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多羅尾伴内 十三の魔王

1958年、東映東京、比佐芳武脚本、松田定次監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

城南競馬場で行われた「キング賞レース」。

本命と見られていた市田騎手(片岡栄二郎)の乗るサクラヒカリは、第4コーナーを廻ったところでスピードが落ち、結果二着に終わるが、その原因は、スタンドの屋上でレースを観ていた、市田の恋人で、キャバレー「インパール」の踊子をしている通称ナナ子こと香川雪江(萩京子)が、突然どこからともなく浴びせられた光線によって目がくらみ、墜落して死亡してしまったからである。

そのレース場にたまたまいた多羅尾伴内(片岡千恵蔵)は、すぐさま警視庁捜査一課の大沢警部(宇佐美淳)を訪ねる。

被害者の遺体から、片方のハイヒールが紛失している事を聞いた多羅尾は、警部に紹介状を書いてもらい、こちらも同じ時、競馬場にいたと言う伊豆丸周作(進藤英太郎)博士の研究所へ出かける。

そこで、遺体の解剖をしていると聞いたからである。

その研究所には、伊豆丸博士の妻篤子(高峰三枝子)の弟に当る塚崎嬢吉(高倉健)が訪ねて来ていたが、博士は会おうとしなかった。

実は、譲吉は、死亡した雪江の元カレだったのだが、彼女と付き合うようになってから、すっかりぐれてしまっていたからである。
彼も又、事件当時、競馬場にいた一人だった。

譲吉が帰った後、のこのこやって来た多羅尾は、雪江は自殺だったという博士に、血液検査はしたかと問いかける。

墜落前の彼女の様子は、どうも睡眠薬か麻薬での酩酊状態だったと考えられ、その雪江に対して、何者かが、太陽の反射光を浴びせたのではないかと言うのであった。

しかし、博士はその説には、明確な反論が出来なかった。

博士や助手兼看護婦の広田きみ子(星美智子)に別れを告げ、一旦帰ったと見せ掛けた多羅尾は、裏窓から遺体安置所に侵入すると、雪江の遺体の腕の内側に、魔王と「13」の数字を記した、小さく不思議な刺青を発見するのであった。

その頃、「インパール」では、譲吉が、歌手として売り出し中の妹の中島喜代子に無理矢理唄わせ、その出演料を支配人の志賀(三島雅夫)からせしめていた。

そんな「インパール」へやって来た一人の紳士(片岡千恵蔵)は、同席して来た喜代子に対し、自分は第の競馬マニアであり、亡くなったナナ子の話を聞きたいと持ちかけてくる。

そこで、ナナ子の元カレが譲吉であり、今のカレシが市田であったと聞き込んだ紳士の目の前で、当の二人が対面し、陰険な雰囲気になりかけるが、市田を店に連れて来た私設馬券屋の十亀金五郎(志村喬)がなだめに来る。

十亀も、事件当時、競馬場にいた一人だった。

その十亀に対し、翌日、近づいて来た昨夜の紳士は、キング賞のレースのサクラヒカリには疑いがある。ついては、次の月桂賞レースで賭けないかと切り出してくる。

その話に興味を抱いた十亀は、次のレースで市田が乗るミンジャンに賭けると言い、紳士は対抗馬のテレサライトに100万円賭けると決め、その後の話は、ゆっくり、汐留町のバー「マンダレー」で話し合う事にする。十亀がいうには、そこのマダム静子(三浦光子)が、ミンジャンの馬主だからだと言う。

「マンダレー」で小切手と契約書をかわした紳士は、たまたまその店にいた市田が、譲吉から仲直りしたいとの使いを受け、立ち去る姿を観ていた。

その後、キャバレー「インパール」へ向った紳士は、そこに目的の譲吉も市田もいない事に気づく。
マネージャーの羽仁(明石潮)が言うには、先ほどまで飲んでいた譲吉は、埋め立て地の方へ行ったようだと言う。

胸騒ぎを感じ、さっそく車で埋め立て地へ向った紳士は、そこで、伊豆丸博士と助手の広田きみ子の姿、そして、慌てて逃げ去る譲吉の姿を見かけた後、砂場に倒れていた市田の遺体を発見する事になる。

後日、警視庁に現れた多羅尾は、大沢警部に対し、死亡直前の市田が、譲吉からの仲直りをしたいとの連絡を受けていた事実を話し、譲吉犯人説を否定しようとする。

しかし、そこへ、呼ばれて来たのが、凶器として使われた手術用のメスがの持主と思われる伊豆丸博士と助手のきみ子だった。

きみ子の証言から、確かにこのメスは自分の所のものであり、譲吉は過去何度か研究室を訪れた事が分かり、譲吉の心証はますます悪くなって行く。

そんな中、最初の被害者である雪江の住まいを、刑事から聞き出した多羅尾。

その後、そのアパート「パレワ荘」に、独りの画家が、部屋を借りたい、7号室が空いているはずだと訪れてくる。

7号室とは、死んだ花江が入っていた部屋の事である。

怪んだ管理人の岩木(神田隆)が、今全室ふさがっていると断わると、画家は、岩木が趣味で米粒に描いていた仏様の細かな絵を発見して誉める。

その言葉に気を良くした岩木が、御愛想で、画架が手に抱えていたキャンバスを観たがると、画家が広げて魅せた二枚のキャンバスには、各々、「顔に反射光を当てられている女」と「片方のハイヒールを何者かが拾おうとしている様」が描かれていた。

画家が帰った後、彼が残して行った絵の中に、「魔王と13の数字」が記されていたのを発見した岩木は、伊豆丸に連絡を取る事にする。

その後、今度は、伊豆丸邸に和田と名乗る老警官(片岡千恵蔵)が現れ、妻の篤子に伊豆丸との結婚時期やなどを聞きただした後、助手のきみ子と伊豆丸の中が怪しいなどとおかしな事を言って帰る。

老警官は、その足で、赤坂区役所で伊豆丸の戸籍謄本を調べ、さらに港区税務署を訪れては、「インパール」と「マンダレー」の経営者に関しての書類を調べ出すのだった。

その夜、「マンダレー」に現れた老警官は、静子を外へ呼出すと、インド人の魔術師ハッサン・カンなる人物から預かったと、かかとの取れる仕掛けになっているハイヒールを片方渡して帰るのだった。

この和田の行動が静子を慌てさせ、彼女は「インパール」の志賀、十亀らに連絡を取り、善後策を取り合う。

「パレワ荘」の岩木の元に、その後、例の画家が来ないかどうか、又、ハイヒールの処理は間違いなかったかと確認に来た十亀は、帰宅時、怪し気な眼帯姿の男(片岡千恵蔵)に銃を突き付けられ近くの公園まで連れて行かれる。

十亀に色々尋問しようとした眼帯男であったが、逆に、十亀の抵抗に会い、さらに、たまたま彼らを見かけて尾行して来たパレワ荘の住人たち(花沢徳栄ら)から狙撃され、十亀は絶命してしまう。

眼帯男は、十亀の死体の腕に、やはり、魔王と13の数字の刺青があったのを確認する。

その後、会議中だった捜査一課に乗り込んで来たのは、多羅尾伴内。

彼は、今回の事件関係者たちの周囲に、「インパール」「マンダレー」「パレワ」「ミンジャン」という、全てビルマの地名に由来した名称が使われている事を指摘、さらに、姿をくらました譲吉は、姉の喜代子と婚約者(波島進)の家に匿われており、身辺警護のため、それら全員を保護した方がいいと進言するのだった。

数日後、「マンダレー」にハッサン・カン(片岡千恵蔵)なる謎のインド人が現れ、「インパール」に出演したいので紹介して欲しいと静子に頼むが、あそことは付き合いがない、自分で交渉しろと断わられる。

その言葉通り、「インパール」に向ったハッサン・カンは、志賀や羽仁らに、榎町3丁目に豪邸を構え、枕崎に別邸まで持っている張慶文なる、あなたたちのボスに会いたいと言い出す。

車でその張の屋敷に連れて行かれたハッサン・カンは、応接室と思わせせた密室に閉じ込められ、毒ガス攻撃にさらされるのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「七つの顔を持つ男」多羅尾伴内の活躍を描く人気シリーズの10作目。

進藤英太郎、三島雅夫、明石潮、神田隆ら、いかにも…といった顔ぶれに加え、東宝から志村喬が参加している。

今回の見所は何と言っても、重要な役所で冒頭から登場する高倉健。

劇中のあるシーンで、片岡千恵蔵が写っている背後の板塀に映画のポスターが貼ってあるのだが、そのポスターには「電光空手打ち」(1956)と文字が出ている。

もちろん、高倉健のデビュー作で、一種のお遊び演出なのだろうが、東映が新人を売り出そうと、あれこれ工夫していた事がうかがえる。

実は、ポスターは並べて二枚貼ってあり、もう一枚の方のタイトルは読み取れなかったが、どうも、少年探偵団もののようであった。

おそらく、波島進が明智を演じた「少年探偵団 二十面相の復讐」(1957)以降のシリーズ作品のどれかだろう。

何故なら、その波島進も、本編にちらり登場しているからである。

波島進といえば、テレビヒーロー「七色仮面」(1959〜)初代主役である。(その二代目を受け継いだのが千葉真一)

「七色仮面」が、この「多羅尾伴内」シリーズを手本にしているのは明らかであり、その新旧主人公が、この時点で顔を合わせていた事になる。

高峰三枝子も、この当時はまだほっそりしており美しい。

事件そのものは、相変わらず荒唐無稽で他愛無いものだが、インド人に扮した御大が、火を吹く特撮シーンは見所。

火を吹くヒーローは、ガメラだけではなかったのである。

志村喬が、殴り合いの喧嘩をするアクションシーンに挑んでいるのも、ちょっと珍しかった。