TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

ハナ肇の一発大冒険

1968年、松竹大船、宮崎晃脚本、山田洋次脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

精肉店を営む間貫一(ハナ肇)は、周りからは社長と呼ばれながらも、今日もコロッケ用のじゃがいもの皮をむく単純な作業に明け暮れていた。

忙しく店を切り盛りする女房(野村昭子)は、そんな亭主のぐずな様子にいらだっているし、アルバイトの女店員ひろ子(中村晃子)は、いつも遅刻を注意されても馬耳東風のマイペース振り。

そんな平々凡々たる毎日を送っていた貫一の元へ、ある日、フランスから一通の葉書が届く。

それを見た貫一は、すぐさま旅行代理店へ向うと、フランスのサントロペと言う所に行きたいので手配してくれと言い出す。

応対をした代理店員が、外国旅行にはそれ相当の手続きが必要だと説明すると、貫一は「とても、信じちゃもらえないでしょうが…」と前置きしながらも、自分が急にフランスに行きたくなった理由を彼に話しはじめるのだった…。

それは三ヶ月ほど前の土曜日、その日は常連客の奥さん(九里千春)が、買ったコロッケに毛が混入して来たとクレームを付けに来ていた。

そんな中、車で外回りに出かけた貫一は、高速を飛ばして行く内に、ふととあるレストランに立ち寄る。

そして、普段は商売ものだと言う事で食べないスケーキを注文する。

すると、自分のテーブルに相席をして来た見目麗しい美女(倍賞千恵子)がいるではないか。

何となく言葉を交わす内に、その彼女、急に自分をドライブに連れて行ってくれないかと貫一に頼む事になる。

別に急用もなかったので、その彼女を乗せて木更津まで向った貫一は、彼女から、一度はコートダジュールに行ってみたいと乙女らしい憧れを聞かされるのだった。

その後も何となく、彼女に乞われるまま、フェリーで千葉に向う二人だったが、そんな二人を追うように付けている怪し気な二人組(石井均、なべおさみ)がいた。

どうやら、彼らの目的は、女性が持っているバッグだったらしいのだが、兄貴分(石井均)の方が船に酔ってしまいへたっている所を、偶然追跡相手の貫一に発見されてしまい、心配してもらった上に、女性が持っていた乗物酔いの薬をもらう始末。

その後、何となく、横浜のホテルに彼女と、別々の部屋とはいえ泊まる事になった貫一は、ちょっとしたスリルを味わっていたのだが、念のため家に電話してみると、町内会の寄り合いに誘いに来ていたキリン堂の主人(犬塚弘)が出たので、それとなく、遠回しに女連れである事を打ち明け、今日は帰れないと伝えるのだった。

その後、女の部屋に呼ばれて行った貫一は、彼女から、中に、京都のある人に渡さなければならない大切な宝石が入っているバッグを預かってもらえないかと渡され、一緒に地下のバーに飲みに出かけましょうと誘われる。

嬉しくなった貫一は、そのバッグを持ってバーに行くと、そこにいたのは、先ほど、フェリーの中で酔っていた二人組。

彼らは、自分達が狙っていたバッグを持った男が自分の方からやって来たので、内心喜びながら、彼に酒を振舞おうとする。

貫一の方も、すっかり時ならぬ冒険旅行に舞い上がってしまい、二人組と痛飲してしまう。

しかし、何時まで経っても、肝心の女性はバーにやって来ないし、そのまま、二人組を誘って外へ飲みに出かけた貫一は泥酔し、翌朝、ホテルで目覚めた時には、後生大事に抱えていたバッグの中身が抜き取られている事に気づくのだった。

自分の失態を恥じ、彼女の部屋に詫びに言った貫一は、彼の女の口から思い掛けない言葉を聞かされる。

つまり、彼に渡したバッグの中に入れてあった宝石は、万一の事を考え、偽物だったと言うのである。

実は東京駅を出た時から、何者かに尾行されている気配を感じていたので、目立つバッグは貫一に持ってもらい、本物は、自分の枕の下に隠してあったのだという。

それを聞いた貫一は、安心するよりも、すっかり自分が利用されただけだと悟り、怒ってその部屋を立ち去ろうとするが、その真剣な立腹振りに驚いた女性は、その場で、よかれと思って自分が取った行動が、結果的に貫一を傷つける事になった事を深く詫びるのだった。

結局、その後も、そんな彼女と行動を取る決心をした貫一は、しきりに恐縮する彼女を車に乗せ、自ら京都まで向う事になる。

しかし、途中、接触者と電話連絡した女性が言うには、目的地が急遽変更になり、富山になったのだと言う。
貫一の方は、こうなったら、もうどこまでも付いて行くつもりだったが、彼女の方は、もう別れたがっている様子。

そんな中、立ち寄ったガソリンスタンドで、昨夜のあの二人組に再会した貫一は、そのまま彼女を乗せて、富士山方向へ逃亡するが、二人組の方も車で追跡して来る。盗んだ宝石が偽物だと気づいたのだろう。

その頃、間精肉店では、帰って来ない亭主の事を「蒸発した」のでないかと心配する女房や母親(武智豊子)の元に、藤沢バイパスで貫一の乗った車を見かけたと言うだるま堂の主人(桜井センリ)からの連絡が入っていた。


その後、何とか、その追尾車を振り切って逃げ延びた貫一は、その夜は、彼女と水入らずで、近くの温泉宿にでも泊まろうと妄想を膨らませていたのだが、そんな彼の車の前に、一人の青年が倒れ込んで来る。

どうやら山登りに来て、持病の心臓発作を起こしたらしく、結局、彼を助けるため、医者のいる大きな町の旅館に目的地を変える事になり、ちょっぴり貫一の機嫌は悪くなるのだった。

その旅館のバーに、容態が持ち直した悟郎(入川保則)と名乗る青年と女性と一緒に出かけた貫一は、時ならぬ停電に見回れる。

しばらくして電気が付いてみると、彼女が持っていたバッグが紛失しているではないか。

貫一は、一瞬、悟郎を疑うが、実は、その悟郎が、停電を利用してバッグを盗もうとしていたあの二人組からバッグを守っていた事が分かる。

バッグが無事だった事が分かった女性は、貫一と悟郎に、宝石の由来を話して聞かせる。

実は、以前、とある病院で知り合った余命幾許もないフランス人から、アフリカの独立運動の資金として、現地の人に渡してくれと託されたものなのだと言う。

翌日、どうしても列車で富山に向うと駅前で別れた彼女だったが、その列車が脱線事故で不通である事が判明、又、貫一達の元へ戻って来る。

地図上では、富山まではすぐ近くなのだから、このまま車で直行しようと言う貫一に対し、この季節に日本アルプスを縦断する事なんて不可能だと反対する悟郎。

しかし、結局、装備を整えて、車で行ける所まで行ってみようと言う事になる。

ところが、その途中で、警察の検問が行われている事に気づいた一行。

持っている宝石を捜しているのかも知れないと判断した貫一は、彼女の持っていた宝石を思わず車外に放り出してしまう。

ところが、その検問は、近くの大塩町で起こった殺人事件の犯人を捜しているのだと分かると、急に、先ほど捨てた宝石の事が悔やまれてならない。

やむなく、折り返して、その宝石を捜そうとするが、宝石の入っていた袋は崖っぷちの木に引っ掛かっているのを発見、それを取ろうとした悟郎の作戦は失敗し、袋から散らばった宝石が川に落ちてしまう。

夕闇が迫る中、川に落ちた宝石を一個一個捜しはじめる貫一と悟郎。

寒空の中、凍るような水に長時間手をつけて限界に達しかけていた貫一はもう諦めようと言い出すが、黙々と作業を続けた悟郎が、やがて、とっぷり暮れた闇の中で最後の一個を見つけだすのだった。

こうして再び、車中の人になった三人組だったが、山中で車が動かなくなり、徒歩で進む事になる。

疲労困ぱいした三人は、とある山小屋を発見、助かったとその中に駆け込むが、そこには先客がいた。

疲れの為、再び発作を起こしてた折れ込んだ悟郎と、それを介抱する女性。

そんな中、気安気に先客の男に話し掛けていた貫一だったが、やがて、猟銃を持ったその男が、単なる漁師等ではなく、先ほど警察が捜査していた殺人犯(北見治一)だと言う事に気が付く。

まんじりともしない一夜を過ごした四人。

しかし、さすがにうたた寝をはじめた犯人の様子を伺いながら、悟郎は、自分が囮となって逃げ出すので、犯人が自分を追って来た隙を狙って、あんたたちは逃げてくれと女性に告げるのだった。

やがて、気配に気づいた犯人が目を覚ますのだが、小屋から逃げ出そうとする悟郎を発見、計画通り、その後を追って発砲しはじめる。

必死になって逃げる悟郎だったが、犯人の放った一発が命中して倒れ伏す。

その間に、女性は貫一を誘って、裏手から山へ逃げ出す。

それに気づいた犯人は、貫一達にも発砲を始めるが、すでに、その距離は弾が届かぬ距離になっていた。

その後、黒部の営林署に、犯人が自首して来たと、捜査本部が置かれた警察署に連絡が入る。

しかし、警察では、貫一達一行の事はその後も全く知る事はなかった。

そんな中、雪山の中で動きが取れなくなった貫一と女性は、もはやこれまでと観念しかけていた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

平々凡々とした一人の中年男性が、ふとした事から巻き込まれて行くメルヘンと言うか、ファンタジーに近い冒険譚。
現実的なストーリーが覆い山田洋次監督としては、ちょっと珍しい部類の作品に属するのではないだろうか。

話自体も、冒頭、ハナ肇扮する間貫一がいみじくも言っているように「とても信じてはもらえない」類いの展開で、どこまでが本当で、どこまでが嘘なのか、判然としない雰囲気でまとめられているのがミソ。

つまり、倍賞千恵子扮する女性の言葉が、いかにも嘘臭いのだ。

このため、観客は、最初から最後まで、彼女の行動自体が、何となくうさん臭く信用できない。
完全に、お人好しで、若い女性に鼻の下を伸ばしたハナ肇が、彼女に騙されているのだと信じながら、観る事になる。

ところが…という展開になっているのだ。

ふとした事で知り合った三人の男女が、一台の車に乗って旅をして行く内に、次第に互いの心を通じ合わせるようになって行く…という形式自体は、後年の「幸福の黄色いハンカチ」(1977)などに繋がる「山田洋次ロードムービー」の原点と言っても良いだろう。

ラスト、倍賞千恵子の妹、倍賞美津子が意外な形で登場してにやりとさせてくれる。