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ひめゆりの塔('53)

1953年、東映東京、水木洋子脚本、今井正監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

昭和20年3月24日、沖縄。

アメリカ軍の艦砲射撃が始まり、間もなく沖縄上陸が始まるとの噂が伝わって来たので、沖縄師範女学校の主事室に教師の玉井(岡田英次)らが急遽、重要な書類等を掻き集めに訪れていた。

サイパンが玉砕したのが半年前、本土防衛の戦いの場になる事は避けられない運命であり、教師たちも覚悟を決めていた。

そこへ、宮城先生(津島恵子)に引き連れられた高射砲部隊の女学生たちが帰ってくる。

夫を亡くし、乳飲み子だけを抱えて、学校に戻ろうとする一人娘を引き止めようとする母親。

学校に集合したひめゆり学徒の中には、父母と別れを惜しむ者、遠方から訪ねて来た姉と再会する妹、妙にはしゃぐ少女たちなどがおり、それを少し離れた所から冷静に見つめる上原文(香川京子)、千代(市村雅子)姉妹は、すでに父母を亡くしていた。

父母らと別れて来た彼女らは、一旦は洞窟内に退避するが、アメリカ軍の攻撃は3月末日になっても止む気配はなかった。

彼女たちは、南風原陸軍病院の第三外科壕へ看護婦として派遣される事になる。

3月25日、アメリカ軍は慶良間島へ上陸、28日には全島を占拠してしまう。

引率教師たちは本部壕に集合させられ、天一号作戦が発令された事を知らされるのだった。

第三外科壕には、教師や学徒たちに高圧的な大高見習い仕官(原保美)や、温和な岡軍医(藤田進)がいたのだが、トラックを使って卒業証書を学校に取りに戻ろうとした教師たちは、大高から拒否され、やむなく歩いて戻る事にする。

宮城先生は、急な初潮にショックを受け、歩けなくなった生徒を励ましながら一緒に学校へ戻る途中、地雷を仕掛ける音を聞き、アメリカ軍が間近に迫っている現実を知る。

ひめゆり学徒たちは、その夜の内に卒業式を済ませると聞かされ、一同喜ぶが、卒業証書を渡す瞬間にも艦砲射撃は止まず、彼女たちは式の余韻を味わう暇もなく、各外科壕へ戻るのだった。

第三外科壕の中は地獄のような状況だった。

ひめゆり学徒たちはまだ少女であるにもかかわらず、負傷兵の下の世話から、水食料の補給、外科手術の手伝い、死体の遺棄作業までさせられていた。

そんな中、安富良子(渡辺美佐子)は重傷を負う。

5月25日、佐々木軍医長(加藤嘉)らが、南部真壁方面への転居命令の伝令を受けていた中、外科壕の入口がガス弾にやられ、2号壕の入口は落盤で上原文ら生徒が生き埋めになったという知らせが届く。

宮城先生らは、急いで現場に向い上原を掘り起こし、彼女は千代の必死の人工呼吸でかろうじて蘇生するが、もう一人の女生徒は助ける事が出来なかった。

やがて、降りしきる雨の中、歩けない患者たちには自決用の手榴弾を渡し、病人とひめゆり学徒たちは徒歩での夜間移動をはじめる。

平良先生(信欣三)の気掛かりは、仲間たちの輸血で何とか意識を戻しながら、動けないため、やむなく一人第三外科壕に残して来ざるを得なかった安富の安否だった。

不眠不休の雨中の行進は続き、一行は糸洲に無事到着、一時の休息を取る事ができる。

しかし、後日、南風原警備隊が全員撤退したとの伝令を受けた平良先生は、安富良子を助けに行くため出発を決意する。

軍の協力が得られない事を知ったその決死隊には、玉井先生や宮城先生も参加する事に。

そんな中、糸洲地区への一斉艦砲射撃が始まり、6月27日、一つの壕内に大勢集まっていたのではやられる人数も多くなるとして、岡軍医はひめゆり学徒たちの解散を命ずるのだが、宮城先生の耳はすでに聞こえなくなっていた…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

数多くの10代の少女たちが沖縄戦で犠牲となった「ひめゆり学徒たち」の悲劇を描く反戦映画。

冒頭に使用される米軍の記録フィルム以外は、ほとんど特撮等に頼らず、ロケやセットを中心とした群集ドラマになっており、登場人物の多さや爆発描写の迫力もあって、その戦争映画としての緊迫感は比類がない。

ひめゆり学徒の悲劇を描いた映画はいくつかあるが、本作に登場する女生徒たちは、一番幼く、本当に現在の中学生や高校生くらいにしか見えないのが痛ましい。

まだあどけなさが残る彼女たちが、いきなり直面させられる外科壕の中の悲惨な描写には言葉もない。

彼女たちに、そうした過酷な運命を背負わせてしまった教師たちの苦悩と使命感も良く描かれている。

特に、知的で清楚な美貌の宮城先生を演ずる島津恵子、恩情派の岡軍医を演ずる藤田進、 きりりとした瞳が印象的な香川京子、高圧的な仕官を演ずる原保美、女生徒たちに「めめずく(みみずく)」とあだ名されている大城婦長役の原泉子など、印象的なキャラクターが豊富なのも作品を強めている要因だろう。

他にも、女生徒の中には「生きる」の小田切みき、先生役には、後に悪役俳優としてお馴染みとなる神田隆をはじめ、河野秋武、殿山泰司ら、また軍医として土屋嘉男など、どちらかといえば東宝系のイメージが強い意外な顔ぶれも揃っている。

白黒作品という事が、記録フィルムでも観ているようなリアリティを与えているという事もあるのだろうが、演技も画面構成も全体的に密度が濃い感じで、どこか、ちゃちさが見えかくれする後年の戦争映画とは何かひと味違っている。

沖縄の地理に疎い目で観ると、各場面の人物移動など、やや説明不足で分かりにくい部分もあるのだが、少女たちが経験する緊張と一時の安息期のバランスも良く、最後まで一気に見せられてしまう。

日本の戦争映画の中でも、屈指の名作の一本だと思う。


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