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きけ、わだつみの声
 Last Friends

1995年、東映+バンダイ、早坂暁脚本、出目昌伸監督作品。

▼▼▼▼▼最初にストーリーを書いていますので、ご注意ください!コメントはページ下です。▼▼▼▼▼

鶴屋勇介(緒形直人)は、明大のラグビー部の練習で走っている最中、見なれぬ選手の幻影を自分の周囲に見る。

やがて、一天にわかに書き曇り、雨が振り出したかと思うと、勇介はグラウンドに倒れており、先ほどの見知らぬ選手たち(彼らは各々、明大、早稲田、東大のラグビー選手と名乗るのだが)から手を引かれ、起き上がると、いきなり昭和18年10月21日の学徒出陣の行進に混じっている自分に気づく。

訳が分からぬまま、その時代の人間となった鶴屋勇介は、いきなり出陣する戦争に理解できず、同級生の勝村寛(織田裕二)に相談をするが相手にされない。

その勝村は、召集を受け、急遽、結婚式をあげることにするが、二度と戻れぬであろう事を覚悟した彼は、新妻には手を触れず、そのまま出兵する。

試験を受け少尉になっていた勝村は、フィリピンのリンガエン湾へ向う輸送船の中で、かつてのラグビー仲間であった、東大の相原(風間トオル)と出会う。

相原は、父親(佐藤慶)の強い勧めにもかかわらず、昇進試験を受けず、一等兵のままであった。

彼らの乗った船は、敵の魚雷を受け沈没、かろうじて、リンガエンの海岸へたどり着くも、相原の方は足に重症を負っていた。

彼を連れて野戦病院へたどり着いた勝村ら生き残り組は、地元ゲリラと戦っていた近藤中尉(遠藤憲一)に合流する事にするが、この中尉は地元の非戦闘員住民の虐殺さえも何とも思わないような冷血漢であった。

そんな野戦病院に、慰安婦の安原クニ子(水木薫)を連れて、一人バギオから転進して来たという不敵な面構えの大野木上等兵(的場浩二)も、大量の武器弾薬を持っている事から仲間に入る事になる。

その頃、早稲田の芥川雄三(仲村トオル)は航空隊を志願し、やがて特攻隊になる。

一方、郷里の瀬戸内海の小島の実家に帰った鶴屋勇介は、召集令状が届いたと祝いの席を用意していた両親に、自分は兵役を拒否して逃亡すると言い残し、独り小舟で海を渡る。

やがて、アメリカ軍の猛攻撃に転進を余儀なくされた近藤中尉の隊は、身体が動けるものだけを連れて病院をを後にする事に。

やがて道中、軍医が死に、勝村たちは地獄のような戦場を当て所もなく歩き続ける事になる。

やがて、近藤中尉やその配下の大橋軍曹(斉藤暁)らは野獣の本心をむき出しにし、看護婦の津坂映子(鶴田真由)らに襲いかかろうとするのだが…。

 

▼▼▼▼▼個人的なコメントはここから下です。▼▼▼▼▼

戦後50周年記念作品で、本作の企画者である岡田裕介現東映社長の父親、岡田茂氏が製作担当として関わった「日本戦歿学生の手記 きけ、わだつみの声」(1950)という同名作品もあるが、未見なので、本作がそのリメイクなのかどうかは不明。

若くして時代の犠牲になって散って行った学生たちの悲劇を描く事で、戦争の愚かしさ、残酷さを訴えようとする意図は取りあえず良しとしよう。

問題は、観客の大半が戦争を知らない世代である事を考慮してか、現代人を戦争時代に引っ張っていく(?)というタイムスリップなのか、単なる不可思議現象なのか意味不明な手法を導入している点。

これが、このシリアスであるべき作品を訳の分からないものにしている。

現代人が戦争時代にタイムスリップするという発想は、同年公開された「WINDS OF GOD」(奈良橋陽子監督)と同じである。

「WINDS 〜」の方は、はっきり現代人が戦争時代にタイムスリップしたと分かる作り方なのに対し、本作で緒形直人が演じている戦争中の鶴屋勇介という存在がどういうものなのか、最後までさっぱり意味不明なのだ。

戦時中に鶴屋勇介なる学生がいて、その身体に現代人鶴屋の魂が乗り移ったという事だとするならば、彼は戦争など実体験した事がないはずで、彼がいう「戦争忌避」の発想は、戦後教育を受けた現代人のあくまでも観念的な恐怖感覚から出たものという事になる。

それとも、最初から鶴屋勇介なる別の人格が戦時中にいて、それを含む、他の学生たちの運命を、魂がタイムスリップした現代人の鶴屋が俯瞰的に目撃しているという事なのか?

最後のまとめ方などを見ると、そうとでも解釈するしかないように思えるのだが、その辺、全く何の説明もないので、観ている方は混乱するばかり。

さらに、そうした怪し気な手法を取り入れたがために、戦争に疑問を感じている他の主人公たちの考え方そのものまでも、皆、現代人の考え方そのままに感じられて、リアリティを喪失してしまっている事。

「この戦争は間違っている」という主人公たちの感覚は、太平洋戦争に巻き込まれた当時の若者の本当の気持ちなのか、それとも現代人の知識としての考え方なのか区別が付かないのだ。

映像的には特に見せ場らしい箇所もなく、当時の日本兵たちは外地でひどい事をしていた、大半の兵隊が悲惨な末路を迎えたという自虐的な描写を、だらだらと2時間以上も見せられている感じで、これも、戦後教育や報道などで聞かされて来た事をそのまま映像として見せられている印象しかなく、そこには何の感動も驚きもない。

冷血漢の軍人を演ずる遠藤憲一や、何やら「独立愚連隊」での佐藤允を彷彿とさせるような的場浩二など、掘りさげ様によっては、もっと面白くなりそうなキャラクターもあるのだが、全体的に人物像の造型も平板で、魅力不足なのが惜しまれる。

一種の「トンデモ映画」の部類に入る作品かも知れない。