TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

鶏はふたたび鳴く

1954年、新東宝、椎名鱗三脚本、五所平之助監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

大平洋に面した「ときの岬」と呼ばれる場所では、かつて天然ガスが出てしばらく栄えたが、数年でガスが止まり、観光地として復興しようと試みたりしたが、何の名所もなく、これといった海産物等も取れない町はたちまち寂れてしまった。

その後、前田という町の資産家が、天然ガス再発掘しようとして事業に失敗、自殺を遂げてしまい、その葬式の行列からこの物語は始まる。

行列に参加していた、高利貸しとして町を牛耳っている前田の母親(飯田蝶子)は、列の後ろの方から付いてくる一人の娘を忌わしそうに振り返ると、彼女の元へ歩み寄り、結婚を申込んだ息子を袖にし、殺した張本人である女のくせに、良くこんな所へ来られたなと憎まれ口を叩く。

ごうつくばりの老婆は、女房を渡り職人に寝取られた男の娘の癖にと、さらに娘を屈辱するので、仕方なく彼女は列を離れて、すごすごと自宅に帰る事になる。

彼女は、父、時田時之助(東野英治郎)が経営している時計店の娘ふみ子(南風洋子)であった。

時之助は、老婆がいう通り、女房が渡り職人と共に家を出奔して以降、すっかりいじけてしまい、店頭にも出ようとせず、部屋に閉じ籠る毎日だった。

死んだ前田と娘の仲さえ町の連中と同じように疑り、葬式に行っていたふみ子をなじる始末。

ふみ子にとって、前田とはそんな仲ではなく、郵便局に勤めていた時分、ちょっと知り合い、その後、いきなり呼出されて唐突な結婚の申し出と、一緒に北海道へ逃げてくれ等ととんでもない事を言い出されたので拒絶しただけの関係だった。

しかし、そんな事実を知るものは一人もおらず、狭い町では、どこもかしこも、彼女とその父親の事をあれこれ悪く噂する連中ばかり。

父親を慰めようと、買い物に出たふみ子だったが、どこの店でも、彼女の顔を見るなり、こそこそ噂を始める様子を観て、いたたまれなくなった彼女は、海岸の岩場伝いに誰もいなさそうな海辺に足を向ける。

そんなふみ子の様子を遠くから発見したのは、前田家の採掘現場で働いていた男たち。

おせっかいが珠に傷の通称、世ん中(佐野周二)、床屋の息子で通称、御落胤(佐竹明夫)、小学生時代は優等生だった事だけが自慢で、今は、何を聞かれても「さあ?」としか答えられない通称、サアさん(中村是好)、ニヒリストの通称、学者(渡辺篤)、ちゃー坊という子連れの通称、バクさん(坂本武)の5人。

彼らは、雇い主がいきなり自殺してしまったので、給料ももらえず、かといって、当座の仕事もなく、仮住まいの掘建て小屋で、新潟にいる元石油採掘仲間からの仕事の連絡だけを頼りに待っている連中だった。

彼らも、前田家の葬儀には参列していたので、ふみ子の顔は知っていたのだ。

結局、おせっかい焼きの世ん中さんが彼女に声をかけ、自分達があたっていたたき火の側に来させると、彼女から事情を聞き、そんな事くらいで挫けるなとアドバイスをしたり、彼女の鼻緒が取れた下駄の修繕を気安くしてやったりする。

見知らぬ男たちからの親切が身に染みたふみ子は、新潟からの電報を確認に郵便局まで出かけるという世ん中さんに付き添われて、町まで戻るのだったが、世ん中は、ふみ子が海辺でいじっていたロケットのことが気になっていた。

郵便局では、毎日やってくるので、今では世ん中さんともすっかり顔なじみになった郵便局員(柳谷寛)が、元局員だったふみ子にも優しく声をかけてくれた。

その日の食べるものにさえ事欠き、前田家に給料未払分の交渉に出かけた世ん中ら5人だったが、強欲な老婆から一文の金ももらう事は出来ず、急場しのぎに、かつて勤続10年を褒賞としてもらった目覚まし時計を売って金にしようと言う事になり、その役目も世ん中が請け負うはめになる。

その頃、時田時計店には、刑事(谷麗光)が訪れ、300万円を拐帯して逃げている男の手配写真を店員(小高まさる)に見せ、ここへやって来なかったと聞いていた。
何でも、木村義夫(伊藤雄之助)というその男は、常日頃から腕時計を欲しがっていたと言うのだ。

しかし、店員は知らないと言う。

その後、その時田時計店にやって来た世ん中だったが、勇気を出して差し出した目覚まし時計は、バネがもう壊れていると言う事で10円にしかならなかった。

そんな時田時計店に、ふみ子を訪ねて二人の娘がやって来る。

足の悪い谷子(左幸子)と、妾の子と噂されている料亭の娘陽子(小園蓉子)だった。

彼女ら三人は、自分達こそ世の中で一番不幸な女だと世をはかなんでいる友達同士で、実は、彼女たちはいつでも死ねるようにと、めいめい自殺用の毒が入ったロケットを首から下げていた。

そんな中、いよいよ食べる金にも窮した5人の中で、御落胤が手慰みで作っていた針金細工が売れるのではないかと町に出かけるが全く売れず、そんな様子をふみ子は目撃する事になる。

その後、すっかり男に媚びているかに見える母親きく(沢村貞子)の姿に絶望した陽子が、ふみ子と谷子に、自分はすぐに自殺したいが一緒に死んでくれないかと切り出すが、ふみ子は死ぬのは1週間だけ待ってくれとと答える。
そして、ふみ子は、何故か陽子と谷子から金を借り受けるのだった。

そんな三人娘が、ある日連れ添って出かけた浜辺で見知らぬ男に出会う。

鞍馬と名乗ったその男は、極秘で石油採掘の調査でやって来た技師なのだが、この近くで人目につかないような宿を探しているのだと言う。

うさん臭がる陽子に対し、ふみ子と谷子は彼の言葉に強い興味を覚えて、陽子の料亭の別宅に泊める事にする。

その後、小屋を訪れたふみ子は、5人が不在だったので、蓉子たちから借りた金を置いて帰る事にする。

その頃、時田時計店には、時之助の姉(三好栄子)が大阪からやって来て、情けない弟に渇を入れていた。

一方、自殺を決意したはずの陽子は、その日以来体調がおかしくなり寝込む事になるが、往診した医者(沢村いき雄)が見立てても、どこも悪い所はなかった。

翌日、小屋を再び訪れたふみ子は、あれほど鞍馬から口止めされていた石油採掘の話を、5人を喜ばそうと教えてしまう。

そんな事とは知らない鞍馬、実は木村義夫は、何故かすっかり谷子に興味を持たれてしまい、毎日のように宿に通われるようになったため、仕方なく、石油を探す振りをする事になるが、ふみ子から話を聞いた5人の男までやって来たので、もう逃げる事も出来ず、彼ら監視の中で、苦し紛れに、前田が掘っていた天然ガス採掘抗跡こそが石油が出る場所なのだと嘘をついてしまう。

喜んだ5人は、さっそくその場所の採掘を始めるが、噂を聞き付けた前田家の子分たちが因縁を付けに来て、何かと嫌がらせをするが、もう目標を見つけた5人は、そんな事は気にせず、一心不乱に仕事に打ち込むようになる。

時田時計店でも、姉が店の活性化のきっかけを作ると、ふみ子にも、町のつまらない噂等気にせず、どんなに苦しかろうと「たかがこんなもの」と腹を括って生きろと励まして帰るのだった。

すっかり、生きる張りを取り戻したふみ子は、5人を助けて採掘を手伝うようになるが、そんな彼らの真剣さに良心がとがめた鞍馬は、自分の話は全て嘘だった事を5人に打ち明けてしまう。

呆然とする5人とふみ子だったが、その直後、採掘抗から温泉が吹き出す…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

閉鎖的な町で、生きる事に絶望していた娘たちが、貧しいが心根の優しい流れ者の労働者たちと出会う事で、生きる意味を見い出すまでの数日間を描いた人情ドラマの秀作。

新東宝にも、こんな優れたヒューマンドラマがあったのかとまず驚かされる。

主役の南風洋子は、若いだけで主役らしい華やかさはないのだが、その素朴さが逆に、この物語にリアリティを与えている。

脇を固める役者たちが、皆、しっかりした存在感を見せているので、安心して観ていられる。

5人の労働者をはじめ、 飯田蝶子演じる因業婆あ、 いかにも善人の郵便局員役の柳谷寛、情けない男を演じる東野英治郎、手先が器用な刑事役の谷麗光、肝っ玉の座った姉を演じる三好栄子、男にすがっているようで、実は男をバカにしてしぶとく生きている沢村貞子、そして、伊藤雄之助など、全ての出演者が素晴らしい。

娘たちの中では、ギラギラした瞳が印象的な左幸子にインパクトを感じた。

♪飯を喰わなきゃ腹が減る〜
♪朝になれば陽が登る〜
♪当たり前の話だ〜
…といった、何とも人を喰ったようなタイトル曲も魅力的。