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台風騒動記

1956年、まどかグループ+山本プロ、杉浦明平「颱風13号始末記」原作、八住利雄+山形雄策脚色、山本薩夫監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

台風は毎年来る。この地方にも来た。
天災は恐ろしいが、この国では天災の後にもっと恐ろしいものが来る…。

台風13号の通過で大被害を被った富久江町役場前には、近隣の集落から、援助物資をもらうため集まった人々で溢れかえっていた。

そんな中、役場の中では、助役の岩本(中村是好)が、町議会に出席する議員たちの昼食用として、天丼の注文を手配していた。

始まった町議会では、一昨年、地震の被害を受けて少し痛んだ西浜小学校を改築したいのだが、国会の福沢文部政務次官の話によると、今回の台風の被害にあった学校等には1000万円の補助金が出るらしいので、その制度を利用して、コンクリート製の新校舎を建てれば、入札のやり方次第では工費も安く上がり、ただで新築した上にお釣まで出る勘定になると、山瀬弥三郎町長(渡辺篤)が報告していた。

しかし問題は、当の西浜小学校は今回の台風でもびくともせず、まだきちんと建っている事実であった。

町長は、福沢次官からの「政府の現地調査が来るまでには、すでに当物件が取り壊されている事を信じている」という意味深な言葉を引用し、調査団が来るまで、先に学校を壊しておけば良いのではないかと、議員たちに持ちかける。

明らかに詐欺行為であるのだが、新校舎は町全体の財産にもなる事だし、全責任は町長が負うなら…という条件付きで、あっさりその話は議会を通ってしまう。

そんな無責任な議会の進行中、役場の一階では、援助物資を巡って、消防団を勤める山代議員(三井弘次)が自分の担当集落の住民だけ優先させようとしたため混乱が起きかけていたが、押しの強い川合釜之助(三島雅夫)の一喝で収集する。

一方、当の西浜小学校では、代用教員のつとむ先生事、里井努(菅原健二)が、通りかかった料亭「いろは」の人気芸者静奴(桂木洋子)と女将(宮城千賀子)からからかわれながら、校舎復旧工事の力仕事をさせられていた。

つとむ先生は、神主の息子でありながら無神論者で、「中央公論」や「世界」などを愛読している急進派として、どこか、先生仲間たちからも浮いた存在であった。

貧しい階層の人たちが集まっている旧弾薬庫痕に出かけては、団結の大切さ等を解くのだが、そんな彼の様子を、民衆を先導する「アカ」の可能性がある要注意人物として常日頃から監視していたのは、巡査の赤桐(多々良純)だった。

その頃、役場を訪れた妻(藤間紫)から今度の計画が成功したら、あなたの銅像が建つとおだてられていた町長だが、森県議会議員(永井智雄)から電話をもらい、今、県から派遣されて来た災害調査団を料亭の接待「いろは」で足留めして、このまま帰すつもりだから、ここの費用と調査団へのリベートとして10万円を出せと言われ閉口するが、さらに、大蔵省の調査団がすでに東京を出発したらしいとの報告には真っ青になる。

何故なら、森県会議員と町長との密談で、勝手に工事請負人として決定していた堀越組は、すでに北浜小学校に乗り込み、事情もわからず戸惑っていた生徒や先生たちを尻目に、さっさと木造校舎の取り壊しにかかっていたが、思いのほか、校舎は頑丈で、その取り壊しには時間がかかりそうで、今だ、学校はしっかり建ったままだったからだ。

そんな中、 町長婦人は、道で、西浜小学校への道順を訪ねて来た見知らぬ青年に出くわす。

すぐに、東京から来た大蔵省の調査団だと直感した婦人は、すぐに夫の町長に電話すると共に、自分は、言葉巧みに彼を足留めし、昼食を取ろうとしていた彼を料亭「いろは」に連れ込み、熱心に接待を始める。

その間、町長から連絡を受け「いろは」の別室に集合した町会議員たちは、金と女で篭絡する実弾攻撃で行こうとの釜之助の意見でたちまち纏まってしまう。

さっそく釜之助は、抜け駆けして、一人で青年の部屋を訪れると、勝手に「寸志」と書かれた金の封筒を渡すと、静奴を呼んで青年の相手をさせはじめる。

こうした対応に、訳がわからない青年は、二人きりになった静奴から事情を聞かされ、ようやく、自分が調査団の人間と間違われている事を知る。

彼が言うには、友人の里井勤を訪ねて来ただけなのだと言う。

そんな青年の部屋に、全員で押し掛けて来た町会議員たちは、もぬけの殻になった部屋の様子を目にする事になる。

さらに、西浜小学校からは、こちらにすでに本当の大蔵省の調査団が到着したと知らされた町長は、またもや慌てふためいて学校に駆け付けるのだった。

何とか、校舎の取り壊しは間に合ったのだが、 山村和男監査官(細川俊夫)から、先を急ぐから、現場の証拠写真を見せろとせかされた学校長(加藤嘉)と町長はしどろもどろになる。

その日、同僚の妙子先生(野添ひとみ)と一緒に帰っていた勤は、自分が彼女から常日頃指摘されているように、臆病でおっちょこちょいである事は認めながらも、彼女への思いを伝えたくて、ラブレターを手渡そうとするが、その姑息な手段で逆に機嫌を悪くさせてしまう。

彼女が先に帰ってしまった後、乗っていた自転車が転んでみじめな姿になった勤を発見したのは、「いろは」から静奴の乗る自転車に同乗させてもらっていた青年、吉成幸一(佐田啓二)だった。

かくして、旧友相再会し、里井家に居候する事になった吉成だったが、それを怪んで監視に来た赤桐巡査の尋問を、神主である里井の父(佐野周二)は、適当にかわすのだった。

吉成は、ただ東京で職を失ったので、友人を頼って来ただけだった。

それでも、あまり悩まないたちの吉成は、金もないのに、又、「いろは」に出かけて静奴と昼間から飲んでいたのだが、釜之助からもらった「寸志」は返した方が良いと静奴からたしなめられ、たちまち、彼女の性格に惚れ込んだ吉成は、一緒に旅に出ないかと誘うが断わられる。

静奴は、この町の権力者たちを心の中ではバカにしながらも、そのおもちゃにならないと生きていけない自分の立場と言うものをわきまえているからだった。

同じ「いろは」の別室では、森県会議員から、工事費用として先に100万円、掘越(増田順二)に渡してくれと頼まれていた町長が答えに窮していた。
そんな町長に、福沢政務次官から手紙が届くが、町長は、その中身を決して他言しようとはしなかった。

一方、寸志を、静奴から渡された釜之助は、吉成の態度を生意気だと、彼がいる部屋に乗り込んで行くが、そんな所に、森県会議員と町長が堀越組とつるんでいる事、釜之助は別の坂下工務店と組んで、各々旨い汁を吸おうとしている事を嗅ぎ付け、自らも独自に横山組と組んで儲けようとしていた山代が泥酔した乗り込んで来たので「いろは」は大騒ぎとなる。
山代は、酒乱だったのだ。

そんな権力者たちのばか騒ぎをよそに、吉成は、工事関係者たちと別室で飲んでいた。
そんな吉成の様子をこっそり監視しているのは、やっぱり赤桐巡査だった。

その後、子供達と帰る妙子先生に出会った吉成は、いまだに台風被害のため、住む家もなく集団生活していた貧しい階層の人たちの住む旧弾薬庫で、何かと手伝いをしていた妙子の姿と、そこの惨状をはじめて目の当たりにする事になる。

義憤にかられた吉成は、そこの人々に、自分が知った町会議員たちの腐敗振りを洗いざらいぶちまけるのだった。

そんな事とは知らない町会議員たちは、今日も又、低次元の会議を繰り広げていたが、その内、釜之助の発案で「いろは」の場に移そうと言う事になり、そのあまりの自堕落振りに呆れて反対する議長(左卜全)を解任してしまう。

「いろは」で、後任の議長に任命された山代は有頂天になるが、その場で、小学校改築の工事は、堀越組が請け負う事に決定する。
実は、森県会議員と町長と掘越から賄賂を握らされた釜之助も、町長指示に廻ってしまったからだった。

やがて、その場は宴会になるが、そんな所に、赤桐が釜之助の賄賂体質を皮肉ったポスターが貼ってあったと持ち込まれ、怒り狂った釜之助は、いきなり助役の責任だと無茶な事を言い出し、今まで彼にすりよっていた岩本をその場で解任してしまう。

その後、今度は、町民たちを先導した吉成と勤を殺すという物騒な貼り紙が神社に貼られる事になる。

しかし、そんな事はいっこうに無頓着な二人は、一緒に鍋を囲んで飲んでいたが、そんな所へやって来たのが妙子先生。

気をきかせて外出した吉成は、怪しい男がいると逃げて来た静奴と再会、その怪しい男とは、首になりやけ酒で泥酔した岩本だった。

吉成は、もう一度、静奴に、一緒に東京へ来ないかと誘うのだが、静奴は承諾しなかった。

やがて、東京から来訪した福沢政務次官も臨席して西浜小学校の地鎮祭が始まるが、PTAの面々も揃った集会で、町長は、補助金が来るまでには少し時間がかかるので、それまでに1家庭1万円づつ、金を出して欲しいと、とんでもない事を切り出す。

いきなりの話に面喰らった人々から、一体何時、補助金がおりるのかと迫られた町長は、国宛におかしな手紙を出して、妨害工作している不埒な人物がここの教師の中にいると里井を名指しするのだった。

妙子先生や静奴、吉成らも見守る中、犯人扱いされた勤は、持てる勇気を振り絞って、補助金なんかは降りない事実を知りながら、保身のため、これまで自分が黙っていた事実をみんなに暴露するのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「天災の後に来るものは人災である」というラストのフレーズが全てを象徴しているように、社会派山本監督らしい、地方に根強く残るせこい権力構造をからかった風刺喜劇で、この年のキネ旬ベストテン7位。

登場する町議会議員のキャラクターが、皆、際立っており、中でも、どこか頼りない町長を演ずる渡辺篤、上品ぶって何にでも「お」を付けたおかしなしゃべり方をするその妻役の藤間紫、世の中、何でも金で解決できると思っているようなあくの強い釜之助役の三島雅夫、小心な癖に、おべんちゃらや宴会芸だけは達者なタイプの助役を演ずる中村是好、酒乱の消防署長役を演ずる三井弘次ら絶品。

そこに、あっけらかんとした明るい芸者の桂木文と失業者なのに悩まないタイプの佐田啓二、さらに憶病者な進歩派菅原謙二と献身的な女性教師野添ひとみとの、まだ大人のしがらみに染まっていない二組の若者の素直な姿を重ねる事で、大人たちの愚かしさを面白おかしく浮き出して見せる仕掛けになっている。

一方、旧態依然とした搾取構造に虐げられながらも、そうした事を、外部から来た他者から指摘されると、身内の恥をさらすような屈辱感からか、殻に閉じ籠ると共に攻撃的になってしまう、貧しい人たちの愚かな姿も包み隠さず暴き出している。

自分達の町の恥部を全て観て育ちながら、最後まで土地を離れようとしない静奴の姿が重い。