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がめつい奴

1960年、東宝、菊田一夫原作、笠原良三脚本、千葉泰樹監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

大阪市に貧しい人たちが集まる釜ケ崎地区があった。

そこの豆腐屋に、一人のちょっと知的ハンデがある少女テコ(中山千夏)が1円分オカラを買いに来る。
迷惑がる豆腐屋に対し、ポリエチレン袋に包んでくれという。

その少女が、帰る途中、トラックと乗用車の衝突事故を目撃したと簡易宿泊所「釜ケ崎荘」の住民たちに報告する。

一斉にその事故現場に走る住人たち。

彼らは、大して怪我をしていない運転手を無理矢理病院へ行かせると、たちまち、乗用車を解体してホテルに持って帰る。

それを、たちまちの内に馴染みの業者に叩き売って、警官が調査に来た時には、全員知らん顔。

その釜ケ崎荘は、がめつい事で評判のお鹿(三益愛子)婆さんと、その息子の健太(高島忠夫)がどん底生活をしている常連たち相手に、1日30円の宿賃を取って経営していた。

孤児だったテコは、そんなお鹿婆さんに拾われて育てられていたのだった。

常連客の中には、お鹿の娘お咲(原知左子)と組んで「美人局」で稼いでいる雄さん(藤木悠)や、父親がロシア人であったため赤毛のおたか(安西郷子)のヒモのような暮らしをしているポンコツ屋の平熊吉(森雅之)、この辺一帯の地所は、戦前は、自分の父親小山田家の所有であり、それを当時下女中をしていたお鹿に乗っ取られたと主張しているホルモン焼き屋の初江(草笛光子)とその妹絹(団令子)などがいた。

そんな釜ケ崎荘に、ある日、東京からやって来たお鹿婆さんの義弟という向山彦八(森繁久彌)なる、怪し気な中年男がやってくる。

彼は、お鹿婆さんはもともと小山田家の下女中をしていた事があり、今では3000万円ためているそうじゃないかという話を息子の健太の前でするが、当のお鹿婆さんは頭から否定する。

しかし、その話を聞いていた熊吉は、後日、初江に声をかける。

初江のいう小山田家の土地の話が本当なのなら、自分が手を貸そうというのであった。

最初は、自分を口説く目的の冗談だと相手にしなかった初江だったが、妹の絹は戦前の暮らしの事等知らず、今は健太と結婚する事だけを夢見ているし、裁判ざたに持ち込もうと考えてはいても、自分一人では何の知恵もでない彼女は、とうとう熊吉の誘いに乗って、彼に身体と権利書を奪われてしまう。

しかし、それまで男を知らなかった初江は、すっかり熊吉を信じ切ってしまったのだが、それを敏感に感じ取っていたのは、占師をしている内妻のおたかであった。

彼女も又、昔、パン屋を夢見てためていたわずかばかりの金を、熊吉に言葉巧みに奪われていた過去を持っていたからであった。

熊吉は、権利書を健太に安く売ろうとするが、お鹿婆さんが頑として金を出そうとしないので、とうとう、ヤクザの升金(山茶花究)に売ろうとし、逆に買い叩かれてしまう。

やがて、その権利書を盾に、釜ケ崎荘に立ち後要求に子分(西村晃)たちがやって来るが、お鹿ばあさんはびくともしない。

しかし、自分と絹との結婚資金も寄越さないそんな頑な母親に、健太は反旗を翻そうとするのだが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

実在する女性をモデルにした舞台劇の映画化らしいが、意外な役者の意外な演技振りが楽しめる作品となっている。

まず冒頭で驚かされるのが、小学生くらいの年頃のテコを演じている子役が中山千夏である事。
全編に渡って登場し、極めて重要な役柄なのだが、その達者さには舌を巻く。

この作品の一番の功労者ではないだろうか。

いつもは柔和なお婆さん役が多いのに、本作ではいかにも因業ババアといった感じの思いきったメイクで登場する三益愛子も意外性があるが、さらに薄汚い小悪人を演じている森雅之と、これ又生活に疲れた混血の女性を演じている安西郷子にも驚きを禁じ得ない。

いつもは、いかにも清楚なお嬢様役が多かったようなイメージがある安西郷子だが、その日本人離れした容貌はいかにもこの役にピッタリで、彼女がこんな大胆な役柄も演じていた事を知っただけでも収穫だったように思う。

森雅之の、こんな救いのない汚れ役もはじめて観たような気がする。

大阪弁丸出しで、水を得た魚のように生き生きとした演技を見せる高島忠夫、もともと金持ちの娘であるという出生も知らないで、はっすぱに育ってしまった女を演ずる団令子、さらに、正体不明の怪し気な男を演ずる森繁の存在などが出色。

又、随所に、沢村いき雄、加東大介、山茶花究、西村晃、天本英世など当時の東宝常連組が登場し、各々、個性豊かで適格な存在感を見せているのも、物語を膨らませている要因。

当時の役者の層の厚さを観ているだけでも、十分楽しめる内容になっている。

実話がベースになっているだけに、良くある欲深老女が欲の皮をつっぱり過ぎて失敗し、最後には改心する…といったような教訓話にはなっていないのも愉快。

その恐るべきバイタリティには、ただただ唖然として、最後は痛快でもある。

そんな事よりも何よりも、この1960年作品のモデルとなった老女が、実は今現在でもまだ健在である事の方が最大の驚きだと思う。