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上海の女

1952年、東宝、棚田吾郎脚本、稲垣浩脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

日華事変勃発以来、特務機関の工作は激化を増していた。

1945年7月、上海の雑踏溢れる大通りの十字路のまん中に、車から処刑された男の死体が投げ捨てられる。

あっという間に、警察による道路封鎖が行われ、せき止められた群集の中にいた歌手の李莉莉(山口淑子)は、後15分で放送が予定されている放送局へ間に合わないと焦る。

ちょうど、彼女の横にいた人力車に乗っていた青年が、困った彼女を見かねたのか、警官に談判してやると、独り警官に話し掛け、そのまますんなり彼女だけが、人ごみの中から通してもらえる事になる。

青年は柏機関の特高真鍋中尉(三國連太郎)であった。

後刻、来島大佐(佐々木孝丸)に呼出された真鍋は、先日路上に捨てられた死体は南京政府の要人で、最近、日本の戦況悪化を見て、重慶側の特務機関による、日本の傀儡である南京政府を舐めたようなテロ行為が続発している事を告げると共に、その対抗任務を命ぜられるのであった。

真鍋は、来島からの紹介で、丁士邨(二本柳寛)に会いに出かける。

丁の応接室には、何故か、莉莉の写真が後ろ向きに立て掛けられていたが、やって来た丁は、重慶から派遣されて来た男たちの所在が分かっているので、今夜面白いものが観られるかも知れない。あなたも来ないかと誘われ、部下の劉(加東大介)をお供に付けられ、ナイトクラブ「パラマウント」へ出かけてみる事にする。

そのクラブで唄っていたのは、あの莉莉であった。

その莉莉を見て驚いていたのは、真鍋だけではなかった。

重慶からやって来ていた周(今泉廉)とその妻の王秀蘭(荒木道子)は、8年前、自分達を助けてくれた莉莉をこのクラブで発見し、ステージを下りた彼女と再会を喜びあうのであった。

そんなクラブに突然、覆面姿の一団が乱入し、たちまち、クラブ内は、南京政府の特務機関と重慶からやって来た特務機関員たちの銃撃戦が始まる。

そんな中、周らと共に店を逃げ出そうとした莉莉は、足を撃たれて負傷してしまう。

その後、周は撃たれ死亡、その靴の裏から、南京政府内に、重慶側と内通している人物がいる事を記した密書を手に入れるが、妻の秀蘭の方は取り逃がしてしまう。

怪我をした莉莉は、国民的英雄王陽明の竹馬の友、李克明(青山杉作)という人物の娘と言う事になっているが、実は訳ありの事情があり、本当は生っ粋の日本人であり、取り調べにくい立場にいるのだと聞かされた真鍋は、自分が彼女を怪我させてしまった責任も感じ、毎日見舞いを欠かさなかった。

一方、丁は、かねてより莉莉に思いを寄せており、結婚を申込んでいた仲だったが、今回、周夫婦を逃したのは、明らかに莉莉の南京政府への裏切りだと攻め立てる。

しかし、かねてより、陰湿な丁の事を嫌っていた莉莉は、その場で彼との婚約をはっきり断わるのだった。

そんな莉莉の元に、父親の克明が見舞いのため訪れ、偶然、その日もやって来た真鍋と共に公園を散策する事になる。

その様子を、秘かに近くのベンチからうかがっていたのは、重慶の特務員(沢村貞子ら)だった。

克明は、莉莉の実父は自分の無二の友人で、かつて長崎に住むんでいた江間俊介なる人物だと打ち明ける。
さらに、その莉莉の父と母親は共に伝染病で他界してしまい、後に独り残された莉莉を、克明が育てる事になったのだとも。

莉莉は、母から教えられた日本の唄を真鍋に聞かせ、未だかつて行った事のない日本への思いを打ち明けるのだった。

彼女は、育ての親である中国人にも恩義を感じており、自分をこんな複雑な立場に置かせた戦争と言うものを心底恨んでいたのだった。

そんな中、情報欲しさのあまり、同胞を拷問死さえさせていた丁は、真鍋に、李克明が重慶と通じ合っている気配があるので、その動向を莉莉を通じて探ってくれと依頼する。その態度には、急速に深まって行く真鍋と莉莉への関係への当てつけも含まれていた。

ある夜、接吻の後で分かれて帰宅した莉莉は、自宅に忍び込み潜んでいた秀蘭から、近い内に日本は敗戦すると知らされる。

さらに、何故か、先ほど分かれたはずの真鍋が突然家を訪ねて来たので、莉莉は、彼が、秀蘭を誘き寄せるために自分を利用していただけだと気づき、愕然とするのだった。

その後、李克明は、来島大佐の元を訪れ、和平工作のため、自分が重慶に赴きたいと告げに来る。

そんな父親に付いて重慶へ行く決心をした莉莉は、秘かに秀蘭と密会、徐家准にある漉西孤児院に集合した重慶側の特務機関員たちと合流し、上海脱出の打合せをするのだった。

日本側と秘かに接触し、勝手に重慶との和平交渉へ行くという李克明の動きを察した丁は、南京政府の面子を潰されたとして、反逆罪で李克明を逮捕すると来島に伝えてくる。

その事を、来島から教えられた克明は、自分の判断で今後行動する事にするが、すでに、漉西孤児院の場所は丁たちに知られており、その夜、10時に丁がその場を急襲する事を知った真鍋は、パラマウントで唄う莉莉に、秘密裏に知らせに行くのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

敗戦濃厚になった大平洋戦争末期の上海を舞台に、特務機関員と数奇な運命の歌手の間に芽生えた恋を描いたラブロマンス。

戦後の作品だけに、日本軍の行為を美化する訳でもなく、むしろ、二人の男女の運命に焦点を当てる事で、戦争の残酷さ、愚かしさをあぶり出す形になっているのが特長。

冒頭の上海の風景等、現地でロケをしているらしく、全編、臨場感溢れる本格的な作りになっている。

登場する山口淑子をはじめ、相手役を勤める三國連太郎や二本柳寛など、出演者のほとんど全員が中国語をしゃべっている。

さらに、メインとなる三人は、流暢に英語をしゃべりあうシーンまであり、その語学力の豊富さには驚かさせる。

にわか仕込みだったとしても、大変な努力を要したはず。

歌手と言う設定の山口淑子が唄を披露するナイトクラブは、「インディ・ジョーンズ 魔宮の伝説」の冒頭部分や「上海バンスキング」などを連想させる。

自らのヒット曲「夜来香(イエライシャン)」のレコードがかかっている店に乱入して来た日本軍憲兵らが、その唄を抗日の唄として、レコードをかけた店の主人を逮捕しかかるのを目撃し、決然と抗議する李香蘭こと山口淑子の姿が興味深い。

三國連太郎は、典型的な優男の二枚目という役所で、あまりアクの強い演技はやっていない。

むしろ、屈折した中国人特務機関員を演じている二本柳寛の演技の方が印象に残る。

当然ながら、山口淑子の唄うシーンも見所。