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日本列島

1965年、日活、熊井啓脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和34年頃、日本国内に255もあった米軍基地の一つ、埼玉にあるキャンプ・スコットのCDI(アメリカ軍が関わった犯罪、事件を調査する組織)に、北海道から、J・ポラック中尉(ガンター・スミス)が課長として転勤して来る。

そして、日本人の通訳主任秋山(宇野重吉)に、かつて、自分の部下だったリミット曹長が、東京湾で水死体として見つかった事件を再調査するよう依頼する所から物語は始まる。

警視庁に出かけた秋山は、顔見知りの新聞記者、原島(二谷英明)と出会うが、もちろん、ここを訪れた目的等話すはずもない。

当時、事件を担当していた刑事黒崎(鈴木瑞穂)の協力を受け、調べた記録によると、昭和33年8月、東京湾に、神奈川キャンプ所属だったファナハン・E・リミット曹長(チャーリー・プライスン)の死体が発見されていた。

彼は、羽田に迎えに来たオンリーの小林厚子(木村不時子)と食事中、突然席を外したまま、姿をくらましていたのだと言う。

その際、兵役証明書を彼女に預けたままだった事から、リミットは戻って来るつもりだったと思われる。

しかし、この捜査を進めていた警察の手から、ある日、突然、リミットの死体は、米軍の手によって持ち去られてしまい、さらに、その遺体は本国に送られ、神奈川キャンプCIDからは、その死因は永久に不明と言う不可解な発表があっただけだった。

こうした当時の事件経過を知り、その事件隠匿にアメリカ軍よりもさらに大きな力を感じた秋山は、今知り得る唯一の事件関係者小林厚子を訪ねるため横浜に出向くが、事件後、病床に伏していたという厚子に面会した秋山は、彼女がかつて、北海道の札幌で教師をやっていた秋山の教え子の一人だった事を知り驚愕する。

しかし、彼女から何の成果も得られず帰宅した秋山は、夫を事故で亡くした妹の長男で6歳の夏夫を預かっていたのだが、なかなか面倒を見てやれない事を反省し、その子をお手伝いさんが知っている幼稚園聖セレジオホームに託す事にする。

そんな秋山の自宅に押し掛けて来たのは、原島だった。

彼は、リミットの遺体のポケットから地下鉄の切符が出て来ており、これは、偽ドルや麻薬の受け取りとして使われているらしいとの情報を教え、自分達と一緒に事件究明をやらないかと、秋山に持ちかけるのだった。

後日、その原島から、厚子の容態が思わしくないとの連絡を受けた秋山は、彼と共にすぐに横浜に飛ぶが、瀕死の状態だった厚子は、死ぬ前のリミットが「自分はからさわに狙われている」と「やっぱりザンメル」という謎の言葉を残していたと彼らに告げ終えた直後、事切れてしまう。

その厚子が、秋山の妻の事を同情した言葉を聞いた原島は、通夜の場となった厚子の部屋で、その意味を秋山本人に尋ねる。

南方から復員し、札幌の女学校の教師となった秋山は、里枝という女性と結婚したが、その妻は、ある日、買い物籠を持って出かけたまま帰って来ず、その後、米軍キャンプ裏で乱暴された死体として発見されていた。

表向き、犯人と思しき兵隊たちは、その後、朝鮮戦争へ送られ、全員死んだのだと言う。

しかし、秋山は、その事件の真相を究明するため、今の仕事に付いたのだった。

その後、偽ドル等の製造は、スパイの謀略として行われる事が多く、日本の稲田登戸陸軍技術研究所と言う所でもかつて、ドイツ製の印刷機を使って大量の偽紙幣を作っていた事を知った秋山たちは、その部隊の生き残りと思しき伊集院少佐という人物を追い掛けてみる事にする。

秋山は、伊集院の一人娘和子(芦川いづみ)を訪ねる。
彼女の証言によると、終戦の翌年、海に釣りに行くと出かけたまま、父親は行方不明になったのだと言う。

一方、印刷所関係を調査していた原島たちは、生前のリミット曹長も、この伊集院を追って調査していた事実と、行方知れずになっているドイツの印刷機の正式名が「ザンメル」という事を突き止める。

さらに、原島は、調査している自分達の行動を監視する何者かが動いている事にも気づくのだった。

後日、再び和子に会いに行った秋山は、実は、リミットが自分の所にもやって来ていた事、父親はMPの何者かに拉致されて行ったのを自分が見ていた事実を、涸沢英三郎という人物に口止めされていた事を、彼女から打ち明けられる。

その涸沢なる人物は、キャメル機関の元憲兵で、下山事件の直後、事件現場に出没して、証拠隠滅を計ったらしい事実等を、黒崎から教えられる。

さらに、振興会事件に絡んでいたK・ロベルト(ハロルド・コンウェイ)と、そこの財務主任だったカール・ハドソンなる、謎の外国人の影も浮かび上がって来る。

これらの事件も又、当時追っていた警察の書類が、ある日いきなり現れたスパイ機関員らしき外国人に全て持ち去られてしまったのだと言う。

黒崎から教えられた唐沢の部下で、今は自動車修理工をやっている佐々木(佐野浅夫)という男を訪ねた秋山や原島だったが、彼は、中野学校の仲間にさそわれて涸沢の謀略機関に参加したが、そのあまりに理想とはかけ離れた汚い仕事振りに嫌気が差し辞めたのだと言う。

その後、秋山の自宅を訪れて来た和子に、秋山は、元スパイ機関員たちは、戦後も偽札作りや麻薬の流通を続けており、そこから得た膨大な資金は、兵器購入等に当てられているらしいとの推測を話して聞かせる。

その後、秋山と原島らは、再び会った佐々木から、リミットが死ぬ前に、ビルマ、ベトナムから香港経由で麻薬を輸入するルートを調査するため、香港に行っていた事を聞かされるが、その事を涸沢にしゃべってしまった事が、リミットを死に追いやったのだと糾弾するや、佐々木は自分の軽率さを悔やみはじめるのだった。

その後、佐々木は、川崎で死体となって発見される。

その葬式に出かけた秋山と原島は、佐々木の妻(北林谷栄)から責められ立ち往生するが、以前、K・ロベルトと会話している所を目撃していた涸沢本人(大滝秀治)が、堂々とやって来る姿を目の当たりにする。

そんなある日、秋山は、ポラック中尉から、突然の調査中止を命ぜられる。
その説明を求めても何も答えないポラックの姿に絶望した秋山は、キャンプを辞める決意をするのだった。

さらに後日、夏夫の幼稚園の先生で、その後、ユニヴァーサル航空のスチュワーデスに採用されたと喜んでいた椎名加代子(西原泰子)が、殺されると言う事件が発生する。

K・ロベルトがユニヴァーサル航空の社長と接点があった事を知っていた秋山は、彼女の事件の背後にも、スパイの謀略の影を感じ取るが、参考人として警察に任意同行を求められていたルイス・サミュエル(ガンター・ブラウン)なる修道士は、体調を崩し入院したと知らされた後、警察に何の連絡もないまま本国に帰国してしまう。

これまで、度重なるアメリカによる捜査妨害をに苦汁を舐めさせられていた捜査部長(加藤嘉)だったが、何事もなかったように取り繕う警視総監(下元勉)の前にあっては、今回も又、何も言い返す事は出来なかった。

時が流れ、秋山は、沖縄に転勤したスペンサー大佐から、当地で土産物店を経営する珍陽星なる人物にリミットが会いに来ていた事実と、その珍こそ伊集院ではないかと書かれた手紙を、元同僚だった服部(平田守)から見せられる。

それからしばらくして、秋山は和子を呼出すと、今度一旅行者として沖縄に出かけてみると告げるのだが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

戦後起こった幾つかの有名な事件を、ある仮説を元に結び付けたミステリー仕立てのドラマ。

無数の蟻が蠢く画面いっぱいに広がる白い紙が、左側から燃えて来る炎に黒く塗りつぶされて行くように見える斬新なデザインのタイトルバックから、ドキュメンタリータッチのコントラストの強い白黒画像まで、全編を貫くそのインパクトのある画面構成に揺るぎはなく、臨場感を高めている。

松本清張の作品でも取り上げられたスチュワーデス殺害事件や偽札事件などが、この作品でも取り上げられているので、あたかも社会派推理もののを観ているような印象がある。

アメリカ軍の基地で働きながら、自らの暗い過去を背負っている事もあり、何時まで経ってもそこの雰囲気に馴染めず、浮いた存在である秋山を演じる宇野重吉の、一見弱そうな外見とは裏腹な、強靱な精神的な芯を感じさせる存在感が圧巻。

一方、度重なる米軍絡みの事件を捜査しながら、その度に、見えない権力に妨害されてしまう無力な日本警察側の人間を演じる鈴木瑞穂や加藤嘉の演技も印象的。

無気味な裏権力の象徴のような人物を演じている大滝秀治も強烈。

戦後、表面上は独立したかに見えながら、その実、一部の組織や国の暗躍を許している日本という国のぜい弱さをあぶり出そうとするその姿勢は、その真実性はともかく、ある種の説得力と迫力を持って迫って来る。

フィクションとしても、見ごたえは十分である。

こういう野心的な素材を、映画会社が許していた時代があったと言う事自体、今考えるとうらやましく思える。