1982年、芸苑社、水木洋子脚本、今井正監督作品。
東宝創立50周年記念作品であり、1953年度の東映版「ひめゆりの塔」の今井監督本人によるリメイク作品でもある。
芸苑社というのは、70年代、東宝が製作を分離する際作った子会社の一つらしい。
カラーになり、東宝系作品らしく特撮が若干加わっている所、 先生たちの名前など細部が若干変えられているなどの他は、ストーリー展開はオリジナル版とほとんど同じといって良い。
一見、これはこれで予算をかけた大作に見えるのだが、オリジナル版を知った目で観ると、女生徒たちの数を始め、全般的に画面密度が微妙に薄まっているように感じられる。
さらに、印象的なキャラクターが何人も登場したオリジナル版に比べると、どうした訳か人間描写が全般的に淡白になっており、特別印象に残るキャラクターがいないのが惜しまれる。
白黒版に印象を近付けようとしたためか、陰影を強調した画面が多く、そのため、人物の顔の表情までもが見えにくくなっている事もあるのだろうが、オリジナル版で津島恵子が演じた宮城先生役の栗原小巻、岡田英次が演じた玉井先生役の篠田三郎、加藤嘉が演じた佐々木軍医長の田村高廣、藤田進の演じた恩情派岡軍医役の井川比佐志や大城看護婦長役の原知佐子といった面々が、全員、印象が弱くなっているのだ。
高圧的な大高仕官役を演ずる若き日の役所広司が、ちょっと印象に残る程度。
大場久美子や古手川祐子、田中好子らが演じている女生徒たちにしても総じて印象は弱めで、これは演じている役者が悪いというのではなく、同じ素材を繰り返して演出している監督の、各人物に対する思い入れのようなものが、オリジナル版当時に比べ薄れているためではないかと思われる。
逆に、オリジナル版では若干分かりにくかった、戦況の変化やシーンごとの位置関係などが、字幕が付いた事で分かりやすくなっている。
この作品だけを観れば、これはこれでそれなりにまとまっており、特に何が悪いというほどでもないのだが、何となく全体的にインパクトが弱いのは確か。
やっぱり、登場する個々の人物像への迫り方が希薄になっている事が、要因として大きいのではないだろうか。
この頃の流行りとはいえ、さだまさしが歌う妙にセンチメンタルなラストソングも、今聞くと、若干違和感を感じないでもない。
