1956年、東映東京、横溝正史原作、比佐芳武脚本、小林恒夫+小沢茂弘監督作品。
カラスが枯れ枝に留まる無気味な湖畔に、鐘の音が響く。
どこかの地方に立つ三重ノ塔。
その各階には無気味な頭像が祭られており、その一番階上では、一人の僧(加賀邦男)が、頭像を拝みながら「高頭省三!」と叫んでいた。
新聞に、サクラメントに住んでいたジョージ斉田という日系人が、300万ドル稼いで亡くなったと言う記事が大きく載る。
日本円にして、その約10億の遺産が宙に浮く恐れがあるとも。
上杉欣吉(宇佐見淳)の屋敷を訪れた、黒川(小沢栄)と名乗る弁護士は、上杉夫婦と、ちょうど一緒にいた上杉の義弟で日東商事の社長、佐竹健彦(三条雅也)に、サクラメントで亡くなったジョージ斉田とは佐竹玄蔵(吉田義夫)の事であり、その玄蔵は、上杉夫妻が養女として育てて来た姉の娘宮本音弥(中原ひとみ)に、その全財産を残したと伝える。
ただし、それには条件があり、音弥が、省三の孫の高頭俊作と言う男と結婚しなければ成立せず、それが叶わなければ、第二の遺言状が有効になると言う。
その数日後、東京会館で行われた上杉の還暦パーティに、高頭俊作と会うために訪れていた音弥は、堀井敬三(南原伸二)と名乗る見知らぬ青年から「俺がいる限り、結婚は出来ない」と声をかけられる。
その後、パーティの余興として、大勢の来客の前で披露されていた踊子の一人笠原操(鶴実千子)が突然倒れ伏してしまう。
急ぎ、操の身体を控え室に抱え込んで来た健彦だったが、突然その部屋に入り込んで来た見知らぬ中年男から、すでに絶命していると告げられる。
その中年男こそ、名探偵の金田一耕助(片岡千恵蔵)その人だった。
彼は、たまたま友人を訪ねてこのホテルのグリルにいて、事件を目撃していたのであった。
一緒に踊っていた笠原薫(浦里はるみ)の証言から、死んだ操は、舞台に立つ直前に、贈り物として置いてあったチョコレートを食べたのだと言う。
関係者が集まっていたその部屋に、金田一の盟友、等々力警部(佐々木孝丸)が到着した直後、今度は、3号室で見知らぬ若者が死亡しているとボーイが告げに来る。
その若者の遺体の側にもチョコレートの銀紙が落ちており、さらに、その男の右腕には「俊作、音弥」を書かれた刺青があったので、高頭俊作だと知れる。
金田一探偵事務所では、金田一が、東京会館での二人の被害者に使われた毒物が同一のものである事、さらに高頭俊作は、窃盗、脅迫など2件の前科があった事を突き止めていた。
一方、聞き込みに出かけていた助手の白木静子(高千穂ひづる)は、上杉家の近くのタバコ屋で、27、8の男が盛んに音弥の事を聞いていたと言う情報を得、金田一から、さらなる聞き込みの続行を依頼される。
その後、黒川弁護士と面談した金田一は、互いに捜査強力をする事を約束した上で、半世紀前、佐竹玄蔵は高頭省三と共に、竹田大二(沢田影謙)に騙された恨みから、その竹田を一人で殺害した殺人強盗の罪を背負っており、その罪滅ぼしの意味で、今回の遺言状の内容になったのだと説明し、上杉の4つ違いで亡くなった弟、彦太の親戚の調査などを依頼するのであった。
その頃、白木静子は、タバコ屋の証言から、上杉家の様子をさぐっている謎の男はレインコートを着ていた事実を突き止め、すぐに問題の男を発見したので、8mmでその動向を記録する事に成功する。
そのレインコートの男、堀井敬三は、音弥を井の頭公園に呼出すと、すぐさま彼女に家を出るよう迫るのだった。
数日後、黒川弁護士は、俊作と音弥が結婚すると言う最初の遺言状が無効となったので、第二の遺言状を伝えるため、その関係者一同を集める。
佐竹建彦、彦太の孫、笠原薫、玄蔵の亡弟彦太の末娘でバーのマダム島原明美(三浦光子)、その支配人古坂(片岡栄二郎)、同じく孫の女剣劇佐竹由香利(日野明子)、キャバレーを経営する根岸蝶子(牧幸子)花子(宮田悦子)姉妹と義父志賀雷三(永田靖)、興行主をやっている鬼堂庄七(稲葉義男)、そして、音弥の前で、黒川は、新しい遺言状では、二分の一が音弥、残りを親戚関係になる6人で均等に分配する事になっていると発表する。
当然、その内の誰かが死亡すれば、残りの人間がもらう分は増える理屈になる。
そんな中、健彦は権利を放棄し、自分の分を亡くなった操に与えたるつもりで、薫に譲ると言い出す。
その会合の後、家に戻ろうとタクシーを拾った音弥は、違った道を走り出した運転手が、あの堀井敬三である事に気づく。
音弥失踪の連絡を受けた金田一と等々力警部らは、偶然、白木静子が目撃していたタクシーのナンバーから手配をし、乗り捨ててあったタクシーと、それをタクシー会社から借り受けたと言う堀井敬三のアパートは発見するが、音弥の行方は杳として知れなかった。
それから数日後、島原明美のバーに、志賀雷三の使いの者からジョニ黒が届いたと古坂が勧めるので、それを飲んだ明美は苦悶の末絶命する。
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御大片岡千恵蔵が名探偵金田一耕助を演じるシリーズ第6作で、これが千恵蔵版としては最終作となる。
このシリーズでは、金田一には白木静子と言う助手がレギュラーとして付いており、本作でその役を演じているのは高千穂ひづる。
膨大な遺産を巡る連続殺人という、動機そのものは凡庸だが、横溝原作ものらしく、複雑な姻戚関係や、因縁めいた過去の話、さらに、三つの首が祭られた無気味な三重ノ塔など独特の舞台設定が絡み、ムードを盛り上げる。
突然、莫大な遺産を受け継ぐ事になった可憐な少女を演ずるは中原ひとみ。
後年の市川崑監督による一連のシリーズのような陰惨さやどぎつさはあまりなく、むしろ、通俗味が強い普通の捜査もののような感じになっている。
金田一は、銀座辺りに自分の探偵事務所を持っており、そこで白衣を着て、毒物の分析等を自分でやっていたりする。
普段も、でっぷりと肥えた身体を背広とソフト帽に包んだ、原作のイメージとはかなりかけ離れた姿で登場する。
金田一と言うよりは、どう観ても多羅尾伴内である。
クライマックスの、御大のアクションも見物。
