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勝利者

1957年、日活、キノトール+小野田勇原作、舛田利雄脚色、井上梅次脚色+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

ボクサー山城英吉(三橋達也)は、チャンピオンへの挑戦試合で、脆くも破れ去ってしまう。

その後、彼は、映画等の興行主をやっている宮川(清水将夫)の娘でデザイナーの夏子(南田洋子)と婚約をし、クラブ「チャンピオン」のオーナーにおさまりながらも、3年間も夏子とは結婚をせず、自分に代わってチャンピオンになるボクサーを育てる事に熱中していた。

そんな山城が育てて来た期待の星、石山(宍戸錠)だったが、試合では、ずぶの素人のような若者にノックアウトされてしまう。

石山を見限り、夏子と共にクラブに帰った山城だったが、石山がダメだったら、ボクシングへの夢はきっぱりあきらめて結婚するといっていた夏子との約束も忘れ、先ほどの試合で勝った青年の身元を調べる。

城北拳所属の夫馬(ふま)俊太郎(石原裕次郎)という事が分かった石山は、夏子を独りクラブに置いてきぼりにしたまま、自分は夫馬の行方を探しに出かける。

その時、店の楽屋でもめている男女のダンサー3人組を見かける。

どうやら、若い女性ダンサー(北原三枝)に色目を使った男ダンサーの女房が嫉妬しているらしく、若い女性はその場でトリオを解消され取り残されてしまった模様。

キャバレーで仲間たちと飲んでいる所を見つけた山城は、俊太郎にボクサーにならないかと声をかけるが、ボクサーなんかに興味はないとにベもなく断わられる。

脈はなさそうだとあきらめて帰る山城と入れ代わりに、今度は、高山拳闘クラブの高山(安倍徹)が、所属のウエルターチャンピオンの手島(横山護)を引き連れて、俊太郎を誘いに来る。

しかし、やっぱり、プロボクサーを鼻からバカにしたような俊太郎の言葉に怒った手島は、俊太郎を殴りつけてしまう。

クラブで寂し気に独り踊っている先ほどの女性ダンサーを見かけた山城は、バレリーナになるのを夢見て新潟から上京して来た白木マリというその女性が、もう夢をあきらめて帰京しようと思っているという事情を聞くと、自分がパトロンになってやろうかと思わぬ事を言い出す。

翌日、近くの「ドリーム」という喫茶店で会う約束をして彼女と分かれた山城は、意外な男の訪問を受ける。
手島にこてんぱんに叩きのめされた俊太郎だった。

彼は、手島に仕返しをするため、自分をプロボクサーに鍛えてくれという。

その言葉に可能性を感じた山城は、翌日、同じく「ドリーム」で彼と会う事にする。

かくして、「ドリーム」で顔を会わせた三人の話は纏まり、マリは山城の支援を受け、東京バレエ団で練習に励み、俊太郎はポテちゃん(殿山泰司)のジムで練習を開始する事になる。

山城は、俊太郎を城北拳から移籍させるため、30万という金を夏子から借り受ける。
夏子は、本当にこれを最後にボクシングを諦めて欲しいと約束させるのだった。

毎週、土曜日に「ドリーム」で会う事だけが、マリに対する山城の条件だったが、ある日、端役で舞台に出るという彼女から買った招待状を、夏子に見つかってしまい、さらにその拳を俊太郎に渡されてしまう。

バレエの舞台を観に行った俊太郎は、以前、「ドリーム」で顔を見た事がある事もあり、舞台がはねた後マリを誘うとクラブ「チャンピオン」に遊びに行くが、そこでささやかな誕生日を山城に祝ってもらっていた夏子は、はじめてマリの存在を知る事になる。

その後、地道な練習に飽き飽きした俊太郎は、ジムを飛び出し、勝手に高山拳の黒木との試合をセッティングしてしまう。

マリの指に身分不相応な指輪を発見した山城は、彼女にこれをプレゼントする金欲しさに、俊太郎が勝手な行動をとった事を察し、黒木との試合に勝利した俊太郎を呼出すと殴り合って、二人が夢を実現させるため、恋愛等許さないと言い出す。

恋愛は自由なはずだと反発する俊太郎とマリだったが、二人が本当に夢を実現させた時には、思いきり好きな相手の名を呼んでも良いといわれ、これからは山城も加えた3人の勝負だという事で承知する。
山城はその後、マリに対しても直接会う事はしなくなる。

かくして、マリは、その後も精進につとめ「赤いジャングル」という芝居の主役の座を射止める。

一方俊太郎も、宿敵手島との試合を迎える事になるが、勝手な行動を取る俊太郎に勝たせまいと、山城は自分がかねてより撮っておいた俊太郎の記録フィルムを、高山に渡してしまう。

このため、事前に、俊太郎の癖を熟知研究して来た手島の方が有利な試合展開になるのだが、試合を見ている内に、つい、山城は、俊太郎を応援するアドバイスをセコンドに伝えはじめるのだった…。

試合後、俊太郎との勝負に負けたと悟った山城は、独り試合場を後にするが、彼を追って来たマリは…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

テレビドラマの映画化であるらしく、ボクシングとバレエという各々の夢にかける若い男女と、彼らのパトロンとして関わる事になる大人の男とそのフィアンセとの、微妙な4角関係を描いた大人向けの作品になっている。

最初は一見、裕次郎を主体にしたスポーツ根性映画のように思えるのだが、監督の興味はどちらかといえば、三橋達也と北原三枝との「足長おじさん」的関係の方にあるようで、バレエのシーンはセットや特撮等も使った、かなり大掛かりなものになっており、必ずしも「ボクシング主体の映画」といったイメージではない。

金持ちの娘と婚約して、クラブを任されている事から、経済的にはかなり余裕がある暮らしを手に入れながら、どうしてもチャンピオンに対する夢を捨てきれない元ボクサーの山城という存在を、三橋達也が好演している。

自分の果たせなかった夢を若者に託そうとする三橋と裕次郎の対立関係は、スポーツものとしては良くあるパターンだと思うが、その女性版とも言える、三橋と北原三枝の関係は、単純な対立ではないだけに奥が深い。

男女の夢というものに対するスタンスの違いが浮き彫りにされている所が面白いのだ。

三橋と南田洋子の対立も根は同じである。

タイトルの「勝利者」というのが、人生の勝利者の意味だと解釈するならば、本作に登場している4人の主要人物の内、誰がその「真の勝利者」だったのか、にわかには判断できないエンディングになっている。

そもそも、人生に「勝った、負けた」などという区別があるのか。

勝ち組、負け組などという言葉が、面白おかしく弄ばれている今、あらためて考えさせるものを含んだ作品だと思える。

三橋の婚約者の父親は、興行主として儲けているらしいが、「クラブはツケの客が多いので、見かけほどには儲からない。その点、映画は、全員現金払いなので間違いない」などというセリフが、いかにも、映画全盛期の頃を忍ばせて興味深かったりする。

余談だが、この作品、カラーの初期の頃だったらしく、三橋達也や裕次郎ら男優陣も、くっきりとアイシャドーをしている所がおかしい。

冒頭、裕次郎と戦うボクサー役は、若い頃の宍戸錠。