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東京夜話

1961年、東京映画、富田常雄「ひょっとこ」原作、八住利雄脚色、豊田四郎監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

渋谷の裏町にあるバー「ケルン」に、一人の大学生、立石伸一(山崎努)が小型車でやってくる。
ウイスキー屋の健ちゃん(フランキー堺)の紹介で来たという新しいアルバイトのバーテンダーであった。

彼は何故か、銀座の人気店「オセロ」を辞めたのだという。

すっかり彼の真面目な仕事振りが気に入った「ケルン」のママ仙子(淡島千景)は知らなかったのだが、実は伸一、彼女のパトロンである立石良作(芥川比呂志)の一人息子で、父親の愛人の生活振りを探りに来たというのが本当の所。

立石良作は元外交員だったのだが、パージにひっかり、今では、屋敷は外国人に貸してしまい、自分の財産は屋敷の敷地内にある納屋だけという身分に堕ちてしまっていた。

伸一は今でもその納屋住まいなのだが、かつての生活が忘れられない良作は、あれこれ周りのものを売り払っては贅沢な昔の生活の余韻を楽しむという未練がましい生き方をしていた。

そんな「ケルン」のホステスのゆかり(団令子)は、常連の畳屋のじいさん(中村伸郎)を篭絡して小遣いを巻き上げようとしていたし、 同じホステスのらん子(岸田今日子)は、ヤクザの愛人二郎(丹波哲郎)に暴力をふるわれながらも、腐れ縁を断ち切れないでいた。

一方仙子は、懇意の銀座「オセロ」のママ(乙羽信子)から「オセロ」を売りたいという話を電話で聞かされ乗り気になる。

実は今、地元で新しい道路を作るため、付近一帯で立退料を値上げさせる相談をしていた所であったが、仙子には当座の資金がない。

それで、何とか「オセロ」を買取る資金を調達しようと良作にも相談するのだが、今の彼には何の力も残っていなかった。
焦った仙子は、区会議院の植木(織田政雄)が自分の身体に興味を持っていることを利用し、彼から金を引き出そうとするのだったが、途中で気持ちが挫けてしまう。

その頃、仙子の様子を大体知った伸一は、三日で「ケルン」を辞め、又、銀座の「オセロ」に舞い戻っていた。

旧友たちが夢中になっている学生運動にものめり込めず、自分の学力にも自信がない彼は、ホステスのお京(馬淵晴子)を通じ、「オセロ」の常連、ミロ重工業の春海(有島一郎)に働きかけて、自分の就職の世話をさせようとしていた。

そんな彼も又、「オセロ」を買う気持ちを持っている一人だった。

実は、今住んでいる納屋を含め、外国人に貸している屋敷の権利も彼が持っていたからである。

伸一は独断で、父親の知人の銀行家、宗田(森繁久彌)にあっさり屋敷を売ってしまう。

その事実を知った仙子は、唯一頼りにしていた希望も打ち砕かれて、夜叉のごとく、伸一や良作に当り散らすのだが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

零落した元エリートの父親と、その情けない生きざまを反面教師としてたくましく生きようとする一人の青年を中心に、彼らを取り巻く女性や級友たちの生き方をあぶり出して行く文芸作品。

主人公の青年を演じる山崎努に注目した黒澤明が、彼を起用したのが「天国と地獄」(1963)らしい。

確かに、一見学生運動などからは距離を置き、現実的に生きているように見えて、実は自分の家系などをめぐる複雑なコンプレックスを心に封じている青年を、山崎努はうまく演じている。

他にも、大人同士の微妙な男女関係を演じわける芥川比呂志と淡島千景、またあっけらかんとした団令子などメインとなる役者たちから、うらぶれた流しのアコーディオン弾きを演ずる松村達雄、学生運動で、エリートとしての人生を自らダメにしてしまったことを悔やむ伸一のクラスメイト高橋昌也など脇を固める役者たちまで各々存在感があり、地味な内容とは裏腹にグイグイと引き込まれるものがある。

しがらみだらけの世の中に執着するのではなく、全てを投げ出すことから新しい生活、考え方が始まるという事だろうか。

後味は悪くない秀作だと思う。