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新平家物語

1955年、大映京都、吉川英治原作、依田養賢+成沢昌茂+辻久一脚本、溝口健二監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

800年ほどの昔、荘園からの税収で安楽な生活をほしいままにしていた公家たちだったが、都でも地方でも、庶民の生活は荒み切っていた。

何とか、それを是正しようとした藤原一門であったが効果はなく、朝廷は武士の力を利用するしかなくなっていく。

やがて、白河天皇が上皇になって、院と朝廷が分裂すると、世の中はますます不穏な状況になっていった。

そんな保延3年、上皇の命により、西海の海賊を退治しに出かけていた平忠盛(大矢市次郎)、清盛(市川雷蔵)親子率いる一党は帰って来た都で、朝廷を盾に横暴の限りをつくしていた僧兵の一群と出会うが、なす術もなく土下座してやり過ごすしかなかった。

さらに、任務を無事遂行したにもかかわらず、公家たちの入れ知恵を受けた鳥羽上皇(夏目俊二)は、何のねぎらいの言葉をかける事も、褒賞すらも彼らに与えることはなかった。

結局、帰宅後、忠盛は自らの馬を清盛に売らせて、郎党たちの酒代にする始末。

清盛を憂えさせたのは、そうした武士に対する公家たちの差別待遇だけではなかった。
公家の出を鼻にかけ、常日頃から気位が高く、久々の父親の帰宅すら不在で出迎えようともしなかった、母泰子(小暮実千代)の不遜な態度であった。

しかし、遅れて帰宅した泰子の言葉から、今回の処遇に苦言を呈した藤原時信(石黒達也)が謹慎させられたと聞いた忠盛は、清盛に詫びを述べた書状を渡しに向わせるが、清盛はそこで、自ら糸を染めて働いている時子(久我美子)、妹、滋子(中村玉緒)、弟、時忠(林成年)らと出会い、時子に一目惚れしてしまう。

闘鶏に出かける時忠に付いて市場に出かけた清盛は、彼と酒を飲んでいる所で、偶然出会った知人の実相(伊達三郎)から、伴卜(進藤英太郎)という謎めいた五条の商人紹介され、その家に招かれるのだが、そこで、清盛は意外な話を二人から聞かされることになる。

母泰子は、元、白河上皇(柳永二郎)と付き合っていた祇園の女房という異名を持つ白拍子であり、清盛は忠盛と泰子が結婚した後、月足らずで生まれてきた子供であるというのだ。

つまり、清盛の本当の父親は、白河上皇であるらしい。

あまりの衝撃に事実に、深酒をした清盛は、深夜帰宅すると、若い頃より父に仕えていた爺に、自らの出生の秘密を問いただすのだった。

すると、さらに意外な事が分かる。

上皇の護衛として忠盛共々、泰子の住まいへ向ったある晩、慌てて、その住まいから逃げ出す不審者を見とがめ、上皇の命で、忠盛とその後を追うと、捕まえた相手は坊主であった。

それを知った忠盛は、黙ってその場から逃してやったというのだが、ということは、清盛の父は、その悪僧だった可能性もある事になる。

出生の秘密を問いただすこの清盛の会話を盗み聞いていた母泰子は、いたたまれなくなり、幼い子供達を置いて家を出てしまい、真実を明かそうともしない父、忠盛とも気まずい仲になってしまう清盛であったが、加賀白山寺消失の後、その地所を院が没収するしないで、院側と比叡山延暦寺の対立が起こった際、その鎮圧をしに出かけた功労で貴族に加えられるという異例の処遇を受ける事になった忠盛が、その待遇に不満を持つ公家たちの陰謀によって秘かに暗殺されるとの知らせを聞いた途端、その危機を救いに出かけるのだった。

ところが、今度はその清盛の行動が、思い通りに物事が進まない公家たちの怒りを買ってしまい、忠盛は厳しく責任を追求される事になる。

そのもめ事は、上皇の判断で許される事になるが、又しても、暗殺計画を洩らした藤原時信は、藤原一門から追放されてしまったと聞いた清盛は、時子を妻に迎えると共に、自分らの一門に時信を迎えてはどうかと父親に進言する。

その願いは叶い、しばらくは静かな生活が続いた清盛一家だったが、祭りの日、外で酒を飲んでいた時忠が、僧兵たちから因縁を付けられ、乱闘騒ぎになってしまう。

傷付いた時忠を追い掛け、家まで押し掛けて来た僧兵たちを出迎えた清盛は、彼らを何とか追い返したものの、僧兵たちの清盛に対する怒りは増幅するばかり。

比叡山に集結し、実力行使に出んとする彼らの動きを察した上皇たちは、彼らが求める時忠を差し出せと忠盛、清盛親子に迫るが、忠盛は頑として、その命令を拒否する。

しかし、この後帰宅した忠盛は、車の中で自決していた。

彼が、手に握りしめていた扇には、清盛が上皇の子供である事を証す歌が記してあった事を知った清盛は、葬儀にやって来た母泰子の公家の世界へ来るように勧める言葉に逆らい、これからは、誰にも頼らず、独立独歩で生きている事を決意する。

まずは、弟、時忠を守るため、横暴の限りを尽くす僧兵らと全面対決するため、清盛は、比叡山に向うのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

昭和30年芸術祭参加作品で、カラー超大作。

清盛役の市川雷蔵が、鬼瓦権造のコントメイクのような太い眉で登場している。

冒頭の都の市場のシーンから、セットの広大さ、エキストラの多さ、その臨場感溢れる描写に度胆を抜かれる。

衣装も、貴族階級の華麗なものから、庶民たちのみすぼらしいものまでバリエーションに富み、各々、実に丁寧に作られている。

話自体は、冷遇されていた武士階級が、権力を握る直前段階を描いたものであるため、主要人物の紹介エピソードがメインで、胸のすくような決戦シーンなどはまだ描かれない。

それでも、何百人いるのか想像も付かないような群集シーン等は見ごたえ十分。

貴族や僧兵たちの卑劣さ、横暴さを描く一方、青年らしいいら立ちをつのらせる清盛に観客が感情移入できるように作られている。

次回に期待を持たせるエンディングも含め、大長篇の1作目としては、充分な出来というべきではないだろうか。

予算と手間ひまを十二分にかけた重厚な画面は、決してCGなどでは再現不可能なもので、往年の日本映画の底力を知る上でも貴重な作品だと言える。