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黒の試走車

1962年、大映東京、梶山季之原作、舟橋和郎+石松愛弘脚本、増村保造監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

業界では二流クラスのタイガー自動車企画第一課部長小野田(高松英郎)は、他社に先駆けて開発して来たスポーツカー「パイオニア」のテスト走行を、車に黒いカバーをかけて、とある目立たぬ山道で行っていた。

しかし、その様子はしっかり業界紙の記者に盗み撮りされており、さらに悪い事に、カーブでハンドルを取られた試走車は、道から外れ横転、炎上してしまう。

翌日、でかでかとその写真を掲載されてしまったタイガー自動車の重役会議では、日本でのスポーツカー開発に対する疑問の声さえ上がるが、小野田が、産業スパイに気づかなかった自分のミスを詫びると共に、それでも何とか、パイオニアを販売して欲しいと力説する。

今回の試走車実験の情報が漏れたのは、元関東軍特務機関の軍事スパイだったと言うライバル会社ヤマト自動車の重役馬渡(菅井一郎)の仕業と推測された。

病床の社長の許可が降り、ついにパイオニア生産が開始されるが、それと同時に、産業スパイを業務とする1課では、重役連中の中にいると思しきスパイを特定するために、スポーツカーと言う事を隠し、普通の大衆車と偽装したパイオニアの書類を作り上げ、それを35人の重役たちに配る事にする。

一方、小野田は自分の後継ぎと認めている部下の朝比奈(田宮二郎)を伴い、馬渡が通っているバー「パンドラ」に出かけ様子を探る。

その夜、帰宅した朝比奈は、恋人でバーのホステスをしている昌子(叶順子)に、「パンドラ」に勤めて、馬渡の動静を探ってくれと頼み込むのだった。

会社や仕事の事しか考えていない朝比奈の申し出に驚愕した昌子だったが、結婚をちらつかせる彼の態度に太刀打ちできず、結局「パンドラ」に勤める事になるが、彼女を見た馬渡は、満州で妻と共に亡くした一人娘に似ていると、昌子の事を一目で気に入った様子。

同時に、昌子はそこで、馬渡がパイオニアの秘密書類らしきものを見ていた事、さらに、タイガー自動車の専務の甥で専務秘書をしている島本(見明凡太郎)の姿を発見する。

馬渡が、こちらが重役に配った秘密書類をすでに手にしていたと分かった小野田は、さっそく、社内の重役たちから、配った書類を回収してみるが、不思議な事に35冊全て戻ってくる。

この作戦に失敗した事を悟った小野田だったが、朝比奈は、自ら志願して、馬渡にデザインを売り付ける芝居をするが、相手は、すでに、朝比奈の正体も、パイオニアがスポーツカーである事も全て見抜いていた。

一方、情報屋の的場(上田吉二郎)から、ヤマトも新車の開発をしていると聞いた小野田は、ヤマトもスポーツカーを出す可能性が有りと睨み、部下たちを使って、何とかその情報を手にするようするが、どうしても核心部分を手に入れる事は出来なかった。

しかし、小野田は、コピー機屋(中条静夫)が、ヤマトのデザイン課長森一男(酒井三郎)に、マージンを取られている話を元に、最後の手段として、森を買収しようとする。

出社途中の森を拉致し、半ば脅迫まがいで新車のデザインを入手する事はできたが、その小野田のあくどい手段に、部下たち、特に、朝比奈は強烈な違和感を感じる事になる。

判明したヤマトの新車は、何と、パイオニアそっくりのスポーツカーだった。
イタリアのミケランジェロに依頼した高額なデザインをそっくり盗まれていたのだ。

ここにいたり、社内の産業スパイは、デザインを知り得る立場にいる7人の重役の中にいる事が分かる。

かくなる上は、価格競争で優位に立つしかないと判断した小野田は、ヤマト側の販売価格を知ろうとするが、的場が、朝比奈たちに、ヤマトの会議室が覗ける向側のビルのトイレの場所を教える。

そんな中、入院している社長の主任看護婦が、社長室に訪れた社員たちの会話を盗聴していた事実を知った小野田たちは、その看護婦を問いつめ、専務秘書の島本の名を聞き出すと、島本を左遷してしまう。

トイレから、ヤマト側の会議室の様子を8mm撮影し、読心術師を呼んで、相手がしゃべっている内容を聞き取ろうと考案した朝比奈は、見事に、馬渡の発言内容を録画する事に成功するが、分かったのは、「新車の価格を百万プラスXとする 」という、極めて曖昧なものだった。

がっかりする小野田の態度を観た朝比奈は、心を鬼にして、恋人の昌子に、馬渡とホテルで寝て、彼のカバンの中から、価格の情報を盗み出してくれと切り出すのだった。

昌子はその言葉に従い、知り得た数字を彼に教えると、そのまま、彼の元から去って行く事になる。

かくして、両者同時の発売当日、新聞に並んで出た互いのスポーツカーの価格はタイガー側が安く、各地の営業所には注文が殺到するが、そんな中、売れたばかりのパイオニアの新車が、特急つばめと踏み切り事故を起こしたと言うニュースが飛び込んでくる。

調査した結果、その事故車には何の欠陥も見つからず、しかも、通常では手に入れにくい第1号車だと知った小野田たちは、この事故の裏には、馬渡の陰謀があると勘付き、彼と通じている社内のスパイが、実は島本ではなく、意外な別な人物である事を知る事になるのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

夭折した梶山季之の小説を映画化したもので、ライバル企業同士の壮絶な産業スパイ合戦を描いた異色サスペンス。

手段を選ばぬ企業戦士として高松英郎が、「巨人と玩具」(1958)と似たようなキャラクターを演じている。

その高松演ずる部長から自分の後継者候補と期待され、自らの恋人さえ利用しようとする男を演じているのが田宮二郎。

彼は、当初、「会社のため」という美名の元なら何をやっても正しいと思って行っていた自らの行為に段々疑問を持ちはじめる…。

元軍事スパイ上がりの凄腕ライバルに扮している菅井一郎の存在感もなかなか。

今でも、たまに聞く事はあるが、 一般に「産業スパイ」なる言葉は馴染みが薄い素材ではないだろうか。

この作品では、その実態を、サスペンスフルかつリアルに浮かび上がらせている。