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網走番外地

1965年、東映東京、伊藤一原作、石井輝男脚色+監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

雪に埋もれた網走駅に列車が到着し、手錠で繋がれた受刑者たちが降りてくる。

中には、この冬が越せるか心配する高齢の阿久田(嵐寛寿郎)まで混ざっている。

寒さを小馬鹿にし粋がる橘真一(高倉健)を、後ろにいた権田(南原宏治)がからかい、二人は早くもいざこざムード。

やがて、第2号房に入れられた連中が、古株の依田(安部徹)に対し、めいめい自己紹介して行く。

女たらしの大槻(田中邦衛)が自慢げに小悪党振りを披露するので、依田は彼を一喝し、自分は8人殺しで有名な寅熊という殺人鬼の兄貴分で18年くらっているんだと嘯く。

しかし、物静かで過去を語ろうとしない老人阿久津は、自分は21年刑期があると、聞いた依田をはじめ房内の全員を驚かすのだった。

つらい野外作業をこなしながら、やがて2年が過ぎ、新たに加わった新入りに対し、相変わらず居丈高な態度を変えない依田と、彼に取り入った権田に対し、真一は対立的な態度を取るようになる。

夜、昼間の見せしめとばかり、真一は寝ている所を依田の仲間に袋叩きにされるが、異変に気づき近づいて来た官守に対し、反抗的な態度を崩さなかった真一の方が懲罰房へ入れられてしまう。

そこで、真一はつらかった自分の幼少時代の事を回想するのであった。

夫亡き後、幼い真一と妹みち子を育てるために、気の進まない相手と結婚した母親(風見章子)を思い出していたのである。

吝嗇で嫌な父親との争いは絶えず、とうとう、青年期になった真一は、母親と妹を残し家を飛び出していた。

しかし、一旦は懲罰房を出て真面目に働くようになった真一だったが、その後検身所の官守の前で、権田たちや周囲の仲間たちに、自分が決して懲罰房に懲りて優等生になったのではない事を証明するつもりで、素っ裸になりおどけてみせる。

結果、再び、真一は1ヶ月の懲罰房暮しを強いられる事に。

その時、彼の面倒を観て来た妻木保護司(丹波哲郎)が面会に訪れ、真一の仮釈放の手続きをしていた事を打ち明ける。それがなくても、真一は後半年で釈放される身なのだ。

自分の軽率な行為を恥じた真一だったが、妹からの手紙で、母親が乳癌で寝込んでいる事を妻木に打ち明け、何とか母親に会わせてもらえないかと頭を下げる。

そんな中、依田や権田たちは、脱獄の計画を立てており、真一にも参加するよう半ば強要してくる。

大人しくしていれば、後半年で出られる事を知っている真一は、その話に興味を持たなかったが、脱出に参加する房の全員が、脱出の際、足手纏いになる阿久津を殺そうとしている事実を知ると、それとなく阿久津に他の房に移らないかと話し掛けてみるのだった。

やがて、脱出決行日の夜、大槻が腹痛を装い、官守が房の鍵を開けようとする所まで成功した依田たちだったが、寝ていたと思われた阿久津老人の思わぬ差出口で、計画は失敗してしまう。

激怒した全員は、阿久津を布団蒸しで殺そうと取り囲むが、阿久津は逆に依田をはがい締めにすると、思わぬ告白をするのだった…。

阿久津の機転で、脱出計画は頓挫したと一安心した真一だったが、奥地の伐採所へ向うトラックの荷台から、共に手錠で繋がれた権田がいきなり飛び下り、脱走するのにいきなり巻き込まれてしまう。

途中で立ち寄った民家の主婦を殴って負傷させた権田は、彼女が妻木の妻である事を真一に打ち明けるのだった。

かくして、権田の悪意の犠牲となり、脱走犯となってしまった真一を、官守らに混じって妻木本人が追跡する事になる…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

網走番外地の記念すべき第一作。

モノクロの併映作として地味に登場したが、思わぬヒットとなり、後のシリーズ化に繋がるきっかけとなったというが、確かに面白い。

基本的には、いつまで経っても粋がって生きる事しか出来ないチンピラが、彼の唯一の弱点である母親の不幸を知り、獄中から会いに行きたいと思った時に、自分のそれまでの軽率さと運命が、どんどん、彼を母親から遠ざけてしまう皮肉を描いている。

冒頭部分で、同じ房に入った仲間たちが自己紹介しあうが、結果的にこの内の何人かが、後のシリーズの常連になっているのが興味深い。

先輩格の依田こと安部徹、女好きの大槻こと田中邦衛、老いた受刑者役のアラカン(嵐寛寿郎)など。

ドラマ前半部では、網走の受刑者たちの生活振りが、主人公真一のキャラクター紹介と平行する形で丁寧に描かれている。

ドラマ中盤の見所は、仮釈を前にして真一自身は加わる気がない房仲間たちの脱走計画がどう展開するのかというサスペンス。

ここで、前半部の自己紹介エピソードが伏線として生かされているのが巧い。

後半は、トニー・カーチスとシドニー・ポアチエの「手錠のまゝの脱獄」(1958)を連想させる展開となっていく。

網走に到着した直後から相性の悪かった真一(高倉健)と権田(南原宏治)コンビを追うのは、保護士として、長年真一の面倒を見て来た妻木こと丹波哲郎。

手錠に繋がれているため、互いに相手を憎みながらも、雪の荒野の中では協力するしか生き延びる方法がないという設定が面白い。

ブレーキの効かないトロッコに乗った彼ら二人を、同じくトロッコで妻木が乗り追い掛けるシーンは、後年の「女王陛下の007」(1969)のボブスレーチェイスシーンとか「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」(1984)のトロッコチェイスを思い起こさせるスピードとサスペンス。

娯楽映画としてアイデアも豊富だし、何より、無鉄砲で粋がりたがるチンピラながら、どこか優しさも持ち合わせている主人公を演じる高倉健の若さが魅力である。