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古都

1963年、松竹京都、川端康成原作、権藤利英脚本、中村登監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

京都四条通りに程近い町屋に居を構える呉服問屋佐田太吉郎(宮口精二)には、千重子(岩下志麻)という一人娘があった。

太吉郎は、商売は番頭(田中春男)まかせで、自分は、する必要のない下絵描きなどに励む言うなれば、完全な趣味人。

しかし千重子は、そんな父親を敬愛しており、仕事場の喧噪に神経を逆なでされいる父吉郎の様子を見かねた彼女は、どこか静かな寺でも借りて、下絵を描いたらどうかと勧めてみる。

そんな千重子に、同じ呉服を商っている辰村の次男で、幼馴染みの真一(早川保)に電話で誘われ、平安神宮に遊びに出かける。

そこで、友人の真砂子(環三千世)と出会うが、そのまま、真一と清水寺まで足を延ばしてみた千重子は、実は自分は、ベンガラ格子の前に捨てられていた捨て子なのだと突然言い出す。

その後、嵯峨の尼寺に部屋を借りる事になった太吉郎を訪ねた千重子は、下絵の参考になればとクレーの画集を手渡すのだった。

売り物にならない自分の下絵の図柄の着物を着てくれている千重子を愛でるように眺めながら、太吉郎は、千重子から問われるままに、20年前、妻(中村芳子)と共に祇園の夜桜を見に行った折、木ノ下に置かれ、自分達を観て微笑みかけた赤ん坊だった中村芳子を拾って来て、そのまま育てて来てしまった話を聞かせるのだった。

しかし、家にいる母親の説明は微妙に違っていたので、中村芳子は、捨て子だった自分をみじめに感じさせないために、両親が各々、嘘を言っているのだと判断する。

西陣にある馴染みの手織り職人(東野英治郎)の家を訪ねた太吉郎は、クレーの絵をヒントに描いた下図を織ってくれないかと依頼する。

職人は、息子の秀男(長門裕之)に織らせてみようと、彼に下絵を見せるが、仕事に疲れていた秀男は、つい「心の調和がない。荒れて病的だ」と率直な意見を述べてしまい、逆上した太吉郎は、秀男を平手打ちした後、持って来た下絵を破り、小川に投げ捨てて帰ってしまう。

そんな事は知らない千重子は、真砂子と連れ立って北山杉を観に出かけるが、そこで、千重子そっくりの娘を真砂子が発見する。

さらに、その後の夏の祇園祭の時、一人で出かけていた千重子は、再び、その娘が、熱心に願掛けしている姿を発見し、相手も千重子に気づく。

苗子(岩下志麻-二役)と名乗ったその娘は、自分に売り二つの千重子を長年探していた自分の姉だと思い込んだようで、訳を聞いてみると、父は北山杉の枝打ちをしている途中で、木から落下して死亡、母もその後亡くなって、今は自分一人で杉山で働いているのだと言う。

その時はそれきり別れた二人だったが、その際、人込の中で苗子とばったり出会った秀男が、彼女を自分と間違えて話し掛けている様子を遠くから目撃した千重子は、いたたまれなくなって、別の道を帰る途中、真一と出会い、連れ立っていた兄の竜助(吉田輝雄)を紹介される。

一方、太吉郎の方は、まだ年若い娘を連れた御茶屋中里の女将(浪花千栄子)と道で出会い、若い娘に興味を引かれた事もあり、そのまま御茶屋に遊びに行く。

それからしばらくして、千重子の元を訪れた秀男は、祇園祭の時約束した、彼女のために織るつもりの帯の図案を見てくれと言うのだが、千重子は、祇園祭の時の女性は、自分の妹なので、彼女のために織って、それを北山に住む彼女に届けて欲しいと打ち明けるのだった。

千重子に秘かに思いを寄せていた秀男は、その申し出に複雑な気持ちで承知するしかなかった。

しばらくして、北山の苗子を訪ねた千重子は、案内してもらっていた杉山の中で、突然の雷雨に会い、互いに抱きしめ合う内に、自分達が本当の姉妹だった事を確信する。

帰宅した千重子は、苗子と会った事を母親に打ち明ける。
母親はその事を静かに受け止めると共に、夫は商売に向かない「夢見る人」であるので、もうこの仕事をたたんで、小さな暮らしに切り替えても良いのだと打ち明ける。

その後、辰村の店に真砂子と出かけた千重子は、竜助と再会し、彼から、最近、お宅の店が調子悪いのは、まかせっきりにしている従業員に問題があるのではないか、帳簿の検査等した方が良いのではないかと助言を受けたので、自分がやらねばと決意した千重子は、後継ぎの勉強のためと称して、番頭に帳簿を見せてくれと迫るのだった。

後日、秀男は織り上がった帯を北山の苗子に届けるが、少し話をする内に、身分違いだから千重子には手を出すなと父親から釘をさされていた秀男は、売り二つの容貌を持つ苗子に千重子の姿を重ねるようになって行く。

時代祭の日に会う約束をした秀男と苗子の逢瀬を目撃した真一は、その事で千重子に電話を入れるが、竜助も伴い、一緒に食事をした際、千重子は、その娘は自分ではなく、双子の妹なのだと打ち明けるのだった。

その後、辰村の主人(柳永二郎)から、千重子に思いを寄せるようになった長男の竜助をお宅で働かせてみてくれないかと依頼された太吉郎は、娘との付き合いは本人同士の意思に任せるにせよ、働いてもらう事自体はかまわないと承諾する。

ある夜、かねてより、一度、家に泊まりに来て欲しいと千重子が頼んでいた苗子が訪ねてくる。

その夜、一つ布団で寝た二人は、互いの気持ちを打ち明けはじめる。

苗子は、これ以上千重子の生活に入り込んで、姉の生活に迷惑をかけるつもりはない事。
秀男に求婚されたが、彼は自分の姿に、本当に好きな千重子の幻影を見ているに過ぎない事は女の直感で分かるので、受け入れるつもりはないと話し、千重子はそんな苗子に、秀男と結婚しなさい、自分も別の人と結婚するつもりだと打ち明けるのだった。

翌朝、雪の通りに出た苗子は、千重子に一言「さようなら!」と告げて、去って行くのであった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

美しい京都の四季折々の風景を背景に、一人の裕福な家に育った娘が、突然の自分の出生の秘密と向き合う事になり、その事をきっかけに、自ら、積極的な生き方に変えて行く有り様を描いた文芸作品。

当時、22才くらいだった岩下志麻は美しさの絶頂期にあり、上品な商家の娘役と、山育ちの朴訥な娘の二役を見事に演じ分けている。

二人が同時に画面に登場する合成シーンもいくつかあるが、不自然さは全くない。

又、一方で、商才がなく、趣味人として晩年を過ごしている父、太吉郎の飄々とした生き方も平行して描いてあり、こちらも興味深い。

千重子に思いを寄せる一本気な職人を演じている長門裕之も印象的だが、ちょっと秀才風の役柄を演じている吉田輝男も珍しい。

ちょっと、小ずるそうな番頭を演じている田中春男、頑固な老職人を演じる東野英治郎、御茶屋の女将役の浪花千栄子と、いかにも適材適所のキャスティングといった感じで、安心して観ていられる内容になっている。

京都の風景を切り取るキャメラも美しく、静かな内容ながら、全編緊張感に溢れ、最後まで飽きる事はない。

名品の一本だと思う。