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巨人と玩具

1958年、大映東京、開高健原作、白坂依志夫脚本、増村保造監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

大勢のサラリーマンが出社してくる様を観て、ワールド製菓の専務(山茶花究)は、矢代宣伝部長(信欣三)に、これだけ人間がたくさんいるのだから、もっとキャラメルの売上げは伸びるはずだとハッパをかけている。

ワールド製菓は、ライバルのジャイアント製菓とアポロ製菓と、三つ巴の熾烈な宣伝競争を繰り広げていた。

特に、各社が、何を特売用の景品にするかで売れ行きが違ってくる中、何を新しい景品にするかで、ワールド社内も迷っていたのだ。

矢代は、部下の合田課長(高松英郎)の合図で胃薬を飲む。

同族会社であるワールド製菓で、課長になっている合田は、部長の妻と結婚したからだと、宣伝部の連中が新人の西(川口浩)に対して陰口を叩いている。

そんな西を外へ連れ出した合田、喫茶店のショーウィンドーを覗き込んでいる虫歯のおかしな女の子を観て、彼女を連れて来いと命ずる。

しかし、見事にふられた西が元の席に戻ってみると、課長の姿はなく、少し遅れて、差しほどの女の子を連れて帰ってくる。

タクシー会社に勤めている島京子(野添ひとみ)というその娘、トレードガールの素質ありと見込んだ合田は、その日から、西を彼女の付き添い人になるよう命ずるのだった。

そんな西は、久々に学生時代の友人、横山と再会したので、懐かしい「歌声喫茶」に出かけてみるが、今一つ、昔ほどの感慨は湧かない。

それに横山は、何とライバル会社のジャイアンツ製菓の宣伝部にいるという。
友人同士の気安さから、相手のキャラメルへの特売用景品が何なのか探りを入れると、生きた動物だとの答えが得られる。

その後、横山馴染みのバーに出かけ、そこでライバル会社の一つアポロ製菓の宣伝部に勤める倉橋雅美(小野道子)を紹介された西は、彼女に対しても景品の探りを入れると、言いアイデアがあるから買わないかという。

試しに聞いてみると、宇宙服という新鮮なアイデアだったので、それをそのまま合田に伝えると、彼は感心しながらも、実は自分も半年前からそのアイデアを練っていたと答える。

企画会議で提出された合田のアイデアは、すぐに承認されることになる。

一方、女性専科のカメラマン春川(伊藤雄之助)に写してもらった京子の写真は、「キャメラ・アイ」問いう雑誌に掲載され、彼女は一躍注目を浴びるようになる。

他のマスコミ各社も、彼女を取材始めた頃を見計らって、合田は、企画会議で、彼女の存在を役員たちに明らかにするのだった。

その頃、ライバル同士というより、一人の女性として雅美に気があった西は、何とか彼女にアポロの新景品のことを聞き出そうとするが、何も答えを得られないどころか、逆に、京子のことをもらしてしまう。

しかし、無事、京子はワールド製菓のトレード・キャラクターとして20万円お契約料で契約を交わすことになり、彼女の活躍の場は一躍テレビやラジオにまで及ぶようになる。

ライバル会社の方も宣伝を開始し、ジャイアンツはターザンのような格好をしたヒゲヅラの男と、生きた猿たちを前面に押し出したキャンペーン、一方、アポロは「乳母車から婚礼セットまで、生活資金」という現実的で卓抜なアイデアを発表し、合田はその発想に負けたことを内心直感する。

その日から、タフで切れ者のイメージだった合田は、過労も重なったことから、覚醒剤などを常用するようになっていく…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

過酷な会社の宣伝競争の中で変貌していく人間像を描いた作品。

宣伝を仕掛ける側の人物像は、まず世代的に3人に分けられており、一人は学校を出立てで無垢な青年、川口浩、もう一人は、上昇志向に燃え、やり手の上司、高松英郎、そしてもう一人は、サラリーマン生活に倦み疲れ、体調も崩した信欣三。

さらに、川口と同世代としては、ライバル社の宣伝部に所属している男女2人を設定してあり、川口以外の二人はドライでたくましく生き抜く若者像として描かれている。

つまり、そうした中で、川口浩演ずる青年は、ひどく甘ちゃんというか、愚か者にしか見えない。

これは、企業の新製品開発や宣伝競争のドキュメンタリーなどを、結構、テレビなどで見るようになった、今の感覚かも知れないが、ともかく、川口浩は主人公のように見えながら、意外と感情移入しにくく、むしろ、今の観客は、颯爽としたエリートサラリーマンの高松英郎や、ライバル会社の切れ者OLの方に感情移入してしまうのではないか。

又、ずぶの素人から、いきなりスターダムに伸し上がり、考え方までも変貌してしまう野添ひとみ演ずる少女の方も、あれこれマスコミの裏話などが溢れ、芸能界や広告の裏事情などを容易に知ることができるようになった今、特に珍しくも奇妙にも見えない。

ただ、そうした知識に大多数の庶民たちが疎かった高度成長期には、劇中の主人公同様、本作の内容はひどく衝撃的だったに違いない。

宣伝などに頼らず、商品の力だけで売ればいいのではないかという、主人公の素朴な考え。

しかし、それは、今の世の中には通用しない理想論というか、幻想だろう。

菓子メーカー同士の景品競争という設定は、一見古くさい商法に見えるが、今でも、食玩ブームなどという形で脈々と続いている部分がある。

ラストで見せる主人公の姿を堕落と取るか、成長と取るか、観る人により判断は分かれることだろう。

全体的に、活力に溢れた作品である。