TOP

映画評index

ジャンル映画評

シリーズ作品

懐かしテレビ評

円谷英二関連作品

更新

サイドバー

愛の讃歌

1967年、松竹大船、マルセル・パニョル「ファニー」翻案、森崎東脚本、山田洋次脚本+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

日永島の診療所の医者(有島一郎)は、敬けんなクリスチャンというだけで、服装などには全く気を使わなず、中年にもなって独身ということもあって、通いのおりん婆さん(北林谷栄)だけが、身の回りの世話をしているという有り様。

一方、春子(倍賞千恵子)は竜太(中山仁)と付き合っており、 15年も前に妻を亡くしてやもめ暮しをしている父親千造(伴淳三郎)がやっている食料品店「待帆亭」を手伝いながら、竜太の幼い妹、信子とるみ子の面倒も見てやっていた。

そんな「待帆亭」には、いつも集まっている常連たちがいて、床屋「備後屋」の主人(太宰久雄)、按摩(渡辺篤)、焼き場の老人(左卜全)、そして船長(千秋実)など。

そんな所へ、今日も郵便配達人(小沢昭一)がやって来て、春子に手紙を渡す。

一週間ばかり神戸に行ったきり、音沙汰がなかった竜太が帰って来るという知らせであった。

やがて、チンピラの木村次郎(高島稔)と一緒に船で戻って来た竜太は、千造に隠れて、春子に、自分はブラジルに行く準備をすまして来たと告白する。

以前勤めていた工場が閉鎖されて以来、そんな夢みたいなことを口走る息子を、千造ははなからバカにしていたが、そんな父親の側にいては、いつまで経っても一人前になれないと考えたあげくの決心だったらしい。

一緒に行こうと誘われた春子だったが、幼い妹二人を置いて島を出ていけるはずもない。

そんな話を聞いた竜太の気持ちは鈍り、船が出る前日、一緒に行こうと誘っていた次郎に、自分は行かないと言い出す。

しかし、今度は春子の方が、自分に遠慮して夢を捨てるような次郎の態度は、恩着せがましくて耐えられないからと、千造が愛人のハツ(桜京美)の所へ出かけている隙に、無理に竜太を一人で旅立たせるのだった。

やがて40日が経過し、何の音沙汰もなかった竜太から、35日かかってサントスの港へ無事到着し、今は、サンパウロで暮している、こちらで紹介された鉄工所で働くと手紙が届く。

自分に黙って旅立った息子に対し、人前では憎まれ口を叩いていた千造だったが、内心では人一倍心配しており、飲む焼酎の量も増えていたのだが、やはり、便りを貰えば安心するのも当然だった。
その手紙を、春子に声を出して読ませ、一人、嬉しそうに焼酎を飲む千造だった。

さらに数カ月経ち、春子は突然めまいを起こし、堤防から海に落ちるという事件が発生する。
診療した医者は、彼女が妊娠5ヶ月であることを知る。
もちろん、竜太の子だった。

ひょんなことから、診療所で寝てしまい、明け方慌てて帰る春子の姿を見かけたおりん婆さんは、かねてより、春子のことが好きらしいと噂されていた医者と春子が良い仲になったと勘違いして、千造に知らせに行くが、そのことがきっかけになり、医者は千造に春子のからだのことを打ち明け、やがて出産が近づいた春子を診療所に移させ、明くる正月に無事、男の子が生まれるのだった。

竜介と名付けられたその赤ん坊は、医者が自分の養子とし、春子と共に診療所で暮すことになる。

その後、千造は身体を悪くして寝込むようになる。

ところが、そんな所へ、ひょっこり、ブラジルで働いているはずの竜太が帰って来てしまう。

どうやら、あちらの仕事は巧く行かなかったらしい。

島で聞いた噂通り、医者との間に子供を作ったと思い込んだまま、診療所にいる春子に会いに行った竜太は、その赤ん坊が、自分の子供であることをはじめて知らされる。

喜んだ彼は、春子と赤ん坊を一緒に暮そうと言い出すが、春子も医者も、その言葉に素直に従わなかった。

物陰でその一部始終を聞いていた千造は、息子に対し、今のお前が一人前に親の権利を主張するなどできないのだと、厳しく叱り、いたたまれなくなった竜太は島をまたもや飛び出てしまう。

そしてとうとう、息子がいなくなった島で、千造は一人息を引取るのだが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

南仏の港町マルセイユを舞台に描かれたマルセル・パニョルの「ファニー」という戯曲を、瀬戸内海の小島に置き換えて描かれた翻案ドラマ。

「懐かしい風来坊」(1966)に次ぎ、有島一郎が傍観者的主人公とでもいうような立場を演じている。

ただし、強烈なキャラクターを持つ人物と、一貫して傍観者であり続けた有島演ずる主人公の対比がはっきりしていた「懐かしい〜」に比べると、本作は少し人間関係が入り組んでいる上に、有島演ずる人物そのものが、ドラマ上かなり重要な立場にいるにも関わらず、主人公なんだか脇役なんだかはっきりしない表現になっているため、前作ほどすっきり分かりやすい構成ではなくなっている。

有島が主人公に見えないだけではなく、誰が本当の主人公なのかもはっきりしないのだ。

原作そのものを観ていないので、原作のあらすじその他で想像するしかないのだが、元々は、愛しあいながら別れた若い男女と中年男性との三角関係がベースらしい。

しかし、この作品で焦点が当てられているのは、ヒロイン役を演ずる倍賞千恵子でも、中年男を演じる有島一郎でもなく、若者の父親を演じる伴淳であるように見えてしまう。

父親からの束縛を嫌って家を飛び出した息子を、人知れず心配する老いた父親の寂しさが切々と描かれており、伴淳は、この役をなかなか好演しているのだが、作者があまりにもこの人物描写に力点を置いているため、途中から始まるヒロインと中年医師との微妙な関係が今一つ分かりにくい。

実は、この部分がストーリーの要であり、この部分があるからこそ、後半の三角関係の葛藤劇が生まれるのだが、本作では、何となくサイドストーリー風にぼかして表現しているため、後半の葛藤劇も何となくスッキリしないものになっている。

では、終始一貫、伴淳演ずる父親が主人公なのかと思うとそうでもなく、作者の視点は俯瞰的で、あれこれ登場人物たち全てに目配りし過ぎているようで、結局、この作品を、小さな島でのちんまりした群集劇みたいな、やや散漫で印象の弱いものに終わらせているように思えてならない。

船長を演ずる千秋実や、郵便屋を演ずる小沢昭一、床屋を演ずる太宰久雄など、脇役たちが全員、生き生きとしているのが魅力ではある。