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河内カルメン

1966年、日活、今東光原作、三木克己脚本、鈴木清順監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

河内の山奥に住む露子(野川由美子)は、カルメンのように白いバラを口に加え、自転車に乗って近くの町まで降りて来たところで、季節外れの時期に大学から帰省して来たらしい工場の息子坂田(和田浩二)に出会う。

互いに以前から意識しあっていた仲だったので、自然に、二人きりになりキスをかわしてしまうが、それを近くで盗み見ていたのが、子供時分より露子に惚れていた地元の悪ガキ(野呂圭介ら)であった。

悪ガキたちは、ここままでは露子を工場のボンに取られてしまうと、彰と別れた露子をさらい、そのまま乱暴してしまう。

身も心もずたずたにされた露子は、そのまま山の中の自宅に帰るが、待っていたのは、酒浸りで、娘の異常にも関心を寄せない父親(日野道夫)と、亭主が側にいるのに、平気で不動院の妖し気な山伏(桑山正一)を自宅に入れて寝ている自堕落な母親(宮城千賀子)の姿だった。

たまらなくなった露子は、一人でドラム缶風呂に入って、妹の仙子(伊藤るり子)に、一緒に大阪に出ないかと誘うが、仙子は乗って来ない。

それからしばらくして、学校の2年先輩で、先にキャバレー勤めしていた雪江(松尾嘉代)を頼って、同じ店「ダダ」で働くようになった露子だったが、最初の夜に、同じ河内の出身と言う中年男勘やん(佐野浅夫)に出会った嬉しさから、はめを外したあげく、飲みなれない酒に酔ったまま、その男とホテルに行ってしまう。

後から、その信用金庫勤めの勘やんが、河内出身だったと言う話もデタラメだった事を知った露子は、自分の軽はずみからそんな彼と関係ができてしまった事を後悔するが、その後、勘やんは、毎日のように露子を慕って店の前に来るようになる。

その夏、キャバレーの慰安で出かけたプールで、露子は旧友だったお稲こと杉田稲子(和田悦子)と偶然再会し、彼女が鹿島クラブというファッションクラブでモデルをしており、露子もモデルにならないかと誘われる。

とある雨の日、ダダの店の前で、ずぶ濡れになっているにもかかわらず、相変わらず彼女の帰りを待っていた勘やんの哀れな姿を見た露子は、すでに金の使い込みがばれて信用金庫を首になり、帰る所もないという彼を、同情心もあり、何となく自宅アパートへ連れて来てそのままズルズルと同棲生活を始めるようになる。

一緒に暮しはじめてみると、勘やんの露子に対する献身振りは尋常ではなく、かいがいしくヒモとなりきるその姿を見た露子は、その愛情が本物である事に気づき出すのだった。

しかし、露子は鹿島クラブを訪ね、モデルとしての生活を始める事になる。

そこの女社長鹿島(楠侑子)から、自分の家の手伝いとして来ないかと誘われた露子は、どこかに別れたくないと言う気持ちを振り切りながら、勘やんと別れる決意をする。

勘やんは、意外にあっさりその露子の申し出を受け入れ、静かに彼女の前から去って行くのだった。

女社長の家に住み込みはじめた露子は、そこに足しげく通ってくる、誠ちゃん(川地民夫)という風変わりな男から、ここの先生は同性愛だから気をつけろと忠告される。

その言葉通り、鹿島から迫られた露子は、訳も分からず、その家を飛び出すと、誠ちゃんのマンションに転がり込む事になる。

誠ちゃんは、どうやら芸術家と言うものらしく、露子がセックスを嫌いだと打ち明けると、素直にその言葉に従い、決して彼女に手を出そうとはしなかった。

久々に羽を伸ばすつもりで出かけた大阪見物のバスの中で、露子は懐かしいボンと再会する。

彼の家の工場は既に潰れ、今や一人で極貧生活をしているという彼ではあったが、初恋の人に会えた嬉しさから、露子は後先も考えず、その貧乏アパートへ転がり込む事になる。

話を聞いてみると、どうやらボンは、生駒山の不動の滝の辺りに源泉があり、そこを掘って一山当てたいと言う夢を持っているらしかった。

しかし、今の彼には、どこにも金を貸してくれる人間等おらず、すっかり彼はふさぎ込んでいたのだった。

その事を打ち明けた誠から、金を出してくれそうなパトロンとして、金貸しの斉藤長兵衛(嵯峨善兵)なる人物を紹介された露子は、愛するボンのためにと、思いきって彼に相談した上で、その男の元へ出かける事になる。

長兵衛は、彼女にマンションの一室を与えると、身体に触れる事はなく、ひたすら彼女を裸にして歩く姿を眺めるだけであった。

後日、時代劇の腰元の衣装を着せられた彼女は、忍者姿の男に襲われる芝居を、その部屋に作られたセットでさせられる。

長兵衛は、その様子を8mmに撮って、ブルーフィルムとして、香港辺りで売っているらしいのだ。

驚いた事に、相手役の忍者はボンであった。

ボンは、長兵衛の会社に乗り込んで、露子との関係を世間にばらされたくなかったら金を出せと迫りながら、相手の方が一枚役者が上で、逆に、そういう事をしなければ金は出せないとつっぱねられた上での行動だった。

あまりにも浅ましい自分達の姿に何もかも嫌になった露子は、ボンと別れ、マンションも誠ちゃんに頼んで売り払ってもらうが、そんな中、香港へ旅立った長兵衛の飛行機が墜落し、彼女はいきなり自由の身と大金を手にする事になる。

その後、山師のボンはどこかで刺し殺されたらしく、又、露子の父親も死亡したと連絡を受けた彼女は、久々に実家へ帰るが、そこで見たのは、不動院の女に成り下がっていた妹、仙子の姿であった。

しかも、何とそれは、母親自身が勧めた関係なのだと聞き、愕然とする露子。

露子は、そんな自堕落な依存生活から抜けだせない妹を救おうと、不動院を誘い出すと、源泉があると言う不動滝への案内をさせるのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

あまりにも貧しい境遇や、男の性の対象にされてしまう弱い女としての自分から抜け出そうと、懸命に一人で人生を切り開こうとする一人の女性の生きざまというか、男遍歴を描く風俗小説の映画化作品。

見事なプロポーションと陽性な美貌をフルに生かし、野川由美子が体当たりの演技を見せている。

かいがいしく女に尽す事で無心の愛を貫こうとするとする中年男を演ずる佐野浅夫や、飄々としたインテリ風の芸術家を演じている川地民夫のキャラクターは、両名とも個性的で印象的。

一方、すっかり甲斐性のない亭主に見切りを付け、自分の身体一つで男を掴み、生き抜こうとする、浅ましいながらもバイタリティ溢れる母親役を演じる宮城千賀子の存在感も貴重。

その母親のバイタリティが、そのまま娘の露子に流れているのを感じさせる所が興味深い。

ちょっと興味を引いたのは、劇中、川地扮する誠ちゃんが、同性愛の女社長の事を「ホモ」だと言っている事。

当時は、同性愛=ホモという言い方だったのだろうか?

純愛に殉じようと尽くしながらも裏切られたり、逆に尽くされる事で目覚める愛に苦しんだり、主人公露子が体験する様々な愛の形。

女教師の家に勤め出した露子を舞台芝居のような照明で撮ってみたり、いくつか鈴木清順監督らしい奇抜さは見えるが、まだ、後年の作品ほど難解さはなく、素直に、主人公に感情移入できる娯楽作品の秀作となっている。