TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

姿なき目撃者

1955年、東宝、渡辺啓助「浴室殺人事件」原作、日高繁明脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

主人が亡くなった後も、お手伝いとして千代(越路吹雪)が残っている新宮家の屋敷の隣には、亡き父親の形見のカメラで、写真を取るのに夢中の小学生、尾形譲二(久保賢)が母親の素子(夏川静江)と二人で住んでいた。

今では、建設会社社長権藤と再婚している新宮綾子(久慈あさみ)は、大久保でダンス教室の教師をしている魚住(徳大寺伸)と、屋敷で堂々と逢い引きを重ねていた。

今日も、屋敷を訪れていた魚住は、二階のベランダに取り付けてある井戸水を汲み上げるタンクを物珍しそうに見ていたが、庭でまき割りをしている千代の姿を見つけたとたん、不機嫌そうに部屋に戻ると、まだ、あの女を雇っているのかと綾子に尋ねる。

二人の間には、何かいわくがありそうなのだが、権藤が気に入っているので、辞めさせられないと綾子が言い訳をする。

そんな千代も、魚住の度重なる来訪を面白くなさそうなのだが、そんな彼女、ある日、隣の譲二を後楽園遊園地に誘うと、ジェットコースターに乗った後、互いに記念写真を撮り合い、銀座のレストランでは、カメラを入れるケースまでプレゼントした後、ある写真を撮ってくれと、譲二に頼むのだった。

その後、何となく気が進まない譲二だったが、千代にせかされ、渋々、ベランダのタンクに潜んでチャンスを待つ事になる。

しかし、猛暑のあまりの暑さに汗を拭っていた譲二は、いつの間にか、自分のハンカチをタンク内に落としていた事に気づかなかった。

その後、譲二が撮った綾子と魚住の情事を写した写真を受取った千代は、それを持って、権藤の仕事先を訪れるのだった。

翌日、急に大阪に出張する事になったと伝言を受けた綾子は、チャンスとばかり、魚住を呼出すが、どうした事か、大阪に言ったはずの権藤が帰ってくる。

慌てた綾子は魚住にどこかへ隠れてとせかすが、二階には隠れるような場所がない。

とっさの事に、魚住は、以前見つけていた給水タンクに入り蓋をするのだった。

三上重工の鏑木氏が脳いっ血で倒れたなどと言い訳をして、二階に上がって来た権藤は、汗をかいたので風呂に入りたいと言い出す。

しかし、何とか、彼を外に出したい綾子は、内風呂は壊れているから、銭湯に言ってくれとしつこく勧めるのだった。

しかし、どうしても言う事を聞かない権藤は、井戸水を汲み上げて湧かそうと言い出し、タンクの蓋にネジ止めを施した後、下にいる千代に命じて、給水タンクへ水を汲み上げるポンプのスイッチを入れさせるのだった。

タンクの中の魚住の事が気が気ではない綾子の蒼ざめた顔を見た権藤は、満足したように、彼女の浮気に事実を知っていた事を明かし、千代にスイッチを止めさせようとする。

しかし、下にいるはずの千代の返事はなく、困惑した権藤は自分でスイッチを止めに降りる事になる。

ところが、その後、二階に戻った権藤は、再び、ポンプのスイッチが入れられる音を聞き慌てる。

スイッチを再び止めにいき、急いでタンクの蓋を外した権藤であったが、既に、タンク内で溺死していた魚住の遺体を発見する。

あまりの事の成りゆきに呆然となった二人の前に、平然と現れた千代は、自分は、旦那様に言われるままスイッチを入れただけで、何も知らないと言い張るのだった。

千代が意図的に殺害したと言う証拠がない以上、自分達が罪から逃れるすべはないと気づいた権藤は、魚住の遺体を川で溺死したように見せ掛ける事を思い付く。

その後、刑事の舟木(小泉博)は、主任(志村喬)から、水死体のポケットに入っていた桜新町の喫茶店のマッチと、「O・JOJI」とイニシャルの入ったハンカチを元に、調査を始める事になる。

苦心の末、ようやく、尾形親子を突き止めた舟木は、ハンカチの持主が小学生である事を知り驚くが、譲二は、そのハンカチはどこかで落としたと答えるばかりで、魚住との繋がりはつかめそうにもなかった。

その頃、新宮家では、綾子がこっそり千代の部屋を探り、過去のアルバムや日記から、彼女が魚住とかつて付き合っており、子供までもうけながら、その後、その子を亡くしていた事実を突き止めていた。

権藤は、そんな千代に、このままでは、互いに気まずいままなので、田舎へ帰るよう再三勧めるが、頑として千代は言う事を聞かない。

そんなある日、千代は、権藤が金を渡したいから、工事現場に来てくれという伝言を、夕方、綾子からもらい怪しむ。

彼女は、自分が殺されるかも知れないとの遺言状を書き、それを、こっそり譲二の家から拝借していたカメラで写すと、又何気ない顔をして、カメラを譲二の部屋に戻すと、工事現場に出かけるのだった。

待っていた権藤に、おかしな真似をしたら、自分は書き置きがしてあると、その紙を見せた千代だったが、それを奪い取ろうとした権藤から逃れる途中、足場を踏み外し、地上へ落下してしまう。

偶発的な事故に、慌てて千代の身体を見に降りた権藤だったが、すでに、千代が死亡している事を知ると、トラックの砂利をその場に流し込み、証拠隠滅を計るのだった。

一方、屋敷では、連絡を受けた綾子が、千代の遺品を風呂場で焼却処分していたが、たまたま屋敷を訪れていた隣の譲二に、その現場を観られていた事に気づく。

譲二は、なくしたハンカチを千代に返してくれを頼んでいたのだが、それを今夜取りに来るよういわれていたのであった。

舟木は、たびたび尋問に訪れる度に、譲二と仲良くなって行くが、彼の身が危ないと察すると、後輩の大橋(佐原健二)を呼出し、少年の警護に当らせるのだった。

しかし、その頃、捜査の手が、自分におよびそうになっている気配を察した権藤は、自ら、逆転の計画を立てはじめていた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

宝塚の花組スターだった「コーちゃん」こと越路吹雪と、月組スターだった「ヨッタン」こと久慈あさみという、一時代を築いた二大宝塚出身女優同士ががっぷり四つに組んだ犯罪サスペンス。

渡辺圭助の探偵小説「浴室殺人事件」が原作と言うが、その著作のほとんどが手に入りにくい現在、私個人も全く原作に関する知識がなかったので、タイトルの雰囲気だけから、古風な犯人当てものかと思っていたのだが、実は、かなり捻った展開の心理サスペンス劇になっていた。

全体の構成としては、犯罪の様子が最初から観客に全て明らかになっており、どうやって、その完全犯罪が崩れるかと言う興味を見せる、いわゆる「倒叙もの」パターンのような感じなのだが、それに、江戸川乱歩言う所の「奇妙な味わい」がプラスされたような独特の作風になっている。

けれん味に乏しく、地味で退屈な展開と言えなくもなく、万人向けの内容とは言いにくいが、古風なミステリー好きにはたまらない魅力がある。

越路吹雪は、かなり意外に思えるほど「地味な役」なのだが、物語における重要度としては、十分、久慈あさみと渡り合えるポジションになっている。

ただし、どちらが主役かと言うと、どちらでもない感じがするのが面白い。

この作品、はっきりした主役はいないような感じさえするのだ。

あえて言えば、進藤英太郎か、写真マニアの小学生、譲二のどちらかだろう。

その譲二を演じている久保賢という少年、実は、久保明の実弟で、後に、日活青春映画などで活躍した山内賢の子役時代である。

この知識がないと、画面を観ていても、まず気が付かないはず。

どうも、この作品が、彼のデビュー作のようである。

もう一人意外な人が登場する。

小泉博扮する舟木刑事の後輩で、かなり頼りない大橋刑事という青年が出てくるのだが、これが佐原健二。
1955年の作品だから、彼もデビュー直後のはず。

子供と仲良く歌を唄っている好青年を演じている小泉博が爽やか。

又、後半、風鈴作りの小屋にちらり登場する高堂国典も、実に印象的。