TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

二十一の指紋

1948年、大映京都、比佐芳武脚本、松田定次監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

月夜の港を走っていた一台のタクシー。

運転しているのは、眼帯姿の怪し気な男(片岡千恵蔵)。

彼は、波止場で一人海を見ている不審な女(喜多川千鶴)に気づくと、彼女を車に乗せ、住んでいるという相生町の屋敷に連れ帰ってやる。

そこは、闇商人で知られる星田十太郎の家だった。

女は、そこで家政婦をしているのだと言い残し屋敷に入って行くが、その直後、室内から悲鳴が聞こえる。

眼帯の男は、急いで家に入り込むが、そこで彼が目にしたのは、背中に短剣が刺さって事切れている星田の遺体だけで、先ほどの女の姿は消えていた。

急遽、眼帯の男が警察に連絡したので、現場の捜査が始まるが、不思議な事に、現場の部屋から21もの指紋が見つかり、その中の一つは、かつて怪盗として知られた藤村大造(片岡千恵蔵)のものと一致したので、怪盗再び暗躍かと新聞で報ぜられる事になる。

ところが、警視庁刑事課の笠原警部(大友柳太朗)は、とある新聞に載った不思議な広告文を読む。

そこには、藤村大造は近年、全く盗み等しておらず、今や正義のために戦っている。
汚名を晴らすために、今回の真犯人に挑戦してみせると言う、多羅尾伴内という人物の文章だった。

その笠原警部を訪ねて来たのは、皆川という弁護士。

彼は、遺留品を見せてもらい、「T・S」と刻まれたペンダントや、凶器となった短剣に見覚えがあるように、一瞬「タキン・ミヤの短剣!」と口走るが、笠原警部が質問すると、何も知らないと知らぬ振りをする。

しかし、そこへ現れたのが、風采の上がらぬ中年男。
多羅尾伴内と名乗るその男は、ぶしつけにも、初対面の皆川弁護士に対し、狼狽した今の態度が全てを語っていると何ごとかを見抜いているような口ぶりで話し掛けてくる。

さらに彼は、皆川が帰った後、笠原警部に、皆川に気をつけるよう忠告する。

初対面の怪し気な男に、意外な事を言われた警部は面喰らうが、多羅尾は自分を信じさせるため、警部の耳元でさらに意外な話を聞かせるのだった。

その足で、今度は、皆川の自宅を訪れた多羅尾は、厚かましくも皆川に、自分に調査を依頼はずだと言いだす。

これ又、面喰らう皆川だったが、結局、その多羅尾に、里見珠江という女性と、その母親まさの行方を探してくれと依頼するのだった。

皆川家を辞して帰る途中、多羅尾は、何者かに狙撃され倒れる。

しかし、撃たれたのはかぶっていた帽子だけで、無事だった多羅尾は、たちまち「せむし男」に変装して星田邸に向い、現場で張り番をしていた水野刑事に正体を明かすと、殺人現場の再検分を許可される。

その途中、屋敷に忍び込んでいた浮浪児が、部屋の秘密の扉から何かを盗み出して逃げ出すが、気づくのが一瞬遅れた多羅尾と水野刑事は取り逃がしてしまう。

後日、日陰の街と呼ばれる一角に住んでいるナナ舞踊団のメンバーの元に、馴染みの浮浪児三吉と正太が、瀕死の老人を抱えて来て、薬を打ってあげてくれと頼みに来る。

薬の事は秘密なので、三吉たちのおせっかいを叱るナナだったが、結局、彼らが連れて来た老人に1回だけ注射を打ってやる。

その街には、見なれない紙芝居屋も現れる。
その紙芝居屋こそ、笠原警部の変装した姿であった。

ナナたち舞踊団は、街に巣食うチンピラの要請で、飯島圭一郎伯爵(高田稔)の屋敷のパーティに時々呼ばれていた。

上流階級の人間が、ハーフマスクを付けて集う一種の秘密社交パーティで、大胆な踊りを披露するのであった。

その飯島伯爵の元に、京都の土屋元伯爵(片岡千恵蔵)と名乗る人物が紹介状を携え訪れ、たまたまその部屋に現れた南方考古学の権威、重松子爵の娘、重松きみ子(喜多川千鶴-二役)を紹介される。

土屋元伯爵は、さり気なく彼女に、父親が発掘品として南方から持ち帰って来た「タキン・ミヤの短剣」について質問するが、きみ子は全く知らないと答えるのだった。

さらに、土屋元公爵は、きみ子が父親から相続しなかったと言う、縛りケ丘の月明荘を貸してくれないかと申込む。

その後、月明荘を貸す事になったきみ子は、土屋元公爵から招待を受け、やって来た車に乗り込むが、月明荘に向う途中、眼帯の運転手から、月夜の港を覚えてないかと質問されるが、全く心当たりがないと突っぱねる。

ちょうど、後ろから付いて来た飯島の車に助けられる形となり、きみ子は車を降りる。
眼帯の男の運転する車も、飯島の子分山岡の脅しにもめげず、平然と走り去るのだった。

さらに数日後、日陰の街に、腹話術の人形を抱えた奇妙な紳士風の男が現れる。

先日、三吉と正太に助けられた老人の甥で、一楽亭ピカイチ(片岡千恵蔵)だと名乗り、たちまち、正太と三吉の仲良しになる。

ピカイチは、少年たちの口から、ナナ舞踊団に里村真弓という女性がいる事を聞き、ナナの家に匿われていたその女性が、星田の家から失踪していた本名里見珠江だと言う事を突き止めるのだった。

外地から帰国後、薬中毒で身体を壊していた彼女は、その場でピカイチに、星田を殺害したのは自分だと自白し、前々から街を包囲しており、この時とばかりにナナの家に踏み込んで来た笠原警部と警察隊に逮捕される事になるが、ピカイチは、彼女の証言は薬中毒の幻想によるもので、真犯人は別にいるのだと警部に告げるのだった。

その後、飯島伯爵の社交パーティでのショーに、ナナ舞踊団と一緒に腹話術のピカイチも加わり、伯爵やきみ子ら、さらに支配人の尾形らに人形の顔を触らせる。

帰宅後、ピカイチは、さっそく、人形の顔に蒸気を当て、浮かび上がった写真におさめると、三吉らに警察に持って行くよう手配するのだった。

そうした後、皆川弁護士宅を訪れた多羅尾は、皆川の妻(沢村貞子)から、今、あなたから呼び出しを受けて出かけたばかりだと聞き、犯人に誘い出されたと瞬時に悟る。

急いで、妻を同乗させ、車で、皆川弁護士を追った多羅尾は、路上で射殺させれていた皆川の死体を発見する。

妻の証言から、皆川が、重松子爵の遺言状を秘密の金庫に保管している事を知った多羅尾は、死刑囚であった祖父の悪い血の遺伝を心配した重松が、全財産は珠江に与えるが、もし、22才になる前に、彼女が犯罪者になっているようだったら、そっくり、遺産はきみ子に与えると言う驚くべきその内容を読み、今回の事件の背景を知るのだった。

やがて多羅尾は、ナナの家に警察から戻って来ていたはずの珠江が、警察を装った人間に連れ去られた事を知る。

彼女を犯罪者に仕立て上げる事に失敗した犯人たちが、実力行使に出たと判断した多羅尾は、笠原警部に4.4メガサイクルの多羅尾移動放送局の連絡に注意するよう告げると、別名荘に車を走らせるのだった。

月明荘の一室には、珠江がソファに縛られており、その胸の上には、天井から短剣が釣り下げられており、その短剣を繋いだヒモは、今正に、ロウソクの火で切れようとしていた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

七つの顔を持つ男、多羅尾伴内が活躍する荒唐無稽な探偵活劇のシリーズ3作目。

今回は、子供や腹話術師などが登場し、いかにも子供向けヒーローものとして描かれている。

本作で興味深いのは、主役藤村大造が大正6年3月生まれである事が、警察に保管してあった指紋調書から分かる事。

つまり、西暦で言えば藤村は1917年生まれと言う事で、この作品の頃には31才くらいだったと言う事になる。

確かに、後年、東映にシリーズが引き継がれた頃の藤村のイメージより、はるかに若々しい。

多羅尾移動放送局と名付けた無線を搭載した白いオープンカーに乗り、悪人たちの車とカーチェイスする様は、当時としては、最高にスマートなヒーロー像だったのだろう。

このシリーズは、明らかに「怪盗ルパン」が原型だと思われるが、この作品では、いかにもルパン風のシルクハットにマントといった衣装を身にまとった腹話術士として登場するサービスも見せてくれる。

ロケが多用されているが、戦争の傷跡も生々しい瓦礫だらけの町並みや、覚醒剤を連想させる薬が登場したりする所などに、時代を感じさせる。

フィルム感度の関係からか、夜間シーンの撮影は難しかったらしく、明らかに昼間撮っているシーンなのに、セリフでは夜だったかのように言い換えられていたりする所もある。

刑事役として登場する大友柳太朗も、まだ若々しい。

ミステリーとして真面目に観ていると、あちこちおかしな所だらけであり、あくまでも、子供向けの探偵趣味活劇と割切って観る事をお薦めする。

人形を使ったトリックや、演出はなかなか面白くできている。