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カルメン純情す

1952年、松竹大船、木下恵介脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

カルメン(高峰秀子)は、浅草のストリッパーだが、自分の仕事を芸術家だと思い込んでいる、少し頭の弱い娘だった。

ある日、彼女がカルメンを模したストリップ芝居を演じている舞台に赤ん坊の鳴き声が響き渡る。

赤ん坊を背負っていたのはカルメンの親友朱実(小林トシ子)だった。

朱実は、好いた男に騙され女剣劇一座に入って九州まで流れたものの、赤ん坊が出来たとたんに、共産党かぶれだった男に逃げられ、暮らしに困り、東京に舞い戻って来たのだという。

とりあえず、カルメンの住む「アパートキャメル」に同居しはじめた朱実だったが、朝から泣きわめく赤ん坊ウララには、カルメンばかりではなく、隣近所からも苦情が耐えない。

かんしゃくを起こしたカルメンは、文句を言っていた隣の部屋に鶏を投げ込んで憂さを晴らす始末。

さすがに見かねた管理人まで注意に来たので、カルメンは、面倒だからそんな赤ん坊は捨てちまえと、無責任なことを言い出す。

面倒をかけていることに引け目のある朱実は、強く言い返すことも出来ず、そのまま、何となく、赤ん坊を捨てに街に出かけてしまう。

一方、「アトリエ・スドウ」とネオンが輝く立派な屋敷では、夜中、突然の目覚まし時計の音に驚いて表に出てみたお手伝いさん(東山千栄子)が、捨て子だと言って赤ん坊を抱えてくる。

怪し気な彫刻を作っている須藤家の長男一(若村雅夫)は、別れた女、細井(北原三枝)の手切れ金目当ての嫌がらせだと思い込み、すぐさま彼女に電話をかけるが、相手は知らない様子。

騒ぎを聞き付け、居間に集まって来た両親(斉藤達雄、村瀬幸子)も困惑顔。

さらに、表で火事があったらしく、消防車のけたたましいサイレンの音まで混じり、一家はパニック状態。

そんな須藤家に戻って来たのは、やっぱり、赤ん坊を捨て切れなかった朱実と、仕方なく、その後を付いて来たカルメン。

かくして、無事、赤ん坊は朱実の元に戻るが、その時、一は、一緒にいたカルメンに目を付け、彼女を自分のアトリエに案内する。

はじめて見る奇妙なオブジェ類の数々に、すっかり魅了されたカルメンは、すぐさまそれらの作品が気に入ったと言い、一からのモデルを頼むかも入れない言う言葉にも快諾して帰るのだった。

一方、カルメンへの一の態度を見かねた両親は、結婚前の軽挙を注意する。
何せ、息子の芸術道楽のためにすっかり財政的に行き詰まった須藤家では、時価300万の土地を持つ佐竹家の出戻り娘、千鳥(淡島千景)との結婚に最後の望みをかけていたのであった。

もちろん女道楽が過ぎる一にしても、カルメンの事など最初から眼中にはない。

明くる日、約束通り朝やって来て、気軽にポーズをとろうと裸になりモデル台に乗ったものの、待ちくたびれて寝てしまっていたカルメンの様子を発見し気に入り、さっそくその様子をデッサンしかかっていた一に、佐竹千鳥の母親で、日本清新党公認候補として立候補しようとしていた女傑、熊子(三好栄子)が、今夜女性たち相手に演説する講演会を聞きに来て、批評してくれと無理強いの電話をしてくる。

仕方なく、カルメンを小型自動車に乗せて佐竹家に向った一だったが、すっかり一に一目惚れしていたカルメンは、二人きりのドライブを満喫して、途中で降りるどころか、そのまま佐竹家まで同乗してしまう。

そこで、きれいな千鳥と出会ったカルメンは、一目で一の彼女だと気づき、すっかり落ち込んで帰ることになる。

佐竹家は、熊子の死んだ亭主が陸軍中将佐竹団四郎だったこともあり、召し使いの元軍曹山下(竹田法一)などは、いまだに軍隊口調でしか動けないし、熊子自身も国会議員になって再軍備を推進しようとしていた。

ところが、娘の千鳥は、そんな家風とはうって変わって、遊びまくっているアプレ。
実は、一とも、すでに15、6回は経験済みと言うなれ合い状態。
互いに打算尽くの結婚なのだった。

その後、高島屋で個展を予定している一の家に、悪友二人が、興味本位でカルメンのモデル振りを見学に朝からやって来る。

すると、どうした訳か、今まで、一の前では平気で裸になっていたカルメンが、急に恥じらいだし、脱ぐのを拒んで逃げ帰ってしまう。

さらに、細井が赤ん坊を連れてやってくる始末。

そんなどたばた騒ぎの後、佐竹熊子が、後学のためストリップと言うものを見てみたいから、一に案内しろと言い出し、仕方なく、一はカルメンが踊っている浅草の劇場に案内するが、一が来ていることを発見したカルメンは恥ずかしがって衣装を脱がなくなり、舞台上のカルメン劇は単なるドタバタ劇に変じてしまう。

興行主は舞台袖でそんなカルメンを叱りつけ、無理矢理裸にさせようとするし、それをかばおうとした朱実は、赤ん坊を背負った姿で、女剣劇の技で対抗するし、その様子を客席から目撃した熊子も出しゃばって、演説を始めるで、もう劇場はムチャクチャ。

結局、ストリップ小屋を首になったカルメンは、朱実に恋をしたのではないかと見すかされ、ストリップなんて、何か変だと、ようやく気づいたカルメンは、これから本当の芸術家になる、と決意を新たにするのだった。

それからというもの、食べるために、朱実はよいとまけの力仕事、カルメンの方は、化粧品の試し台とか殺虫剤「チューコロリ」の宣伝用の着ぐるみを着る毎日。

そんな中、無理して一の展覧会に出かけたカルメンは、自分の思いを託した詩を彼に渡すのだった。

そんな頃、熊子は、一と千鳥の結婚を恨んでやると言う一通の脅迫状を受取っていた。

てっきり、その差出人を、カルメンと思い込んだ熊子は、管理人の紹介で彼女が新しくはじめた食堂「ラッキー」へと乗り込んで行く。

午前中、子供達に混じってバレエの練習をしていたカルメンは、「ラッキー」で待っていた熊子から、あんな身分違いの変な手紙は出すな、金が目当てかといきなり切り出され、自分が渡した詩の手紙の事かと勘違いして、素直に謝ってしまう。

しかし、その後、一の元には、細井の使いが赤ん坊を連れて来てしまい、手切れ金10万円寄越せといわれたので、一はちゃっかり、その金を家にやって来ていた熊子に出させることにする。

カルメンの方も、自分のバレエの練習を見学に来る「ラッキー」の主人と、それにヤキモチを焼いた女房との大げんかを目の当たりにして、食堂の仕事も辞めることにする。

朱実の赤ん坊うららを管理人から受取り、その子を背負ったまま、とっぼとぼと「再軍備反対」のデモ隊の後ろから付いて行ったカルメンは、一と喧嘩して帰ろうとする千鳥とばったり再開。

お人好しの本領を発揮したカルメンは、千鳥に一と仲直りするよう説得すると共に、動かない一の新しい車を、後ろから押してやるサービス振り。

やがて、マジックインキの着ぐるみに入って働いていたカルメンと朱実は、品川で演説中の熊子とその応援をしていた一に遭遇。

さらに、群集の中から弥次を飛ばしていた男が朱実を捨てた男(磯野秋雄)と判明。

揉める朱実、カルメンらの様子を壇上から発見した熊子は、これは政治利用できると判断。
すぐさま、着ぐるみ姿のカルメンに壇上で挨拶してくれと依頼する始末。

訳も分からず、壇上に上がらせられたカルメンは、「一さんを宜しく!」と、頓珍漢な挨拶を繰り返すのであった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

日本初のカラー映画「カルメン故郷に帰る」(1951)の続編に当る作品だが、この映画、画面も白黒なら、内容も前作とはがらりと変わった奇妙な作風のコメディになっている。

木下監督がフランス帰り直後に作った作品らしいが、監督自身が「おフランスの芸術」にかぶれたのか、前作同様、そういうものを皮肉っているのか、珍妙なというか、実験的な手法が多用されている。

まず、画面転換用のワイプが、ヤケに凝った絵柄になっている。

さらに、須藤家の描写等では、やたらとキャメラが揺れて斜めの構図になる。

キャラクターも強烈で、息子を原爆で失ったために、何かと言えば「原爆」という言葉を出す須藤家のお手伝いさんを演じる東山千栄子は、一の両親同様、たえず、須藤考案の奇抜な洋服を身に付けている。

男勝りの熊子を演じる三好栄子も強烈だが、やたら、面倒見が良くて、おしゃべりもののアパートの管理人等、全員、濃い人物ばかり。

前作が、美しい地方色を背景にした、のんびりかつからっとしたコメディだったのに対し、本作は、芸術や政治などを皮肉る度合いがさらに強まっており、ドタバタ色は強まった反面、かなりクセのある作りになっている。

現実の厳しさに押しつぶされそうになるカルメンや朱実の必死な姿は、前作と同じようには笑い飛ばせない苦さがある。

明るく見やすかった前作に比べると、全編、画面全体が暗く、見難いのもちょっと残念。

怪作というべきか。


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