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真剣勝負

1971年、東宝、吉川英治原作、伊藤大輔脚本、内田吐夢監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

武蔵は自らの著作の中で、生涯60余の試合の中、一度も不覚を取ったことがないと記してある一方、二刀流に関する記述が全くない事の不思議さが、ナレーションで紹介される。

関ヶ原の決戦に参加して以降、数々の勝負を経験して来た宮本武蔵(中村錦之助)は、安曇野の雲林院という所に住む、八重垣流鎖鎌なる武器を使うと言う宍戸梅軒(三國連太郎)を訪れる。

すると、その住まいには、守駕篭に入っている赤ん坊に向って、鎖鎌の練習に励んでいる母親らしき女(沖山秀子)の姿があった。

その技を興味深気に見入る武蔵に気づいた女は、慌てる様子もなく、赤ん坊を寝かし付けると、彼を招き入れる。

その頃、町に買い物に出かけていた梅軒は、家に帰る途中、草原に仕掛けていたいくつかの罠を確かめてみて、野犬が一頭だけかかっている事を確認すると、エサだけ取られて外れていた罠を再び仕掛け直す。

やがて、もて余るエネルギーを発散するために、足にヒモを結わえて逃げられないようにした二人の若者(二瓶正也、沖山駿一)が本気で戦っている、仲間の元にたどり着く。
彼ら仲間の中でも、岩テコ(田中浩)、於六(岩本弘司)、鉄砲又(当銀長太郎)、飛び十(木村博人)、槍市(伊藤信明)、藤兵衛(荒木保夫)、法界(浅若芳太郎)、野洲川(上西弘次)、八人衆と呼ばれる者たちは特に腕利きだった。

そして、家にたどり着いた梅軒は、客がいる事に気づき、彼が、鎖鎌に付いて教えて欲しいと言うので、彼の若さを観た梅軒は、女房と裏で相談して、いつものように酒を飲まして油断させ、身ぐるみ剥いで追い返すか、殺してしまおうと相談する。

ところが、酒を振舞いながら武蔵と話して行くうちに、武蔵が関ヶ原の戦いに豊臣方の雑兵として参加した事、本名は竹蔵と言う事等を知った梅軒の顔色が変わる。

武蔵の噂も聞いていたが、何より、竹蔵と言えば、女房の兄を殺した仇である。

梅軒は、酒を都合して来いと女房を呼び、裏で事情を話すと、すぐさま仲間の八人衆を連れて来いと命ずる。

かくして、武蔵を泊めて寝かした夜半過ぎ、集まった八人衆に、武蔵攻略の手はずを説明しはじめるが、いざ、寝床に踏み込んでみると、武蔵の姿はなかった。

実は、赤ん坊のために梅軒が町から買って来て、囲炉裏の上に刺していた風車の動きで、彼らの動きをいち早く察した武蔵は、寝床の中で秘かに身支度を整え抜け出すと、襲われるタイミングを待っていたのであった。

逃げられたと思い、焦って周囲を探そうとしていた梅軒は、目の前に立っていた武蔵の姿に驚く。

襲われる訳を尋ねた武蔵に対し、目の前にある塚は、お前が関ヶ原の戦いの時に殺した又八の墓で、それは妻の兄だった事を梅軒は教えるのだった。

事情を知った武蔵は、くどくどと言い訳をする事もなく、戦いに挑む姿勢を見せる。

かくして、朝日が登りはじめる頃から、八人衆と梅軒夫婦の鎖鎌に対して、武蔵は一人で応戦していき、たちまち、八人衆を全員斬り捨ててしまう。

やがて、梅軒夫婦と対峙した武蔵は、このままではやられると悟り、妻の方に挑みかかると、おんぶヒモを斬り、彼女がおぶっていた赤ん坊を奪取すると、自らの盾としてしまう。

この行動には、さしもの梅軒夫婦も手も足も出ず、ただただ「卑怯者」と罵るばかり。

やがて、湧き出たモヤの中に姿を消した武蔵を、狂ったように探し求める夫婦。

赤ん坊の鳴き声を頼りに、あちらこちらと走り回る夫婦であっtが、不思議な事に、赤ん坊と武蔵の姿は見出せない。

最後には、神隠しにでもあったかと疑いたくなるほど、夫婦は精神的に追い詰められていく。

そうした中、武蔵はモヤの中から静かに姿を現し、鎖鎌を捨てろと解くのだった。

そんな心理戦に負けた妻は、死んだ兄より、生きている子供の方が大切だと言い出し、その言葉に女の本性に見た梅軒は、妻を鎖で縛って木に括りつけると、自分一人で武蔵に挑むが、彼の鎖鎌は武蔵の前に破れ去ってしまう。

負けを知り、逃げ出した梅軒の姿を確認した武蔵は、赤ん坊を抱いて妻の近くへ持っていくと、草むらに置いて、自分で這って行けと赤ん坊に告げるのだった。

しかし、梅軒は逃げたのではなかった。

馬に乗って再び、武蔵の前に姿を現した彼は、草原に次々と火を放って行く。

しかし、その火の向う先には、武蔵だけではなく、置き去りに去れた自らの幼子の姿もあり、さらに、その周囲には、自分が仕掛けた罠が火にはじめ、あちこちで動き始めた事に梅軒は気づくのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

東宝で、中村錦之助が武蔵を演じていたと言うのもはじめて知ったが、興味深いのは、冒頭で、武蔵の有名な戦いのエピソードを再現している所。
三十三間堂での吉岡伝七郎との戦いや、一乗寺下り松での源次郎殺害、舟島での佐々木小次郎との決闘等は、同じ内田吐夢監督、中村錦之助主演の有名な東映版「宮本武蔵」と微妙に違った表現になっており、面白い。

演じる役者の顔こそ写らないが、この作品での佐々木小次郎の衣装は、三船主演の「宮本武蔵」で、小次郎を演じた鶴田浩二が着ていたものではないだろうか。

ストーリーは、武蔵と宍戸梅軒の戦いだけに絞ったもので、シンプルながら密度の濃い作品となっている。

梅軒に妻子や仲間がいると言う設定が面白い。

その仲間に扮しているのは、二瓶正也(「ウルトラマン」イデ隊員)、沖山駿一(=沖田駿一「ウルトラマンA」山中隊員)、上西弘次(「ウルトラセブン」「スペクトルマン」着ぐるみ役者)といった、いかにも東宝作品らしい特撮関連役者たち。

しかし、何と言っても本作の見所は、中村錦之助に挑む三國連太郎とその妻役、沖山秀子の三つ巴の演技合戦。

三國もいつもながらのねちっこい演技を見せているが、沖山秀子の血を吐くような熱演もすごい。

錦之助の武蔵の方は、貫禄と言うか、もう完全に役になりきっている感じ。

途中、心理描写の所でストップモーションになったり、ラストで禅問答のような文字が重なる所等も、その表現が巧く言っているかどうかは別にして印象には残る。

病気と戦いながらの内田監督最後の作品らしいが、その面白さにいささかの陰りもなく、時代劇の醍醐味を十二分に味わえる一編になっている。