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猫が変じて虎になる

1962年、日活、若井基成+中川一脚本、春原政久監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

ニコニコ生命社員、葛井久六(小沢昭一)は、契約を結ぶ手段として、いつも大好きな酒を顧客と酌み交わして相手を酔わせることを繰り返していたが、今日も、鶴野亀太郎(加原武門)と100万円の保険契約を交わした直後、泥酔した相手は目の前で急死してしまう。

実は、これまでも同様の失敗が続き、会社が被った被害額はすでに4億7千万以上に及んでいた。

これにはさすがの社長(南利明)も激怒し、彼を叱りつけるが、彼を解雇する代わりに、寿市という一風変わった町があるので、そこで一滴の酒も飲まずに契約を取ることが出来たら許してやると特別指令が下る。

かくして、今後は一滴の酒も口にしないと誓った久六は列車で寿市に向うが、東京駅の切符売り場から、同じ寿市に行くらしいアイパッチをした怪し気な男(長門裕之)と顔を合わせ、列車内でも同席することになる。

二人が奇しくも向かい合わせの席に座ったのは、窓際に座った美しい女性が目当てだったのだが、やがて、彼女が葉子(南寿美子)と言う女医であることが判明する。

彼女は、目の前にいた幼児が読んでいた絵本の馬の絵に気づき、「お馬の親子」を唄ってやるのだった。

やがて、寿市に到着した久六は、この町に住む老人たちが、皆、異様に元気な様子に気が付く。

後で分かったことだが、その町では良い水に恵まれているため、その水で作った「寿誉」という酒をみんなが飲んでいるため、病気知らずで長寿なのだと言う。

これでは、全く保険等入り手がないと悟った久六は、あきらめてすぐにでも帰京しようとするが、もう東京行きの列車はないと言う。

仕方がないので、駅員に教えられた寿荘という旅館で一晩泊まることにするが、そこへ向う途中、線路に寝そべり列車妨害をしている、「らくだ」というあだなを持つ馬五郎(由利徹)に出会う。

何でも、近々大金が入ると嘯いているが、単なるヨッパライのたわごとのようで、あまり当てになりそうにもない。

寿荘に落ち着いた久六の隣室に泊まっていたのが、例の怪し気な男、半次だった。

実は、判次は、東京から呼ばれて来た殺し屋だったのだが、駅に到着以来、彼の様子を遠くからうかがっていた、依頼主の子分に当る二人組(野呂圭介、糸賀靖雄)は、半次が警官等と親し気に口を聞いている様子を観て、最初から怪んでいた。

子分たちは、殺し屋との約束である、旅館から顔をだし、「お馬の親子」を唄う人物を探していたが、その時たまたま、窓から外を見ていた久六は、葉子が下を通りかかったのに気づき、気を引くために、列車内で彼女が唄っていた「お馬の親子」を口ずさんでいた。

それを見ていて、久六の事をすっかり雇った殺し屋だと思い込んだ子分たちは、彼を主人である、印刷所経営者、瀬川(土方弘)に会わせることになる。
旅館にいた時から、様子がおかしい時が付いた半も、そこに近づこうとするが、すっかり、半次を警察のまわし者と勘違いした子分たちは彼を近付けようとさせない。

訳が分からないながら、瀬川をてっきり保険の客と勘違いした久六は、勝手に契約を交わしたものと思い、印刷所を後にするが、そんな彼の目の前に現れたのが判次。

自分こそ本物の殺し屋で、お前は先方に勘違いされているので、依頼主の目の前で互いの腕を賭けた決闘をしようと言い出す。

嫌がる久六を半ば強引に河原に呼出した半次は、弾が入ってない拳銃をわざと久六に渡し、決闘に勝とうとするが、罠に気づいた久六はホウホウの態でその場を逃げ出すが、半次の放った弾が当って倒れてしまう。

気づいた久六は、葉子が暮していた長生寺の一室に寝かされていた。

弾は、耳を掠めただけだと言う。

久六は、こんな町は懲り懲りと逃げ出そうとするが、それを止めたのは葉子だった。

殺し屋が町にやって来た噂が拡がったため、さしもの長寿を誇る町民たちも命の危険を感じるようになったと言う。

その言葉の通り、久六が町中で大々的に広告した生命保険は飛ぶように契約希望者が殺到。

しかし、喜んだのもつかの間、一旦は契約した町の老人たちが、解約してくれと長生寺へ駆けつけてくる。
何でも、町を取り仕切る「寿誉」の醸造元、大宅(松本染升)から、そんな保険に入ったものとは今後一切付き合わないと言われたためらしい。

実は、この大宅こそが、瀬川の背後にいて、殺し屋を東京から呼び寄せた張本人。
この町に進出を予定している大アジア工業の用地を買い占めようと企んでいたが、らくだこと馬五郎が立ち退きに応じないので、その馬太郎を始末しようとしていたのであった。

そんなこととは知らず、馬太郎を殺すために、彼の住むあばら家へ乗り込んだ半次は、馬太郎が、かつての網走仲間であったことに気づき、互いに再会を喜び合う。

馬太郎の説明で事情を知るや、瀬川の印刷所に二人して暴れに行く。

その折、見つけたフグを土産にと持ち帰った馬太郎は、その夜早速フグ鍋と洒落込むが、その毒に当り、あっさり息を引取ってしまう。

翌朝、近々金持ちになると言う話をしていた馬太郎を思い出した久六がやって来るが、酒を飲んで寝込んでしまい、朝起きるまで、隣で友人が死んだことさえ気づいていなかった半次と遺体を発見。

慌てて逃げようとした久六だが、半次の拳銃に脅かされて、大宅にらくだの香典をよこせと伝令に向わされる。

しかし、大宅も悪人。

そんな脅しには乗らないと拒絶したものだから、仕方なく、久六は、半次の機嫌を取るために、一升瓶を買って帰るが、その半次から無理強いされ、今まで飲むのを拒絶していた酒を飲まされることになる。

すると、酔った久六は豹変し、これまで、脅されていた半次を逆に脅しつけると、馬五郎の遺体を背負わせて、大宅の家に向うのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

小沢昭一と長門裕之が組んだ珍しいナンセンス喜劇。

小沢昭一が出ている喜劇映画は珍しくないが、長門裕之も主演格の喜劇というのははじめて観た。
ゲストとして出ていると言うより、ダブル主演と言った感じで、完全にコメディアンとして小沢昭一と五分に渡り合っているのだ。

柳生十兵衛のような刀の鍔をアイパッチ代わりにし、西部劇風のガンベルトを腰に下げた粋な背広姿…と、正に無国籍キャラ。

地元名産の酒を飲んでいるため、町民全体が病気知らずの長寿町であるという、ナンセンスと言うかファンタジックな設定自体も、日本映画としては異色で面白い。

前半ちらりと登場する、由利徹演ずる男のあだ名の「らくだ」が、後半の展開のヒントになっている。

落語に詳しい人なら、この名前を聞いただけでピンと来るはず。

しかも、この後半の展開がおかしいのなんの。

由利徹はもともと舞台中心の喜劇人だけに、出演映画は数あれど、正直、映画の中ではさほど面白いものはないのだけれど、この作品は文句なく面白い。

バカバカしさの極地。

由利徹の真骨頂が観られる貴重な作品といって良いだろう。

劇中、由利徹は網走刑務所にいたという事になっているのだが、彼のこういう設定は「網走番外地」シリーズ(1965〜)より、こちらの方が早かったという事になる。

勿論、主役をつとめる小沢昭一演ずる、次々に事件に巻き込まれていくタイプの何ともいえない小心風男キャラも絶品。

日本映画には、本当に笑える喜劇が少ないのだが、この作品はその数少ない「笑える喜劇」の1本だろう。