1950年、ラジオ映画、今村貞雄原作、松永六郎脚本、伊賀山正徳監督作品。
「吾輩はタコである」と徳川夢声のナレーションが入りながら、海の中にいたタコが、住み慣れた海の中の生き物たちを紹介する所から始まる。
我が輩は、海辺の岩場に住んでいる。
軟体動物で、ゆでダコ、酢ダコなどでお馴染みのはずである。
我が輩の住んでいる海の中には、妙な風変わりが住んでいる。
チャリ、タツノオトシゴ、エイ、小判鮫、猫鮫、自分が好物の伊勢海老の生態等がはっきり映し出されて行く。
やがてタコは漁船が仕掛けたタコ壺にうっかり入ってしまい、そのまま漁船に引き上げられてしまう。
壺にしがみついていたタコだったが、壺の底の小さな穴から熱湯を注がれ、たまらず出ることに。
捕まったタコは、晩のおかずになるべく、魚屋の行商人が引くリヤカーに乗せられ、とある寺にやってくる。
そこで魚屋が住職にカツオを持って行った隙を狙い、タコはスタコラ、リヤカーから脱出する。
タコは、懐かしい海へ帰ろうと寺の階段を独力で降り始める。
苦手な真水の川を渡り、何とか向こう岸にたどり着いたタコだったが、そこで彼は山火事に遭遇、からくも難を逃れたタコは、その後、鉄道のレールを越す際、危うく通過する列車に轢き殺されそうになり、気絶してしまう。
しばらくして、恵みの雨が振り、気づいたタコは、カマキリのメスが、交尾をした直後のオスをムシャムシャ食べてしまう様子を観たり、亀の背中に乗せてもらって移動したり、山で小熊と遭遇、いたぶられたりする。
やがて、タコは鉄橋から川へ落下、奇跡的に流れていた板にへばりつき、緩やかな川辺に到着する。
その岸辺で、アヒルの巣とは気づかず、卵の上に乗ってしまったタコは、自分の身体の下から生まれて来たヒナたちに驚くのだった。
その内、クモの巣に引っ掛かっている蝶を発見したタコは、地面から墨を発射してクモの巣を破壊、助かった蝶はいつまでもタコの側を離れようとしなかった。
とうとう、海が見える場所までたどり着いたタコは、一晩、その場で眠ることにするが、帰り着いた我が家で、妻と共に、天敵であるうつぼと大格闘する夢を観ることに。
朝目覚めてみると、うつぼに形の似た蛇が近づいて来るではないか。
何とか、吊り橋を渡ろうとしたタコだったが、眼下の谷間に観たものは無数の蛇。
そこは、蛇の王国だったのだ。
しかし、そんなタコのピンチを救ったのは、昨日彼が救った蝶だった。
さらに、都合の良いことに、多数のカエルが接近して来たため、蛇たちの関心はそちらに向いてしまう。
蝶に礼を告げたタコは、とうとう念願の海にたどり着き、懐かしい家路につくのであった…。
▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼
おそらく、子供を対象とした教育目的で作られた、半分ドラマ仕立てで見せる、身近な生物の生態記録映画といった所だろうか。
サザエをぼりぼり噛み砕き、殻だけ出して貝を食べている猫鮫の生態や、カマキリの交尾のシーン等、かなり珍しいシーンが、接写で驚くほどクリアに撮られている。
ドラマ仕立てにしてある所からいえば、動物映画の元祖みたいなものかも知れない。
登場するタコは、全部本物。
画面ごとで、主役タコの色形がかなり変化していることからも分かるが、 おそらく劇中、何匹ものタコをとっかえひっかえして撮ったもののと想像される。
川に入れられたり、山道を歩かされたり、かなりハードな演技を要求されているので、犠牲になったタコも一匹や二匹ではないはずだ。
蛇がうじゃうじゃいる谷間にかかる吊り橋のシーンは、さすがにセットで、ここだけはちょっと雰囲気が変わって冒険活劇風なのだが、後はオールロケ。
ひたすら、いろんな所を動いているタコが延々と映し出されていく。
映像自体もそれなりに珍しいのだが、それを面白おかしく見せているのは、何といっても徳川夢声のユーモア溢れる軽妙なナレーションの力だろう。