいなものが、何となく伝わって来るのだが、これを、微笑ましく受け止められるかどうかは、観る側が男性か女性かの違いによっても違って来る作品かも知れない。