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四万人の目撃者

1960年、松竹大船、有馬頼義原作、高岩肇脚本、堀内真直監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

休暇の日に後楽園球場に野球を観に来ていた東京検札局検事、高山(佐田啓二)は、自分のすぐ前の席に座った男に声をかけた。

亡くなった父親に鍛えられていた頃から馴染みの笛木刑事(伊藤雄之助)であったからだ。

野球には全く興味がないらしい笛木は、タタキと殺人の容疑で追いながら、いつも証拠不十分で逮捕できない倉島(諸角啓二郎)というチンピラが球場に来ているため、その監視をするため来たのだと言う。

そんな二人が観ていた試合中、セネターズの4番打者新海清(西沢道夫)が、三塁打を放ち、三塁に滑り込んだ後、そのまま動かなくなった現場を目撃する。

その後の新聞発表では、狭心症での突然死だったと書かれていた。
球団の医師の談話によれば、新海はビタミン剤を服用しており、遺体には心臓肥大が見られたが、これはスポーツ選手には良くある事なのだという。

しかし、その発表に納得のいかない高山と笛木は、今正に、新海の遺体が焼かれようとしていた焼き場に揃って出かけてみる。

そこには、新海が経営していた「トリプルクラウン」という喫茶店のマネージャー嵐鉄平(安井昌二)や会計係の田沼などが来ていた。

笛木は、そこで、新海の義理の妹、長岡阿い子(岡田茉莉子)が、セネターズの矢後(杉浦直樹)と付き合っていると言う噂を聞き込む。

矢後は、新海と同じセネターズのキャッチャーであったばかりに、深海がいる事でレギュラーになれず燻っていた存在だっただけに、新海殺害の動機がある事になる。

一方、その場で、新海の妻菊江(浅茅しのぶ)に、遺体解剖の許可を得ようと交渉していた高山だったが、監督の梶谷から事情を聞かされたと言う阿い子がやって来て強硬に反対する。

しかし、何とか、菊江を承諾を得、高山は遺体の解剖と血液検査を鑑識に依頼するが、正確な結果が出るまでには10日間もかかると言う。

その間、レギュラーの座を射止めた矢後の試合でも観てみようと、笛木と野球場へ出かけた高山は、4番に抜擢された矢後が、絶好のチャンスでバッターボックスに付いた時、突然、場内から「新海殺し!」と弥次が飛び、それを聞いた途端、矢後はぱったり打てなくなってしまう。

鑑識の結果は思わしくなかった。
血中にコレエステラーゼの減少が見られたくらいで、他にはこれと言った異常は何も発見できなかったのである。
毒を飲まされたのなら、死ぬ前に、発汗その他の何かしらの異常な症状が身体に起きていたはずだと言う。

それでも何か引っ掛かるものを拭い切れない高山は、皮膚から毒を吸収させる可能性や、毒の作用を遅らせる方法はないかと食い下がると、毒を糖衣やカプセルに詰めて飲ませれば可能だと言う。

毒物だとすれば、考えられるのは有機燐系化合物、例えば農薬などではないかとも。

その話を元に、菊江から、念のため、新海が服用していたビタミン剤を検査のため押収しに行った際、昨日、矢後が、新海が最期に使ったバットを記念に欲しいと持って行かれた話を聞き込んだ高山は、ひょっとして、新海は指に怪我をしていなかったかと菊江に問い、確かに爪を割っていたとの証言を得る。

さらに「トリプルクラウン」に出かけた高山は、レジ係をしていた保原香代(幾野道子)を外へ連れ出すと、焼き場で彼女が泣いていた訳を尋ねる。

彼女が言うには、酒癖の悪い夫の卓三(三井弘次)と別れ、苦労していた自分を新海に拾ってもらって世話になった恩があるのだが、その事を妬んだ夫から、その後も度々嫌がらせを受けていたが、その夫も半年前から姿を見せなくなったらしい。

一方、チンピラの倉島の尾行を続行していた笛木は、その倉島がとあるヤクザの親分を拳銃で撃つ現場に居合わせるが、不思議な事に捕えてみた倉島から、凶器となった銃は発見できず、また、不起訴処分になってしまう。

実は、倉島は、笛木に追い付かれる直前に、拳銃を待ち構えていた女に渡していたのであった。

鑑識に回していたビタミン剤も異常がなかった事を知った高山は、警視庁の久保課長から許可を取り付け、笛木と共に、伊東の温泉に出かけると言い出す。

高山らが泊まった宿には、阿い子と矢後が投宿していた。
勿論、そうした事を調べた上での、高山の行動だった。

矢後は、自分以外の男の影を感じながらも阿い子に結婚を申込むが、何故か阿い子はその申し出を断わる。

そんな所へやって来た高山は、矢後に、新海のバットを持って行った訳等を質問するが、矢後は純粋に記念にするためだったと言い張る。

その頃、笛木の方は、片足を悪くして以後はすっかりアル中になってしまっていた保原卓三を尋問しに行くが、何の成果も得られなかった。

その夜、なかなか寝つけない高山と笛木の部屋を訪ねて来た矢後は、自分と阿い子の関係等告白するのだが、その正直な姿を改めて見た高山らは、彼も白であると言う確証を得、笛木は事件性そのものを疑い、この件から降りたいと言い出すのだった。

上司の木原検事正からも、二ヶ月も追っていて、何の成果も上げられないこの事件から手を引くように命ぜられた高山だったが、あきらめ切れないまま正月を迎える。

そんな手づまり状態の所へ再び訪ねて来た笛木から、農薬Pという柑橘系用の薬の話を聞かされた高山は、柑橘系→みかん→伊東という線を思い付く。

再び、伊東の卓三の様子を監視しに行った笛木は、夜間、海に小舟をだし、海に沈めていたらしき箱を回収しに行く卓三の姿を目撃、さっそく署に連行して箱の中身を改めると、そこには大量の拳銃が入っており、その拳銃は、ここ数年の間に発生していながら、凶器が見つけられないまま未解決となっていた事件に使われていたものばかりと言う事が判明する。

ここへ来て、ようやく、新海毒殺事件と、笛木が以前から追っていた凶器未発見の事件の数々が結びつき、合同捜査本部が置かれる事となる…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

満員の野球場の観客が見守る中、突然発生した人気選手の死。

導入としては、これほど魅惑的なシチュエーションもないのだが、何故か、観ていて、今一つ乗れないのは、やはり、この死を事件だと直感し、執拗に捜査を始める主人公の心理の不可解さである。

度重なる検査でも、遺体から、何ら事件性を感じさせるような怪しい物証が得られない。
さらに主人公が考える想像はことごとく否定されていく…。

通常、ここまでやって何も出なければ、自然死として処理するのが普通の心理であろう。
おまけに彼は、論理的な推理は何もやっておらず、全て「勘」であり「想像」でしかない。

やはり、冒頭部で、観客にも事件性を疑わせるに足るだけの確かな証拠の提出が早く欲しかった気がする。

それさえあれば、後は、どんなに紆余曲折しても、観客は付いていけるのだ。

本作では、それがないばかりに、観客自体が、いつまでもあやふやな気持ちを持ったまま、物語に付き合う事になるので、緊張感が生まれにくい。

最後に、やっぱり事件性があったと納得できるのは結果論であって、この作品を観る限り、主人公の検事は優秀な推理力の持主と言うよりも、ただ自由に使える時間がたっぷりある非現実的な人物だと感じるだけだ。

結局、主人公の「勘」や「空想」が結果的に当っていただけという極めて非論理的な展開、さらには、トリックの凡庸さもあって、ミステリとしての醍醐味は感じにくいのが残念。

有馬氏が活躍していた頃は、松本清張に代表されるような社会派推理が台頭していた時期であり、その大半は厳密な謎ときを主体にしたものではなかった。

謎ときの形を借りた告発ドラマだったり、風俗小説だったりしたものが多く、この作品も、そうした当時の風潮の中にあっては、まだ、きちんとした『謎とき風作品』だったと言えるのかも知れない。

原作を読んだのが、かなり昔なので、この映画が、原作をどの程度忠実に再現したものなのか、今となっていは比較しようもないが、原作には、こうした矛盾点を感じた記憶がない所を見ると、映画が独自の解釈で、原作とは若干語り口を変えているとも考えられる。

謎を秘めながらも、気の強い女を演ずる岡田茉莉子と、背番号3という、どこかミスター長嶋を連想させるような(最後の方で映し出される、実際の球場で行われている試合で走っている背番号3は長嶋ではないだろうか?)4番打者を演じている杉浦直樹の濃厚なキスシーン等が見所になっている。