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海軍特別年少兵

1972年、東宝映画、鈴木尚之脚本、今井正監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和20年、硫黄島、2万3000人の日本軍は壊滅し、800名ばかりが残るだけとなったこの島に、こちらも1万人の犠牲者を出していたアメリカ軍が上陸し、島の4分の3を占領する。

彼らがそこに見たものは、まだあどけなさが残る少年兵の横たわった姿だった。

時は遡り、昭和18年6月1日、横須賀第二海兵団に14才になったばかりの少年たちが2等水兵として入団してくる。

岩手県出身の林拓二(中村まなぶ)は、酒浸りで働かない父親弥吉(加藤武)と母親(加藤治子)との極貧暮しを何とか助けるため入団して来たが、生来不器用なのか、何をやらせても周りに迷惑をかけるような少年だった。

その同郷で親友の江波洋一(佐山泰三)には、小学校の教師をしている父親(内藤武敏)と母親(山岡久乃)がいたが、父親は立場上、教え子たちに対し、かねがね心とは裏腹に軍隊に入る「年少兵制度」を勧めて来た自分に耐えられなくなり、間もなく教師を辞めることになる。

栃木出身の宮本平太(福崎和宏)の父親(三國連太郎)は理髪店を営んでいたが、貧乏人は国から何も恩義を受けていないのだから、国のために戦う必要等ないという持論を持っていたがため、「アカ」というレッテルを貼られ、特高から拷問を受け、片足が不自由になってしまった男であり、平太はその父親を軽蔑し切っていた。

福島出身の栗本武(高塚徹)は母親(奈良岡朋子)と二人暮しだった。

長野出身の橋本治(粕谷正治)は、娼妓に売られた姉ぎん(小川真由美)の送金を食いつぶしているようなおじ(大滝秀治)夫婦の家で世話になっていたのだが、何とか、姉を助けたいと入団して来たのであった。

彼らを鍛える立場にある工藤教班長(地井武男)と英語担当の吉永中尉(佐々木勝彦)が、少年に対する教育の仕方で対立する考え方を持っていた。

海軍の伝統である罰直主義を是とする工藤上曹に対し、吉永中尉は、子供に対しては愛で教えよというのである。

送れて着任して来た数学、物理、化学担任の山中中尉(森下哲夫)は、そんな二人の対立を冷ややかに見つめていた。

吉永中尉の「愛の教育」には現実感がなく、実は表向きは厳しいだけに見える工藤教班長の方が、貧しい生まれの少年たちの立場を深く理解し、影で彼ら一人一人に細やかな目配せを施していたのであった。

そんな中、演習に出かけた先で、林が銃剣に取り付けてあった懐剣を紛失していたことに気づく。

懐剣がなくなったことが判明すれば、軍法会議ものである。

工藤教班長は、真っ青になった林を独り先に民宿に帰し、その後、偶然にも懐剣を発見するが、あろうことか、林は宿には帰っておらず、後に自決した姿が発見される。

その後、一旦は職を辞した工藤だったが、砲術学校を経た教え子の少年兵たちが、硫黄島に配置されたと知り、自分も共に死なんと現地で合流するのだった…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

「東宝8.15シリーズ」の6作目に当り、東宝創立40周年記念作品。

ミッドウェイ敗戦後、中堅幹部養成を建て前として昭和16年に創設されながら、実際は戦局の悪化に伴い、14、5才の少年たちをわずか1年そこそこの教育の後、そのまま第一線に送り込むことになる、海軍特別年少兵制度の悲劇を描く内容になっている。

この制度自体を知るものも少なく、この映画を観ただけでその全貌をとらえる事は難しいが、戦争末期には、こうした救いようのない事態まで起きていた事実を広く世に知らしめた意義は大きいと思う。

純朴で戦争に参加する事に微塵も疑問を持っていない地方出の年少兵たちが集まった某一班を中心に、その教育や訓練の日々の様子に、彼ら一人一人の貧しくつらい生い立ちを短く挿入させながら描く前半の処理はテンポも良く適格である。

特に、いかにも不器用で、班の全員に迷惑をかけっぱなしの少年林のキャラクターが良い。
観客はごく自然に彼に感情移入してしまうので、後半の悲劇性がより強調されている。

さらに、そんな彼らに対し表面上はひたすら厳しく「鬼の工藤」と呼ばれている工藤教班長の苦悩とその恩情溢れる心根が、徐々に観客に伝わってくる辺りの描写もうまい。

その工藤を地井武男は好演しており、この作品は彼の代表作といっても良いのではないだろうか。

また「子供に対しては愛で教育を」などときれいごとをいっている「仏の吉永」に対し、「教育者として、何故、年少兵制度自体に反対しないのか」と皮肉を込めて問いかける山中中尉、あるいは社会主義思想を持っていたがために虐待を受けた宮本の父親などに、そうした正論を口にする事すら許されなかった当時の時代の暗さを象徴させている。

娼妓に売られた不遇さに屈するのではなく、一人の女として自分なりに小さな幸せを掴もうとする女を演ずる小川真由美の存在も印象的。

決して、派手なスペクタクルで見せるようなタイプの戦争映画ではないが、訴えかけてくる力は大きい。

「東宝8.15シリーズ」の中でも、屈指の秀作だと思う。


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