1948年、マキノ映画、長谷川町子原作、京都伸夫脚本、荒井良平監督作品。
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磯野家の庭に野球のボールが飛んでくる。
塀越しに取ってくれと子供がいうのに、サザエさん(東屋トン子)は「謝りなさい」という。
すると、塀の下から「すみません」の声が…。
実は、父親が子供を肩車していたのだ。
しかしサザエさん、ボールを足で蹴って外に出すのだが、その際、はいていた下駄まで飛んでいってしまう。
外では、子供がその下駄を返してやろうとというが、父親「いや、謝らないと返さない」。
サザエさんも意地になって、けんけんしながら家に入ってしまう。
昼食時が近づいて来たので、サザエさん、台所で何か斬新な代用食を作ろうと思案を始めるが、ちょうどそこへ、お腹が空いたというワカメがやって来てラジオをつけると、ちょうど代用食の作り方を放送している。
渡りに船とばかり、その通りに作っていると、何とそれは「鶏のエサの作り方」だった。
フネが昼食の準備を終え、サザエさんに波平を呼びに行かせるが、ちょうど波平はその時屋根の修理中、それに気づかないで、サザエさんは屋根に立て掛けてあったはしごを持って帰ってしまう。
出版社に勤めはじめたサザエさん、時計を見ると12時、サイレンも聞えたので、さっそく持って来た弁当を広げてほうばるが、実はその時計は故障中、周りの編集者たちはあきれ顔。
編集長から、みどりさんと一緒に婦人警官になったつもりで、良いスクープ写真を撮ってこいと命じられたサザエさん、街角で怪し気なものを売っている赤ん坊を背負った婦人の写真を撮る。
さらに、何やら腕まくりして列をなしている男たちを発見、先ほどの事もあるのでサザエさん、すぐさま近くの交番の警官たちに通報するが、それは「チフス予防の注射」を待つ列だった。
サザエさんの住む町の商店は、みんな歌が上手。
特に、喫茶店「NOBARA」のウエイトレスとみ子の歌う「九官鳥」の歌が、男装の麗人、宮城野ちづる(宮城千賀子)の劇団支配人牛尾三郎の耳にとまり、彼女は劇団にスカウトされる事になる。
そんな中、サザエさんやとみ子の友達で、戦地に行ったまま帰って来ない夫を待っているせつ子の妹ユリがトラックにはねられて大怪我を追う事故が発生する。
手術をしなければ一生不自由な身体になると知らされるが、手術には5万円もの大金が必要なのだという。
せつ子の友人たちは何とか金を工面しようとするが、思うように金が集まらない。
とうとう、サザエさん、友達たちにそそのかされて、宮城野ちづるのスクープ写真を撮ろうと、劇団へ乗り込んで行くが、写真は固く断わられたものの、事情を知った宮城野が手術代の足しにと金を包んでくれる。
それでも、まだ2万円足りない。
高額な手術代の事を知っているユリは、姉に対して、もう手術等しなくても良いと言い張る始末。
困ったサザエさん、ある日何気なく見た新聞紙上に「時給200円」という信じられないほど高額な仕事の口を発見する。
何と、それはヌードモデルの仕事だったのであった…。
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国民的人気漫画「サザエさん」の日本初の実写映画化作品。
キネ旬のデータベースにも詳細が載っておらず、長らく「謎の作品」として個人的に気になっていたのだが、今回「発掘された映画たち2005」という特集でようやく観る事ができた。
製作したマキノ映画とは、マキノ眞三と宮城千賀子夫妻が1948年に作った会社らしい。
そのせいか、本作も途中から、宮城千賀子が歌い踊る「狸御殿」の現代版みたいなレビュー風映画となっている。(音楽担当は服部良一。ただし、サザエさんは一切歌のシーンには登場しない)
オールバックに男装の宮城千賀子は、この当時さすがに凛々しく美しい。
宝塚出身だという事は知っていたが、こういう扮装をした宮城千賀子を観たのは、おそらくこれがはじめて。
映画の冒頭部分は、後に江利チエミ主演で作られた「サザエさん」第一作(1956)と重なるネタがいくつも出てくる。
サザエさんは庭付きのかなり裕福な家の娘といった感じでまだ独身、見習いながら出版社勤めをしており、そんな彼女に惚れているケイスケ君という放送局に勤める美青年がいるという設定になっている。(何故かマスオさんは登場しない)
サザエさんを演じている東屋トン子という人は、ちょっとタレ目がかわいらしい普通のお嬢さんといった感じ。
いくつかのエピソードが、波ガラスを使ったワイプ手法で転換して行く。
ところが中盤になると、サザエさんはそっちのけの歌のオンパレード。
町のタバコ屋、肉屋、魚屋、花屋らがストーリーには関係なく、各々勝手に美声を披露して行くのが何とも珍妙。
宮城千賀子の登場場面は、完全に彼女のレビューショーといった印象で、エキゾチックな南洋のイメージの歌を、踊り子たちに囲まれて気持ち良さそうに披露している。
このシーンが見られるだけでも、この作品は貴重といえるかも知れない。
その楽屋をサザエさんが訪れるシーン等、どっちが主役なのかわからないような撮り方になっているのも御愛嬌か。
さらに映画として気になるのは、おとぼけコメディタッチだった最初の調子が、途中から何やら湿っぽいお涙調の話に変化してしまっている点。
お金に困った親友を助けるために、サザエさんが思いきってひとはだ脱ぐのだが、それが文字どおりの意味なのだから驚かされる。
しかも、話の展開からすると、単なる「絵や写真のモデル」ではないようなのだ。
いつ復員してくるか分からぬ夫を心配して待ち続ける女性友達という設定も時代を感じさせるが、サザエさんとケイスケくんが、喫茶店で周りの友人たちから冷やかし半分に勧められて飲まされるのが「初恋の味カルピス」というのも、今となっては珍しく映る。
「銀座カンカン娘」(1949)にもその歌が登場するように、この時代、最もおしゃれな飲み物だったという事だろう。
とにもかくにも、レビュー映画としての江利チエミ版「サザエさん」の原型ともいえる本作は、色々な意味で大変興味深いものであった事は確かである。
