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戦場にながれる歌

1965年、東宝、團伊玖磨原作+音楽、松山善三脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

陸軍戸山学校に、軍楽隊の新入生たちが集まってくる。

しかし、戦況の悪化に伴い、本来2年かかる教育期間を8ケ月で済ませなければいけない事を所長の小沼中尉(加山雄三)が挨拶で述べていた。

かくして、楽器経験が有る無しを問わず、新入生たちの担当楽器が決定されて行く。

相撲部屋にいた元力士の青田(真塩洋一)、ちんどん屋だった鷲尾(二瓶正也)、音楽学校で作曲の勉強をしていた三条(児玉清)、軍楽隊なら死なないだろうと志願して来た中平一郎(久保明)ら、個性的な面々が、こちらも個性的な先輩たち(青島幸男、大村崑、大村千吉、桂小金治)からしごかれて、ようやく一人前の音楽隊として成長して行く。

中でも音楽学校出の三条は、持っていた許嫁の三津子(藤山陽子)の写真を見つけられた事から、古参兵(名古屋章)に執拗な嫌がらせを受け、屈辱に耐えていた。

ある日、学校に戻って来た先輩たちの遺骨を見て、中平らははじめて、軍楽隊でも戦死するのだという現実を知る事になる。

やがて8ヶ月が過ぎ、靖国神社から宮城へ向う演奏行進を済ませた一行は、中国戦線へ送られる事になる。

そこで、彼らは、現地の中国人たちを虫けらのように殺している日本軍の実体をつぶさに目撃する事になる。

今井小隊に配属させられた軍楽隊は、中国各地の2000Kmをトラックで移動しながら慰問演奏をする大行軍を命ぜられる。

途中、ピータンを喰った鷲尾と青田が下痢になり、用を足すために止めた場所が、味方軍が敵の様子を探るため潜伏していた場所だったり、中国人の抗日兄弟の襲撃を受けたり、匪賊に待ち伏せられていたり、危険な目に何度も会う内に、一番死にたくないといっていた中平が戦死してしまう。

さらに、大雪の中で、トラックのシャフトが壊れてしまい、立ち往生を余儀なくされた彼らは、近くの民家に一夜の宿を願いに行くが、そこには、京劇の隈取りをした老人(森繁久彌)と、若い娘愛蘭(張美揺)が一人いるだけだった。

互いに警戒する中で、娘の許嫁だと言う青年(林沖)が到着、彼に匪賊が支配している町までシャフトを買いに行ってもらう事にするが、老人と娘は人質にする事になる。

疑心暗鬼になりいらつく部下たちだったが、青年は無事シャフトを購入して帰宅、楽隊員たちは彼を疑った事を深く詫びるのだった。

何とか、命からがら行軍を終えた彼らだったが、今度はフィリピン戦線に送られる事になる。

そこでは、空襲で目を負傷した小沼中佐たちと再会、しかし、間もなく、彼らは歩兵隊員として玉砕の命令を受ける。

小沼中尉の身の回りの世話をしていた現地の孤児マリエンヌ(真理アンヌ)と仲良くなりかけた毛利上等兵(小川安三)も、そこで爆死してしまう。

やがて、アメリカ軍の捕虜になった彼らは、強制労働をさせられる事になるが、希望もなく日に日に荒んで行く彼らには、今こそ音楽が必要なのではないかと気づきはじめる…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

本作の音楽も担当している團伊玖磨の原作を映画化したもの。

戦時中のいくつものエピソードを、その雰囲気に合わせた象徴的なデザインの楽譜の絵やアニメで繋ぐという、ちょっと洒落た表現になっている。

加山雄三、森繁久彌、加東大介、小林桂樹、佐藤允、藤木悠、名古屋章など東宝常連組、さらに大村崑、青島幸男といった当時のテレビの人気者など、錚々たる顔ぶれが登場するが、彼らは皆ゲスト出演。

特に、この映画を見た大半の人は、どこに森繁が出演しているのか分からないのではないだろうか。

これほど、森繁が本人と分からないように扮装して出ているのは「極楽島物語」(1957)以来ではないかと思う。

軍楽隊の全員が主役と言う事なのか、本作には主役らしい主役がいないのも異色と言えよう。

しかも軍楽隊員に扮しているのは、大半が脇役イメージが強い人たち。(初代ウルトラマンの中身というか、ウルトラセブンのアマギ隊員こと古谷敏の姿も見える)

前半だけを見ていると、児玉清が演じている音楽学校出の三条が主役なのかとも思えるが、後半は、特に彼が目立つ事もなく、印象は薄い。

むしろ、最初から最後まで目立っているのは、元関取の青田を演ずる太った真塩洋一や、ちんどん屋だった鷲尾を演ずるひょうきんな二瓶正也である。

さらに、普段はチョイ役が多い大村千吉や小川安三などにもそれなりに見せ場が用意されていたり、青田の師匠に当る錦山親方として千葉信男が出ていたり、東宝脇役ファンの人には嬉しい作品となっている。

全体としては、戦争の悲惨さを音楽隊員の立場で目の当たりにして来た…といった、やや傍観者的な立場で描かれている事もあってか、戦争映画としてはやや中途半端な印象もあるのだが、前半部の音楽隊の訓練風景や後半の悲惨な捕虜生活の部分は、あまり語られる事がなかった部分だけに、新鮮かつ興味深かった。

靖国神社前からの演奏行進シーンや、中国の風景、抑留キャンプのシーン等は、エキストラも豊富に揃え、かなり見ごたえのある映像になっている。

大体予想できる展開とはいえ、最後のシーンはやっぱり胸に迫る。

改めて、音楽の威力を思い知らされた作品であった。