1941年、中華連合製片公司、王乾白原作+脚本、萬籟鳴+萬古蟾監督作品。
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「西遊記」は怪奇小説のようなものだと勘違いされている向きもあるので、本作は子供の教育用に、火炎山に立ち向かう三蔵たちの姿を人生に例えて作ってみた…という断り書きが冒頭に出る。
天竺に向う三蔵一行は、道中何やら、秋だというのに猛暑であることに気づく。
山の頂きにある人家を発見した一行は、そこで休息を取らせてもらうことにするのだが、そこの主人がいうことには、西に火炎山という灼熱地獄があり、そのために、この辺一帯は始終熱いのだという。
悟空がひとっとび火炎山の様子を見に行くと、確かに山中巨大な炎だらけ、その中に、火炎妖怪のような化物まで住んでいる。
ホウホウの態で逃げ帰って来た孫悟空、しかし、こんな環境なのにどうして作物がとれるのかと尋ねると、主人は、翠雲山の芭蕉洞という所に、鐵扇公主という牛魔王夫人が住んでいて、彼女が持っている「芭蕉扇」で煽ぐと雨が振るので、その間に作物を育てていると説明する。
さっそく、誰かがそれを借りに行こうという事になり、結局、貧乏くじを引いたのは口下手な沙悟浄。
しかし、芭蕉洞に到着した彼は、鐵扇公主に会う前に、召し使いに体よくあしらわれてしまう始末。
やはり、兄貴分の悟空が行くことになるのだが、翠雲洞に出向いた彼を迎えたのは、息子を悟空に殺された鐵扇公主であった。
悟空は何も覚えていなかったが、常日頃よりその復讐を誓っていた鐵扇公主は、芭蕉扇を使って悟空を空の彼方まで飛ばしてしまうのだった。
とある、山寺に落ちた悟空は、そこで出会った僧侶から、芭蕉扇を無力にする「ていふうじゅ」という玉をもらい、再び、猪八戒、沙悟浄を伴って翠雲洞に舞い戻る。
再び現れた悟空に、芭蕉扇が効かないことを知った鐵扇公主は屋敷内に逃げ込むが、小さなてんとう虫に化けた悟空は、何なく屋敷内に侵入し、鐵扇公主の飲み物の中に紛れて、彼女の胃の中に入り込んでしまう。
そこから、彼女を脅した悟空は、ようやく目的の芭蕉扇を手にいれ、三蔵の待つ家に戻ると、さっそく、火炎山へ飛んで、それを煽ぐが、一向に効果がない。
実は、まんまと偽物を持たせられて来たのだった。
今度は、猪八戒が一人で牛魔王の待つ翆雲洞へ出かけてみる。
そこには、巨大な恐竜が眠っていたが、何とかやっつけた後、自ら牛魔王に化けて、今度は芭蕉洞の鐵扇公主の元へ。
まんまと、彼女を騙して、芭蕉扇を手にいれた猪八戒だったが、得意げに帰る途中、現れた孫悟空にその芭蕉扇を渡した所、あっという間に、悟空は牛魔王に変身、見事に自分が化かされた猪八戒だった。
三蔵の元に戻り、万策尽きたかに思えた彼らだったが、三蔵は、もう一度、今度は村の民衆の力も借りて全員で芭蕉扇を借りに行こうと提案するのだった…。
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日本版タイトルは「西遊記 鐵扇公主の巻」、ディズニーの「白雪姫」(1937)に触発される形で作られた、アジア初の白黒長篇アニメーションである。
日本語版では、徳川夢声らが声を当てている。
子供時代、親に連れられてこの作品を観た手塚治虫氏も又刺激を受けて、後の東映動画「西遊記」(1960)や漫画「ぼくはそんごくう」(1952〜1959)を作ったとされている。
孫悟空のキャラクターは、異様に頭が大きく手足が細長い、どこかバタ臭いデザインなのに対し、三蔵法師の顔は何やら仏様顔、沙悟浄に至っては、河童のイメージが強い日本のキャラクターとは違い、総髪、ヒゲヅラの山伏風。猪八戒だけが、お馴染みの布袋腹をした豚のイメージ。
キャラクターそのものに可愛げは余りないのだが、動きのリアルさには、冒頭、三蔵一行が歩く姿が登場した瞬間から驚かされる。
漫画調に誇張された動きではなく、ディズニーが「白雪姫」の人間キャラに使用したのと同じように、実写映像をトレースしたのではないかと思われるほど、細部に渡るまで動きが自然なのだ。
キャラデザインは誇張されている悟空にしても、その動きは、猿の真似をしている人間を書き写したような感じがする。
もちろん、悟空が空をクルクル飛び回ったりするシーンなどは想像のままに描いているのだろうが、とにかく、リアルな動きと誇張された動きのバランスが絶妙。
その悟空がてんとう虫に化けたり、緒八戒が牛魔王に化ける過程のシーンも、単純に変化するのではなく、顔や手足一つ一つの変身パーツごとに工夫が凝らされ、丁寧に描かれている。
また、火炎山の妖怪の姿等は、トレース線を使わず、ブラシ等も併用して絵画風に描かれている。
恐竜が登場してきたのにもちょっと驚かされる、ウィンザー・マッケイが「恐竜ガーティ」を作ったのが1914年だから、それから遅れること30年近く経って、アジアのアニメ作品に初登場したことになる。
キャラクターの生硬さ、クセの強さは、観る人によって違和感を感じることはあるだろうが、全体としては、かなり楽しめる水準が高い作品だと感じる。
アニメ好きには必見の作品だろう。
