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あしたのジョ−

この劇場版自体は、「ロッキー」(1976年)が大ヒットし、ボクシングヒーローブームが巻き起こった時代に、昔放映されたTVシリーズを編集し直して公開された物である。
貧しい流れ者の不良少年矢吹丈が、少年院で、宿命のライバル力石徹と出合うシーンで、原画のちばてつや氏が、力石の体型を何の気なしに大きく描いてしまった事が仇になり、後に二人がリングで戦う事になった際、力石に、極端な減量を強いるエピソードを作らねばならなかった話など、原作者二人の才能のぶつかり合いが、この希有な物語を生み出した数々の逸話は有名であろう。
「力石の死」あたりまでを描く前半部分は、あの手塚治虫が作った「虫プロ」の作品であった。
もともと、手塚作品のアニメ化を主に行っていた虫プロも、それだけでは、経営が苦しくなり、他の作家の作品にも手を染め出した初期の作品であるが、技術的には円熟期にあり、東京ムービー製作の人気作品「巨人の星」の、どこか泥臭さを感じさせる作風とは、一線を画した完成度を誇っていた。
特に、伝説の力石戦では、アニメの特性をフルに生かし、スローモーション的な動きや、「勢い線」を有効に加えたシャープな動きの交錯で、実写では不可能な両者の表情や汗の動きまで、独自のデフォルメがなされ、観ている者の息を止めさせてしまうような、緊迫感溢れるシーンを作り出すのに成功している。
しかし、当時、このアニメとしての素晴らしさを、真に理解していた視聴者は少なかったと見え、虫プロ版「明日のジョ−」は、視聴率不振のまま、物語途中で打ち切られてしまう。
故藤岡重慶氏の段平役は、その独特の声によって、ある世代にとっては、忘れがたい、名キャラクターになっている。
「2」の方は、その後、別のプロダクションによって製作された、物語後半部分のTV版再編集に、新たなシーンを付け加えた物である。
力石の死後、その記憶がジョ−の消しがたいトラウマとなって苦しみ抜くが、さらなる、ライバルとの戦いを経て、また、再び、かつての野生の魂を取り戻して行くのだが…。
無冠の帝王、カーロス・リベラ戦や、クライマックスの世界チャンピオン、ホセ・メンドーサ戦は、力石戦とは、又違った迫力に満ちており、「1」以上に、感動的な作品に仕上がっている。
ライバルを演じる、細川俊之氏や岡田真澄氏の声が絶品!
「具体的な目的がある、スポ−ツ根性もの」であった「巨人の星」よりも、「何かに向けて、ひたすら前進し続ける」「明日のジョ−」の方が、現代の世相にも通用する、「普遍性」を持ち得ているような気もするのは、気のせいか。
スポーツやボクシングファンのみならず、青春に苦悩するすべての人たちに「勇気」を与える、不屈の名品。
余談だが、「打たれても、打たれても、決して倒れなかった」ジョ−のモデルは、元ボクサーであった、故タコ八郎氏だという噂もある。