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はだしのゲン 涙の爆発

1977年、現代ぷろだくしょん+共同映画、中沢啓治原作、山田典吾脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和20年8月、広島で被爆した小学生の中岡元(春日和秀)は、生き残った母君江(宮城まり子)と乳飲み子の妹に食べさせるための米をもらいに出かけた美野島から船に乗って帰る途中だった。

親切に、ゲンを乗せてくれた船頭(藤原鎌足)が、良く米を手に入れられたなと感心していると、ゲンは、袋に入ったわずかばかりの米を手に入れたいきさつを思い出していた。

農家を歩き回って、米を分けてもらえないかと頼んでも、どの家でも、被爆者には冷たかった。

冷たくあしらわれたゲンは、ふと足元に落ちていた鎌を見つける。

一瞬、それを振り回して、大人たちに逆襲する事も考えたゲンだったが、さすがに、そんな事は出来ず、考えついたのは、神社に集まっていた島の子供達に、お前達は本当の切腹を観たくないかと、鎌を自分の腹に当てて言い出す。

好奇心いっぱいの子供達に対し、ゲンは、観たかったら、各々、家から米をもってこいと言い渡す。

素直に米を持って来た子供達だったが、楽しみにしていた切腹をせずに、ゲンが逃げ出したので、怒って追跡すると、ゲンは野壺に落っこちてしまう。

しかし、丸裸になって、洗った洋服を干していたゲンの元に集まった子供達は、一旦奪い返した米をゲンに渡してやるのだった。

こうして広島に戻って来たゲンだったが、母親の元に戻る途中、頭の毛が抜け落ち死んだ赤ん坊を荼毘に伏そうとする母親に遭遇する。

自分ではとても火を付けられないので、ゲンにつけてくれと云う。

仕方なく、ゲンが点火しようとすると、母親は何度もそれを止めて、死んだ赤ん坊にまだ息があるのではないかと確かめるのであった。

その後、歩いていたゲンは、自分の頭の毛も抜けはじめているのに気づく。

しかし、消防団長の帽子が落ちているのを見つけたゲンは、それをかぶって、頭を隠す事ができる事が分かると、再び元気が湧いて来るのだった。

そんなゲン、今度は、原爆で死んだはずの弟、進次(上野郁巳)にそっくりの子供に出会ったので、進次と呼び掛けるが、相手は不思議そうな顔をしたまま去ってしまう。

その後を付いていくと、防空壕に入るので、自分もその中に入ったところで、ゲンは、何者かに頭を殴られ気を失ってしまう。

実は、その進次そっくりの子供は、原爆孤児の大西隆太(上野郁巳-二役)といい、カッチン(小橋学)、ラッキョウ(大栗清)、ドングリ(鈴木将久)、ムスビ(八幡洋文)、タヌキ(長谷川誉)、信平(加藤淳也)という六人の同じ境遇の仲間達と一緒に泥棒をしながら生き抜いていたのであった。

彼らは、婦人会による芋の配給があると知るや、すぐさま全員で飛んでいき、一人、いくつもの芋をせしめて来るのであったが、そこに待ち構えていたのが、気が付いたゲン。

危うく喧嘩になりかけるが、多勢に無勢。

7人組たちの「必殺チンコ攻撃」に屈するゲンだったが、彼に同情した7人組は、奪った米袋をゲンに返すのだった。

こうして、母、君江と再会したゲンだったが、君江はゲンの頭の変化に気づき、号泣しながら彼を抱き締めるのだった。

君江とゲンは、原爆で亡くなった父親、姉の英子(岩原千鶴子)、弟進次の頭蓋骨を積んだリヤカーを引いて、廃虚となった住み慣れた我が家を離れる事になる。
ゲンは、まだ名前がなかった妹に、友達がたくさんできるように友子という名前はどうかと進言する。

そして、彼らが向ったのは、君枝の親友、キヨ(市原悦子)の家だった。

しかし、その家には、怖い姑ヨネ(水戸部スエ)が目を光らせていただけではなく、ゲンと同じく育ち盛りの小学生兄妹、辰夫(木村陽司)と松子(横田知子)がいたので、居候する君枝親子は最初から肩身の狭い暮らしに甘んじなければならなかった。

ただでさえ少ない食料を、居候たちに奪われた形になる兄妹たちのゲン達に対する嫌がらせは執拗で、キミエが外出した際、ゲンの禿頭をからかって殴りつけたり、まだ乳飲み子の妹をつねったりする態度には、さしものゲンの堪忍袋の緒も切れ、彼ら兄妹を突き飛ばすが、その泣き声を聞いてやって来たヨネにきつく叱られる事になる。

どうしても、この家を出ていく訳には行かない君枝は、その騒動を知り、ゲンに落ち度はない事を知りながらも、無理矢理謝らせるのだった。

そうした中、キヨは、米びつの米が少しづつ減っている事に気づくが、君枝が赤ん坊の乳替わりとして、重湯を焚こうとしている姿を観て、小さな疑念を感じてしまう。

しかし、それよりも露骨な疑惑を態度に現したのはヨネだった。

彼女は、君枝の米は、ゲンが美野島からもらって来たものだと説明しても、米びつから盗んだと言い張り、あろう事か、そのまま江波駐在所に引っ張っていってしまう。

そこの巡査(福田豊士)も、最初から、ヨネの言い分しか聞かず、どんなに君枝が盗んでいないと言い張っても、聞く耳を持たなかった。

さらに、お前が監獄に入れられたら子供達はどうなる?と脅されたので、我を張っていた君枝だったが、最後にはとうとう、自白書にサインさせられるはめになってしまう。

帰って来た母親の態度から、無実の罪を着せられた事を悟ったゲンは、真犯人捜しをすると言い出し、家の中に隠れていて、米びつから米を盗んでいる兄妹の現場を押さえてしまう。

かくして、真犯人はキミエではなかった事が、キヨにもヨネにも分かったのだが、君枝は、これで何もかもスッキリしたと、その家を出る決意をする。

しかし、身寄りのない被爆者に家を貸してくれる所はなく、雨の中、呆然としている所に現れたのがキヨだった。

彼女は、自分達の取った行動を詫びると共に、物置きにだったら住んでも良いと姑から許可をとったので、そこに住んでくれと頭を下げるのだった。

その後、江波期駐在所には、あの浮浪児たちが捕まっていた。

ただ一人逃げ延びたらしい、隆太と再会したゲンは、これからは自分の弟として一緒に暮さないかと勧める事になる。

かくして、ゲンと、その弟分となった隆太は、とある農家の庭先で少年に殴られ、泣叫んでいる少女を発見したので、義侠心を出して、その少女を救出したのだが、意外な事に、その少女は、助けてくれたゲンの頭を殴って逃亡してしまう。

その少女のその後の行動を追跡していたゲンと隆太は、また、先ほどを同じように、兄らしき少年井殴られて泣叫んでいる少女の姿を発見する。

しかし、どうやらそれは、兄妹互いに承知の上の芝居であるらしい。
こういう事を農家の庭先で行えば、食料を欲しがる妹を折檻する兄と大人には映り、不憫がって、食料をお裾分けしてくれるのだ。

さらに、彼らの後を追ったゲン達は、彼ら兄妹には病床に伏している母親がおり、彼女の為に、子供なりに懸命の看護をしている事、さらに、どうやら兄の方も被爆しており、体調が優れない事も知るのだった。

こうして、自分達も、あの兄妹の真似をし始めたゲンと隆太だったが、最初はゲンが殴られ役をやったのだが、同情されるどころか、逆に呆れられる事が分かり、結局、あの兄妹と同じように、弱そうに見える隆太我殴られ役を勤める事になる。

こうして手に入れた食料をゲンと隆太は、こっそりあの妹にそれらの戦利品を渡すのだった。

その事を、妹から聞かされた兄は、家に帰りかけていたゲン達に追い付き、礼を言うと共に、自分が大切に持っていた種麦を、ゲンに少し分け与えるのだった。

新たに加わった隆太も一緒に物置きに暮しはじめた君枝は、一応、店子と言う立ち場なので、何とか家賃を稼ごうと、近くの漁村を歩き回るが、どこにも仕事等与えてくれる所はない。

隆太は隆太で、心当たりがあると出向いたとある工場内で、隠匿物資となっていた多量の大豆を見つける。

さらに、ゲンも、何でも仕事をさせてくれと書いた紙を胸からぶら下げて、町中で仕事捜しをしていたのだが、そのゲンに声をかけたのが、町では旧家の主人、吉田英造(石山雄大)だった。

彼は、ゲンを自宅である豪勢な屋敷に連れて来ると、座敷牢に入れてあった全身包帯だらけの男の看病をしてくれたら、一日3円やると言う。

その包帯だらけの男とは、主人の弟、政二(石橋正次)と言い、元々画家志望の青年だったのだが、原爆で全身の皮膚を焼かれてしまい、その後、彼の姿の凄まじさに近寄る者もおらず、きちんとした看病もなかったので、包帯が傷に癒着してはがれなくなってしまっていたのだった。

それでもゲンは大金をもらえると喜ぶのだが、政二は、そんなゲンの事を金目的でやって来たハイエナと罵って、ことごとくつらく当るのだった。

しかし、ゲンは逃げ出すどころか、そんな男に自らぶつかっていき、包帯を取り替えてやったのだが、もはや筆を手に取る事も出来ず、生きる事に絶望した男は、ナイフで自殺しようとしかける。

それを阻止したゲンは、腕で絵が描けなくなったのなら、口で描いたらどうかと励ますのだった。

こうしたゲンの素直な言葉に力付けられた政二は、その日から生まれ変わったように、積極的に生きるようになる。

ある日、一緒にやって来た隆太とゲンに裸になってモデルになってくれと言い出し、その二人をモデルに、原爆の悲惨な絵を描きはじめる。

さらに、ゲン達二人に引かせたリヤカーの荷台に乗って、久々に外に出ると言い出した政二は、体面があるから止めてくれととめる兄嫁(横山リエ)の言葉を振り切り、町にくり出す事になる。

しかし、被爆者に対する世間の目は厳しく、水を一杯所望した農家で、包帯姿の政二は化物呼ばわりされたあげく追い払われてしまう。

一旦は、その場を離れたゲン達だったが、あまりにひどい人達の差別の言葉に切れ、政二自らも、自らの全身を覆った包帯を取り払い、傷口を見せたまま、町を行進しはじめるのだった。

その声に気づいて合流したのが、駐在所から釈放されて隆太を捜していた元の仲間達、しかし、その中の一人、ラッキョウだけは、農作物を盗んだ際、農民から受けた暴力の傷が元で他界していた。

彼らも、一緒に、政二の乗ったリヤカーを引っ張りはじめるが、この姿に驚いた人々は、大パニックに陥ってしまう。

この騒動を町内会長(ケーシー高峰)から聞き知った駐在も飛んで来て、彼らの行進は違法であると叱責するが、逆にその駐在を怒鳴り返したのは、リヤカーに乗っていた政二だった。

被爆者を化物呼ばわりし、流言飛語をまき散らしている町民達こそ逮捕されるべきだと言うのだ。

かくして、隆太と六人揃った子供達は、ゲンの自宅跡へ行き、君枝に育てられる事になる。
彼らは全員、君枝の事を、嬉しそうに「かあちゃん」と呼んだ抱きつくのだった。

そんな彼らの足元の瓦礫には、かつて植えておいた種麦の芽がたくましく顔を覗かせていた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

中沢啓治描くコミックの映画化第二弾。

広島で幸せな暮らしをしていた小学生一家が、原爆投下によって、 一瞬にして地獄のような生活を強いられるようになった様を、子供向けにユーモアと希望をこめて描いた作品になっている。

どんなに悲惨な境遇になっても、決して絶望しない子供達のたくましい姿を中心に描いているので、観ていて嫌な感じは全くない。

全体の印象としては、普通の明るく楽しい少年ドラマに近いと言って良いだろう。

被爆し、家族を失い、身体に病や傷を受けた人々が、同情されるどころか、むしろその後、徹底的に周りの人間たちからの差別され、虐げられていく姿は、現在では考えられない惨状で、本当に観ていて胸が痛む。

しかし、これが当時の現実だったのだろう。

こうした被爆者差別には、当時の民衆の知識不足もあるが、周りの人間たちも皆貧しく、被爆者に同情して掩護するという事は、同時に自らの生活も様々な負担を背負う事になるので、みんなきれいごとは言えなかったものと思われる。

こうした被爆後の差別の実態は、恥ずかしながら、今回この作品で初めて知った次第で、大変勉強になった。

農民として大村千吉、石橋正治扮する画学生の元恋人に、若き日の竹下景子等がセーラー服姿で出ている事、さらにゲスト的に懐かしの「クシャおじさん」がちらり登場しているのがちょっと珍しい。