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肉弾

1968年、「肉弾」をつくる会+ATG、岡本喜八監督脚本+監督。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和20年の男子の平均寿命は46.9才、昭和43年の平均寿命は68.5才、その差は21.6才。
偶然なのか、その時、あいつ(寺田農)は21才6ケ月だった。

「轟沈」を書かれたはちまきを締め、「第二あけぼの楼」と文字が入った傘を開いたあいつは、魚雷にドラム缶を括り付けただけの特攻兵器の中にいた。

広島に落とされた新型爆弾の光が見えたと言う事は、昭和20年の夏の事である。

陸軍予備仕官学校で第三期甲種士官生として訓練中だったさくら候補生(寺田農)は、空腹のあまり、食料倉庫に忍び込んでいた所を区隊長(田中邦衛)に見つかり詰問されていたが、そのインテリぶった返事に逆上した区隊長から、「お前は豚だから、これからは裸でいろ」と命じられ、その瞬間から素っ裸で訓練に参加する事になるのだが、そのおかげで、風邪もひかず、アレルギー体質も直り、健康になったから皮肉なもの。

しかし、戦況は余談を許さず、彼ら訓練生は急遽、全員、対戦車特攻兵となる事を命じられ、死んで「軍神」になる前に、24時間の自由時間を与えられる事になる。

さくらは、尚文堂と看板が掲げられた地下の書店へ降りて、最後に読む適当に面白く、適当に分厚い本を探しに行く。

そこには、空襲で両腕を失った店主(笠智衆)がおり、聖書を薦められる。

帰り際には、観音様のような店主の優しい老妻(北林谷栄)にも出会い、期待半分不安半分で金町新地にある遊廓へ向うさくら。

はじめて行った遊廓には、凄まじい容貌の女性たちしかおらず、さすがにさくら、怖気をふるうが、その中の「第二あけぼの楼」という店先で、何やら勉強している美しい女学生を発見。

彼女が苦労していた因数分解を解いてやって、恐る恐るここもその種の店なのかと尋ねると、そうだという。

正に、観音様を発見したと喜び勇んださくらは、さっそくその店に上がり込み金を払うが、やって来たのは、少女とは似ても似つかぬ中年女性(春川ますみ)。

訳を聞くと、あの少女は、両親を失い、今は一人で店を守っている女将さんなのだと言う。

すっかり、人生に絶望したさくらだったが、その後、雨の中で再び、その少女と再会。

雨宿りをかね、地下の部屋へ入った二人は、互いに濡れた衣類を全部取り去って、自己紹介をしあう。

彼女は兎年なので「うさぎ」、さくらは「鼠年」なので「ネズミ」と呼び合うようになり、各々の身の不幸を聞きあう内に気分が昂揚し、二人はしっかり抱き合うのだった。

その後、敵を待ち受けるために、砂浜に身を隠すたこつぼを掘り、特攻の訓練を繰り返していたさくらは一人の少年(雷門ケン坊)に出会う。

さらに、何故か町の工場に出ているはずの彼の兄(頭師佳孝)にも、同じ砂浜で出会うのだが、何故か彼は教師(園田裕久)と称する男から制裁を加えられていた。

さらに、さくらのたこつぼの所には、沖縄まで占拠されたと聞き、絶望のあまり自殺しようとしにきた中年女性(三戸部スエ)や、本部へ向う途中の三人の看護婦(宮本満里子、津田亜矢子、武藤洋子)、さらには竹やりの訓練をする地元の若者たちなど、次々とやってくる。

しかし、その後、町は敵の空襲でやられ、独り戻って来た少年が言うには、彼の兄も、うさぎと名乗っていたあの少女も全員死んだらしい。

その後、さくらの元を訪れた区隊長によって、さくらの任務は、SS特殊潜航艇での特攻に変更されたと知らされるのだが、聞かされた場所に行っても、そんな兵器はどこにも存在しなかった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

戦争末期の日本のドタバタ状態に、ただ成すがままに身を任せるしかなかったある若き士官候補生の姿を通し、戦争の狂気、愚かさ、空しさを、どこか冷めたユーモアや象徴的な手法で描いた異色作。

作品タイトルだけは、随分昔から知っていたのだが、実際に観たのは今回が最初。

どこか想像していたよりインパクトがなかったのが意外であった。

1970年前後に観ていたら、印象は全く違っていただろう。

低予算だったATG作品の特長でもあるのだが、やはり、ここまで抽象化されてしまうと前衛劇でも観ているような雰囲気で、戦争を知らない者にとっては感覚的な接点がなく、「こういう青春もあったんだな〜」とボンヤリ想像してみるだけ…。

それはそれで良いのではないだろうか。

田中邦衛、中谷一郎、小沢昭一、笠智衆、北林谷栄、菅井きん、天本英世、大谷直子、高橋悦史、春川ますみ、頭師佳孝、伊藤雄之助など、懐かしい顔ぶれが次々に登場して来るが、小学生の雷門ケン坊は特に懐かしかった。

砂浜を走るケン坊の後ろ姿、その足の跳ね上げ方がいかにも愛らしく、殺伐とした戦争時代と言う設定の中でも心和ませるものがある。

伊藤雄之助のすっとぼけた姿も相変わらず印象的。