1958年、大映東京、二木悦子原作、高岩肇原作、島耕二監督作品。
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国立音楽大学在学中の二木悦子(二木多鶴子)は、ペットの黒猫チミを連れて、新しい下宿先を探していたが、道に迷ってしまう。
やっと、親切なおじいさんに、寺の反対側だと教えられ、ようやく、お目当ての箱崎医院へ到着すると、兄で植物学を研究している雄太郎(石井竜一)が待ちくたびれていた。
二人は医院の玄関を開けようとして、ちょうど家を出かかっていた祖母(浦辺粂子)とぶつかり、彼女が持っていた手紙が落ちてしまう。
その手紙には、平坂勝也という宛先が書いてあったのを悦子は見てしまう。
実は、悦子は、当病院の院長箱崎(花布辰男)の幼い娘、幸子(坂倉春江)にピアノを教える家庭教師として、兄と一緒に、空いている病室の一つ8号室を下宿代わりに貸してもらえる事になっていたのだ。
彼女ら兄妹を出迎えてくれた院長は、8号室は西日が入るからと言って、7号室を勧めてくれる。
その7号室の前の部屋には、妻らしき女性を平手打ちする不愉快な男がいるのを目撃。
聞けば、その男は、ここで手術を受けた盲腸の経過が思わしくないといい再入院して来た、美術骨董商の平坂(高松英郎)と言うらしい。
そんな悦子らに、夕食を家族と一緒に取らないかと誘いに来てくれたのは、ちょっとツンツンした若い女性。
何でも、院長婦人の姪のゆり子(金田一敦子)といい、早くも、チミと悦子に慣れてしまった幸子がいうには、最近、大切な箱をなくしてしまって機嫌が悪いのだと言う。
その夜、院長の長男、英一(八木沢敏)らと夕食を共にした翌朝、悦子は、出かけようとしていた平坂とぶつかり、彼は愛用のパイプを落としてしまったので、詫びながら悦子が拾って渡す事になる。
その後、病院内を散策していた悦子は、何者かが納戸に閉じ込められているのに気づき、鍵を開けてやると、中なら出て来たのは祖母であった。彼女は、何やら、包みを持っており、恥ずかしいので、この事は誰にも言わないでくれと念を押すのであった。
その後、悦子は、幸子が、チミがいなくなったと探しているのに出会う。
悦子は、気晴らしにドライブにでも出かけようと、 兄雄太郎にレンタカーを借りて来てくれるよう頼むが、結局、レンタカーは全部貸出中だというので、仕方なく、兄と外で一緒に食事をする事にする。
一方、その夜から平松がいなくなったと、妻が周囲の人間たちに聞いて廻っていたが、誰も心当たりがないし、不思議な事に、祖母の姿も見かけなくなる。
みんなが不思議がっている中、電話がかかってき、それを受けた悦子は、3週間くらい名古屋に出かけるので戻らないと妻に伝えてくれと言う平松の声を聞く事になる。
翌朝、悦子は、おねしょしてしまった幸子の布団が干されているのを見る。
その側で、悦子は恥ずかしそうに、毎晩、起こしてくれるはずの母親が、夕べに限って起こしてくれなかったからだと、可愛い言い訳をしている。
そんな幸子と、庭にある防空ごうに気づいた悦子は、中に入ってみるのだが、そこに、祖母の死体を発見する事になる。
その死体の側には、ゆり子がなくしたと言っていた箱根細工の箱と、平坂愛用のパイプが落ちていた。
祖母の死体を、異変を知り集まって来た院長らが運び出しているのを見ていたゆり子は、気分が悪くなり、自室へ帰ったので、彼女に箱を渡した悦子は、後に彼女の部屋を訪ねて見ると、何と、彼女は何やら薬を飲んで自殺しようとしているではないか。
とっさに止めて、気持ちを落ち着けるように助言した悦子だったが、そのすぐ後、どこかへ出かけてしまうゆり子の姿を見る事になる。
警察が到着し、家族の事情聴取が始まると、院長は、今は行方不明になっている敬介という次男がいる事を明かす。
その後、警視庁から到着した捜査員の峰岸(北原義郎)は、二木兄妹の姿を見ると、彼らが二木警部の子供達である事に気づく。彼らは互いに良く知る間柄であったのだ。
調査の結果、防空壕には抜け道があり、裏の寺の墓場に通じている事や、祖母が持っていたはずの江戸時代の茶壺もなくなっている事が判明。
さらに、いなくなっていた猫のチミが帰って来た事に、悦子は気づく。
その数日後、兄、雄太郎が、箱崎医院の間取りとそっくりな図面を使った小説の載った雑誌を見つけて来て、その作者、「かさいあきら」なる人物を訪ねてみる事にする。
想像通り、その男は、行方不明の次男、敬介(品川隆二)だと思われた。
そして、謎めいた行動をするゆり子は、この敬介を愛しているのだと、悦子は女の直感で悟るのだった。
さらに、悦子は、自分が受けた平坂からの電話の謎を解くため、音楽大学へ行き、友人の悠子(千早景以子)に頼んで、彼女の歌声をテープレコーダーに吹き込むのだった…。
悦子の頭の中では、少しづつ事件の謎が解きほぐされていたが、平坂の行方はその後も杳として知れなかった。
そんな中、入院患者の一人が、事件の夜、誰もいるはずのない手術室から、話声が聞こえて来たと言う新たな証言をしだす…。
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身体にハンデを持つ作者の江戸川乱歩賞第3回(作品的には最初の)受賞作で、松本清張の「点と線」と共に、一大ミステリーブームを巻き起こすきっかけとなった原作の映画化作品。
何せ、原作を読んだのが何十年も前で、その内容自体をすっかり忘れてしまっていたので、ネットでざっと調べてみた所、探偵役は本来、兄雄太郎であった所を、妹の悦子に変更してある以外は、ストーリー的にはほぼ忠実に再現してあるようだ。
その主役悦子を演じる二木多鶴子という人は、この作品から本名の鶴田和子を改めたらしく、何と、物語の悦子同様、国立音楽大学を出た女優さんだったらしい。
出演作が少なく、すぐに芸能界を引退されたらしいので、今回はじめてその存在を知った。
特に美人とか、ハッキリとした個性のある人といった感じではなく、その素人っぽい感じがこの作品に合っているとも言えるが、正直、印象は弱い。
又、悦子を主役にしてしまった事から、兄、雄太郎の存在理由自体も意味がほとんどなくなってしまい、そのもっさりとした感じの風貌も相まって、原作の雄太郎ファンには不評だったのではないだろうか。
ただし、雄太郎を今風の美形俳優が演じていたとしたら、この兄妹のあまりに親し気な関係は、画面上、何やら妖し気な雰囲気の「萌えキャラ探偵もの」になってしまっていた可能性があり、当時としては、そういう雰囲気になるのを嫌ったのかも知れない。
前半は、いかにも、明るい画調と軽やかな音楽で都会派風の軽いタッチで描かれているのに対し、後半になると、ちょっと古めかしい演出が加わり、おどろおどろしくなるのが御愛嬌。
原作の素人探偵という設定や機械トリックは、やはり画面で観ると、その不自然さが目立ってしまった印象がある。
ほとんど有名な俳優が登場せず、全体的に地味な感じがするが、本格謎解きとしては、それなりにしっかり作られている。
テレビ版「忍びの者」や、「素浪人 月影兵庫」の焼津の半次で知られる品川隆二が出ているのが、ちょっと珍しかった。
