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伝七捕物帖 銀蛇呪文

1957年、松竹京都、野村胡堂+土師清二+陣田達朗+城昌幸原作、安田重夫+元持栄脚本、福田晴一監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

吉原で花魁道中が行われており、獅子っ鼻の竹(伴淳三郎)も、それを眺める野次馬の中に紛れ込んでいたが、そこへ、突然、幽霊が出たと叫ぶ女が飛び出してくる。

薬師問屋の近江屋の長女、お小夜(伊吹友木子)が、夜、小用に起きた所、幽霊を見たというのだ。

さっそく、その事を、仲良くヒゲそり中だった黒門町の伝七(高田浩吉)、お俊(福田公子)夫婦の所へ知らせに走った竹だったが、ちょうどそこへ、同心の神山(海江田譲二)が、琉球帰りだという同僚の橘三五郎(小笠原省吾)を連れて訪ねてくる。

最近、江戸で評判の幽霊騒ぎを知っているかというのだ。

何でも、10日前の嵐の夜、近江屋の廊下の天井から「今夜、近江屋に死人が出る」と呪文が書かれた紙が舞い降り、その後、井戸水を汲もうとしていた下女のお富(桜京美)が、汲み桶が持ち上がらぬと丁稚の益どん(山田周平)に手伝いを頼んだ所、汲み桶に絡まった内儀お勢津の遺体が上がってくる。

どうやら、井戸に身投げしたらしい。

その顔は判別できぬ程に崩れていたが、昔、お勢津が祈祷師だった頃に掘った卍の刺青が腕にあるので、本人に違いないと亭主の近江屋(大邦一公)が証言するので、そのまま遺体は埋葬されてしまう。

ところが、その翌日から、近江屋に幽霊が出るようになったというのだ。

さっそく、近江屋に調査に出向いた伝七と竹だったが、二人は、手代の伊乃吉(高野真二)という男の素振りが怪しいので、竹が尾行をして様子を見る事になるが、何と、彼は、お小夜と恋仲であるらしい。

一方、近江屋の屋敷内を調査していた伝七の方は、奥の座敷でひっそり暮しているお千沙(佐々木京子)という娘を発見する。

何でも、亡くなったおせつの連れ子で、目も耳を口も不自由の三重苦の娘なのだという。
それでも、七つ八つの頃までは目も見えていたそうで、今では、その頃までに覚えていた文字を筆談で相手に伝え、乳母の菊(高山裕子)の唇の動きを指先で感じて、相手の意思を知る事ができるのだという。

伝七は念のために、彼女の前で盆栽の鉢をわざと落として彼女の反応を見てみるが、本当にハンデがあるらしい。

お富に聞いてみると、お千沙の父親は大家の旗本だと噂されているらしい。

その時、尋問している伝七、竹らの側に吹き矢が打ち込まれ、「谷中の墓地に行け」と書かれた書状が付いていたので、その指示通りにしてみると、はたして墓地の中で、十字架に磔にされた近江屋の次女、お京(紫千代)の惨たらしい遺体が木から吊り下げてあるのを発見する。

遅れて駆けつけて来た橘は、これは、わざと女の力では不可能な犯罪に見せ掛けた仕掛けではないかという。

その後、腕に銀色の蛇を絡ませた女を見たという墓守りを尋問中だった伝七は、又しても目の前で、その生き証人を吹き矢で射殺されてしまうのだった。

後日、お京の葬儀中の近江屋に乗り込んで来た早縄の五兵衛(山路義人)は、身代を狙った伊之吉が犯人に違いないと、彼を問いつめていた。

そんな中、怪し気な商人風の男二人が、葬儀中の近江屋から出てくるのに気づいた竹は、不審を抱き、尾行してみると、二人は山内日向守(石黒達也)なる旗本の屋敷に入っていくのをつきとめる。

実は、その屋敷内には、死んだはずのお勢津(水原真知子)が、お千沙の事を案じながら暮していたのであった。

お千沙は、山内との間に生まれた子供だったのだが、近江屋と山内は、御禁制の麻薬で繋がっており、最近江戸市中でも噂が立ちはじめたその事がばれぬように、お勢津を死んだ事にして、近江屋自身が山内の元へ戻したのだった。

山内は、堀田備中守に取り入り、権力の座を手中にしようと企んでいた。

その頃、伝七の家には、幇間の露八(桂小金治)がやって来て、お俊の幼馴染みであり、昔商人であった父親が商売に失敗し、今は花魁の身に落ちた小袖(嵯峨美智子)が幽霊騒動に付いて話があるからと迎えに来たという。

いってみると、亥之吉を匿っているので、助けて欲しいという。

しかし伝七は、例え眼鏡違いだとしても、同業者が探している人間を見逃す訳には行かないといいながらも、聞かなかった事にすると暗に臭わすのだった。

さらに伝七は、亥之吉の証言から、近江屋の主人が他の人間には触らせない不審な品物が、月に1、2度届いている事実を知る。

そんな伝七たちがいた店に、横柄な態度の二人の侍が遊びに来ていたが、その姿を見た竹は、彼らが山内の屋敷に入っていった商人と同じ人物である事に気づき、伝七とその侍の後をつける事にする。

二人が向った山小屋には、別の人間も出入りしており、どうやら、彼らが、麻薬を江戸へ運び入れているらしいと察した伝七らは、さらに、変装した男たちを追い掛けると、山奥で、砦に守られた大掛かりな芥子畑を発見するのだった。

砦からの銃撃を逃れ、命からがら逃げ帰って来た伝七らは、亥之吉が小袖の元から姿を消したとお俊から聞かされると、すぐさま近江屋へ向う。

案の定、亥之吉はお小夜に会いに、こっそり近江屋に戻っていたが、怪し気な笛の音と共に現れた銀色の蛇に怯え、そのまま姿を消してしまう。

遅れて現場に到着した伝七は、お小夜から訳を聞くと、笛を吹く幽霊とやらがいた付近から、お千沙の部屋に続いている足跡を見つけるが、お千沙は何も知らないと筆談で答えるのだった。

両国の川開きの日、お勢津の遺体を再検分したいと神山に申し出た伝七は、墓を掘り起こし、中の遺体の腕にあった刺青が新しい事を見抜き、それが別人の遺体であるとの結論を導くのだった。

さらに按摩老婆に化けた竹と、流しの歌手に化けた伝七は、山内家で行われていた宴会に紛れ込み、そこで、お勢津が匿われている事実を突き止めるが、秘密を知られた山内は、お勢津を芥子畑のある山小屋へ移動させてしまう。

しかし、その直後、山内は咽に蛇の噛み痕を残した惨殺遺体として発見されてしまう。

さらに、近江屋も、相談に店を訪れていた山内の部下の大塚諸共、銀蛇に襲われて殺されてしまう。

後日、芥子畑の山小屋に、怪し気な白頭巾と大猿が入り込み護衛たちを蹴散らすと、捕らえられていたお勢津に自分が全ての犯人だと自白書を書けと要求していた。

そんな所に、伝七と竹がやってくるのだが、芥子畑を守ろうとする護衛たちと、怪し気な白頭巾との三つ巴の戦いが始まるのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

伝七捕物帖シリーズ8作目で、初のワイド作品。

60年代以降の松竹映画というと、外部との提携でもない限り、予算をかけない作品ばかりというイメージがあったのだが、この頃は、かなり予算をかけて大掛かりに作っていた事が分かる。

会社クレジットを見ないと、全盛期の東映時代劇と見間違いかねないほど。

さらに、野村胡堂ら捕物作家クラブ原作という事もあってか、毎回、謎解き要素に加え、怪奇、冒険要素等もふんだんにちりばめられているため、高田浩吉扮する伝七のキャラ自体の印象は弱いにも関わらず、結構、楽しいシリーズ作品になっているのだ。

今回は、タイトルでも明らかなように、銀色の蛇と幽霊話、さらに阿片が絡んだストーリーになっている。

ミステリーに馴染んだ人なら、最初の内からほぼ犯人の推測は付くのだが、あれこれマニア心をくすぐる趣向が凝らされているので、最後まで真相は掴みにくい。

本作で一番興味深い設定は、重度の身体的ハンデがある人物が登場している事。

蛇、この人物、さらに後半、もうひとつ意外なキャラが登場して来て、ポー、ドイル、クイーンによる有名なミステリーの三大古典作品を連想させてくれる。

捕物帳なので、本格ミステリーほどかっちりした謎解きにはなってないのだが、取りあえず、本格っぽい雰囲気は味わえる仕掛けになっているのだ。

さらに本作を見ていると、伝七の子分で伴淳扮する獅子っ鼻の竹が、結構、頭が切れる存在である事が判明する。

単なる親分の使いっ走りしか出来ないおとぼけキャラ的存在だけではなく、ちゃんと独自に勘を働かせ、親分をしっかりサポートするたくましい人物として描かれているのだ。

対する伝七の方は、懐に分銅という武器を忍ばせている事が分かるが、前作同様、何故かそれを使ったアクションがないのが物足りない。

このシリーズの主人公は、伝七と竹、二人で一人前みたいな感覚だったのかも知れない。

その主役以外には、今観ると、ほとんど見知った俳優がいないので、謎ときものとしては、かえって先入観なく見られる利点はある。

コメディエンヌとして、桜京美が加わっている所にも注目したい。